経営に「工作機械統計」と「機械受注統計」が役立つ理由

執筆者 | 3月 20, 2023 | ブログ

統計

金属加工会社の経営者にとって「明日の受注がどうなるか」は最大の関心事のはず。受注予定は生産計画だけでなく投資計画にも影響を与えるので、経営戦略に欠かない情報です。もちろん、発注元のメーカーなどは金属加工会社に発注予定を出してくれると思いますが、ときにそれが当てにならないのはよくあること。そのため「明日の受注がどうなるか」は、経営者が独自に情報を集めて予測する必要があります。

そこで活用したいのが、次の2つのデータです。

  • 日本工作機械工業会が発表する工作機械統計
  • 内閣府が発表する機械受注統計調査

このデータが何を示しているのかを紹介したうえで、金属加工会社の経営にどのように活用していけばよいか解説します。

工作機械統計(日本工作機械工業会)からわかること

日本工作機械工業会は工作機械メーカーで構成する団体。工作機械とは、「機械をつくる機械」ことで、つまりマザーマシンです。ファナック、DMG森精機、牧野フライス、三菱電機などが同会に所属しています(*1)。同会が発表する工作機械統計は工作機械の受注状況の調べたもので、毎月、結果を公表しています。結果は以下のURLでみることができます。

https://www.jmtba.or.jp/machine/data

*1:https://www.jmtba.or.jp/about

「内需業種別受注額」と「外需国・地域別受注額」がわかる

工作機械統計の内容は、内需の業種別の受注額と外需の国・地域別の受注額です。例えば2023年1月実績は、次のような数字になっています。

鉄鋼・非鉄金属2,437
金属製品2,620
機械製造業35,647
その他製造業1,622
官公需・学校104
その他需要部門830
商社・代理店142
小計43,402
内需業種別受注額(百万円)

アジア37,085
欧州20,845
北米25,466
中南米904
オセアニア870
中東435
アフリカ80
小計85,685
外需国・地域別受注額(百万円)

2023年1月の数字だけでも多くのことがわかります。内需(国内向け)では、機械製造業向け受注額が356億円と、他の項目を圧倒しています。356億円は、内需全体の434億円の8割以上になります。なお表中の機械製造業は、一般機械、建設機械、金型、自動車、自動車部品、電気機械、精密機械、航空機、造船、輸送用機械の総額です。

また、内需の総額は434億円ですが、外需(外国向け)の総額は857億円にもなります。機械業界が輸出産業であることはこの数字からも明らかです。そして外需の1位は371億円のアジア向け受注額で、次いで北米、欧州となっています。その他の中南米、オセアニア、中東、アフリカは、桁が2つまたは3つ違います。なお上記の表では「アジア」や「欧州」など地域を表記していますが、実際の工作機械統計には国名が載っています。この統計結果は、経年比較をするとさらにいろいろなことがわかってきます。

コロナ禍の影響や回復具合は経年比較をするとよくみえる

2019年~2023年の1月を並べてみました。2023年1月の数字は上記のものと同じです。

2023年1月2022年1月2021年1月2020年1月2019年1月
鉄鋼・非鉄金属2,4371,7137271,5291,574
金属製品2,6203,7521,5021,5362,396
機械製造業35,64735,74321,63224,42439,923
その他製造業1,6221,3481,7258011,370
官公需・学校10424891239262
その他需要部門830864594645711
商社・代理店142501134412536
小計43,40244,16926,40529,58646,772
内需業種別受注額の経年変化(百万円)

2023年1月2022年1月2021年1月2020年1月2019年1月
アジア37,08547,53135,60119,51132,925
欧州20,84520,41210,77612,36719,379
北米25,46629,41114,08518,17324,595
中南米904699519436375
オセアニア870466784326656
中東435176245336414
アフリカ805421242285
小計85,68598,74962,22251,19178,629
外需国・地域別受注額の経年変化(百万円)

コロナ禍は2020年1月ごろから始まりましたが、上記の表をみると2020年1月分に早速その影響が出ていることがわかります。「内需+外需」をみると、2019年1月は1,254億円だったのに、2020年1月は808億円と2019年比で36%も減っています。そして2021年1月の「内需+外需」は886億円で、2020年1月より増加しています。ここからコロナ禍の最中(さなか)でも回復基調だったことがわかります。

そして2022年1月の「内需+外需」は1,429億円で、コロナ前の2019年を上回りました。しかし内需の小計をみると、違った姿がみえてきます。2022年1月の内需小計は442億円で、コロナ前の2019年1月の468億円より少ない額になっています。さらに2023年1月の内需小計は434億円で、2022年1月より減っています。ここから内需の戻りが悪く、外需の戻りが好調だったことがわかります。そして意外な現象も。中南米の2023年1月は9.04億円で、これは2019年1月の3.75億円の2.4倍にもなります。

機械受注統計調査(内閣府)からわかること

内閣府が公表している機械受注統計調査は、機械メーカーが受注した設備投資用の機械の受注額を集計したものです(*2)。内閣府はこの統計を取る意義について「機械等製造業者が受注する設備用機械類の受注状況を調査することにより、設備投資動向を早期に把握し、経済動向分析の基礎資料を得る」としています。経済動向の分析結果は、金属加工会社の経営者の関心事でもあると思います。

*2:https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/ki/J0286.html

外需好調の傾向はここでも確認できる

それでは2023年1月実績の機械受注統計調査の結果を、コロナ禍前の2019年1月実績と比較してみてみましょう(*3、4)民需と官公需が国内向け受注額で、外需が海外向け受注額、そして代理店とその他は国内と海外の両方の額が含まれています。

2023年1月2019年1月
民需10,53810,322
官公需2,4462,394
外需10,9778,277
代理店1,2301,279
その他8370
総額25,27422,342
受注額(億円)

まず総額ですが、2023年1月の2.5兆円で、コロナ禍前の2019年1月の2.2兆円を13%上回っています。この上昇を牽引(けんいん)したのは外需で、2019年1月の0.8兆円から2023年1月の1.1兆円へと33%も増えています。一方の民需は2019年1月の1.03兆円から2023年1月の1.05兆円へと2%しか増えていません。そして2019年1月は「民需>外需」でしたが、2023年1月は「民需<外需」と逆転しています。

先ほど工作機械統計(日本工作機械工業会)の解説ところで「内需の戻りが悪く、外需の戻りが好調だった」と確認しましたが、内閣府の機械受注統計調査でも機械受注が外需(海外)頼みであることを確認できました。2つの信頼できる機関の調査が同じ傾向を報告しているので、この結果は「信憑性が高い」ということがわかります。官公需の数字も興味深く、2023年1月も2019年1月も四捨五入すると2,400億円でした。官公需とはいわゆる公共工事であり、やはりここは安定した発注元と考えることができます。

*3:https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/2023/2301juchu-1.pdf

*4:https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/juchu/2023/2301juchu.html

2つの統計を経営戦略にどう活かすか

それでは金属加工会社の経営者は、工作機械統計(日本工作機械工業会)と機械受注統計調査(内閣府)の結果(以下、「2つの統計結果」)を、経営戦略にどのように活かしていけばよいのか考えていきます。

投資判断に活かせる

経営者の重要な決断に、投資判断があると思います。新型の機械をいつ導入するか、従業員をいつ増やすか、新工場をいつ建設するか――こうした投資判断は、早すぎると経営を圧迫し、遅すぎると受注機会を逃したり、ライバル会社に負けたり、生産性が落ちたりして、やはり経営にマイナスに働きます。したがって金属加工会社の経営者は、適切な時期に適切な規模の投資をしなければなりません。

「2つの統計結果」は先行指標とされています(*2)。なぜ先行するのかというと、工作機械メーカーが受注してから、発注企業が実際に工作機械を使って生産を始めるからです。「2つの統計結果」をみると「受注が増える→生産が増えるだろう」と予測できるので、「2つの統計結果」が先行指標となるのです。つまり「2つの統計結果」は未来を予測しているのです。したがって経営者が「2つの統計結果」を追跡していれば適切な投資タイミングがみえてくるでしょう。

好調な業界を探すのに活かせる

金属加工会社のなかには、さまざまな業界の企業に製品を納めているところがあると思います。例えば、自動車部品と家電部品の両方をつくっている、といった金属加工会社です。この場合、好調な業界の企業からの発注は増加して、不調な業界の企業からの発注は減少する、と推測することができます。

もし事前に好調になる業界と不調になる業界がわかれば、金属加工会社の経営者は、不調企業向けの生産体制を縮小して、好調企業向けの生産体制を増強させることができます。先ほど紹介した工作機械統計(日本工作機械工業会)の表から一部を抜き出しました。(再掲)

2023年1月2019年1月
鉄鋼・非鉄金属2,4371,574
機械製造業35,64739,923
工作機械統計(日本工作機械工業会)(百万円)

鉄鋼・非鉄金属(業界)は、2019年1月の16億円から2023年1月の24億円へと55%も増えていますが、機械製造業(業界)は2019年1月の399億円から2023年1月の356億円へとむしろ11%減っています。ここから次のことがわかります。

  1. 鉄鋼・非鉄金属(業界)はものすごい勢いで成長している
  2. 機械製造業(業界)は、市場規模は相変わらず格段に大きいが、下落傾向がみえ始めている

情報戦を展開する

では、上記の1)と2)がわかると、金属加工会社の経営者はどのような経営戦略を描くことができるでしょうか。もしある金属加工会社が、これまで鉄鋼・非鉄金属企業と取引したことがなければ、今こそこの業界に営業をかけるときでしょう。急激な需要の伸びに対応できず「新たな金属加工会社に発注したい」と考えている鉄鋼・非鉄金属企業があるかもしれないからです。

一方、機械製造業企業は生産を縮小するかもしれません。そうなると、この業界と取引がある金属加工会社は受注減に見舞われるかもしれないので対策を講じなければなりません。しかし機械製造業界は市場規模が大きいので、ここから撤退するのは得策ではありません。そこで金属加工会社としては、別の機械製造業企業と取引をしたいところです。

しかし、別の機械製造業企業と取引を始めると、既存の取引先の機械製造業企業が難色を示すかもしれません。そのままでは既存の取り引先を失うことになります。金属加工会社の経営者は、事前に既存の取引先に対し「別の機械製造業企業にアプローチしてよいか」と確認することができます。このように「仁義」を切っておけば、既存の取引先を失わず、同じ業界の新規企業と取引することができます。この戦略はまさに情報戦です。情報戦とは、エビデンス(科学的な根拠)をベースに経営戦略をつくり、それを実践していくこと、です。そして「2つの統計結果」こそエビデンスになります。

海外戦略に活かせる

工作機械統計(日本工作機械工業会)は国別の受注額が載っているので、金属加工会社が海外展開を検討するとき参考になるはずです。受注が増えている国を狙うことができますし、または、受注が増えている国に進出しているメーカーに営業をかけるのも有効でしょう。

まとめ~進むべき道がみえてくる

記事内容を箇条書きでまとめます。

  • 工作機械統計(日本工作機械工業会)と機械受注統計調査(内閣府)の2つの統計結果は金属加工会社の経営者にとって重要な資料になる
  • 工作機械統計は内需(国内)の動向と外需(海外)の動向がわかる
  • 2つの統計結果から、コロナ禍前後の情勢は「内需の戻りが悪く、外需の戻りが好調だった」といえる
  • 2つの統計結果を使えば、投資判断にも、営業をかけたい好調な業界探しにも、情報戦にも、海外戦略にも使うことができる

2つの統計結果は、金属加工会社が進むべき道の1つを示しています。