中古機械の輸出規制

執筆者 | 8月 22, 2022 | 買取・査定・処分

機械 輸出
機械買取

※本記事は2026年9月15日に、2025年5月28日施行の該非判定手続き改正およびロシア・ベラルーシ向け輸出規制の最新情報を反映して更新しました。

ちょうど製造から20年が経っていたマシニングセンタを買い取ったことがあります。

国内では古すぎて需要がなく、海外への輸出を検討したところ、今度は輸出規制の対象になりうる機種であることが分かりました。レーザー測定器で精度を確認した結果、規制対象となる精度基準には達していなかったため、無事に輸出できる機械として買い取ることができました。

古い機械ほど「輸出すれば売れる」と単純に考えがちですが、精度によっては輸出規制の対象になることもあれば、逆に精度が落ちていたことで規制対象から外れることもあります。

工場に長年使っていない機械があったら、経営者や工場長は「売りたい」と思うはずです。不要な機械の売却は、資産を有効活用していることになります。しかし、そこに「買いたい」という人が現れたら注意してください。その購入希望者が海外の人で、その中古機械を輸出しなければならなくなったとき、さまざまな法律が絡んでくるからです。

法律を無視して輸出してしまうと、最悪、逮捕されてしまうこともあります。ただこれは裏を返せば、法律が求める条件をクリアできれば中古機械を輸出できるということになります。法律遵守で輸出の手続きを進めましょう。

逮捕後に不起訴になった事例

2018年に機械輸出に関する衝撃的な出来事がありました。神奈川県の機械メーカーの社長たちが、生物兵器に転用できる機械を中国に不正に輸出したという疑いをかけられ警視庁に、外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)違反容疑で逮捕さました(*1)。厳しい取り調べが行われましたが、疑いが晴れて不起訴になりました。機械メーカーにも社長にも非は一切なかったわけですが、この出来事は次の教訓を残しています。

●捜査当局や輸出関連の行政機関は機械の輸出を相当厳しく見張っている。

この教訓は中古機械を海外に売ろうとしているすべての企業や経営者にとって有益なはずです。「うちは真面目にものづくりをしているだけで、危険な取引などしていない」という会社であっても、輸出した機械の型式や精度によっては、意図せず規制の対象に触れてしまう可能性があります。だからこそ、輸出の可否を自己判断だけで済ませず、必要な手続きを一つずつ踏んでいくことが重要です。

*1:https://www.asahi.com/articles/ASQ4L321CQ47UPQJ005.html

安全保障貿易管理は「うちの工場の機械」も対象にしている

中古機械の輸出が厳しく管理されているのは日本政府に安全保障貿易管理という考え方があるからです。これはとても重要な考え方なので全文を引用します(*2)。

我が国をはじめとする主要国では、武器や軍事転用可能な貨物・技術が、我が国及び国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐため、先進国を中心とした国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)をつくり、国際社会と協調して輸出等の管理を行っています。 我が国においては、この安全保障の観点に立った貿易管理の取組を、外国為替及び外国貿易法に基づき実施しています。

*2:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/gaiyou.html

安全保障、武器や軍事、テロリストなどと聞くと、「うちの工場にある機械とは関係のない話」と感じるかもしれませんがそうではありません。売却しようとしている機械が「輸出貿易管理令・別表第1」や「外国為替令・別表」に該当すれば、安全保障貿易管理の対象になる機械になり、それを輸出するには経済産業大臣の許可が必要になります。

リスト規制の対象か否か

輸出貿易管理令・別表第1や外国為替令・別表には、銃砲、指向性エネルギー兵器、原子炉といったものも記載されていて、さすがにこうしたものを輸出しようとは思わないでしょう(*3、4)。しかしここには次のような機械や技術も記載されています。

  • 輸出貿易管理令・別表第1や外国為替令・別表に記載されている機械や技術(リスト規制の対象の機械や技術
  • 数値制御を行うことができる工作機械
  • 測定装置
  • 電圧又は電流の変動が少ない直流の電源装置
  • 遠心分離機
  • 歯車製造用の工作機械
  • 絞りスピニング加工機
  • 周波数分析器
  • 金属の加工用の装置
  • レーザー光に対する物質の耐久性の試験を行うための装置
  • 炭素繊維を使用した成型品
  • チタン合金
  • セラミック粉末製造の技術

これらの機械や技術を「リスト規制の対象の機械や技術」といいます。社内や工場に普通にある機械などが簡単に安全保障貿易管理の対象になることがわかると思います。経営者は、ものづくりで使う高度な機械は、大抵は輸出規制の対象になる可能性がある、と覚えておいたほうがよいでしょう。

工作機械はなぜ「精度」で規制対象かどうかが決まるのか

「数値制御を行うことができる工作機械」がリスト規制の対象になるかどうかは、機種名だけで一律に決まるわけではありません。実際には、位置決め精度や加工精度が、規制で定められた一定の水準を超えているかどうかで判定されます。精密な加工ができる機械ほど、兵器や関連部品の製造に転用されるリスクが高いと見なされるためです。つまり同じ型式のマシニングセンタでも、新品同様の精度を保っている機械と、経年劣化で精度が落ちている機械とでは、該非判定の結果が変わることがあります。

そのため中古機械の該非判定では、カタログスペック上の精度ではなく、実機を測定した「今の精度」が重要な判断材料になります。長年稼働してきた機械であれば、レーザー測定器などを使った実測を行うことで、規制対象から外れる可能性もあるということです。

*3:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324CO0000000378

*4:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=355CO0000000260

キャッチオール規制

「リスト規制の対象の機械や技術」でなくても、輸出規制の対象になることがあります。それは補完的輸出規制(キャッチオール規制)があるからです。

キャッチオール規制は、「リスト規制の対象の機械や技術」でなくても、輸出しようとする機械や技術が兵器の開発や製造に使われることを、輸出者が知っていた場合、輸出するときに経済産業大臣の許可が要る、というルールです。つまり「普通のなんてことのない」機械でも、キャッチオール規制によって輸出できない機械になる可能性がある、ということです。

キャッチオール規制で特に注意すべきなのは「用途要件」と「需要者要件」です。用途要件は、輸出しようとする貨物が大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれがあるかどうか、需要者要件は、輸出相手(需要者)が大量破壊兵器の開発等に関与しているおそれがあるかどうかを指します。経済産業省は、外国ユーザーリストと呼ばれる、懸念のある海外の団体・組織のリストを公表しており、輸出前にはこのリストと照合することも重要な確認作業のひとつです。

ロシア・ベラルーシ向け輸出は原則禁止(ウクライナ情勢に伴う制裁措置)

該非判定の結果とは別に、輸出先がロシアまたはベラルーシの場合は、さらに厳しい規制がかかっている点にも注意が必要です。日本政府はロシアによるウクライナ侵略を受け、2022年以降、米国・欧州各国と協調して対ロシア制裁を段階的に強化してきました。

その一環として、工作機械は「国際輸出管理レジーム対象品目」として、ロシア・ベラルーシ向けの輸出が原則禁止されています。これは通常の該非判定(リスト規制に該当するかどうか)とは別の枠組みで、機械の精度や型式にかかわらず、輸出先がロシア・ベラルーシであれば輸出できないということです。半導体・通信機器・レーザー溶接機・ロボットなども同様に禁輸対象に含まれており、規制対象は制裁の追加措置のたびに段階的に拡大されています。

つまり、該非判定で「非該当」と判定された機械であっても、輸出先がロシア・ベラルーシであれば話は別です。輸出先の国名を確認することは、精度測定や該非判定と並んで欠かせないチェック項目になっています。制裁措置は改正が頻繁に行われているため、輸出のたびに経済産業省の最新の公表情報を確認することをおすすめします。

中古機械を輸出する方法

(中古)機械の輸出の規制は厳しいのですが、輸出が全面的に禁止されているわけではありません。機械のスペックによっては簡単に輸出できるものもありますし、ルールにしたがって手続きを踏めばよいだけです。

該非判定で非該当になれば輸出できる

輸出できる機械は、該非判定で「リスト規制の対象の機械や技術」ではない=非該当と判定されたものです。該非判定は機械を保有している企業でも行えますが、より確実な方法は機械のメーカーに該非判定書を発行してもらい、非該当である(輸出して大丈夫である)と証明してもらうことです。

ただ経済産業省は「機械の輸出の責任は基本的に輸出者が追う。輸出者は、入手した該非判定書を鵜呑みにしないで自社でも再確認するように」と注意喚起しています(*5)。

*5:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/gaihi__hantei.pdf

2025年5月28日施行:「20年超の工作機械」は該非判定の手続きが変わった

この記事で紹介している該非判定の考え方は、2025年5月28日に施行された外国為替令・輸出貿易管理令の改正によって、一部手続きが変わっています。特に影響が大きいのが、製造から20年を超える工作機械です。

改正前は、メーカー以外の者(輸出者や買取業者など)が自分で位置決め精度などを実測し、その値をもとに「非該当」と判断するケースがありました。改正後は、実測値を根拠に該非判定を行う場合、その数値の妥当性についてメーカーに確認を取ったうえで、所定の届出書(別紙6)をPDFで経済産業省・安全保障貿易審査課に提出し、「届出受理票」の交付を受ける必要があります。この届出を行わない場合は、メーカーが提供する実測値・申告値・カタログ値(仕様書値)のいずれかを根拠に該非判定を行うことになります。

つまり、20年を超える工作機械について「自社で測定したから大丈夫」と判断するのではなく、改正後の手続き(メーカーへの確認+経済産業省への届出)を踏んでいるかどうかが、該非判定の有効性を左右します。冒頭でご紹介したような精度測定による該非判定を行う場合は、この最新の手続きに沿って進める必要があります。

該非判定で「該当」と判定された場合

該非判定または該非判定書で「リスト規制の対象の機械や技術」に「該当する」と判定された機械は原則、輸出できないわけですが、例外があります。該当した場合、経済産業省に対して例外規定が適用されるかどうか判断してもらいます。例外規定が適用され、さらに「キャッチオール規制に該当する懸念なし」と認められれば輸出できます(*6)。

例外はまだあります。以下の2つのケースでも、経済産業省・安全保障貿易審査課に対して個別許可申請をすることができます。許可がおりれば輸出できます(*7)。そして許可がおりなかったら輸出できません。

  • 該非判定で「該当する」→●例外規定を適用→●懸念あり
  • 該非判定で「該当する」→●例外規定を適用しない

*6:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply01.html

*7:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply10.html

中古機械輸出までの流れ

ここまでの説明を踏まえて、輸出までの流れを紹介します。

  1. 該非判定をする
  2. (該当する場合)経済産業省に輸出許可申請を行う→経済産業大臣から許可がおりる
  3. (該当しない場合) 該当しない」と書かれた該非判定書を作成
  4. 輸出できることが確定する
  5. 機械の梱包ならびに輸出関連書類(インボイス)を作成する
  6. 保税上屋で輸出の申告をする
  7. 機械をコンテナに積み、港のヤードに搬入する
  8. コンテナを船に積んで出港

該非判定そのものに法律上決まった期限はありませんが、機械の精度は使用状況によって変化するため、判定から時間が経ちすぎている場合は再測定を求められることがあります。また輸出許可申請が必要になった場合、申請から許可が下りるまでには一定の審査期間がかかるため、輸出のスケジュールには余裕を持たせておくことが大切です。

よくある質問

Q. 該非判定は誰が行うのですか?

機械の所有者自身が行うことも制度上は可能ですが、専門知識が必要になるため、機械メーカーに該非判定書の発行を依頼するのが一般的です。メーカーがすでに廃業している、または対応してもらえない場合は、外部の専門機関やコンサルタントに相談する方法もあります。ただし前述の通り、判定書を発行してもらった場合でも、輸出者自身が内容を再確認する責任があります。

Q. 精度測定にはどのくらい費用がかかりますか?

機械の種類や測定項目によって費用は変動します。レーザー測定器を使った位置決め精度の測定は、機械1台あたり数万円〜十数万円程度が目安になることが多いですが、機種や依頼先によって幅があります。輸出予定の機械が高額であれば、測定費用をかけてでも該非判定を明確にしておいたほうが、後のトラブルを避けられます。

Q. 該非判定をせずに輸出してしまったらどうなりますか?

本来許可が必要な機械を無許可で輸出した場合、外為法違反として刑事罰の対象になる可能性があります。「知らなかった」では済まされないため、少しでも高性能・高精度な機械を輸出する際は、面倒でも該非判定の手続きを踏むことをおすすめします。

【実際の輸出事例】20年前製造のマシニングセンタ、精度測定で輸出可能に

冒頭でご紹介した事例を詳しくお伝えします。

買取のご依頼をいただいたのは、ちょうど製造から20年が経過したマシニングセンタでした。国内では年式の古さから買い手がつきにくく、海外への輸出を前提に査定を進めることになりました。ところがマシニングセンタは「数値制御を行うことができる工作機械」としてリスト規制の対象になり得る機種です。そこで輸出前に該非判定を行うことになりました。

該非判定の基準になるのは、機械が持つ実際の加工精度です。そこでレーザー測定器を使って主軸やテーブルの位置決め精度を実測しました。その結果、経年劣化によって、リスト規制の対象となる精度基準を下回っていることが確認できました。つまりこの機械は、規制が想定するレベルの精密加工には対応できない状態だったということです。

この測定結果をもとに「非該当」と判定した該非判定書を作成し、問題なく輸出・買取を進めることができました。

「古い機械だから輸出規制とは無縁」とも、「精密機械だから必ず規制対象になる」とも言い切れません。実際の精度を測定して初めて、輸出できるかどうかが判断できるケースがあります。

輸出前に確認しておきたいチェックリスト

ここまでの内容を踏まえて、中古機械を輸出する前に確認しておきたい項目をまとめました。

  • 機械が「リスト規制の対象の機械や技術」に該当する可能性はないか
  • 該非判定を行ったか、該非判定書は準備できているか
  • 実際の精度をレーザー測定器などで測定したか(カタログスペックだけで判断していないか)
  • キャッチオール規制(用途・需要者要件)に問題はないか
  • 輸出先の国・相手先が禁輸対象や懸念国でないか
  • 輸出手続きを代行する業者が外為法・安全保障貿易管理に詳しいか

中古機械輸出は慎重に

長年使われず工場に眠っている機械でも、企業にとっては重要な資産です。それを売却することは資産を有効に活用したことになります。日本にある機械は、国内より海外でのほうが高く評価されることがあります。そのため海外の人のほうが、中古機械を高く買ってくれるかもしれません。

しかし中古機械の輸出には十分注意してください。業者に輸出手続きを代行してもらうときは、その業者が外為法や安全保障貿易管理、リスト規制について詳しいか確認したほうがよいでしょう。もしその業者が判断を間違ったりミスをしたりしたら、中古機械を売ろうとしている企業が責任を取らなければならなくなることがあるからです。「輸出して本当に大丈夫なのかどうか」「誰が、どこが大丈夫といっているのか」などを確認して、念には念を入れて手続きを進めてください。

特に工作機械や測定装置は、型式だけを見て「規制対象だからあきらめる」「対象外だから大丈夫」と即断せず、実際の精度を測定したうえで判断することが重要です。当社では買取のご相談をいただいた際、輸出を前提とする機械については該非判定や精度測定の要否も含めてご案内しています。「輸出できるかどうかわからない」という段階でも、まずはお気軽にご相談ください。

輸出時に必要となる該非判定書とは武器利用されない証明書、実際に需要が高い機種は海外輸出向けで需要が高い中古工作機械の機種とは?で解説しています。

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