動画マニュアルでの新人教育を薦める理由

執筆者 | 2月 9, 2023 | ブログ

動画 マニュアル

金属加工会社が新人教育に苦労していたら、動画マニュアルがおすすめです。熟練職人の作業の様子を撮影して動画にして、それを新人にみせる方法です。若い人はユーチューブをみる感覚で動画マニュアルをみることができるので、早く仕事を覚えられるでしょう。人手不足を乗り越えるにも、熟練の技の承継にも、動画マニュアルは有効です。

金属加工会社が新人教育に苦慮する理由

日本では今、中小企業の人手不足と製造業の人手不足が同時に深刻化しています(*1、2)。この2つの現象が起きていることから、中小の金属加工会社ではなおのこと従業員の確保に苦労していると推測できます。人手不足に悩んでいる金属加工会社こそ、新人教育の質の向上と効率化が必要になります。新人教育を充実させて「若手が辞めない会社」にしていかなければならないからです。

*1:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

*2:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun/html/honbun/101014.html

根性論では解決できない

人手不足は、労働力人口が減少しているので仕方のない部分もあるのですが、「自社のせい」がないか点検したほうがよいでしょう(*3)。「自社のせい」とは例えば、新入社員が入社してもすぐに辞めてしまうことです。もしくは、離職率の高さです。「近頃の若手は根性がない。少しキツイ口調で教えただけで辞めてしまう」と言っていても何も解決しません。今どきの若い人たちには、根性論やしごきではなく、合理性や効率を重視して教えたほうがよいでしょう。

*3:https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index.pdf

指導者不足による教育不足なら、それは従業員のせいではない

人手不足は新人教育の指導者不足を招きます。製造の人員が足りなければ、ベテラン職人を新人教育に回す余裕が生まれないからです。いうまでもないことですが、指導者不足によって教育不足が起きて、その結果、若手従業員のスキルが上がらないのは、若手従業員のせいではなく会社のせいです。若手従業員が「この会社ではスキルを獲得できない」と感じて辞めていった場合、会社に原因があると考えて対策を講じたほうがよいのではないでしょうか。

「この会社なら技術を習得できる」と思ってもらうための動画マニュアル

新人や若手従業員が「この会社なら技術を習得できる」と感じたら、その会社を辞める動機が減少するはずです。動画マニュアルはその一助になるでしょう。

動画マニュアルとは何なのか

動画マニュアルを導入しているのは、金属加工会社や製造業だけではありません。あらゆる業種、企業が動画マニュアルを活用することができます。動画マニュアルとは、マニュアルの動画版です。紙製のマニュアルに仕事の進め方を書くように、演者(動画に登場する人)が実際に仕事をしているところを撮影して動画にします。そして新人は、その動画をみて仕事のやり方を覚えます。

例えば、アーク溶接のやり方を新人に教えたいのであれば、ベテラン職人がアーク溶接をしているところを撮影して動画にして新人にみせるわけです。旋盤のやり方も、機械の操作の仕方も、トラブルが起きたときの対処法もすべて動画マニュアルにすることができます。

金属加工会社は動画マニュアルを最も有効活用できる

金属加工は動画マニュアルを最も有効活用できる業種の1つといえます。なぜなら金属加工は「口で説明しているだけでは伝わらない。みて、やって覚えるしかない」からです。動画マニュアルなら、口で説明することも、やり方をみせることもできます。したがって動画マニュアルで新人教育すれば、あとは現場でやらせてみるだけとなります。

動画マニュアルのつくり方

スマホで撮影して編集するだけでもよい

動画マニュアルは、作業風景を撮影して編集するだけで完成します。スマホを使えば画像の撮影も音声の録画もできます。もちろん撮影機材を購入してもよいのですが、それは作品のクオリティを上げたくなったときでよいでしょう。まずはスマホで動画をたくさんつくっていきます。

編集は、パソコンに動画編集ソフトをダウンロードして行います。動画のなかの作業者の音声だけでは説明しきれない場合、編集ソフトを使って動画に説明文章を載せます。動画編集ソフトは無料版もありますが、みやすい動画をつくるには機能が多い有料版がよいと思います。有料といってもハイスペックのものでも数万円程度ですし、サブスクで月500円程度というものもあります。

なんの動画をつくるのかを決める

では、どの作業を動画にすればよいのでしょうか。答えは、新人に教えたいことすべてです。加工の仕方を教えたければ、加工しているところを撮影します。ノギスの使い方を教えたければ、ノギスの持ち方から、計測対象にノギスを当てるところまで撮影します。治具を製作するとき、ベテラン職人が数ミクロン単位で調整していれば、そのやり方だけを撮影します。さらに道具の整理ができていない作業場や、廃棄物を正しく処理できていない職場があれば、整理された状態の動画や正しい処理の仕方の動画をつくってもよいでしょう。

数分のものを何百本もつくる

動画マニュアルの長さは1本数分程度がよいでしょう。例えば30分の作業を動画マニュアルにするのであれば、30分の動画を1本つくるより、3分の動画を10本つくることをおすすめします。数分なら「みるのが面倒だ」と思わせることがありません。また、新人が作業に慣れてきたら、自分ができない作業だけ動画で確認することができます。動画マニュアルづくりが軌道にのれば、簡単に100本を超えるでしょう。

「動画データを保存する」「いつでも視聴できるようにする」「整理が意外に重要」

製作した動画のデータは保存して、誰もがいつでも視聴できるようにします。パソコン内に動画データを保存してもよいのですが、動画マニュアルはどんどん増えていくので、クラウド・サービスを使ってそこに保存したほうがよいかもしれません。そして現場にパソコンやタブレットを置いて、視聴しやすい環境にする必要があります。従業員たちに「動画をみるのが面倒だな」と思わせない工夫が要ります。

動画の本数が増えてきたら動画データを整理します。動画データのタイトルづけは重要で、例えば「旋盤加工①工具と材料の取りつけ」「旋盤加工②荒加工」「旋盤加工③仕上げ加工」といったようにしておくと、新人は「仕上加工の方法を忘れたので③だけ視聴しよう」といったように学習できます。

動画マニュアルづくりの注意点

プロに依頼することについて

企業向けに動画マニュアルをつくってくれる会社があります。プロに頼めば、自社でつくるより格段にクオリティが高い動画マニュアルができると思います。また、コストはかかりますが、撮影も編集もやってもらえるので手間がかかりません。しかし最初のうちは、自社でつくっていったほうがよいと思います。

動画づくりは今とても簡単になっているので、社員はすぐに撮影と編集の基本的なスキルを獲得できるはずです。自社でつくれば、新人でも理解できる撮影方法や説明方法を工夫できます。また、プロに頼むと動画を1本つくるたびに費用が発生するので、つくる動画を限定するようになってしまいます。自社でつくればコスト安につくることができるので「なんでもかんでも」動画マニュアルにすることができます。

動画ができたら全員で確認して修正して「完全版をつくる」

動画マニュアルは「一発撮り」にこだわらないでください。一度動画をつくったら関係者全員でそれを視聴して、修正が必要であればもう一度撮り直しましょう。動画マニュアルは正しい方法を紹介しなければならないからです。

もし、動画マニュアルの内容と実際の作業の内容が異なったら新人は混乱してしまいます。動画マニュアルをつくった以上は、熟練職人に「動画マニュアルではそう教えていたが、実際はこうやるように」と言わせないようにしなければなりません。全員で動画を監修することで、人によってやり方が異なる作業がみつかるはずです。その状態は望ましくないので、動画マニュアルづくりを通じて正しい作業方法を確立することができます。

この機会にベテランの「教えたくない病」を解消する

職人のなかには、他人に簡単に自分の技術を教えたくない、と考えている人がいます。誰かにきちんと教わったわけでなく、独学で苦労してスキルを獲得してきた人が「若い人も自分で努力して技術を身につけるべきだ」と考えるかもしれません。しかし会社から給料をもらっている以上、職人たちの技術は会社のものです。

経営者は動画マニュアルづくりを機に、ベテラン職人たちに、後継者に技術を伝える重要性を理解してもらったほうがよいでしょう。動画マニュアルになれば、職人の技術がずっと社内に残ることになります。それはベテラン職人にとっても価値あることになるはずです。

人対人の指導はなくならない

金属加工では、どれだけ完璧な動画マニュアルをつくっても、人対人の指導がなくなることはありませんし、なくしてはいけません。若手従業員が「動画マニュアルを何回もみたがどうしてもうまくいかない」と悩んでいたら、ベテラン職人がすぐに助けてあげる態勢を整えることが理想です。ベテラン職人が若手従業員をサポートすれば、それもまた動画マニュアルにすることができます。

金属加工会社が動画マニュアルをつくるメリット

金属加工会社が動画マニュアルを導入するデメリットはほとんどありません。強いて挙げるとすれば、動画づくりといつでも閲覧できる状態にすることにコストがかかることと、手間がかかることくらいです。しかしそれらのコストやデメリットは、多くのメリットで吸収されるはずです。金属加工会社が動画マニュアルをつくらない理由はない、といってもよいでしょう。そのメリットを紹介します。

■新人を早く一人前にできる

若者は動画に慣れています。例えばユーチューブには、ドライフラワーのつくり方やバイクの整備方法、登山道具の選び方、エクセルの隠れた機能など、さまざまな「やり方動画」が投稿されていて、若者はそれをみて新しいことにチャレンジしています。そのため会社が動画マニュアルをつくれば、どんどん吸収していくはずです。今の若者は、叱られて覚えるより、動画をみながら覚えたいと思っているはずです。

■詳しく教えることができ、すべてのスキルとノウハウを承継できるから会社の財産になる

動画マニュアルの上級者編をつくれば、より詳細な作業を教えることができます。さらに全従業員のスキルとノウハウを動画に残すことも可能です。そうやって完成した動画マニュアルは会社の財産になります。スキルやノウハウは目にみえにくいものですが、動画マニュアルにすれば誰もが簡単にみることができます。隠れた財産が、誰でも使える財産になります。

■独学してもらえる

動画マニュアルをみればドンドン新しいスキルを身につけることができるので、若手のモチベーションを高めることができます。しかも1人で動画マニュアルを視聴できるので、独学が可能になります。ある日突然「できる若手」が誕生するかもしれません。

■自己流がなくなり製品の品質のばらつきがなくなる

社内で「動画マニュアルのやり方が正しい」という認識が広がり、「動画マニュアルとおりにやらなければならない」というルールが徹底されれば、自己流で作業する人がいなくなり製品の品質のばらつきがなくなります。

■職人が新人教育に時間を割かれないからパフォーマンスが上がる

動画マニュアルは、ベテラン職人が新人に教える時間を大幅に短縮するので、職人たちは本業の作業に集中できます。これは会社のパフォーマンスを高めることになるでしょう。そして新人が短期間で育つので、これもパフォーマンス向上に寄与します。

■新人の辞める理由を減らせる

金属加工会社を退職する理由はいくつもありますが、動画マニュアルを導入すれば、少なくとも「技術を教えてくれる体制が整っていないから辞める」という退職理由をなくすことができます。

まとめ~若者のやる気を高める

記事の内容を箇条書きでまとめます。

  • 金属加工会社が人手不足に悩んでいたら、新人教育を充実させて、若手が辞めない会社にする必要がある
  • 金属加工会社は、動画マニュアルを最も有効活用できる業種の1つ
  • 動画マニュアルは簡単につくることができる
  • 動画マニュアルをつくればベテラン職人の技術やノウハウを若手に伝えることができる
  • 動画マニュアルは、会社の隠れた財産を誰でも使える財産にすることでもある

金属加工業界に飛び込んできた若者は、ものづくりに興味があり、技術を会得したいと思っているはずです。しかし今どきの若者のなかには、しごかれることを指導と思わず、パワハラと認識して毛嫌いしている人もいます。動画マニュアルは、そのような若者を金属加工会社につなぎとめるだけでなく、早く一人前に育てる力があります。「離職率が高い」と悩んでいる金属加工会社こそ、動画マニュアルの導入を検討する価値があるはずです。