前回までの記事では、製造業の人手不足という大きな課題について、その解消策としての外国人採用の状況や在留資格「特定技能」の大まかな内容をまとめました。それでは実際に外国人材を雇用するとなったらどのように進めたらいいのでしょうか?
「国内人材の採用とは全く勝手が違うから、方法がイメージできない」
「エージェントを使うなど、何となくイメージはできるけど成功のポイントがあれば知りたい」
今回は外国人材の雇用方法と成功の秘訣についてまとめたいと思います。
目下のところ、外国人採用を予定しておられない企業であっても、今後の日本の状況を考えると新たな選択肢として出てくる可能性も否定はできない領域なのでぜひ参考にしていただきたいと考えます。今回の記事では前回に引き続き、製造業に関連の深い「産業機械製造業」について触れていきます。
「特定技能」を取得するには
前回確認したように、日本で外国人材が働くために必要になるのが在留資格である「特定技能」。外国人材が特定技能1号を取得するには、二つの方法があることをまず押さえておきましょう。まず一つ目に、「特定技能1号評価試験」および日本語検定に合格して資格を取得するという方法があります。
【特定技能1号評価試験】
聞き慣れない方も多いかと思います。「産業機械製造」に限らず、「特定技能」を取得するには、特定技能12業種でそれぞれ独自に定められている「特定技能評価試験」に合格する必要があります。「産業機械製造」では、経済産業省の定める「製造分野特定技能1号評価試験」を受検し、合格することが必須となります。特定技能1号「産業機械製造業」を取得するには、経済産業省が行う試験に合格しなければなりません。
内容としては、受験者が技能水準を満たしているかを評価する技能試験になります。これまで2019年にはインドネシアで、現地語を使用して学科試験と実技試験が行われました。試験区分は以下の通りです。
鋳造、鍛造、ダイカスト、機械加工、金属プレス加工、鉄工、 工場板金、めっき、アルミニウム陽極酸化処理、仕上げ、機械検査、機械保全、 電子機器組立て、電気機器組立て、プリント配線板製造、プラスチック成形、 塗装、溶接、工業包装
※レベルは技能検定3級相当(技能実習2号修了相当)
さらに、日本で働くために必要な日本語のレベルを満たしていることを証明するために、規定された日本語試験にも合格する必要もあります。目安としては、日本での就業や生活が可能な日本語の運用能力を持っているかどうかを確認するものになります。日本語能力試験(JLPT)のN4以上、もしくは国際交流基金による「日本語基礎テスト」への合格が条件となっています。
二つ目の方法が、「産業機械製造業」分野の技能実習2号から移行する方法です。技能実習とは、1993年から導入されてきた実習と研修の制度。「特定技能」の制度の整備新設によって、外国人材は「技能実習」から「特定技能」へと移行が可能になっています。日本に滞在していた技能実習生は、在留資格「特定技能」を取得すれば、追加で最長5年間まで滞在可能になります。この際、「産業機械製造業」の特定技能1号評価試験の受験は不要となります。経済産業省の下記の資料のp20に移行対象職種が示されています。鋳造、鍛造、金属プレス加工や鉄工等、製造業の多くの職種が挙げられていますので必要に応じて確認してください。
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/gaikokujinzai/pdf/20200731.pdf
外国人材採用
一般的には外国人材の雇用パターンには、①外国人の日本への招聘、②国内留学生の新卒採用、③国内就労中外国人の中途採用、④技能実習生の受入れ、⑤アルバイト・パート(資格外活動)が考えられます。前パートまででご説明してきた「特定技能」や「技能実習」は①、②、③、④のすべてに関わってくる内容と言えます。外国人材に特化したエージェントも多く存在していますが、外国人材の活用がうまくいっている企業はどのように採用活動を展開しているのでしょうか。
現状では、外国人材の雇用を希望していても多くの企業が採用段階で苦労している現実もあります。その理由の一つは、必要人材の要件を曖昧にしたまま漠然と採用活動をしていることです。応募者にとって、企業・仕事内容が合わない、処遇・労働条件が合わないなどの問題が生じてしまうのです。
そこで、募集にあたっては、「ポジションありき」を基本にすることが重要になってきます。「人ありき」で、まず採用してから適切なポジションに当てはめるのではなく、事業に必要なポジションを決めてから要件に合う人を採用することが重要です。採用ポジションの決定を受けて、汎用知識・スキル(日本語・英語力など)、専門知識・スキル、適性(明るい、仕事が正確など)の要件を、明確化しながら定義していきます。その上で、求人については、曖昧な条件でなく、具体的・詳細に条件表示することが有効です。
例えば単に「営業職、給与・時間応相談」ではブラック企業を連想されかねません。「職務内容・給与・手当・就業場所・休日・残業・福利厚生・教育・昇進」についてはっきりと表示することが必要です。ここまで書いた内容は「日本人の採用と何が違うの?」と思われるような内容かもしれません。それは実は的を射ていて、外国人材の採用にあっても共通して重要なことであるため、採用の基本的な考え方や方針にしっかりと乗っ取った方法で採用活動を進めるべきだとご認識いただきたければと思います。
また、応募数がなかなか増えないという場合も、外国人材の母国語で記載を加えるだけで、飛躍的に効果が上がります。常に外国人材側の視点を持って、独りよがりにならない採用活動を展開することが必要だと言えます。下記の資料には令和4年の九州の技能実習及び特定技能で外国人材が働いている企業の詳細がまとめてあります。採用の実情や、採用後の企業内の変化など参考になる例がたくさんあります。
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/219598.pdf
すべてここではご紹介できませんが、製造業の企業もいくつか掲載されています。その中でも佐賀県の「株式会社唐津プレシジョン」では、中国向け事業での強化を図る中で、法人として所属する学会のイベントに後に採用する外国人材が参加しており、接点を持ったことがきっかけとなり、外国人材の受け入れが始まったようです。
機械工学の知識や多言語(日本語・中国語)の強みを持つ貴重な人材として捉えており、工作機械に関する知識を蓄え、重要な市場である中国の企業との取引拡大において活躍が期待されているとのこと。注意点としては、「在留資格の更新手続きは、本人が不安にならないよう、コミュニケーションを密に取りながら対応を進めた」など、実際に採用を進めている企業ならではの気づきや視点も大いに参考にしたいですね。
終わりに
厳しい状況が続く日本経済において、人手不足解消のための有効な方策となるであろう外国人材の採用。製造業にとっても、その可能性は広がっていることがおわかりいただけたのではないでしょうか。外国人雇用を考える上で外せない在留資格「特定技能」や「技能実習」など制度内容や、実際に在留資格をどのように取得するのか、理解を進めていただけたのではないでしょうか。制度自体も改編の時期にあり、また目まぐるしく状況が変わっていく領域でもあるため、常に最新の状況を注視していきたいと思います。