門型マシニングセンターを芝浦機械が開発

執筆者 | 2月 15, 2023 | ブログ

EV 開発

工作機械メーカーの芝浦機械株式会社(本社・東京都千代田区、以下、芝浦機械)が2022年に、門型マシニングセンター「MPC-3120H」を開発し発表しました。MPC-3120Hは金型をつくることを目的とした門型マシニングセンターで、いわば金型加工機です。その特長は大型であることと、複雑な形状の製品を全自動でつくることができる性能の高さです。しかも加工時間を35%短縮しました。これは、高い金型加工技術を必要とする電気自動車(EV)製造のニーズから生まれました。

MPC-3120Hの実力を紹介します(*1、2、3)。

*1:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02221/112600039/

*2:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC01E8T0R01C22A1000000/

*3:https://www.jimtof.org/search/jp/ESdetails?e=kygm0UxJL-M

MPC-3120Hの実力

MPC-3120Hは5軸制御という特徴があります。さらに主軸の回転数を従来の最高1万rpm(1分で1万回転)から最高2万rpmへと高速化させています。

X、Y、Z、B、Cの5軸で「どんな形にも対応」

マシニングセンターとは、面研削、溝研削、穴開け、中ぐり、フライス削り、ねじ切り、リーマ仕上げなどを行えるNC工作機械のこと。自動で切削工具(刃物)を交換する機能も備えています。門型とは、刃物を取りつけた回転軸(主軸)が門の形をした部品に取りつけられているタイプのことです。門は前後(X軸)、左右(Y軸)、上下(Z軸)に動くので、門に固定された主軸に取りつけらえた刃も回転しながらそのとおりに動きます。

そしてMPC-3120Hは5軸なので、X、Y、Z軸に加えて、Y軸を基準にした回転軸であるB軸と、Z軸を基準とした回転軸であるC軸でも移動します。主軸がこれだけ複雑に移動するので、MPC-3120Hの刃はあらゆる角度から加工対象物(ワーク)に接触して削っていきます。MPC-3120Hは、求められる形がどのような形状でも、ワークをそのとおりに仕上げていきます。

最高2万rpmの意味「加工時間を減らし、ワークをキレイにする」

MPC-3120Hが加工時間を短縮できた要因の1つに、主軸の回転数を最高2万rpmにまで速めたことがあります。主軸(刃)が速く回転すれば速く加工できるわけです。しかも回転数が速くなるとワークの加工面が滑らかになり、キレイに仕上がります。

しかし回転数を闇雲に速くすると刃の寿命も早く尽きてしまいます。さらに高速に回転すると刃がワークの表面を溶かしてしまうので、削りカスが刃に付着して作業を邪魔します。MPC-3120Hは加工状況に合わせて回転数を調節することで、支障を出さずに作業効率を高めることに成功しました。

あえてファナック製のNC装置を導入

MPC-3120HのNC装置は、産業用ロボット大手のファナック株式会社(本社・山梨県忍野村)のものを採用しました。NC装置は門型マシニングセンターの全体の動きをコントロールするもので、その性能によって加工精度が変わってくるほど重要な部品です。芝浦機械はNC装置を自社でつくっていて、それにTOSNUCというブランド名をつけるほど力を入れています(*4)。

しかしより高い性能を求めてファナック製NC装置を使うことにしました。ただ、ファナック製NC装置をそのまま購入したのではなく、TOSNUCで培った技術を移植して「オーダーメードNC装置」にしています。

*4:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02221/112600039/

なぜこれほど高性能な門型マシニングセンターがEVに必要なのか

芝浦機械がMPC-3120Hのような大型・高性能門型マシニングセンターを開発したのは、金型加工のニーズがかつてないほど高度化しているからです。特にEV製造では、MPC-3120Hが必要になります。

EVはガソリン車より軽量化が求められているから

MPC-3120Hはあらゆる金属部品をつくることができますが、想定しているものの1つにEVの部品をつくるための金型があります。自動車部品をつくるには金型が必要で、それをMPC-3120Hでつくるわけです。ではなぜEV部品用の金型をつくるのに、MPC-3120Hほどの性能が必要だったのでしょうか。それはEVに軽量化が求められているからです。EVはガソリン車よりもシビアに車体を軽くしていかなければなりません。

EVはバッテリーが重いので、そのほかの部品を軽くする必要がある

日産自動車のEV「サクラ」は軽自動車クラスでありながらその重量は1,070kgもあります。同じ日産の軽自動車でもガソリン車「DAYS」は850kgしかありません(*5、6)。220kg(=1,070kg-850kg)もの差があるのは、EVは大きくて重いバッテリーを積まないとならないからです。220kgは体重70kgの人の3人分にもなり、これは自動車の性能を著しく落とします。重くなれば走らせるエネルギーが増えるのでエコでなくなりますし、減速させるのにも余計な力が必要になるのでブレーキに負担がかかります。もちろんバッテリーを小さくすればEVも軽くできますが、そうすると今度は1回の充電で走行できる距離が短くなってしまいます。

サクラはDAYSより220kgも重いのに、1回のフル充電で走行できる距離は180kmしかありません。ガソリン車のDAYSは、燃費が1リットル23.3kmで、ガソリンタンク容量が27リットルなので、1回満タンにすれば629.1km(=23.3km/リットル×27リットル)走ります。ガソリン車なら給油は数分で終わりますが、EVサクラは高速充電でも4時間、普通充電だと8時間もかかります。

したがって、EVの重量を軽くするためにバッテリーを小さくしてしまうと、走行できる距離が180kmより短くなるので、それを選択することはできません。それでそのほかの部品を軽量化する必要が生じたのです。それでは次に、EV部品の軽量化とMPC-3120Hの関係についてみていきます。

*5:https://www-asia.nissan-cdn.net/content/dam/Nissan/jp/vehicles/sakura/2205/pdf/sakura_specsheet.pdf

*6:https://history.nissan.co.jp/ARCHIVES/PDF/DAYZ/AA1/20211213/dayz_urbanchrome_specsheet.pdf

なぜ金型加工機を大型化、複雑化する必要があるのか

MPC-3120Hには次の特長があります。

  1. 加工時間が短い
  2. 大きな金型をつくることができる
  3. 複雑な形の金型をつくることができる

1については上記で説明したとおりです。ここでは2と3に注目します。MPC-3120HはEV部品用の金型をつくる必要があったので、大型化かつ複雑化する必要がありました。

大きな部品は軽量化できるから

金型加工機(ここではMPC-3120Hのこと)を大きくすると、大きな金型をつくることができます。大きな金型をつくることができると、大きな部品をつくることができます。大きな部品をつくれば、小さな部品を複数個組み合わせる必要がありません。部品の数が増えると、それらをくっつける箇所が増えるので、ネジやボルト、溶接、接着剤などが必要になり、その分重量が増えます。

大きな部品をつくることができると、くっつける箇所が減るので軽量化できます。そのため軽量化が求められるEVでは、部品点数を減らすために1つひとつの部品を大きくする必要がありました。

複雑な形状の部品は軽量化できるから

部品を大型化すると、今度は形状を複雑にしなければならないという問題が生じます。例えば、1つの大きな部品に三角形の部分と四角形の部分があれば、三角形の加工と四角形の加工が必要になり形状が複雑化して加工が難しくなります。小さな部品を合体させてよければ、三角形の部品と四角形の部品を別々につくって合体させればよいので、1つひとつの部品の形状は単純になり加工も簡単です。

つまりEV製造では「軽量化するために1つひとつの部品を大型化して部品点数を減らしたいが、そうすると形状が複雑化して加工しにくくなる」という課題を解決する必要があり、そのためにはMPC-3120Hのような高性能金型加工機が必要だったのです。

まとめ~EVでも強いニッポンを

この記事の内容を箇条書きでまとめます。

  • 芝浦機械が高性能かつ大型の金型加工機「門型マシニングセンターMPC-3120H」を開発した
  • MPC-3120Hは5軸制御が可能で、主軸(刃)は最高2万rpmで回転する
  • 加工時間を35%短縮し、よりキレイな加工が可能になった
  • MPC-3120Hが想定する加工品の1つにEV部品用の金型がある
  • EVはバッテリーが重いので、そのほかの部品を軽くする必要がある
  • 部品を軽量化するには、部品を大型化、複雑化する必要があり、MPC-3120Hはそのニーズに応えることができる

日本の自動車メーカーはEV製造で米中メーカーにおくれを取っています。芝浦機械のMPC-3120Hが「EVでも強いニッポン」になることの一助になるはずです。

芝浦機械の会社概要は以下のとおり。データは2023年2月時点のものです。

  • 芝浦機械株式会社
  • 取締役社長、坂元繁友
  • 本社:千代田区内幸町2-2-2 富国生命ビル
  • 会社設立:-創業1938年(昭和13年)12月 -設立1949年(昭和24年)3月
  • 資本金:124億8,400万円
  • 連結年間売上高:1,077億7,700万円(2021年度)
  • 連結従業員数:3,049人
  • 事業内容:射出成形機、ダイカストマシン、押出成形機、工作機械、超精密加工機、微細転写装置、ガラス成形装置、産業用ロボット、電子制御装置、鋳物などの製造・販売