工場の火災保険は入るべき?注意点は?

執筆者 | 10月 6, 2022 | 工場運営・安全・労務

工場 火災保険
機械買取

※本記事は2026年9月17日に、実際にあった事例を加筆して更新しました。

大田区のマンション1階で金属加工業を営んでいた方の工場が、火災で工作機械数台ごと全焼したことがあります。

幸い機械には火災保険をかけていたため保険金は下りましたが、マンションの一部にも延焼してしまい、その修繕費用までは機械の保険では賄いきれませんでした。結局、残っていた機械をすべて売却し、その代金を不足分の補填に充てることになりました。

「機械に保険をかけていたから安心」と思っていても、被害が建物や周辺にまで及ぶと、想定していなかった費用が別に発生することがあります。

今回のトピックは工場の保険についてです。工場の保険と言って真っ先に挙げられるのが火災保険。工場の火災、考えたくもないですが、万一火災が起こった場合には一般家屋とは比べ物のない規模で被害が発生してしまいます。工場の建物はもちろん、商品在庫や機械、什器など損失が出ます。爆発や延焼といった、工場ならではのリスクも…。

また、近隣への影響や売上高の減少など、間接的な被害が出ることも。あらゆる可能性を考え、また万一のために備えて対策をとっておくことは工場を運営していく立場として非常に重要なことと言えます。本記事では、製造業および工場の保険について、特徴や押さえておきたいポイントをまとめていきたいと思います。

火災保険でカバーできるのは?

事業用の火災保険の補償内容について見てみましょう。当然ながら、一般家庭用の保険とはガラリと内容が異なっています。ざっと区分すると3つの補償内容が挙げられます。

1.火災保険

製造業では、機械や特殊な薬品を扱ったりと、事故が比較的起こりやすいといえます。事故により火災が発生するリスクも常に考えておかなければなりません。焼失による損害には、「火災保険」が対応します。火災による焼失が考えられるのは、機械や什器、在庫していた商品、材料や書類、ロッカーや従業員の制服まで。工場内のありとあらゆるものが燃えてなくなってしまうことを考えなければなりません。もちろん建物自体もかなりダメージを受けることになり、大幅な修繕や建て直しが必要になるでしょう。

また、大規模な工場になると、工場外の車両や付近の人といった、外部の第三者を巻き込んでしまう可能性も否定できません。こういった損害をカバーするのが火災保険。焼失した商品の額や、什器の購入費、材料であれば仕入れ額が算出され支払われます。留意点は、保険加入の際に「新価」で金額を設定すべきという点です。焼失したものと同等のものを“新たに購入する”前提での金額が保険で支払われます。「時価」で設定してしまうと、損害発生時の価値で算出されるため、経年劣化や消耗分が差し引かれ減額となります。それでは、同等のものを買い直すことはできないため、注意が必要なのです。

さらに気をつけたいのが、自分の設備・在庫だけでなく、建物そのものが被害を受けた場合の扱いです。自社所有の建物であれば建物分も含めて保険を設定できますが、賃貸物件やテナントとして工場を借りている場合、建物本体の保険は大家・オーナー側が加入しているケースがほとんどです。借主側が加入する火災保険は、あくまで自分の設備・什器・在庫を対象にしたものであり、建物の修繕費用まではカバーされません。延焼などで建物側にも損害を与えてしまった場合、別途賠償責任の問題が発生することがあるため、賃貸で工場を借りている経営者ほど、この境界線を正確に把握しておく必要があります。

もう一点、覚えておきたいのが、そのカバー範囲。火災はもちろん、落雷や爆発、風災や雪災や物体の落下、床上浸水など。工場や、その運営にダメージを与えるさまざまなケースをカバーしてくれるのが火災保険です。ぜひ念頭に置いておいてください。

2.休業損害補償

営業できない期間の売上減少の補填は、「休業損害補償」がカバーします。火災が発生した時点で、その規模に関わらず休業は避けて通れません。片付けや取引先・ご近所への対応、工場の修繕や設備の再購入など、営業を再開するまでには予想以上に期間が必要になるかとお思います。この期間、当然ながら売り上げは立ちませんので、資金繰りが圧迫されることになります。人件費や材料調達、家賃といったコストは引き続きかかってしまうため、火災により廃業にいたってしまうケースも珍しくはないのです。

そんな局面にも備えられるのが「休業損害補償」。営業できない期間も、もたらされるはずだった利益分を補償してくれます。この際は、決済書類に基づいて利益率などから実績が算出されることが多いようです。休業期間が長引くほど補償額も大きくなりますが、それでも取引先からの信頼低下や、離れてしまった顧客が戻ってこないといった、お金では取り戻せない損失が生じることも珍しくありません。

3.休業日数短縮費用補償

少しでも早い再開を考えて、仮設の工場で営業を始めるというケースもあると思います。その際に賃料などをカバーしてくれるのが「休業日数短縮費用補償」。仮の工場を借りる場合にかかる費用(賃料や突貫工事のコスト)のほか、移転の案内文書の作成など出費に対して補償があります。この補償の前提として、企業努力より休業日数を短縮できたことに対し、そのコストをカバーするという考え方に基づいています。一刻も早く営業再開したい工場主にとって、非常に頼りになってくれる保険です。ぜひ覚えておきたいですね。取引先との関係を維持するためにも、仮設拠点での早期再開が有効な場面は多く、この補償の有無が実質的な事業継続力を左右することもあります。

保険の支払い額はどのくらい?

代表的な損害保険会社の保険金支払い事例を確認してみると、おおよそ下記のようになります。

[金属機械器具製造業の事例]

照明器具より出火し、工場を全焼(休業日数31日間)

合計額/5,110万円(財物保険4,330万円/休業保険780万円)

[電気機械器具製造業の事例]

検査機械から出火し、機械関連が全焼(休業日数94日間)

合計額/5,110万円(財物保険3,180万円/休業保険1,930万円)

[食料品製造業の事例]

菓子仕上げ乾燥機から出火し、設備を焼失(休業日数2日間)

合計額/530万円(財物保険440万円/休業保険90万円)

[印刷業の事例]

紙製品製造装置より出火、設備を焼失(休業日数2日間)

合計額/340万円(財物保険160万円/休業保険180万円)

ざっと事例を見ただけでも、火災の規模と休業日数に比例して保険額が大きくなっていることがわかります。その工場の設備や状況によりかなり変動的な領域になるため一概に相場に見当をつけることはできなさそうにも思います。しかしながら、工場は、高額な機械や設備を備えていることが多いので財物の損害が大きくなるケースが大半ということ、休業日数がどんなに短くとも経済的なダメージは計り知れないということが言えるのではないでしょうか。

これらの事例からもわかるとおり、財物保険の支払額は工場が保有する機械・設備の評価額に大きく左右されます。裏を返せば、保有機械の時価をきちんと把握していないと、必要な補償額を見誤ってしまうということでもあります。定期的に自社の設備を棚卸しし、現在の価値を把握しておくことは、保険の見直しをするうえでも役立ちます。

火災以外のケースについて

保険のカバー範囲についてまとめた流れで少し触れましたが、火災保険で補償される被害は、実は火災以外にも多様にあります。意外と知られていないものもありますので、ぜひ押さえておきましょう。

■風災・雹災・雪災

暴風雨に豪雪。異常気象が続き、自然災害が増えている昨今、決して無視できない災害と言えると思います。屋根が破損し雨漏りが起こった場合や、暴風で窓ガラスが割れるなど、「空」からの災害がこの項目に当てはまります。水災と近しいケースも考えられますが、「空から」なのか「地上から」なのかで災害が区分されることを覚えておきましょう。台風で屋根が飛ばされ、雨水が機械にかかって故障してしまった、というケースも実際に起こり得ます。屋根や外壁の老朽化が進んでいる工場ほど、風災・雹災・雪災のリスクは高まるため、定期的な建物点検も保険と合わせて考えておきたいところです。

■水災

洪水や土砂崩れなど、水が原因となり発生する災害を指します。※地面から発生した災害がここでいう「水災」に当てはまり、暴風雨は風災に区分されます。水災の補填には、ぜひ確認しておきたい留意点があります。それは、多くの保険にデフォルトで設定されている「浸水条件」。

  1. 損害割合が30%以上
  2. 浸水が地盤面より45cmを超える

この2つの条件、いずれかを満たしていないと保険金を受け取ることはできません。

条件1の損害割引とは建物の評価額に対し、修理費用など損害補填に関わるコストがどれほどの割合なのか数値化したもの。条件2の45cmを超える浸水というのは、辺り一面が丸ごと水浸しになっているような非常にきびしい状態が当てはまります。つまり、この浸水条件がセットされている保険の場合、災害状況がかなりひどい状況でないと保険金は受け取れないのです。浸水条件が付随されていることを気づかず、加入してしまうケースも珍しくないようなのでぜひ、保険加入の際は気にしておきたいものです。近年はゲリラ豪雨や線状降水帯による浸水被害が各地で報告されており、内陸部や高台にある工場でも「うちは大丈夫」と油断せず、水災補償の条件を確認しておくことをおすすめします。

■人災(盗難・衝突事故)

車両が工場建物に突っ込んだ場合や、盗難などの人災もカバーされます。工具や金属材料は盗難の標的になりやすく、実際に夜間の工場荒らしで機械の部品や在庫の金属を持ち去られる被害も報告されています。防犯カメラの設置とあわせて、保険での備えも検討しておきたいところです。

■破損・汚損など

工場内で偶発的に起こった破損や汚損に保険が適用されます。フォークリフトの操作ミスで機械や壁を傷つけてしまった、といった日常的なヒヤリハットが積み重なるケースも対象になり得るため、意外と使う場面の多い補償です。

■水漏れ

水道管など、自然災害以外での設備故障が原因の損害を補填します。

地震の災害は?

火災以外でも、さまざまな災害が火災保険でカバーできると分かりましたが、地震となると別立てで考えておかなければなりません。地震で発生した火災の場合は、火災であっても火災保険の対象外となるので特に注意が必要です。また、国が運営する一般的な地震保険では工場の設備などは補償対象とならないので、これも留意しておきましょう。地震保険の補償対象は居住用の建物や生活用の物件に限られているのです。「地震大国」と呼ばれる日本において、この点を誤解している経営者は意外に多く、実際に被災してから初めて「地震保険では工場が守られない」と知って愕然とするケースも報告されています。

それでは、工場が地震に備えるにはどうしたらいいのでしょう。そこで頼れるのは、事業用の地震補償です。地震関係の災害で損害が発生した場合にカバーできる特約が火災保険にあります。地震のリスクが高いとされる我が国、あらかじめ対策をとっておくことは大切です。ぜひ地震関連の特約についても検討しましょう。

保険加入時に確認しておきたいチェックリスト

工場の火災保険に加入・見直しをする際は、次のポイントを確認しておくとトラブルを防げます。

  • 建物・機械・在庫・什器のうち、どこまでが補償対象になっているか
  • 「新価」で設定されているか、「時価」になっていないか
  • 賃貸物件の場合、建物本体の保険は誰が加入しているか
  • 延焼など第三者への賠償に対応する特約(賃貸の場合は借家人賠償責任特約)が付いているか
  • 水災の「浸水条件」など、支払い条件に見落としがないか
  • 地震による損害・地震による火災は補償対象外である点を理解しているか
  • 機械の入れ替え・増設のたびに、保険金額の見直しをしているか

特に最後の「保険金額の見直し」は忘れられがちです。新しい機械を導入したのに、保険金額を古いままにしていると、いざというときに十分な補償が受けられません。設備投資をしたタイミングで、保険の内容もあわせて見直す習慣をつけておきましょう。逆に、老朽化した機械を廃棄・売却したのに保険金額をそのままにしていると、必要以上の保険料を払い続けることにもなります。定期的な見直しは、いざというときの備えであると同時に、コスト管理の面でも意味があります。

【実際にあった事例】機械の保険金だけでは足りず、売却で補填したケース

冒頭でご紹介した事例を詳しくお伝えします。

大田区のマンションの1階部分で金属加工業を営んでいた方から、火災後の機械処分についてご相談をいただきました。配線か照明器具のトラブルが原因とみられる火災で、工場内の工作機械数台が全焼。幸い機械には火災保険をかけていたため、機械の損害分については保険金が支払われました。

ところが今回の火災は、マンションの共用部や他の部屋にまで燃え広がってしまいました。建物の修繕費用は、機械にかけていた保険の対象外です。大家さんや管理組合との間で原状回復・賠償についての話し合いが必要になり、想定を超える費用負担が発生することになりました。

最終的に、全焼して動かなくなった機械も含めて当社で買取・処分をさせていただき、その代金を賠償費用の一部に充てる形で解決に向かいました。焼けて動かない機械であっても、部品としての価値やスクラップとしての価値がつくことがあります。今回は金属加工用の機械が中心だったこともあり、フレームや駆動部分に使われている金属素材そのものにも一定の値段をつけることができました。

機械の保険はあくまで機械の損害をカバーするものであり、建物や近隣への賠償までは別の話です。特に賃貸物件で工場を営んでいる場合、自分の設備だけでなく、建物や周辺への影響までを見越した保険設計が欠かせません。

よくある質問

Q. 火災で焼けた機械は売却できますか?

損傷の程度によりますが、部品どりや金属スクラップとしての需要があれば買取できることがあります。全焼して稼働はできなくても、保険金だけでは足りない費用の補填として、まずは査定を受けてみることをおすすめします。保険金の請求と並行して査定を進めておくと、資金繰りの見通しも立てやすくなります。

Q. 賃貸工場で火事を起こした場合、必ず賠償しなければなりませんか?

失火の状況や契約内容によって異なります。日本には「失火責任法」という法律があり、重大な過失がない限り、失火者が不法行為責任(損害賠償責任)を負わないケースもあります。ただし、これはあくまで法律上の損害賠償責任の話です。賃貸借契約を結んでいる以上、借主には契約上の「原状回復義務」があり、これは失火責任法とは別の話(債務不履行責任)として、重過失の有無にかかわらず基本的に発生します。つまり「重大な過失がなかったから何も負担しなくてよい」というわけではなく、借りていた工場を元の状態に戻す責任は別途ついて回るということです。

だからこそ、賃貸物件で工場を営んでいる場合は「借家人賠償責任特約」への加入がほぼ必須といえます。この特約は、借主が負う原状回復義務・貸主への損害賠償を補償するもので、火災保険とセットで契約できることが多いです。今回ご紹介した大田区の事例のように、法律上の賠償責任の有無にかかわらず、大家さんや近隣との関係を考えて、できる範囲で誠実に対応する経営者も少なくありません。この特約に入っていなかったばかりに、機械の売却代金まで充てて対応せざるを得なかったケースもあるため、賃貸で工場を借りている経営者は、必ず加入状況を確認しておいてください。

Q. 火災保険と休業損害補償は別々に加入する必要がありますか?

保険会社や商品によって異なりますが、火災保険の特約として休業損害補償を付帯できる場合と、別の保険として契約する場合があります。工場の場合は休業による損失が大きくなりやすいため、単体の火災保険だけで満足せず、休業補償の有無・内容も含めて保険会社に確認することをおすすめします。複数の保険会社から見積もりを取り、補償内容を横並びで比較してみると、自社に必要な補償が見えてきやすくなります。

工場の保険についてのまとめ

今回は、工場の保険ついて、主に火災保険の特徴や注意したいポイントをまとめてきました。考えたくはないけれど、工場主として絶対に想定しておかなければならないもしもの災害。火災などによる直接的な損害はもちろんのこと、休業損害など、工場の資金繰りにダメージを与えるケースをしっかりと想定し備えておきたいものです。

一般家屋と性質的に異なる点も多いので、事業用の火災保険の内容や条件、特約など総合的に検討や確認をしておくことがとても大事です。年々、大きな災害が増えている状況の中、会社や働く従業員を守っていくためにも「もしも」に備える保険はダメージを最小限にとどめてくれる方法です。きちんとプランを立てて対応していきたいですね。

もし火災や災害で機械が損傷してしまった場合でも、それで終わりとは限りません。動かなくなった機械にも、部品どりや金属資源としての値段がつくことがあります。保険金だけでは費用を賄いきれない場面で、機械の売却が選択肢の一つになることもあるため、「壊れてしまったから査定は無理だろう」と決めつけずに、まずは相談してみることをおすすめします。

保険の選び方という点では機械保険とは?もあわせて確認しておくと、万一の際の備えがより万全になります。保守契約による備え方は工作機械の保守契約は必要か?でも解説しています。

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