製造業ではすでにAIをこのように使っている

執筆者 | 9月 21, 2023 | ブログ

AI

AIの進化は目覚ましく、特に2022年に登場したChatGPTというAIサービスは世界中を驚かせました。誰でも無料でAIを使うことができます。例えばChatGPTのサイトに「製造業とは何か。100字で説明を」と入力すると次のように出てきました。

■「質問:製造業とは」に対するChatGPTの回答

製造業は、原材料や部品を加工・組み立てて製品を生産する産業の一部門です。これには様々な工程や技術が含まれ、自動車、電子機器、食品、衣料品など、多くの製品が製造されます。製造業は経済において重要な位置を占め、雇用を提供し、製品を市場に供給しています。

100字を少し超えていますが完璧な回答です。内容の正確さもさることながら、流ちょうな日本語になっているところに驚かされます。AIの波は製造業にも押し寄せています。AIはものづくりをどのように進化させているのでしょうか。

AIの基礎知識~普通のコンピュータとの違い

AIと製造業の関係を紹介する前に、AIの基礎知識として、AIが搭載されていない普通のコンピュータ(以下、非AIコンピュータ)との違いについて解説します。AIはいわばソフトウェアなので、コンピュータで動かす点は非AIコンピュータと同じです。したがってAIは、非AIコンピュータより「はるかに優れている」コンピュータと呼ぶことができます。

画像認識能力で不具合品を検知する

例えば、非AIコンピュータでは、猫の写真を認識して「猫が写っている」と判定することはできませんがAIならできます。AIにさまざまな猫の写真をみせ続けると、猫の特徴や犬との違いを理解するようになるのです。AIのこの画像認識能力は、工場で不具合品を検知するのに役立ちます。

AIが工場の新人作業者に仕事を教える

また、コンピュータと対話ができるAIもあり、ChatGPTは対話型AIです。対話型AIにいろいろなことを学習させると、人間の質問に答えられるようになります。冒頭で紹介したとおり、人間が「製造業とは何か」と質問すると、ChatGPTは知っている範囲内で回答します。まさに対話です。対話型AIの「すごい」ところは、人間の言葉をそのまま理解する点です。非AIコンピュータはプログラムに使われるコンピュータ言語しか理解しませんが、AIは日本語も英語も理解します。

そして、人間の質問に対する回答を考え、それを人間の言語(自然言語)にしてアウトプットするところも相当「すごい」能力です。対話型AIを工場に持ち込むと、新人の作業者が「この加工はどのように行うのか」と質問すると、対話型AIが「まずはその赤いボタンを押してください」といったように回答します。

AIの使用例

それでは具体的に、AIが製造現場を進化させている様子を紹介します。

参照:

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2307/27/news041.html

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2308/23/news043.html

ケース1:AIがカイゼンを教えてくれる

自動車部品メーカーの旭鉄工株式会社(本社・愛知県)は改善活動にAIを使っています。使っているAIはChatGPTです。

検索は実は使いにくい

旭鉄工はこれまで工場内で改善してきたことをデータベースに蓄積してきました。作業者が改善事例を知りたくなったら、非AIのコンピュータ・システムを使って検索して探します。しかし改善事例の数があまりに膨大なため、非AIシステムの検索機能では、作業者が求める改善事例になかなかたどり着けませんでした。

相談できる

そこでChatGPTにこれまでのすべての改善事例を学習させることにしました。ChatGPTはいわば1件1件の改善事例を理解するので、作業者が「こんなふうに改善した事例はないか」と自然言語で(人と会話するような感じで)問いかけると、「この事例がそれに該当しそうです」と提示します。つまり作業者がAIに相談できるのです。さらにChatGPTは自ら旭鉄工が蓄積してきた改善事例から学ぶことができるので、過去の改善事例になかったアイデアを「こんなふうにしてみては」といったように提案します。

ケース2:工場内の仕事を教えるAI

ドイツのHPEという会社が開発したのは、工場の作業をアシストするAIです。作業者がAIを搭載したタブレットに「この機械を起動するにはどうしたらよいのか」と声をかけると、AIがスタートボタンの位置を教えます。作業者が実際のスタートボタンをタブレットのカメラで撮影して「このボタンか」と尋ねると、AIは「それです」と答えます。このAIの「すごい」ところは次の4点です。

  • 工場内の機械のことを熟知している
  • 作業者の自然言語の音声を言語データに変換できる
  • 言語データの内容を理解して自然言語で指示を出すことができる
  • 画像(ここではスタートボタン)がなんであるかを理解できる

このAIはさらに次のこともできます。

  • 工場内で緊急事態が発生したら、作業者に停止スイッチの位置を示して停止を指示する
  • 作業者にロボットアームの交換方法を教える

新人作業者にAIタブレットを渡せば、指導者をつけたような状態になるわけです。

ケース3:口頭でロボットに仕事を教える

マイクロソフトは、作業用ロボットにAIを組み込みました。工場でロボットに作業させるには、複雑なプログラムをつくってロボットのなかのコンピュータに入力する必要がありますが、AIロボットなら人間の言葉を理解するのでその面倒が要りません。これもChatGPTを使っています。

「やっておいて」「はいわかりました」状態

まずChatGPTにロボットの基本動作を覚えさせます。基本動作とは例えば、つかむ、持ち上げる、移動させる、置く、などです。すると作業者がロボットに「箱Aから部品Bをつかんで持ち上げて、箱Cのところまで移動させてそのなかに置くように」と指示すると、ロボットはその作業を行います。プログラムでロボットに指示を出すのではなく、口頭で指示を出してロボットを動かしているところがこのAIの「すごい」ところです。

現実世界から未来を予測できる

このAIロボットはさらに、「大きさが異なる10個の箱を、大きい順に積み重ねていく」という作業も、作業者が口頭でそのように指示するだけでできます。この作業の「すごい」ところは、作業者が具体的な大きさを指示していないところにあります。つまり作業者は「10cmの箱を一番下にして、9cmの箱を10cmの箱の上に積み、8cmの箱を9cmの箱の上に積み…」という指示はしていません。

作業者が「大きい順に」と言うだけで「10cmの箱を一番下にして、9cmの箱を10cmの箱の上に積み、8cmの箱を9cmの箱の上に積み…」という仕事をしていくのです。この事例は、AIが、現実世界を観測したうえで未来を予測して作業ができることを示しています。

ケース4:製品の寿命を予測する

ベアリング(軸受け)メーカーのNTN株式会社(本社・大阪市)は、転がり軸受けの余寿命予測ができるAIを開発しました。

傷ついたら交換したいけど、小さな傷では交換できない

転がり軸受けは、金属の球体で力を受けることで、球体を転がしてスムーズに動かす部品です。何トンもの重い物体でも、転がり軸受けを使えば指1本で動かすことができます。球体には摩擦に強い金属を使い、潤滑油を差すことでさらに摩耗を減らすわけですが、それでも長期にわたって強い力が加わり続けると傷ついてしまいます。

転がり軸受けが傷つけば、どんなに小さい傷でも振動が変わってくるのでセンサーでそれを検知することができます。しかし転がり軸受けは、小さな傷程度であれば使い続けることができます。転がり軸受けが機械の奥のほうに設置してあると交換に手間がかかるので、少し傷ついたくらいで交換することは現実的ではありません。

ところが転がり軸受けの傷がさらに大きくなると、突然破損してしまうかもしれません。そうなると転がり軸受けだけでなく周囲の部品も傷つけてしまいます。したがって転がり軸受けは、傷ついたら交換したいけど、小さな傷では交換できない、という課題を抱えることになります。NTNはこの課題をAIで解決しました。

予測精度が30%向上した

NTNは、転がり軸受に小さな傷ができてから完全に破損するまでの期間を余寿命としました。そして余寿命を正確に計測するためにAIを使ったのです。AIに傷の事例や破損の事例、そのときどきの振動のデータを学習させて、実際の振動から余寿命の期間を算出できるようにしました。作業者は、転がり軸受けが損傷を受けたことも、「だましだまし」使い続けられることも、そろそろ限界を迎えることもわかるようになります。NTNでは以前から余寿命期間を算定する技術を開発していましたが、AIを使ったことで精度が30%向上しました。

ケース5:工作機械のプログラムをAIにつくらせた

アルミニウム合金の切削加工のHILTOP株式会社(本社・京都府)は、単品または少数の製品をつくることを得意としています。

1個でも100個でも1個のプログラムが必要

HILTOPではアルミ製品を、アルミの地金をコンピュータ制御の工作機械で削ってつくるわけですが、コンピュータ制御の工作機械を動かすにはプログラムが必要になります。プログラムをつくってしまえば、あとは工作機械にワークを取りつければ自動でアルミ製品ができあがります。

ここで問題になるのがプログラムを作成するコストです。同じ製品を100個つくるときも、1個しかつくらないときも、1個のプログラムが必要になります。HILTOPは単品または少数の製品をつくることが多いため、その都度プログラムをつくり直さなければなりません。

自己判断でバリを取る

そこでHILTOPは、工作機械にAIを組み込み、3Dデータを入力するだけで製品をつくれるようにしました。製品の3Dデータは設計図のようなものなので、製品をつくるときに必ず必要になります。それさえあれば工作機械で製品をつくれるようにして、工作機械を動かすためのプログラムを不要にしたのです。使う切削道具や治具、ワークのセッティング位置、方法もAIが導き出し、作業者はそれに従うだけでよくなりました。

このAIの「すごい」ところはそれだけにとどまりません。まるで考えながら作業を進めていくのです。例えば、加工を進めるなかでバリ取りが必要になれば、AIが自己判断でバリを除去する工程を加えます。また、穴を2つ開けるときに両者の間が薄くなってもろくなる可能性があると、2つ目の穴を開けるときに慎重な動作を選択します。

まとめ~ChatGPTに「まとめ」させてみた

最後にもう一度、AIの「すごい」ところをおみせします。ここまでの文章をChatGPTに読ませて「この記事の『まとめ』の文章をつくって。『まとめ』はこの記事の最終段落にくっつけます」と指示を出したところ、次のような文章をつくりました。正しい文章になっています。

■ChatGPTがつくったこの記事の「まとめ」

製造業ではAIが革命をもたらしています。2022年に登場したChatGPTなどのAIサービスは、製造業においても重要な役割を果たしています。AIは画像認識や対話型能力を活かし、不具合品の検知や新人作業者への指導を行います。また、AIは余寿命の予測や工作機械のプログラム作成にも活用され、生産効率を向上させています。これらの事例からわかるように、AIは製造業に革新的な変化をもたらしており、その可能性はまだまだ広がっています。