該非判定書とは武器利用されない証明書

執筆者 | 9月 17, 2022 | ブログ

該否判定書

該非(がいひ)とは、該当するか非該当か、という意味です。聞き慣れないこの言葉が使われるのは、ほぼ「該非判定」のときだけです。該非判定は、国の輸出規制のルールの1つであり、輸出しようとするモノが海外で武器に転用されないかどうかを判定することです。

「武器転用」と聞くと遠い国のことのように感じるかもしれませんが、日本の中小企業の工場の片隅で使われずに眠っている機械も、海外に売却するときは、該非判定に関わる可能性があります。ものづくり企業の経営者や工場長が「この機械を売って資金をつくろう」と思ったとき、該非判定や該非判定書の知識を持っておいたほうがよいでしょう。

工場で普通に使っているものが海外で武器になる?

自社で使わなくなった中古機械は、国内で引き取り手がなくても、海外に目を向けると高値で売れることもあります。しかし次のような機械は例え中古でも国の輸出規制の対象になる可能性があります。

■国の輸出規制の対象になる可能性がある機械の一部(中古でも同様)

  • 数値制御を行うことができる工作機械
  • 測定装置
  • 電圧または電流の変動が少ない直流の電源装置
  • 遠心分離機
  • 歯車製造用の工作機械
  • 金属の加工用の装置

「うちにもある機械」ばかりだと思います。これらの機械を輸出するときは、例えそれが中古であっても、該非判定を行い「武器転用の可能性なし」と証明する必要があります。それで該非判定に関する知識は、中古機械の売却を検討しているすべてのものづくり企業が持っておいたほうがよい、といえるわけです。

国の安全保障貿易管理について

中古機械の国の輸出規制は「安全保障貿易管理」といいます。この業務は経済産業省が担当し、根拠法は外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)や輸出貿易管理令(以下、輸出令)です(*1)。該非判定は、この安全保障貿易管理のなかの手続きの1つになります。

*1:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/gaiyou.html

リスト規制

安全保障貿易管理は、軍事転用が可能な貨物(機械を含む)や技術が、日本や国際社会の安全性を脅かす国家やテロリストの手に渡ることを防ぐ取り組みです。輸出規制は、リスト規制という方法で行っています(*2)。

リスト規制では、国が規制対象になる貨物や技術のリストを示し「これらを輸出するときは経済産業大臣の許可を受けるように」としています。リストは、先進国などでつくる国際的な枠組み「国際輸出管理レジーム」をベースにしてつくられ、具体的には「外為法の別表」と「輸出令の別表第1」がリストの内容になります。先ほど「中小企業の工場が普通に使っているものが海外で武器になる?」の章で紹介した機械などがリスト規制の対象機械であり、そのほかにもウラン、プルトニウム、ロケット、集積回路などがあります(*3)。

*2:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo02.html

*3:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403M50000400049

該非判定とは、リストに載っている機械(貨物)に該当するか非該当か判定すること

リスト規制こそ、該非判定です。つまり該非判定とは、リストに載っている機械(貨物)に該当するか非該当かを判定することをいいます。したがって、海外に売却するために輸出する機械が完全に非該当(リストの対象外の機械)であれば問題ないのですが、該当の疑いがあると(リストの対象の機械かもしれないと)特殊な手続きが必要になります。そのとき該非判定書が必要になります。

該非判定書は何に使うのか、誰が作成するのか

リスト(「外為法の別表」と「輸出令の別表第1」)の対象貨物は詳細に規定され、例えば工作機械は次のように書かれてあります。

■輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令の第5条(工作機械の部分の一部を抜粋、*4)

工作機械(金属、セラミック又は複合材料を加工することができるものに限る。)であって、電子制御装置を取り付けることができるもののうち、次のイからホまでのいずれかに該当するもの(ヘに該当するもの及び光学仕上げ工作機械を除く。)

イ 旋削をすることができる工作機械であって、輪郭制御をすることができる軸数が二以上のもののうち、次のいずれかに該当するもの((三)に該当するものを除く。)

(一) 移動量が一メートル未満の直線軸のうち、いずれか一軸以上の一方向位置決めの繰返し性が〇・〇〇〇九ミリメートル以下のもの

(二) 移動量が一メートル以上の直線軸のうち、いずれか一軸以上の一方向位置決めの繰返し性が〇・〇〇一一ミリメートル以下のもの

(三) 棒材作業用の旋盤のうち、スピンドル貫通穴から材料を差し込み加工するものであって、次の1及び2に該当するもの

1 加工できる材料の最大直径が四二ミリメートル以下のもの

2 チャックを取り付けることができないもの (以下、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘと続くが省略)

*4:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403M50000400049

これだけ詳細に書かれてあると、企業が中古機械を海外に売却したいと思ってもすぐにリスト規制に該当するのかどうか判断できないと思います。そのため、中古機械を輸出するときは、該非判定書を作成して「該当しない」ことを証明することになります。

該非判定書で「問題ない」と主張して輸出手続きに入る

リスト規制に該当する中古機械は、経済産業大臣の許可を得ないと輸出することはできません。その手続きはとても煩雑なので、それを回避するために該非判定書を作成します。

該非判定書で「この機械はリスト規制の対象外となり、軍事利用される懸念がないので、経済産業大臣の許可がなくても輸出できる」と宣言することになります。そしてこの書類があれば、中古機械を輸出する手続きに入ることができます。

該非判定書はメーカーに作成してもらう(パラメータシートとは)

該非判定書を作成するのは、通常メーカーです。企業が中古機械を輸出するときは、その中古機械をつくったメーカーに該非判定書の作成を依頼します。メーカーは「パラメータシート」を使って書類を作成します。

パラメータシートは、安全保障貿易情報センター(CISTEC)が発行しているものでチェックシート形式になっています。項目ごとに「該当or非該当」を明記して、最終的に「リスト規制に該当していない」となれば、このパラメータシートが「該当しないことを証明する該非判定書」になります。

該非判定書の例

該非判定書の様式は自由なのですが、経済産業省は次のような例を示しています(*5)。

*5:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/guidance/guidance_2_jirei.pdf

結果を記載した部分を拡大すると、以下のようになっています。

「判定結果」の欄がチェックシート方式になっていて、「非該当」にチェック(黒四角)が入っています。また、なぜ該当しないといえるのかが「判定理由」のところに書かれてあります。

該非判定書と非該当証明書の違い

該非判定書と非該当証明書は漢字が酷似していますが、別のものです。ただ、同じものになることもあります。該非判定書には「リスト規制に該当する」または「リスト規制に非該当」と結果を記します。該非判定書で「リスト規制に該当する」と結論づければ、その対象の中古機械を輸出することはできません。該非判定書で「リスト規制に非該当」と結論づければ、対象の中古機械を輸出できる可能性が高くなります。該非判定以外にもチェックポイントがあるので、それを通過すれば輸出できます。そして「リスト規制に非該当」と結論づけた該非判定書は、非該当証明書になります。

非該当証明書は通関のときや申請のときに使う書類です。つまり該非判定書は「リスト規制に非該当」と結論づけた時点で非該当証明書を兼ねることになります。

該非判定書があれば輸出できるわけではない

「リスト規制に非該当」と結論づけた該非判定書(以下、単に該非判定書)があればすぐに輸出できるのかというと、そうではありません。該非判定書の作成は中古機械の輸出の第1歩にすぎません。

キャッチオール規制

リスト規制を該非判定書でクリアしたら、次はキャッチオール規制をクリアしなければなりません(*5)。リスト規制に該当しない貨物であっても、輸出する人(この場合、中古機械を売却する企業の経営者)が、その貨物が兵器に使われるおそれがあることを知ったら、経済産業大臣の許可が必要になります。これがキャッチオール規制です。そしてキャッチオール規制の懸念がなければ、いよいよ輸出の手続きを進めることができます。

*5:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/anpo03.html

最終的には輸出する人の責任になる

該非判定書はメーカーに作成してもらうことになり、これでリスト規制に該当しないことを証明する書類になりますが、しかしもしこの内容に間違いがあり兵器になるようなものであると認定されてしまったら、その責任は輸出する人、つまり中古機械を海外に売却しようとした企業が負うことになります。

まとめ~「シロ」であることを証明すればよい

該非判定は日本と世界の平和に関係する重要な行政手続きです。これは大袈裟なことではなく、日本のものづくりの現場で何気なく使われている機械はとても優秀で、悪意ある者の手に渡ると軍事転用されてしまうかもしれません。それで国は、機械の輸出に神経をとがらせています。

その一方で、例え動かなくなってしまった機械でも海外では重宝されるので、企業が売却のために輸出すれば資金を得ることができます。該非判定で「シロ」を証明できれば、あとは通常の輸出の手続きだけで済むので、中古機械の海外売却をあきらめる必要はありません。