金属加工会社は営業すべき?

執筆者 | 7月 6, 2023 | ブログ

営業

金属加工会社の経営者が「当社は営業が弱い」と感じていたら早急に対策に乗り出したほうがよいでしょう。なぜなら営業は経営の重要な柱だからです。金属加工会社は技術で勝負する傾向が強く、それは間違っていないのですが、しかしそうだからといって営業がおろそかになってしまうことは避けたいところです。

この記事では、営業力が弱い金属加工会社が稼ぐ力を身につける方法を、1)営業体制の基盤をつくる、2)営業する、3)検証、改善、再開――の3つの段階にわけて解説していきます。この順番で取り組んでいけば、営業が強い金属加工会社に生まれ変わることができます。

営業体制の基盤をつくる

金属加工業界では、営業専属の営業担当者がいない会社や、いても1、2人しかいない会社や、営業しているのは経営者だけという会社は珍しくありません。そのため営業力を強化したい会社は、まずは営業体制の基盤づくりから始めなければなりません。

経営者が先導しなければならない

営業体制の基盤は、経営者が先導してつくっていきます。経営者が先陣を切って営業していかなければなりません。もし経営者が、従業員のなかから営業担当者を決めて、その人に「営業先を開拓してくれ」と丸投げしたら最悪のケースを招くかもしれません。従業員の士気が落ちたり、離職を招いたりといったケースです。

営業はときに「とても嫌な仕事」になるからです。新規に営業をかけると、大抵は門前払いされます。既存顧客に営業をかけて発注増を依頼しても、適当にあしらわれてしまいます。営業はそもそも精神的につらい仕事ですし、ましてや営業体制が整っていない会社の営業は、さらにつらさが増すでしょう。

経営者はつらい仕事を従業員に押しつけるべきではありません。そこでまずは経営者が営業の先頭に立ち、汗をかき、つらい対応を受け、そして受注を勝ち取らなければなりません。ただし経営者がずっと営業をする必要はありませんし、むしろずっと営業を続けていると経営がおろそかになってしまいます。成功体験がある程度積み上がってきた段階で、経営者は営業担当者を任命します。「営業部長」という役職を与えてもよいでしょう。ここまで到達すれば、経営者は営業活動から手を引いても問題ありません。

職人に営業マインドを植えつける

金属加工会社の営業で失敗しやすいのは、営業担当者が案件を獲得したのに、現場で対応できないことが判明して、その話が流れてしまうことです。もちろん営業担当者の判断ミスもありますが、しかし現場に営業マインドが浸透していないことでこのような問題が起きることがあります。経営者が営業先を訪問するとき、職人も連れて行ってみてください。ただ職人に「営業もやって欲しい」と言うと離職につながってしまうかもしれないので、営業先に連れて行くときは「技術的な話が出たらあなたのほうから説明して欲しい」「私のフォローをお願いしたい」と言ってみてください。

営業先に職人を連れて行く目的は営業をしてもらうことではなく、営業の最前線をみてもらうことにあります。職人が営業の様子をみれば、営業担当者(この場合は経営者)がどれだけ苦労して仕事を取ってくるのかを理解できます。また、自社の営業担当者から細かく指示されることを嫌う職人でも、顧客(営業先)からの要望であれば「お客さんのためになるなら」という心理が働くのでそれに応えようとします。職人が顧客を知れば、自社の営業担当者に協力してくれるようになります。これが現場に浸透させるべき営業マインドです。

営業関連費を予算化して消化する

金属加工会社が新たに営業基盤を構築する場合、それは新規事業になります。そして新規事業に対する経営者の本気度は、予算によって裏づけられます。つまり、きちんと営業関連費を予算化してその額を社内で公表すれば、従業員は「社長は本気だな」と認識します。その逆に、予算化しないで営業活動を強化しようとすると場当たり的な行動が多くなり、無駄な経費がかかったり、やらないことの言い訳になったりしてしまいます。

そして営業関連費を予算化したら、そのお金を期限内に使い切るようにしてください。もちろん、予算消化のための予算消化は意味がありません。しかし予算を余らせることは「営業活動を予定とおり実施しなかった証拠」です。確かに予算が余ると利益を押し上げますが、それは間違ったコストダウンであると考えたほうがよいでしょう。予算未消化で営業の活動量が低下することは、経営の弱体化を招きかねません。

「困っている見込み客を探す」「顧客の困りごとを探す」

営業担当者が営業先で「仕事をください」と言っても、契約してくれることはないでしょう。営業先の購買担当者は、営業担当者から「うちはこんなことができます」という話を期待しているからです。営業活動の効果をあげるには、困っている見込み客を探す必要があります。営業をかけた見込み客が「当社はこれに困っている」と言い、営業担当者が「うちの技術ならそれができます」と回答したら、受注できないわけがありません。

同じことは既存客にも当てはまり、既存客が「これに困っている」と言い、営業担当者が「当社ならそれができます」と回答したら、受注が増えないわけがありません。営業担当者は顧客の立場に立って困りごとを探しましょう。

営業する

営業活動には、戦略を練って進めなければならない側面と、「四の五のいわずに動く」ことが求められる側面があります。営業体制の基盤が出来上がったら、この2つに取りかかりましょう。

営業戦略を練り実行する

営業戦略づくりでは、具体的には目標と手段を決めます。目標になるのは、売上高や利益、受注件数、新規顧客数などになります。このうちのどれを目標達成を測る指標にするかは経営者の判断になります。そして期日も決めてください。例えば「売上高20%アップを2年以内に達成する」といったように定めます。目標を設定できればするべきことが決まります。営業手法や営業手段を考え、それを実行していきます。

例えば、見込み客を積極的に獲りに行くプッシュ型営業を推進するのか、見込み客からの連絡を増やすプル型営業を実行するのかを決めます。プッシュ型営業の基本は飛び込み営業ですが、これはコスパがよくありません。狙い目は展示会や見本市です。ここには金属加工の関係者が勢ぞろいしているので、短時間で多くの人と接触することができます。プル型営業では、自社Webサイトの充実が必要になるでしょう。「Webサイトに営業させる」くらいの意気込みで、製品紹介のページや自社技術を㏚するページをつくっていきます。

さらに営業効率を上げるため、営業フローを作成したほうがよいでしょう。見込み客リストをつくり、アプローチ方法を決めます。電話営業をするなら、電話口で話す内容(営業トークの内容)を決めておけば、誰でも実行できます。また、パワーポイントで営業資料をつくっておけば、誰でもそれを持って営業先に出向いてプレゼンすることができます。営業支援システムを導入すれば、経営者と営業担当者、現場の職人、総務・経理担当者が営業情報を共有できます。それは営業活動の強力なバックアップになります。

自社の技術、精度、スピーディさ、コストを把握する

営業担当者は、営業先で自社の強みを㏚するわけですが、そのPRは具体的かつ詳細でなければなりません。営業担当者は経営者より現場の職人より自社製品や自社の技術について詳しくなっておいてください。営業担当者は、自社の技術がなぜ優れているのか説明できなければなりません。技術力が精度の高さであれば、営業先でそれを数値で示す必要があります。

また、技術力や精度が他社並みであると自覚していれば、スピード納品が武器になるかもしれません。価格の安さも武器になるでしょう。営業担当者は営業先で、交渉相手である先方の購買担当者から「当社が御社に発注するメリット」を問われるはずです。それに答えられることは、優秀な営業担当者の条件です。

顧客のコストダウンを考える

金属加工会社の顧客の最も大きな課題はコストダウンでしょう。どれだけ高い技術が必要な製品でも、取引が長期化してくると顧客は金属加工会社に値下げを要求します。また顧客によっては、ほかの金属加工会社でも同じ製品を同じ精度でつくれることを確認したうえで値下げを求めてきます。「値下げできないのであれば他社に発注する」と言われたら、値下げに応じなければ仕事を失います。

営業担当者は、常に顧客のコストダウンを考えておく必要があります。顧客から値下げを要請される前に社内でコストダウンしておけば、値下げ要請を受けたときにすぐに対応できますし、値下げ要請がくるまでは利益を押し上げます。また、値下げ圧力があまりに強いと利益が出なくなるので、その場合は自社のほうから取引を断らなければなりません。それによって仕事を失うので、営業担当者は別の顧客を獲得しておく必要があります。営業担当者は顧客から選ばれるだけでなく、顧客を選ぶ力も身につけたいものです。

うまくいかないことは織り込んでおく

これから営業活動を本格化させる金属加工会社は、うまくいかないことを織り込んでおいてください。営業は受注が難しいから行うのであって、成功する確率はそもそも低いのです。営業はうまくいかなくて当たり前で、うまくいってもその成功方程式の消費期限は短いでしょう。営業活動では「やってみた、駄目だった、では次はどうしようか」という姿勢で臨むとよいでしょう。つまりPDCAサイクルを回していくことになります。

検証、改善、再開

営業活動を本格的に始めたら、一定期間後に検証してください。経営者が参加する営業会議を開き、なぜうまくいかないのか、や、なぜうまくいったのかを調べます。うまくいかない要因がみつかったら、それを排除した営業戦略をつくります。うまくいっている要因がみつかったら、それを強化する営業戦略をつくります。この営業会議が終わったら、すぐに改善版営業戦略を実行します。つまり営業再開です。

まとめ~営業しないことはゼロではなくマイナス

営業すると売上高や受注件数が増えるので、これはプラスの行為になります。では営業をしないことはゼロの行為かというとそうではなく、マイナスの行為になってしまいます。例えば、自社の顧客から取引中止を告げられたとします。このとき、ライバル会社がその顧客に営業をかけて、自社の仕事を奪っていたとします。営業をしたライバル会社はプラスになり、営業をしなかった自社はマイナスになります。会社を発展させるために営業活動は欠かせません。