今回取り上げるのは、業種に関わらず、日本全体の懸念となっている人手不足の問題についてです。その解消策については、どの業界でも本腰を入れて検討されている状況だと思います。もちろん、製造業でも若い世代の減少が進んでおり、長期的安定的に働いてくれる外国人材の採用を考えている企業も少なくないことでしょう。そして、今のところは外国人の雇用を考えておられない企業であっても、この先を考えると無視できない領域であると考えます。
直近で在留資格「特定技能」の対象分野で変更が行われたことは記憶に新しいですが、何が変わって、どんなメリットがあるのかを整理するとともに、そもそも外国人採用のメリットや働きやすい環境はどんなものなのか、3つの観点に分けてまとめていきたいと思います。
第1回目の今回は、外国人採用の現状とメリットをわかりやすく整理していきます。
外国人採用の現状と「特定技能」
厚労省のデータによると、令和元年時点で日本において、外国人労働者の総数は約166万人。届出義務化以降、過去最高の数字を更新し続けてきました。外国人の採用ニーズは高まり続けてきたといえます。増加の理由は様々ですが、政府の推進による高度外国人材の受入れが増加したことは直接的な要因と考えられます。
2019年4月から、新しくスタートしたのが「特定技能」という在留資格制度。「特定技能1号」または「特定技能2号」の在留資格により外国人労働者を雇用できます。日本では27種類の在留資格がありますが、その中で就業できる在留資格は17種類。これをもっと増やそうとする施策が「特定技能」です。2018年時点の経済産業省のデータによれば、中小企業の人材確保は大変厳しい状況が続いてきました。
https://www.chubu.meti.go.jp/b32jinzai/jinzai_bank/gaikoku/data/monogaikokujinzai.pdf
この状況を打破するべく、国としても人材確保支援の推進していく方針が打ち出されました。地域の雇用や経済を支える小企業の付加価値を高め、生産性を向上するために具体施策がとられることになりました。
その一方で、日本で働く外国人の方は急増しており、平成29年10月時点で約128万人。専門的、技術的分野の外国人の就労は政府も積極的に推進しており、留学生の就職についても就職支援が行われています。しかし、留学生の7~8割が日本での就職を希望している中で、実際に日本で職を得た留学生は3割程度に留まっている現実もありました。
それから約5年。出入国在留管理庁「入管最新特定技能在留外国人数の公表」の統計(2022年末)によると、「特定技能」での在留外国人数は、約13万人となりました。新制度ができた2019年4月時点では、5年間で約34万5千人の滞在を見込んでいたことを考えると、そのラインからは大幅に下回っているように見えます。しかしながら、2020年からは新型コロナ感染対策によりに入国制限が厳しい状況にあったものの、増加の勢いは止まっていません。特に、製造業分野では実に27,000人を超える外国人がこの在留資格(特定技能1号)により雇用されているのです。
特定技能の資格で就業している外国人は、ほかの在留資格である「技能実習」約40万人、「資格外活動アルバイト」約40万人と比較すれば非常に少なく見えます。しかしながら、すでに国内で大きな課題とされている少子高齢化による人材不足を鑑みれば、それを補う動きが促進され、いずれは最大数となることも十分予測できます。
特定技能のうち大半を占める1号(上限5年まで)に加えて、今後特定技能2号(上限なし・家族帯同可など)の範囲拡大によって、さらにその数は増えていくことでしょう。つまり企業にとっても「特定技能」での外国人の就業は目を離せない領域と言えると思います。
外国人採用のメリットは?
多くの企業にとって、外国人を採用する最大のメリットは、今回の記事のテーマでもある「人材不足の解消」ということになりますが、そのほかにも派生するさまざまなメリットがあるようです。実際に外国人労働者を雇用したことのある経営者によれば、「社内のグローバル化」や「メンバーのコミュニケーション能力の向上」「社風、雰囲気が明るくなった」「外国人の感性や考え方が業務にとっても良い影響を与えた」など、相乗効果とも言うべきメリットを感じられるようです。
メリット1:人材不足解消、若手人材の確保
超少子高齢化社会の今、若い人材の獲得が難しくなっており、その傾向はますます強くなるため、若手の人材を雇用できる外国人採用はメリットになります。渡日している若年層の優秀な外国人材や、海外からの採用も視野に入れることで採用対象がぐんと広がります。
メリット2:会社のグローバル化
外国人労働者は、母国語のほか英語の運用能力も高いなど、日本語も含めて3ヶ国語以上話せる方も多いです。海外のお客様への対応など様々な場面で活躍できるだけでなく、そのような人材が社内に入る事によって、企業文化のグローバルな広がりにつながったり、や事業領域が発展する可能性もあります。
メリット3:新しい価値観やアイデアの流入
違う環境や文化のもと育ってきたからこそ、外国人メンバー採用により、違った視点や新鮮な発想によるアイデア創出が活発になる可能性も高いです。周りのメンバーへの良い刺激になったり、新たな販路など、事業活動への影響も得られる場合があります。
メリット4:海外進出への布石に
外国人メンバーの採用で、複数言語でのビジネス対応が可能になり、すなわち販路の拡大につながあることがあります。それまで想定していなかった海外へ向けたビジネス展開の足掛かりになる可能性もあります。
https://bizhint.jp/report/376815
課題
たくさんのメリットが考えられる外国人採用ですが、同時に課題やデメリットも無視することはできません。
- コミュニケーションや文化の違いによる問題
- 就労資格取得の手続きや時間
- 労務管理の知識
上記のような問題が想定され、これらがデメリットと認識されることが多いようです。日本人を採用する際とはまったく勝手が異なるため、企業側としてもさまざまな準備や体制整備が必要となります。(採用のステップについては今後の記事でまとめます)
また、社会的に問題になっている点も理解しておく必要があります。昨今、外国人労働者は、高度な技術や知識を持っている優秀な人材として認識されていることも多いですが、古くからの悪しき先入観により「労働環境が多少悪くても、働いてもらえる安価な労働力」などと認識している企業があることも事実です。日本においても、様々な法整備により改善されてきているとは言え、まだまだ不十分な領域です。根本的解決のためには企業が外国人労働者に対しての認識を改めていかなければならないと言えます。
厳しい状況が続く日本経済で、以前と違って平均賃金ももっと高く、労働環境がよりよい国は増えてきている傾向にあるため、「安く雇える労働力」といった考えでは外国人は日本での就業を選んではくれません。日本人採用と同様の労働条件や給料水準をスタンダードと考えるべきでしょう。
終わりに
本日は人手不足解消の方策としての「外国人採用」についてとりあげました。1回目となる今回は、主に外国人採用の現状とメリットをまとめています。さまざまなメリットや波及効果が挙げられるとともに、その裏にある課題やデメリットについても理解していただきたく、触れています。次回は最近法改正の動きもある「特定技能」について、対象職種や変更点についてまとめたいと思います。