
※本記事は2023年2月6日に公開した内容を、2026年10月に一部見直して更新しています。会社概要の数値は記事公開当時の情報です。最新情報は光洋鋳造株式会社の公式サイトをご確認ください。
三重県伊賀市にある金属加工会社「光洋鋳造株式会社」(以下、光洋鋳造)をご存じでしょうか。金属加工会社が全国に数多く存在している中でも、地方拠点でありながら業界内では有名な老舗企業の一つです。
企業ごとに特色のある金属加工の分野ですが、光洋鋳造では早い段階からIoT化に積極的に取り組んでいるようです。具体的にはどのようなことが現場で起こっているのでしょうか?
鋳造業界が置かれている状況
鋳造業は、自動車・産業機械・インフラなど幅広い分野を下支えする重要な製造工程ですが、他の金属加工分野と同様に、国内では人手不足と熟練工の高齢化という課題を抱えています。砂型づくりや模型製作、湯の温度管理など、長年の経験と勘がものをいう工程が多いことも、技能継承を難しくしている一因です。
加えて、海外の鋳造メーカーとのコスト競争も続いており、国内の鋳造会社は「安価な量産品」で勝負するよりも、「少量多品種・短納期・高精度」といった、きめ細かな対応力で差別化を図る方向にシフトしているところが少なくありません。光洋鋳造が掲げる「ひと味違った鋳造会社を目指す」という企業ポリシーも、こうした業界全体の流れと軌を一にしているといえるでしょう。IoT・DX化は、こうした差別化を実現するための有力な手段の一つとして位置づけられています。
光洋鋳造とはどんな会社?
光洋鋳造は鉄などの金属加工をメインに扱っている企業。もともとは東大阪の地で創業、以来60年に渡り鋳造を生業としてきました。1997年より本社および工場を三重県の伊賀市に移転。国内大手メーカー向けの部品をはじめ、幅広い分野へ貢献を続けています。大阪から三重への拠点移転は、工場用地の確保や物流動線の見直しなど、事業拡大にともなう設備投資の一環だったと考えられます。地方に拠点を構えながらも、自動車メーカーをはじめとする大手との取引を続けてきた実績は、技術力と品質管理体制が評価されてきた証といえるでしょう。
鋳造のメリットは、安価で量産が可能なことですが、この光洋鋳造では「ひと味違った鋳造会社を目指す」を企業ポリシーとし、多品種少量生産に特化した事業活動が行われているのです。その領域は非常に広く、自動車用金型から風力発電機器、アルミ精錬用部材まで実に幅広い分野の製品を製作。
鋳造特有の、材料の無駄が出ない点や高い耐久性、製作期間の短縮といった利点を存分に生かして一般産業用の部品からオーダーメイドの景観構造物までも手掛けているようです。金属加工会社としての強みは、なんと言っても社内で3D図面を作成することができる点。再現正確性を高いレベルで実現できることで、効率的な製造へとつながっているのに加え、マシニングセンタやCADの導入により、発泡模型製作は完全内製化されています。さらに、フルモールド鋳造法※の長所を生かし、超短納期ともいえるスピーディーな生産が可能であることから顧客の要望にしっかりと応えられる体制が築かれています。
※フルモールド鋳造法…発泡スチロール模型が溶湯に置換され、製品となる鋳造法
フルモールド鋳造法は、一般的な砂型鋳造と異なり、木型や金型を使い回す必要がありません。発泡スチロール製の模型を一点ずつ製作し、それを鋳込んで製品にするため、複雑な形状や一点ものの試作品、少量多品種の生産に向いているのが特長です。一方で、模型そのものの精度が製品の仕上がりを大きく左右するため、模型製作の技術力が問われる鋳造法でもあります。光洋鋳造が発泡模型製作を内製化しているのは、この模型精度を自社でコントロールし、品質を安定させるためといえるでしょう。
光洋鋳造の製品
「ハートのこもった鋳物づくり」という企業哲学で生み出されている製品はどんなものがあるのでしょうか。代表的な製品は下記のようなものです。
【プレス用金型(DA/DB LWR)】

画像:https://koyochuzo.co.jp/product/car/
ホンダを中心にトヨタ、マツダと言った国内有数自動車メーカーに鋳造品が採用されてきた実績があります。プレス用金型は自動車のボディパネルなど薄板部品を成形するための型で、寸法精度はもちろん、繰り返し使用に耐える耐久性も求められる製品です。量産車のボディ形状を正確に再現する必要があるため、自動車メーカーからの品質要求は特に厳しい分野といえます。
【アルミ精錬釜】

画像:https://koyochuzo.co.jp/product/aluminum/
20年以上の実績があり、現場の特性に合わせた形状の高品質製品を納品し続けています。アルミ精錬釜は、アルミニウムを溶解・保持するための大型設備で、高温の溶湯に長時間さらされるため、耐熱性・耐久性に優れた鋳造品であることが求められます。現場ごとに釜のサイズや形状の要望が異なるため、多品種少量生産を得意とする光洋鋳造の強みが生きる製品分野の一つです。
【インペラー】
三次元形状のインペラーを発泡模型で製作。フルモールド鋳造にて高精度の製品を短納期かつ低コストで実現しています。インペラーとは、ポンプや送風機、タービンなどの内部で回転し、液体や気体に圧力・流れを与える羽根車状の部品です。曲面が複雑で精度が求められるため、鋳造技術と模型製作の技術力が同時に問われる製品の一つといえます。
これらはほんの一例です。長年技術を磨き、フルモールド鋳造に携わってきた光洋鋳造。自動車用の金型から、一般産業用そして、鋳造の得意分野を生かした景観構造物といった新しい挑戦にも積極的に取り組んでいる企業です。
IoTの導入
光洋鋳造では30年もの歳月をかけて技術力の向上と生産システムの見直しに取り組んできました。そして、注目すべきが積極的に推進されてきたIoTの取り組み。金属加工とIoT。ほんの10年前までは連想しにくかった両者が、今や切っても切り離せない関係になりつつあるのです。
光洋鋳造では、本社事務所はもちろんのこと鋳造現場にもWi-fi環境が整えられており、タブレット端末の使用で作業手順が軽減されより多くのデータを蓄積し、品質や生産性が日々向上しているのです。その象徴的な存在、IoT推進チームは6年ほど前に組織編成された部門です。このチームが主導して、もともと導入していたデジタル帳票システムに加えて、生産工程のデータ化や、フィードバックの見える化を実現。高品質な製品を、より効率的に生産する体制が整備されたのです。
また、三次元CAD等でリモートワークが可能になり効率向上に貢献していると考えられます。さらに、近年はRPA※を使用した無人解析も導入。実に毎月200件ほどの解析を人的コストに頼らずに稼働させることで、品質の安定に貢献するのはもちろん、働き方改革の観点からも企業として前進しています。
※RPA…事務系の定型作業を自動化・代行するツール。人工的な知能を持たせた機械やソフトウェアがビッグデータを分析して自律的に判断するAIとは異なり、事前に設定したルールどおりに稼働し、業務を自動化するシステム。業務のルールや判断基準は人間が定めます。
技能継承とデータ化の関係
鋳造の現場でベテラン職人が担ってきた判断、例えば「湯の温度や流し込みの速さをどう調整するか」「どのタイミングで型から取り出すか」といった勘どころは、言葉やマニュアルだけでは若手に伝えづらいものです。光洋鋳造が進めてきたデータ化・見える化は、こうした暗黙知を数値として記録し、次の世代が参照できる形に変えていく取り組みでもあります。IoT推進チームが6年かけて仕組みを整えてきたという事実は、技能継承という課題がすぐには解決できない、地道な積み重ねを要するテーマであることを物語っているといえるでしょう。
鋳造業界全体でIoT・DX化が進む背景
光洋鋳造のような積極的なIoT活用は、決して一社だけの特別な取り組みではありません。鋳造業界全体で見ても、ここ数年でIoT・DX化への関心は着実に高まっています。背景には、主に次のような事情があります。
- 熟練工の高齢化・減少にともなう技能継承の難しさ
- 鋳造は温度・湿度・材料ロットなどの条件で品質が左右されやすく、勘やコツに頼る工程が多い
- 人手不足のなかで、限られた人員でも生産性と品質を維持する必要がある
こうした課題に対して、センサーやタブレット端末で現場のデータを集め、見える化・数値化することで、熟練工の経験に頼っていた判断を、データに基づいて再現しやすくする、という方向性が多くの鋳造・金属加工会社で模索されています。経済産業省をはじめとする行政も、中小製造業のIT・IoT導入を後押しする補助事業を継続的に行っており、光洋鋳造のように早い段階から取り組んできた企業は、その先行事例として参考にされるケースが増えています。
解析ソフト、測定器の導入で現場が変わる
鋳造のための発泡模型の精度が、製品の仕上がりに大きく影響するフルモールド鋳造。長所と短所が表裏一体とも言えるため、鋳型が完成した段階での確認は必須となっています。また、厚みや部位特徴により歪み(ひずみ)が生じることがあるのも金属加工の課題の一つです。このひずみへの対策として光洋鋳造では鋳造解析ソフトを導入。解析シミュレーションにより事前に問題箇所を可視化することができるようになったのです。
設計段階から、オーダーに対しての現実的な修正提案を行うことが可能になり、生産工程の効率化および製品の高品質化につながっているといえます。さらに、三次元測定器を用いた製品の高精度化が推進されており、難易度の高い案件においても短期間の納期での対応を可能にしています。型管理は一括してCADデータを使用しているため紛失の防止や現場の省スペース化といった環境改善も実現しています。このようにデジタル化、ひいてはDX化を見越した形のITツールの積極的な導入が功を奏し、製品不良率の半減といった目に見えるデータとして結果にもつながっているのです。
鋳造解析ソフト(CAE)とは何か
光洋鋳造が活用している鋳造解析ソフトは、CAE(Computer Aided Engineering、コンピュータ支援工学)と呼ばれる技術の一種です。溶けた金属が型の中をどのように流れ、どこで冷え固まっていくのかを、コンピュータ上のシミュレーションで事前に確認できるのが特長です。
従来、鋳造における歪みや巣(内部に生じる空洞)といった不良は、実際に型をつくって流し込んでみないと分からない部分が大きく、ベテラン職人の経験と勘に頼る部分が大きい工程でした。CAEを導入することで、試作を繰り返す前の段階で問題箇所を可視化し、設計を修正できるようになります。これにより、試作回数の削減、納期短縮、材料のムダの削減といった効果が期待できます。鋳造・金属加工業界では、大手メーカーだけでなく中堅・中小の鋳造会社でも導入が進みつつある技術です。
会社概要
| 会社名 | 光洋鋳造株式会社 |
| 創業 | 1955年2月 |
| 資本金 | 4,800万円 |
| 業種 | 銑鉄鋳物業 |
| 従業員数 | 50名 2023年1月現在 |
他の金属加工会社が取り入れられるヒント
光洋鋳造のようにIoT推進チームを組織し、何年もかけて仕組みを整えるのは、簡単なことではありません。ただ、同じ規模感でなくても参考にできるポイントはいくつかあります。
- まずは紙の帳票をデジタル帳票に置き換えるなど、小さな範囲からデータ化を始める
- すべてを自社開発せず、既製のタブレット端末や解析ソフトなど、導入のハードルが低いツールを組み合わせる
- データ化によって何を改善したいのか(不良率の削減なのか、納期短縮なのか)を先に決めてから着手する
光洋鋳造の事例でも、IoT推進チームが最初に取り組んだのはデジタル帳票システムという、比較的身近なところからでした。そこから数年かけて生産工程のデータ化や解析ソフトの導入へと広げていった経緯を踏まえると、最初から大がかりな仕組みを目指す必要はない、ということが見えてきます。
IoT・DX化と設備投資の関係
IoT・DX化の取り組みは、タブレット端末やソフトウェアの導入だけで完結するものではありません。データを収集するためのセンサーや、三次元測定器、解析ソフトに対応した設計用のワークステーションなど、デジタル化を支えるハードウェア側の整備もセットで進むことが多いのが実情です。
そしてこうした設備投資が進むタイミングでは、同時に「これまで使っていた古い機械をどうするか」という課題も必ずといっていいほど発生します。新しい解析ソフトや測定器を導入する一方で、老朽化した旧型の工作機械や、更新前の生産ラインで使っていた機械が、工場の片隅で稼働しないまま残ってしまうケースは、鋳造業・金属加工業に限らず多くの製造現場で見られる光景です。
スペースの有効活用や固定資産税の負担を考えると、こうした不要になった機械は早めに売却・処分を検討したほうが、結果的に新しい設備投資の原資にもなります。IoT・DX化によって生産体制を見直すタイミングは、同時に保有設備全体を棚卸しする良い機会でもあるといえるでしょう。特に、長年稼働してきた鋳造関連設備や工作機械は、型式が古くても海外需要や部品取り用途で値段がつくケースも少なくないため、「古いから価値がない」と決めつけず、一度査定に出してみる価値はあります。
時代とともに
今回は、金属加工会社である光洋鋳造株式会社を取り上げました。創業70年近い老舗企業でありながら、既存の枠にとらわれることなく、新しい領域へのチャレンジや、時代の波に乗ったIoT化の推進など積極的に“変化”していく企業姿勢が浮き彫りになったかと思います。その動きは、製品の精度などの課題解消や生産の効率向上だけでなく、働き方の側面から見ても良い影響へと波及しているようです。
その根底には「ひと味ちがった金属加工会社を目指す」というトップの思いや、「ハートのこもった鋳物づくり」という企業哲学が見て取れます。地方から日本の産業を元気にする、そんなパワーも感じられたのではないでしょうか。今後の企業活動にもおおいに期待できそうです。
この記事の内容を簡単にまとめます。
- 光洋鋳造は三重県伊賀市にある、創業60年以上のフルモールド鋳造専門会社
- デジタル帳票システムを皮切りに、生産工程のデータ化、鋳造解析ソフト、三次元測定器などを段階的に導入
- IoT・DX化の背景には、熟練工の技能継承の難しさや人手不足への対応がある
- 小さな範囲からデータ化を始め、目的を明確にしてから広げていくのが現実的なアプローチ
- 設備投資・IoT化のタイミングは、保有設備全体を見直す機会にもなる
光洋鋳造の事例は、老舗企業であっても変化を恐れず、できるところから一歩ずつ取り組んでいくことの大切さを教えてくれます。規模の大小にかかわらず、自社の現場で「まず何をデータ化できるか」を考えるきっかけとして参考にしていただければ幸いです。
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画像:https://koyochuzo.co.jp/product/general/














