工場の自動化はいつ完成するのか?

執筆者 | 1月 10, 2023 | ブログ

工場 自動化

工場の自動化はかなり進んでいて、無人化や省人化が現実ものになっているのをご存知でしょうか。かつて夢みた工場の姿が、現在の工場のなかにあります。工場の自動化がどれほど進んだのか紹介したうえで、「化」が取れた自動工場がこれからどのようになっていくのかを解説します。

アマダは金型を月3万個、たった6人でつくる

株式会社アマダ(本社・神奈川県伊勢原市)は工作機械メーカーとして有名ですが、金型もつくっています。金型はアマダの土岐事業所(岐阜県土岐市)でつくっているのですが、その工場名が変わっていて「T867工場」といいます。Tは土岐(とき)の頭文字で、867は1日24時間×365日=8,760時間の0を外した数字です。つまり、1日どころか1秒も止まらない工場です。

そしてこの工場がすごいのは、月に3万個の金型をつくるのですが、作業員が6人しかいないことです。そして6人も夜勤があるのでこの人数ですが、工場は3人いれば動かすことができます。T867工場の面積は5,355平方メートルで、サッカーコートより1回り小さいくらいです。

生産性を4倍にした

T867工場は2017年に稼働したのですが、その生産能力は以前の1.5倍になりました。さらに作業員1人当たりの生産高は4倍になっています。政府は、激化する国際競争のなかで日本経済が成長するには、企業の生産性の向上が欠かせないと力説していますが、アマダは工場を建て替えただけで生産性を4倍にしたわけです(*1)。

*1:https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je07/07b02000.html

IoTで自動化に成功

1秒も休まない工場は、作業員を増やせば無理矢理達成できますが、それでは生産性は落ちるでしょう。つまり生産性を上げるには作業員の数を減らしても動く工場をつくらなければなりません。また、アマダはT867工場をつくるにあたり、金型の注文を受けてから3時間で出荷する目標を掲げていました。つまり速くつくることができる工場にしなければなりませんでした。

省人化とスピードの2つの課題を解決したのがIoT(Internet of Things)で、これはあらゆるモノをインターネットにつなげてコンピュータで操作できるようにする仕組みです。

T867工場のスペックは以下のとおり。

  • 倉庫、4,400棚
  • 旋盤や研削盤などの工作機械39台
  • 熱処理と検査の装置40台
  • ロボット45台
  • 無人搬送車3台

これを3人で動かします。倉庫も工作機械も装置もロボットも無人搬送機もインターネットにつながっているので(IoT化されているので)、作業員がやることは集中監視室で監視するだけです。加工中の製品にはIDタグをつけていて、どの製品がどの工程にあるのかも集中監視室でわかります。

高木製作所はモヤシをつくるように自動車部品をつくる

トヨタ自動車の自動車部品をつくっている株式会社高木製作所(本社・名古屋市)の岡崎工場(愛知県岡崎市)は、モヤシをつくるように自動車の給油口のフタ(ガソリンを入れるときに開けるフタ)をつくるといいます。

モヤシは、水を張ったタンクのなかに種を入れ暗い部屋に置いておくだけで成長して収穫できます。岡崎工場も、給油口のフタの材料になる金属の薄板を生産ラインの入り口に投入するだけで完成します(*2,3)。

*2:https://takagi-mfg.co.jp/company

*3:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD079RP0X01C22A2000000/

給油口のフタを箱詰めまで人が触れない

金属の薄板を生産ラインの入り口にセットすると、ベルトコンベヤーによってそれがプレス機に運ばれます。プレス機が金型を金属薄板に押し付けると給油口のフタの形になります。次に溶接の工程に回され、完成して箱詰めされます。この間、人は製品に一切触れません。

これだけ聞くと、ベルトコンベヤーとプレス機と溶接機と箱詰め機械を並べて、すべてをIoT化してコンピュータで制御して全自動にしただけのように思えるかもしれませんが、モヤシをつくるくらい簡易化するまでに3年の月日を要しました。

たった3年で完成できた理由

給油口のフタの製造の全自動化にかけた時間は、「3年もかかった」のではなく、「3年しかかかっていない」でしょう。高木製作所には、前工程と後工程を自動でつなぐ制御技術がありました。

手動機械Aで加工→機械Bの作業が終わったのを確認してから、人が機械Aでつくった製品を機械Bに投入機械Bで追加の加工
自動機械Aで加工→機械Aと機械Bを連係させて動かす必要がある (コンピュータで制御して、機械Aと機械Bを協力させる必要がある)機械Bで追加の加工

例えば、機械Aで加工したあとに、追加で機械Bで加工する必要があったとします。このとき2つの機械の間で製品の流れを調整する必要があります。人の手を使えば、機械Bの作業が終わった段階で、機械Aがつくった製品を機械Bに投入すればよいのですが、これを全自動にするには、機械Aと機械Bを連係させて動かす必要があります。

つまり「コンピュータで制御して、機械Aと機械Bを協力させる」必要があります。これが、前工程と後工程を自動でつなぐ制御技術です。また高木製作所は、プレス機も溶接機も搬送設備も自社でつくることができました。それで、それらの機器を全自動タイプに改良することができたのです。これらの技術が社内に蓄積されていたので、高木製作所は給油口のフタの製造をわずか3年でモヤシ化できたのです。

「重要なその他の仕事」も自動化しなければならない

工場の自動化で課題になるのは、すべての作業を自動化しないとメリットが出づらい点です。1つでも手作業が必要になると、その人員を確保しなければならず省人化メリットが大きくなりません。

そこで給油口のフタの生産ラインでは、金型や加工機の設定変更も自動で行えるようにしました。これにより、形が異なる違う車種の給油口のフタをつくることになっても、無人で対応できるようになりました(ボタンを数回押す人は必要ですが)。さらに生産ラインに故障が発生したら、どこで発生したのかがわかる装置も搭載しています。

さらに進化させる

高木製作所はさらに自動化を進めるとしています。これまでに自動化できたのは「金属薄板のセット、プレス、搬送、溶接、生産品の変更、箱詰め」でした。今後は、金属薄板のカットや、それを生産ラインに運ぶ工程、箱詰め後の検査、出荷場所までの搬送も自動化していきます。

日立は顧客企業の工場を自動化する

日立製作所(以下、日立)は自身がモノづくり企業ですが、他社のモノづくり企業をサポートする事業も手がけています。いわゆるソリューション(課題解決)事業で、その1つに、顧客企業の工場の自動化をサポートする事業があります。ある企業が自社工場を自動化したいと思ったら、日立に頼めば工場をつくり変えてくれます。

大型投資を次々実施

日立は本気で工場自動化事業に取り組んでいます。2022年4月に、産業機械をつくっている日立産機システムという会社や、自動車ボディの自動溶接を手掛ける会社など、工場の自動化システムづくりに関わる会社を統合し、株式会社日立オートメーションという会社をつくりました(*4、5、6、7)。

さらに2019年にはアメリカの生産システムを手掛けるJRオートメーション・テクノロジーズという会社を14億ドル(1ドル135円なら1,890億円)で買収。さらに2022年には、やはりアメリカの工場設備の監視制御システムを手掛けるフレックス・ウエア・イノベーションという会社を買収しました。この会社の買収額は公表されていません。

日立はこれらの大型投資を行うことで、ソリューション事業である産業部門の売上高を2024年までに3兆2,000億円にする目標を立てています。この額は2021年比16%増で、なかなか強気な数字です(*8)。もしこの目標が達成されれば、世界中の工場が日立に年3兆2,000億円支払って自社工場を自動化させたことになります。

*4:https://www.hitachi-automation.co.jp/about/company/

*5:https://www.hitachi-automation.co.jp/products/field/

*6:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC259W90V20C22A1000000/

*7:https://kec-corp.jp/work/example/

*8:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO64103340W2A900C2TB1000/

つくること以外の自動化も重要

アーム・ロボットが自動車のボディを溶接したり、搬送ロボットが工場内を自由に走り回って部品を届けたりするシーンをみたことがあると思います。つくることに関してはかなり自動化が進みました。しかしつくることだけを自動化しても、本当の自動工場にはなりません。

例えば日立は、完成した製品に不良品が出たときに、どの作業工程でミスが発生したのかを瞬時に見極める技術を開発しています(*9)。工場でつくられる製品はいくつもの工程を経て完成します。そのため、不良品が出てしまったらミスを起こした工程を突きとめて改善しなければなりません。ミスを起こした工程がすぐにわからないと、全工程を停止してチェックしなければなりません。そうしないと不良品をつくり続けてしまうからです。

では日立は、どのように、ミスが発生した工程を瞬時に突きとめられるようにしようとしているのか。すべての工程の機械や設備の状態を把握して、それらに変化がないかチェックします。ある機械に変化が起きたタイミングで不良品が出ていれば、その機械を使っている工程を改修すればよいのです。そのためには、すべての機械や設備をインターネットでつなぎ、機械や設備の状態をデータ化して、そのデータを集中監視室に送る必要があります。不良品対策を自動化することで、本当の止まらない工場をつくることができます。

*9:https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/spcon/uc/uc_01948s/index.html

ベテラン職人と同じモノをつくれなければならない

もし自動工場がつくる製品のクオリティが、手作業が多い工場の製品のクオリティより劣ってしまったら、自動化する意義が減ってしまうでしょう。もちろん、クオリティを多少犠牲にして生産性の向上を取る選択をする企業もあるでしょう。しかし先進国であり輸出立国でもある日本のモノづくり企業は付加価値の高い製品をつくらなければならないので、クオリティを犠牲にした自動化は選択しづらいと思います。

つまり、日本のモノづくり企業が工場を自動化するなら、ベテラン職人がつくった製品と同レベルのモノをつくれるようにならなければなりません。そこで日立は、ベテラン職人の作業をデータ化することに取り組んでいます(*10)。ベテラン職人が作業しているところを撮影し、AIで解析します。するとAIはベテラン職人の動きを学ぶことができます。それでベテラン職人の動きがデータ化されます。このデータがあれば、一般の作業員の作業を撮影してAIに解析させると、どこが間違っているのかが瞬時にわかります。

そしてベテラン職員の作業をデータ化しておけば、その作業を機械で再現するときに役立ちます。機械にデータとおりの作業をさせれば、自動化してもベテラン職人クオリティを出すことができます。

*10:https://social-innovation.hitachi/ja-jp/article/lumada/

仮想空間でシミュレーションする

もう一歩進んだ自動工場を紹介します。そしてこれこそが本物の自動工場といえるでしょう。ここまで紹介した自動工場は、手動の作業をロボットなどの機械に置き換えてきました。省人化とは人がいた場所から人をなくす取り組みであり、ベテラン職人の作業のデータ化はベテラン職人の作業の自動化であり、つまり「元々」は「人」がいます。しかし未来の工場は「元々人がいない状態」からつくっていくことになるでしょう。

仮想空間に工場をつくり、そこに機械を置きます。もちろんその工場も機械も仮想のものです。そして仮想の機械を自動で動かします。これをシミュレーションといいます。シミュレーションで不具合が出たら、仮想空間のなかで改修していきます。不具合がなくなったら、リアルの工場を建て、リアルの機械を入れて生産を始めます。

最初から作業員がいない前提で生産ラインが組まれているので、より効率的に生産できるはずです。しかも不具合はシミュレーションで潰しているので、不良品も出ません(*11)。この自動工場は絵空事ではなく、現実味があります。なぜならすでにデジタルツインという技術があるからです。

*11:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC197LB0Z10C22A5000000/

デジタルツインはリアルを仮想空間で再現する技術

デジタルツインの和訳は「デジタルの双子」。では何と何が双子なのかというと、リアルと仮想空間です(*12)。リアルの世界の要素をすべてデータ化して、そのデータを使って仮想空間内で要素をつくれば、リアルの世界とまったく同じものが仮想空間内に完成します。仮想空間内にできたリアル世界のコピーなら、さまざまな要素を動かすことによってさまざまな実験をすることができます。

つまりリアル世界では危険すぎて実験できないことも、コピーの世界であれば可能です。例えば、リアルの地球を仮想空間内にコピーできれが、そのなかで遠慮なく二酸化炭素を排出する実験をすることができます。それにより、二酸化炭素濃度が異常に高まった地球の状態を確認することができます。

工場でも同じことができます。今の普通の工場を仮想空間内にコピーすれば、あらゆる試験を実施することができます。最新の機械のデータをコピー工場のなかに置けば、仮想機械を動かして仮想製品をつくることができます。現在の工場では試行錯誤を繰り返して品質を高めていくのが常識ですが、これからは試行錯誤は仮想空間のなかで行うことになるかもしれません。「品質は工程でつくり込む」とはトヨタ自動車の有名な教訓ですが、これからは「品質は仮想空間内でつくり込む」に変わるでしょう。

*11:https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20220701_digital-twin.html

まとめ~人につくれないものをつくれるのか

モノづくり企業は、手づくりの低い生産性を高めるために工場をつくり、そこに機械を入れてさらに生産性を高めていきました。そしていつしか、より速く、より正確に、よりクオリティの高いモノを、より安くつくっていかないと工場は生き残れなくなったのです。

するととうとう、人の能力を超える速さと正確さが求められるようになりました。安さとクオリティの要求も一層高くなっています。この要求に応えるのが工場の自動化です。

人を機械に置き換える自動工場から、人にはできないものをつくる自動工場に進化していくのではないでしょうか。