プラスチック感覚で成形するマグネシウム射出成形

執筆者 | 12月 24, 2025 | ブログ

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マグネシウム射出成形機は、本来加工が難しい金属を、まるでプラスチックのように簡単に成形してしまう画期的な機械です。射出成形という技術は、もともとプラスチック加工の分野で発展してきました。その技術を金属であるマグネシウム(Mg)の加工に応用したのが、マグネシウム射出成形です。

本記事では、

  • なぜマグネシウムが注目される金属なのか
  • なぜ射出成形という方法が選ばれたのか
  • マグネシウム射出成形機はどのような仕組みで動いているのか

を順を追って解説します。

マグネシウムはこんなにすごい

金属とプラスチックの特徴を単純化すると、次のように整理できます。

  • 金属:強いが加工しにくい
  • プラスチック:加工しやすいが強度が低い

マグネシウム射出成形は、この両者の「良いとこ取り」を実現する技術です。

材料強度加工性
金属○ 強い× 加工しにくい
プラスチック× 弱い○ 加工しやすい
マグネシウム射出成形○ 強い○ プラスチック並みに加工しやすい

では、なぜ「プラスチックの加工技術」をわざわざ金属に応用する必要があったのでしょうか。その理由は、マグネシウムが非常に優れた特性を持つ金属だからです。

合金にすると優秀だが「純」では欠点だらけ

「マグネシウムは優れた金属」といっても、純マグネシウムは実用に向きません。実際に使われているのは、他の金属を加えたマグネシウム合金です。純マグネシウムには次のような欠点があります。

  • 柔らかくてもろく、すぐに割れる
  • 酸化・腐食しやすく、環境に弱い
  • 非常に燃えやすい

特に危険なのが燃焼性です。切削加工時に発生した削りカスが自然発火し、切削油に引火する事故も起こりえます。さらに、燃焼中のマグネシウムに水をかけると、水が分解されて水素が発生し、かえって燃焼や爆発を助長することもあります。

割と最近の技術:世の中のマグネシウム製品のほぼすべてがマグネシウム合金

現在「マグネシウム製」と呼ばれている製品のほぼすべては、マグネシウム合金です。純マグネシウム製品は、事実上ほとんど存在しません。また、マグネシウム合金が本格的に普及し始めたのは1990年代以降とされており、比較的新しい材料技術であることも特徴です。

欠点を補って余りある長所

マグネシウムは合金化することで欠点を克服し、次のような優れた特性だけを活かすことができます。

  • 非常に軽い
    比重1.7g/cm³で、アルミの約2/3、鉄の約1/4。
  • プラスチックより強い
    軽さはプラスチック並みでありながら、引張強さや剛性ははるかに高い。
  • 高い放熱性
    熱伝導率が高く、電子機器や高温部品に適する。
  • 優れた電磁波シールド性
    電子機器の誤作動防止や安定動作に貢献。
  • 高い振動吸収性
    振動を抑え、製品寿命を延ばす。
  • 寸法安定性が高い
    温度や経年による変形が少ない。
  • リサイクル性に優れる
    再生に必要なエネルギーは新規製造の約4%。

これらの特性が、マグネシウムを「軽くて強い高機能素材」として際立たせています。

代表的なマグネシウム合金

  • AZ系(AZ91、AZ31)
    強度と耐食性に優れ、電子機器筐体や自動車部品に使用。
  • AM系(AM60B、AM50A)
    衝撃に強く、自動車の安全部品に多用。
  • ZK系(ZK60)
    高強度・高剛性で、航空宇宙やスポーツ用品向け。

金属の射出を可能にした「チキソトロピー」

マグネシウム射出成形機の構造は、基本的にプラスチック射出成形機と同じです。しかし、金属を射出できる理由はチキソトロピーという現象にあります。

ドロドロした液体を混ぜるとサラサラになる現象

チキソトロピーとは、「攪拌すると流動性が増し、静置すると再び粘度が高くなる」という性質です。半溶融状態のマグネシウム合金は、固相と液相が混在したドロドロした状態ですが、攪拌によって固相が細かく砕かれ、流動性が高まります。この状態を利用することで、金属でありながら射出が可能になるのです。

マグネシウム射出成形機の構造

スクリュー、ノズル、金型

ペレット状のマグネシウム合金をホッパーから投入し、シリンダー内でスクリューが回転・加熱します。半溶融状態でチキソトロピーを発現させ、サラサラになった材料をノズルから金型へ高速射出します。冷却後、金型を開いて製品を取り出します。

シリンダー内でチキソトロピーを活用

マグネシウム合金を粉末にせずペレット状にするのは、爆発リスクを避けるためです。加熱とスクリュー回転によって固相を砕き、射出可能な状態を作り出します。

プラスチック射出成形機との違い

  • 処理温度が高い(約570℃)
  • 射出速度が非常に速い(約5m/秒)
  • 高い型締め力が必要

これらの理由から、マグネシウム射出成形には専用機が不可欠です。

まとめ:マグネシウム射出成形が切り拓くものづくりの未来

マグネシウム射出成形は、「軽くて強い金属を、プラスチック並みに成形できる」という、従来の常識を覆す技術です。

  • マグネシウム合金の優れた素材特性
  • チキソトロピーを活用した射出成形技術
  • 専用成形機による高速・高精度加工

これらが組み合わさることで、電子機器、自動車、航空宇宙分野など、幅広い産業での軽量化・高性能化が可能になっています。今後、さらなる省エネルギー化や環境対応が求められる中で、マグネシウム射出成形は次世代のものづくりを支える重要な技術として、ますます注目されていくでしょう。

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