他社はなんで新規受注できるの?

執筆者 | 4月 1, 2024 | ブログ

他社 比較

金属加工会社の経営者が自社の経営を安定させるには、新規受注を獲得する、既存の仕事を増やす、単価を上げる、といった方法があります。

この3つの方法を聞いて「それができないから悩んでいるんだ」と思うでしょうか。確かにこれらの経営安定策には難しい取り組みもありますが、意外に簡単な方法もあります。身近に、または経営者仲間のなかに「なぜか注文があふれている」金属加工会社がありませんか。そのような会社は新規受注につながる「あること」に取り組んでいます。

ほかの金属加工会社がやっていることを真似してみませんか。

特急対応~見積もりも試作品もすぐに出す

特急対応は新規顧客の獲得に効果があります。仕事を増やしたい金属会社に実行していただきたいのは、次の2つです。

  • 見積もり依頼が来たら24時間以内に提出する
  • 試作品の製作依頼が来たら最優先でつくる

なぜ特急対応が新規をつかむのか

特急対応が新規受注につながる理由は、特急対応を求めるメーカーの調達担当者の心理状態を知ると理解できます。

メーカーはすでに、部品製造を依頼している金属加工会社を複数社持っているものです。それでもメーカーの調達担当者が今、これまで取り引きのない金属加工会社に見積もり依頼や試作品製作依頼をするのは困っているからです。その困りごとは、単価が合わない、品質に満足できない、納期が遅いなどさまざまでしょう。

したがって、金属加工会社の社長が、取り引きのないメーカーから見積もりや試作品の問い合わせがあったときに素早く対応すれば、メーカーの調達担当者は「とても助かる」はずです。金属加工ビジネスは「困った」「助けます」から始まるものです。

見積書をつくる業務システムを導入する

見積書をつくることは、金属加工会社の事務担当者にとって面倒な仕事のはずです。価格の根拠を示さなければなりませんし、高額すぎると発注してもらえませんし、低額にすると自社の利益が減ります。そのうえ新規となると発注してもらえる確率が低いと感じるので、余計に見積書づくりが面倒になります。

そこで見積書をつくる業務システムの導入をおすすめします。パソコンにシステムまたはアプリをインストールするだけで、自動で見積書が完成します。見積書作成システムがあれば社内の誰でも瞬時に見積書をつくって問い合わせ先に送信することができます。

試作品は1)完璧に仕上げるか、2)8割で提出する

金属加工業では試作品は、コンピュータを使って簡単につくるといったことはできません。そこで検討したいのが、完璧な試作品をつくるときと、8割程度の出来で試作品を提出するときにわけることです。

もしメーカーの調達担当者が、既存の部品にある程度満足しているものの、「もっと安価にもっと高品質な部品を調達できるなら金属加工会社を切り替えたい」と思っていたら、完璧な試作品が必要になります。メーカーから試作品を依頼された金属加工会社は、完璧な試作品で技術力の違いやコスパの良さをアピールすることで、契約に結びつく確率が高くなります。なおこの場合、このメーカーは既存の部品である程度満足できているので、金属加工会社を切り替えるにしても急いでいません。したがって特急対応といっても試作品づくりに時間をかけることができます。その代わりクオリティを上げる必要があります。

もしメーカーの調達担当者が、これまで使ったことがない部品を探していたら、金属加工会社はとりあえず8割の出来で試作品を提出してよいでしょう。そのほうが短納期で納めることができるからです。金属加工会社の経営者は、メーカーの調達担当者に試作品を渡すときに「お急ぎということで精度はそこまで出していません。もう少しお時間をいただければクオリティを上げることができます」と申し添えることで、相手がどの程度のクオリティを求めているのかわかります。

他社はこんなことをしています

ある金属加工会社は自社のホームページで、見積書を最短45分で提出するとPRしています。この金属加工会社は見積書を作成する担当者を置き、今は担当者が不在なので対応できないという事態をなくしています。この金属加工会社はさらに、図面1枚でも試作品をつくります。特急対応に加えて、簡易対応も実行することで「困ったらあの会社へ」という評判をつくっているわけです。

どんな素材、どんな加工にも対応する

手数の多さはビジネスを安定させます。金属加工会社は、加工できる金属の種類が多いほど、加工手段が多いほど、新規受注が受けやすくなります。

さまざまな素材の加工が求められる背景

金属の加工は一般的に、優れた特性を持つ素材ほど加工が難しくなる傾向があります。そのためメーカーは、金属加工会社から「その素材はうちでは加工できない」と言われると、その素材を使えないことになり、加工しやすい低性能の素材を使うことになります。

しかし消費者は、より高性能でより小型でより軽量の製品を求めています。メーカーは消費者のニーズに応えるため、優れた特性を持つ素材でつくった部品を使おうとします。したがって金属加工会社が「その素材はうちでは加工できない」と答えたら、メーカーは別の金属加工会社を探すでしょう。つまり「うちはチタンもアルミもステンレス鋼もなんでも削ります」と回答できる金属加工会社に、新規受注獲得のチャンスがあるわけです。

さまざまな加工手段が求められる背景

メーカーは、金属加工の新しい技術が誕生すると、それまでできなかったことができるようになります。わかりやすい例では、金属加工の新しい技術がなかったら、パソコンの機能をスマホのあの小さい箱のなかに閉じ込めることはできなかったでしょう。スティーブ・ジョブズもサムスンもソニーも、新しい金属加工技術のお陰でスマホをつくれるようになりました。

したがって画期的な新製品をつくろうとしているメーカーは、新しい加工技術を持っている金属加工会社を探しています。金属3Dプリンター、超音波加工、高圧水射加工、電子ビーム加工、フォーミングなどの新技術の獲得することは、新規顧客と出会うための第一歩となるでしょう。

3つのコストの壁は厚くて高い

どんな素材にも、どんな加工にも対応することは、金属加工会社にとって簡単なことではありません。少なくとも3つのコストの壁がその実施を阻むでしょう。

最初の壁はスキル開発コストです。同じ工作機械を使っていても、ある金属加工会社は難しい素材を加工できて、別の金属加工会社は加工できないことがあります。これは金属加工会社が持つスキルの差であり、それを獲得するにはコストがかかります。

2つ目の壁は人材育成コストです。難しい金属加工はできる人が限られます。そのため金属加工会社は、職人と呼ばれるレベルの作業者を育成する必要があります。その場合、難加工を担当する作業者には簡単な仕事はさせず、難しい加工のみを担当させるといった対応が必要で、これは人件費を押し上げる要因になります。

そして3つ目の壁は設備投資コストです。メーカーの要求のなかには、最新の工作機械でないとつくれない部品が存在します。それまで複数の部品で構成されていたものを1個の部品にする一体成型のニーズは高まる一方で、これができる工作機械は限られます。したがって大型の一体成型部品の注文を新規に獲得するには、それなりの設備投資が必要になります。受注増や新規顧客の獲得には相応の投資が必要になります。

精密加工に対応し、品質保証をする

精密加工に対応でき、そのうえ品質保証も可能な金属加工会社は、メーカーから一目置かれる存在になり、仕事が途絶えることはないでしょう。

半導体、航空・宇宙は精度命

半導体の開発、製造が1桁ナノの攻防に入ったことに象徴されるように、メーカーは精密加工された部品を求めています。また、単価が高い航空機向け部品や宇宙開発向け部品でも、これを金属加工会社が手がけるには高い精度が必要です。金属加工会社に、半導体関連部品や航空・宇宙関連部品をつくっている実績があれば、精密部品を探しているメーカーにとって魅力的に映るでしょう。

厳格な検査に耐えうるか

金属加工会社が単価が高い高精密部品の製造を受託するには、厳格な検査に耐えうる品質保証体制が必要になるでしょう。例えば普通は、2次下請けの金属加工会社は、1次下請けの会社の要求に応えるだけで十分なわけですが、半導体や航空・宇宙関連の部品製造では、2次下請けでも3次下請けでも、発注元メーカーの検査基準をクリアすることが求められることがあります。クリーンルームの設置やマニュアルとおりの検査の実施など、要求されることは高度かつ厳格です。

多品種少量に対応する

金属加工会社の本音としては、多品種少量の注文は厄介に感じるのではないでしょうか。新しくつくる部品の品質を一定レベルに上げるには手間と時間とコストがかかるので、少量しか受注できないと投資を回収できません。しかし厄介な注文だからこそ、どの金属加工会社も多品種少量の仕事を敬遠するので、もし自社が多品種少量生産で利益を出せる体制を構築できたら大きなビジネスチャンスになります。

単価を上げて新規受注する

多品種少量生産で利益を出すには、単価を上げる必要があるでしょう。もちろんメーカーは単価が上がることを嫌がりますので、単価アップを了承してもらうには金属加工会社は単価上昇分の付加価値を提供しなければならなくなります。上記で紹介した、特急対応、どんな素材でも加工する、加工手段を増やす、半導体・航空・宇宙関連部品を手がける、といった取り組みが高付加価値と高単価を可能にします。

宣伝する、実績をPRする

金属加工会社の経営者は、自社のことを宣伝しているでしょうか。自社の実績をPRしているでしょうか。新規の仕事を獲得するには、宣伝と実績PRが欠かせません。どんどん「当社はこんな金属加工ができます」と自慢しましょう。

ホームページだけでなくSNSも活用を

自社の宣伝と実績のPRは、新規受注の獲得手段として最もコスト安で最も手間いらずで実施できます。自社のホームページに、つくることができる部品、加工方法、保有している工作機械の種類と台数、取引先企業名、自社製品が使われる最終製品などを掲載しているでしょうか。これらは、新規の金属加工会社を探しているメーカーの調達担当者が知りたい情報だからです。

またSNSも宣伝とPRに使いましょう。経営者、作業者、営業担当者、事務担当者が交代でSNSに投稿することで、会社の雰囲気を伝えることができます。

営業を強化する~できれば飛び込み営業と技術営業を

営業力の強化は、新規受注の獲得にも、既存の仕事を増やすにも、そしてときに単価を上げるのにも有効です。

ニーズを拾いにいく飛び込み営業

金属加工会社の経営者のなかには「うちは営業に力を入れているほうだ」という人もいるでしょう。しかし飛び込み営業までしているでしょうか。これまで取り引きはおろか、コンタクトを取ったことすらない企業に営業をかける飛び込み営業は不動産業界や金融業界では珍しくありませんが、金属加工業ではあまり行われていません。

なぜやらないのでしょうか。仕事を発注するメーカーと、仕事を受注する金属加工会社は系列のような強固な関係を築いているので、新規参入が難しいからでしょうか。その認識は正しくありません。飛び込み営業といっても金属加工業界の場合は、アポなしで企業のところに行くわけではなく、正式に決裁権者との営業面談を取りつけてから訪問します。決裁権者とは経営者や総務部長、工場長、調達責任者のことです。

金属加工会社の経営者や営業担当者が、訪問先のメーカーで自社ができることをプレゼンすれば、メーカーが興味を示さないわけがありません。「このような加工はできますか」と質問されるかもしれません。その質問こそがメーカーの困りごとであり、メーカーのニーズです。つまり飛び込み営業は、将来の顧客のニーズを探すために行うのです。

技術営業で力を示せる

大手製造業企業には、一般的な営業職とは別に技術営業職を置いています。一般営業職は価格交渉や納期、在庫などに関わり、技術営業職は自社の技術をアピールしたり、相手先の技術的な課題をサポートしたりします。中小零細の金属加工会社では、一般営業職と技術営業職の両方を置くことは難しいかもしれませんが、その場合は一般営業職が技術営業職の仕事を兼務するとよいでしょう。

金属加工会社の営業職は、新規の見込み客と信頼関係を構築できたら、そこの工場を見学させてもらい自社ができることを探してみてください。新規見込み客との関係性がさらに強固になれば、開発段階から部品づくりに参加させてもらえるかもしれません。技術営業職は自社の技術力をアピールすることで仕事を獲得していくのです。

コンサルティングしてもらう

金属加工会社の経営者が、新規事業を立ち上げたい、売上と利益を2倍にしたい、新工場を建てたい、大手メーカーの1次下請けになりたい、といった大きな目標を掲げたら、コンサルティング会社を頼ってみてください。

経営の授業料を支払う価値はある

コンサルティング会社は金属加工会社にコンサルティング料を請求するわけですが、そのコストは金属加工会社に利益をもたらすわけではありません。しかし授業料と考えることができます。

金属加工会社の経営者は、技術畑出身者が多いと思いますが、それはつまり経営のプロではない可能性があります。もちろん会社を何年も何十年も経営し続けているので経営の素人というわけでは決してないのですが、しかし会社をこれまで以上に成長させるには、大企業並みの経営戦略や経営手腕が必要になり、それは他者から学ぶ必要があります。コンサルタントがそれを教えてくれます。

コンサルタントの人脈も魅力的

コンサルタントの人脈も、金属加工会社の経営者には魅力的でしょう。金属加工会社のコンサルティングができるコンサルタントなら、発注元であるメーカーのこともよく知っています。

コンサルタントは発注者がどのような課題を抱えて、どのようなソリューションを求めているのかを、金属加工会社の経営者に教えてくれます。さらに、金属加工会社の経営者がコンサルタントに自社のことを知ってもらえれば、コンサルタントが、付き合いのあるメーカーを紹介してくれるかもしれません。

できることを増やしてアピールして新規が増える

金属加工会社の経営者が、受注量を増やしたい、新規の仕事を獲得したい、単価を上げたいと思ったら、発注側のメーカーの調達担当者の心理を想像してみてください。調達担当者が自社の工場長から「部品の購入量を増やして欲しい」「もっと精度が高い部品をつくれる金属加工会社を探してきてほしい」と言われたら、どのような行動を取るでしょうか。

まずはインターネットで調べるでしょう。だから金属加工会社のホームページやSNS投稿には効果があるのです。新たな金属加工会社を探している調達担当者のところに、これまで取り引きがない金属加工会社の経営者から「うちの技術を紹介させてもらいたいから会って欲しい」と言われたら、会わないわけがありません。できることを増やして、製品の品質を上げて、アピールを強化することで受注が増えたり、新規獲得が実現したりします。