工場売却の手続きでおさえておきたいポイント

執筆者 | 12月 29, 2022 | ブログ

工場売却

今回のトピックは工場売却の手続きについてです。製造業では事業の見直しなどで、工場の売却の検討が必要になる局面があります。一般家屋やマンションとは全く違うノウハウが必要になります。例として、工場の建物をそのまま残すのか、更地にするのか、その選択よっても手続きは異なり、特有のノウハウを要するためどのように判断すべきかが大事になってきます。

  • どんな風に手続きが進むの? 
  • 失敗しないポイントはあるの?

など、おさえておきたいポイントをまとめます。当面は検討の予定はないという方も、いろいろと疑問に思っている方も、ぜひご参考ください。

工場売却の手続き

工場の売却手続きは、ざっとまとめると下記のような流れになります。

  1. 事前調査
  2. 査定依頼
  3. 不動産業者との媒介契約
  4. 売却活動
  5. 条件交渉
  6. 売買契約の締結
  7. 決済・引き渡し

それでは、それぞれのポイントも見ていきましょう。

事前調査・査定依頼

工場の売却が決定した場合、まずは複数の不動産会社に査定依頼を出します。査定では、各社ごとに異なった見積もりが出てくるはずですが、少なくとも4,5社から査定してもらうことは、相場把握のためにも欠かせません。不動産としての工場の価値をはっきりさせ、売買の条件や方法を検討していきます。

不動産業者との媒介契約

実際の売却では、不動産会社と媒介契約を結ぶことで、売却の仲介を依頼することになります。しかし、不動産会社の選定においては査定額は参考にならないことは覚えておきましょう。高い査定を出した不動産会社に仲介依頼しても、その価格で売却できるとは限りません。工場の売却には、マンションなどの売却とは異なるノウハウがあります。したがって、工場をはじめとする事業用不動産の取り扱いが得意で、実績も豊富な不動産会社を選べば安心でしょう。

媒介契約には下記の3種類があります。

・一般媒介契約

複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことができ、買い手を自力で探すことも可能な契約。不動産会社側の視点では、売却できる確約がないため積極的な売却活動は期待できないと考えます。

・専任媒介契約

複数の不動産会社とは媒介契約を結べないという条件を含む契約。自社で買い手を探すこともできるのが特徴です。業務の処理状況を2週間に1回報告する義務があります。買い手が見つかった場合は、確実に不動産会社の利益になるため、積極的な売却活動が期待できる契約です。

・専属専任媒介契約

他の不動産会社と媒介契約を結べない、また自社で買い手を探すこともできない契約内容になります。さらに、業務処理状況を1週間に1回報告する義務があります。確実に不動産会社の利益につながるため、熱心な売却活動が期待できる契約と言えます。いずれの場合も、実情に合った契約方法を選択することが大事です。

売却活動

売却活動が始まると物件に興味を持った方が現地の内覧を希望することも。応対できるよう準備をしておきます。

条件交渉

購入希望者が購入の意向を提示すると、不動産業者を通じて価格等、売買の条件交渉を開始します。条件に合意したら売買契約締結の段階に入っていきます。

売買契約の締結

不動産業者により重要事項説明書が作成されます。売買取引の主要事項について売主および買主に説明が行われ、その内容に問題がなければ売買契約の締結となります。契約締結時には、一般的に買主から売却額の10%程の手付金が支払われます。引き渡し時に残金が支払われます。場合によっては、物件の引き渡しまで期間に中間金を支払いが行われることもあります。

決済・引き渡し

手付金や中間金を除いた残金を受領し、また、登記識別情報通知書や鍵を買主に引き渡します。この際、委任した司法書士により登記手続きが行われます。固定資産税・都市計画税の清算も行います。

不動産の固定資産税・都市計画税は、一月一日時点の所有者に対し、一年間の税額が課されることになります。納税義務者は、1年間固定されていますが、譲渡日を起点に日割り計算をして、買主が所有日数分に相当する額を分担するというのが不動産取引の慣習となっていますので念頭においておきましょう。

工場売却の手続きの注意点は?

解体の必要性

買主が工場や設備をそのまま使用するケースでは、解体は不要です。しかしながら、実際の事例でもそのまま利用できるという買主は稀です。さらに、規模の大きな工場では、更地にすることで分譲宅地や商業施設、医療施設など利用用途がかなり拡大します。

工場のままでは購入希望が出ない場合などは、売却先を広げるために工場の解体を検討していったほうが売却自体有利になることも多いようです。したがって、建物を残すのか解体するのかについては、総合的かつ慎重な検討が必要になります。

土壌の浄化業務

例えば、工場の製造過程で有害物質を使用していた場合には土壌が汚染されている可能性も考えられます。そこで、有害物質を取り扱う事業者には土壌調査が義務付けられているのです。調査結果で土壌汚染が認められる場合、土壌の入れ替えや中和といった万全の対策を実施しなければなりません。

もし土壌浄化をしっかりと行わず、売却後に汚染が発覚してしまった場合には、売主は契約不適合となり全責任が問われ、損害賠償を求められることも避けられません。必ず留意しておきましょう。

売却するには境界確定が必要

敷地境界が確定していないケースでは、適正な価格での売却は実現しません。敷地境界が不安定な土地を相場で購入する人は、ほとんどいないと考えましょう。運良く売却できたとしても、大幅な価格低下は覚悟しなければなりません。売却に際しては、確定測量図の作成は必須であることも認識を持っておきましょう。

既存不適格台帳に登載

長年操業する工場では、後に住宅系の用途地域として指定が行われて用途不適格になっているケースがあります。用途不適格ではあるが、工場として買い取ってもらいたい場合には、地方自治体の建築法規担当部署で既存不適格台帳に登載する方法が有効になります。これにより、買主も作業場や原動機といった設備を適法に使用できることになります。こそして、既存不適格台帳に登載することで、買主側からもエビデンスが確認できるので安心して購入することができるのです。

ここで注意したいのは、売却までの期間に、一時的でも店舗や倉庫、車庫といった別の用途に使用してしまうと、その時点で既存不適格が適法になったと判断されてしまうことです。それ以降は工場としての使用が不可能となりますので、よく覚えておきましょう。

違反状態があれば事前に解消を

建築確認済証を取得しないで増築などしている箇所があれば、事前に解体する方が、売却がスムーズです。なぜなら、違反状態のままで売却をすることで買主に責任が及ぶだけでなく、将来の適正な増築の可能性を消滅させてしまうからです。さらに、買主に対して銀行からの融資が認められないこともありますのでよく留意しておきましょう。

買い手がつきやすい工場の条件は?

それでは、買い手がつきやすい工場とはどんな工場なのでしょうか?代表的なものを挙げてみます。

  • 造りが単純で複雑でない構造の工場
  • 間仕切りが少なく、スペースの活用がしやすい工場
  • 建築基準法に基づいた建築確認検査済証を交付されている工場
  • 現行の建築基準法に適合している工場

買い手の多くは、同業者が売りに出している工場をまず検討し、購入するケースが多いです。つまり、大掛かりな増築を行わなくでも運用できたり、他の活用に転用しやすいなど、利用用途の幅が広い工場ほど買い手が付きやすいことになります。複雑な構造であったり、用途を狭めるレイアウトやスペースの工場は希望に沿わないことが多いというわけです。次に、買い手がつきやすい敷地の条件も見てみましょう。

  • アクセスが良好である
  • 敷地に隣接する道路幅にゆとりがある
  • 駐車スペースが大きい
  • 土壌汚染の懸念が少ない

アクセスのよい工場地帯の物件などは、工場として利用し続ける場合などに買い手がつきやすい傾向にあります。

コスト面の注意

工場の売却にあたっては解体費用、土壌浄化費用、消費税に気をつけなければなりません。解体費用、土壌浄化費用については上記の注意したいポイントに挙げたものになりますが、消費税については意外と盲点になりやすいので覚えておきましょう。一般の人がマイホームを売却した場合には消費税はかかりません。しかし、工場のように事業目的の物件となると売却時に消費税が発生するのです。

消費税は売却益に対して10%かかるので非常に高額となり、コストを考えると無視できない存在です。いざというときに慌てないために、知識としてきちんと押さえておきたいですね。

終わりに

今回は、工場売却の手続きについてまとめました。製造業、工場の売却手続きには、一般住宅とは異なるノウハウや注意点が存在することがお分かりいただけたのではないでしょうか。また、買い手のつきやすい工場や敷地の条件も明確に挙げることができました。

少しでも高く売りたいという思いを誰もがお持ちだと思います。業者選びや、締結する契約内容も大変重要であり、また、事後トラブルを回避するための知識も身に付けておくことがスムーズな売却につながるようです。