本日は超精密加工についてフォーカスします。「超」がつくのですから、どれほど細かく緻密な加工が行われるのか?
「精密加工」と呼ばれる技術との違いは?いろいろ疑問が湧きますが、実はこの加工技術、私たちの生活に欠かせない医療分野など情報化社会で欠かせないハイテクノロジーの分野でも大活躍の技術なのです。早速、超精密加工の世界を早速覗いてみましょう!
超精密加工ってどんな加工?
超精密加工は加工技術の一つで、これまでは主に研磨会社で取り扱われてきました。ナノスケールの細かさと精度を必要とし、光学分野や半導体分野では特に必要不可欠の技術です。光学分野で加工品として挙げられるのが、精密機械部品、カメラ、レンズといった製品です。そして、製品としての加工や部品の製造はもちろんのこと、部品を加工するための工具・金型自体を精密に作ることにも活用されています。
例として、レンズの表面や形状をナノレベルの精度で仕上げなければカメラやセンサーといった部分に影響が出るのは容易にご想像いただけると思います。求められるのはレンズ自体の精度だけでなく、レンズ用の金型にもナノレベルの精度が必要になるというわけです。つまり、超精密加工が必要となる領域は複合的とも言えますよね。
また、近年は光学分野や半導体分野だけでなく医療、半導体製造、バイオ分野といった多くの領域で需要が高まっている傾向があります。超精密加工技術は一般的な精密加工の1/1000もの細かさが求められるため、専用の機械や工具を用いることで、限界まで精密に加工することが必要になります。その対象は金属だけでなく、今や、プラスチック・セラミックス・ゴム・木材まで、実に多様な素材に広がっています。
超精密加工は最大のスケールでも1/1000μmという細かさ。これだけでも非常に微細であることがお分かりいただけるのではないでしょうか?1000分の1 マイクロメートルは即ち、1ナノメートル。“ナノスケールの加工精度”=超精密加工と定義することができます。これに対して、精密加工は、最大で1/1000 mmというスケールになります。一般的に“マイクロスケール”であることから、精密加工と超精密加工では1段階精度が異なるということになります。加工精度がナノレベルであることが超精密加工技術の一番の特徴。高精度工具を用い、恒温なども含めて設備環境を整え、ナノスケールの分解能を持った工作機械を使用するという、3つの条件すべてを満たすことで初めて超精密加工を施すことができるのです。
使われる工具は?
高精度工具として多くの企業で採用されているのは、主にダイヤモンド工具です。ダイヤモンド工具は、その優れた耐摩耗性と精度の高さから、金属加工などの様々な用途で使われます。その中でも「超精密ダイヤモンド切削工具」に代表されるような単結晶ダイヤモンド工具は、光ディスクのピックアップレンズやスマートフォンカメラレンズの樹脂レンズ金型、液晶パネルの光学プリズム金型、レーザ反射鏡など光学部品の超精密加工に使われています。
超精密ダイヤモンド工具が工業製品化されるまでは、天然ダイヤモンド素材が一般的に用いられていました。無色透明かつ、形の整ったものは宝石として優先的に使用されるため、工具に用いられるダイヤモンド原石といえば形、品質にかなり個体差がありました。ダイヤモンド原石の選別や超精密ダイヤモンド切削工具研磨作業も、職人の経験と勘によるところが大きく、工具性能までばらつく要因になっていたようです。そこで開発された単結晶ダイヤモンド素材の採用及び、研磨装置の品質工場により格段として安定性がもたらされるようになりました。
ダイヤモンド工具の特徴はなんといっても硬度が抜群に高いこと。硬度指標において最も高い位置にあり、最も硬い素材であると言えます。この特性が、超精密加工で欠かせないものなのです。超精密加工では工具に非常に大きな負荷が発生することも。これに耐えることができる工具材質でなければ加工を施すことができないため、ダイヤモンドの硬度に頼ることになります。硬度以外にももちろん利点があり、高い熱伝導率や強固な結晶性もこの工具の強みと言えます。
超精密加工では数μmでの切込み量が基本なので、非常に高温の状態で切削熱が発生することも。その熱のダメージによって激しい工具摩耗が発生するリスクを押さえるためにも、高い熱伝導率により切削熱を工具全体へと分散できる単結晶ダイヤモンド工具の使用が有効なのです。
さらに、単結晶ダイヤモンドは、炭素の共有結合によってできたダイヤモンド構造で構成されていることで、強固な結晶性があります。超高精度な輪郭精度の実現にも大いに貢献しています。単結晶ダイヤモンド工具の登場によって、高精度な工具刃先が作られるようになったのです。もちろん、全ての材質や形状に対して単結晶ダイヤモンド工具が最適とは限りませんが、超精密加工の世界では不可欠の工具であることには変わりありません。
どんな測定器が使われるのか?
精密加工では一般的に、マイクロメーター、測定顕微鏡、三次元測定機といった測定設備や器具が用いられていますよね。これら代表的な測定設備では、測定精度±1μm程度まで測定することが可能です。それでは超精密加工の世界ではどうでしょうか?同じ測定器を用いることができるのでしょうか?
“ナノレベル”の超精密加工では”ナノレベル”の機械精度を当然担保しなければなりません。測定器を使用することで、製造した物が許容値に当てはまっているかどうか測定して検品するのはどの加工においても共通です。しかし、とりわけ超精密加工では、部品の形状をデータ上で立体的にとらえて様々な測定を行うことができる三次元測定機が活躍しているようです。超精密加工に“超高精度”ともいえる三次元測定機が必要なのは、超高精度を要求される環境において、形状誤差に対する補正の為のフィードバックと完成形状に対する保証を行うためです。
超精密加工に対応できる三次元測定機は、超精密加工機とほぼ同一精度の数値分解を持っており、他の汎用測定機では対応できない精度まで安定して測定することができるわけです。三次元測定器は超精密加工においてますます重要な位置付けとなっており、より高度な検査や品質保証のために必須の設備と言えそうです。国内で超精密加工を得意とする企業は、この三次元測定器をはじめとする測定機器、検査機器の導入および充実に力を入れているようです。
三次元測定器以外にも、レーザー顕微鏡や原子間力顕微鏡、干渉計といった測定設備群により、さまざまなケースを補い総合的な測定検品を行っているケースもあります。加工がナノレベルになると、一般的な加工と同様の測定では抜け穴ができます。通常の精密加工とは異なる測定設備が必要であること、そして、一つの機械では補えないことも複数の測定器具により万全の体制を築くことができるということがお分かりいただけたかと思います。
超精密加工の応用分野はさまざま
超精密加工による加工品、部品は多くのテクノロジーやインフラを支えています。とりわけ情報化社会においてテクノロジーに活用される超精密加工は、時代の最先端で貢献していると言っても過言ではありません。半導体分野や光学分野については、超精密加工が用いられる代表的な領域として冒頭でも挙げました。特にマシニングセンタ等を用いた超精密加工は、高精度レンズの製造分野や、光学レンズのための金型製作に必須の技術となっています。
さらに近年は医療・バイオの領域でも超精密加工は欠かせない技術のようです。命に関わる精密性や機能性を求められる高品質の製品分野で、超精密加工が積極的に応用されています。医薬品を経皮吸収できるマイクロニードルアレイや、自走式カプセル内視鏡などに高精度の加工技術がふんだんに生かされています。日本企業の長年磨かれた熟練技と高度な技術の協同でテクノロジーを支える製品が日々生み出されているのですね。私たちの身近な場所でも超精密加工により生み出された製品やパーツがおおいに活躍しているようです。
終わりに
今回は、超精密加工について取り上げました。医療や交通など身近な領域でもこうして生み出される高度な部品たちが私たちを支えています。国内にも地方拠点の超精密加工を得意とする製造業がいくつもあり、今後も社会を支えていく存在となりそうですね。注目し続けたいと思います。