あらゆる業種で、今注目されているのがロボット技術の活用。家庭用やAIを搭載したものなど、日進月歩で目まぐるしく展開している領域であり、毎日何らかのニュースを見聞きされているのではないでしょうか。
本記事では、刃物や工具から各種部品の製造まで、生み出すものは異なれど、金属を加工する業種として“金属加工業”を広く捉え、産業用ロボットの活用の現状を調べていきます。産業用ロボットの導入により多くの業界で各社、大幅な生産効率の向上やコストカットを見込んでいるようですが、金属加工業でも同じことが言えるのでしょうか?また、どんな課題が浮かび上がっているのかにも焦点を当て、デメリットや懸念点についても押さえていきたいと思います。
金属加工業で導入されているロボットは?
すでにロボットが導入されている例では、アーク溶接用ロボット、人の作業を代替する双腕ロボットなどがあります。溶接作業はこれまで手作業で行われてきましたが、有害な煙などが発生するため健康を害する要因となることが指摘されていました。また、熟練度により仕上がりにばらつきがあるという現実もあります。ロボットを導入することで、複雑な形状でも溶接が可能になったり、品質の安定が見込めるわけです。
また、工作機械へのワーク投入や搬出は、単純作業のため自動化が理想的ですが、完全自動化のためには一連の作業システムを入れ替えする必要があり、コストもかかります。その点、協業型の産業用ロボットを活用すれば、既存の作業システムの流れの中で、人と入れ替わって作業が可能になるのです。特に、導入しやすいと言われている工程が下記の3つです。
- 鍛造・鋳造工程
- 部品加工工程
- 外観検査工程
ご想像通りでしょうか? 作業環境が劣悪で自動化ニーズが高い鍛造・鋳造工程や、危険な工程の多いプレスや溶接など、必要性の高い工程で積極的に取り入れられていることがわかります。この他でも、今後ますます様々な工程での導入が拡大することでしょう。それでは、製造業でのロボットの導入によるメリットはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
作業環境の改善
産業用ロボットの導入により、人的コストのかかる厳しい環境を改善し、ひいては業務環境、就業スタイルまで大きく改善することにつながります。製造業の中でも金属加工は、鋳造・鍛造やプレス、溶接といった、作業する人に対し、大きな負担がかかる工程が多いのが特徴です。それぞれの工程で産業用ロボットの活用を検討することは、作業環境に対して、直接的に支援や改善ができることになります。
また、厳しい環境の作業では、危険作業も少なくないので、作業員の負傷例も数多く報告されています。ロボットの導入によって特に危険な工程は優先して無人化を行い、リスクを下げることができるのです。そういった背景からメリットを考えると、プログラム通りに作業することのできる産業用ロボットが入ることで生産のばらつきも減り、また24時間毎日稼働することで、生産性の向上にもつながると言えそうです。製造工程での単調作業は作業員の集中力が低下する面も否定できないため、ミスを防ぎ、生産性の低下を防ぐという面でも産業用ロボットが貢献しています。
製造ラインで使われている産業用ロボット
製造ラインで用いられている産業用ロボットについて、JIS規格では以下のように定義されています。
「自動制御によるマニピュレーション機能または移動機能を持ち、各種の作業をプログラムにより実行でき、産業に使用される機械」 (引用元:日本工業規格 JIS B 0134-1998)
マニピュレーション機能とはつまり、「ものをつかむ」ための機能。したがって、産業用ロボットとは、組み込まれたプログラムによって、自由にものをつかんだり運んだりすることのできる機械のことになります。
産業用ロボットの構成を簡単にまとめます。人間で言うと手や腕に当たる「マニピュレーター」、動きを記憶させるための操作盤である「ティーチペンダント」、そしてマニピュレーターをコントロールするための装置である「コントローラー」の3つの要素から構成されています。代表的な産業用ロボットといえば、ロボットアームが挙げられます。製造関係の工場で最も多く見かけるロボットがこちらです。別名で、垂直多関節ロボットとも言います。4軸、5軸、6軸といったたくさんのタイプがあり、軸の数が増えるほど複雑な動きが可能になります。7軸のロボットは、人間の腕に近い動きができる新しい機種になります。このほかにも、スカラロボットや直交ロボット、協働ロボットなど、それぞれの特性を生かして製造の現場で活用が進んでいます。
ここでNC工作機械での使用についても例を挙げておきましょう。目下、NC工作機械の「省人、省力、自動化」 にロボットが貢献しています。その使用事例は幅広く、NC工作機械のワーク・工具の着脱はもちろん、機械本体の内部での活用、ワーク加工補助、金型不要のプレス加工と言ったものがあります。ロボットの活躍範囲は広がっています。
ナサ工業の事例
それでは、国内の製造業のロボット導入事例も見てみましょう。福岡を拠点とする金属加工のナサ工業では、ロボットをいち早く導入し、緻密な生産管理体制を築いています。
ナサ工業の製品は、エレベーター関連から、鉄道関連、システム制御関連、医療機器向け精密板金部品など。非常に幅広い領域で、毎月の製造点数は約1万点を超えています。設計から、材料加工、仕上げまで一気通貫で対応する生産管理があります。さらに、顧客課題にきめ細かく対応するために、カスタマイズでの製品づくりにも注力しています。そんな中、ロボットの導入により安全性と精度の向上を両立させたのが、微細曲げ加工の分野。これは同社の得意分野でもあり、工場では、レーザー切断機やプレス機、ベンディングマシン、溶接機といった設備が稼働しているのです。
2016年から活用しているのがアマダ製自動曲げロボット。金型交換から加工までプログラミングによって完全自動化を実現し、高精度かつ高速の微細曲げ加工が可能になったのです。得意分野がさらに強化され、同社の事業活動、実績に貢献していることは想像に難くないでしょう。同社でロボット導入の契機になったのは、実は医療系免疫分析装置向け部品の受注です。手のひらサイズの部品に対し、7回以上の曲げが必要な非常に複雑な成形が必要でした。毎月180ロット、20種類以上の対応が必要と想定されていたのですが、ロボットの採用により、加工を繰り返しても「精度が変わらない」ことが実証されたのです。このことにより、社内外で高い評価が示されました。
プログラミングこそ、加工の詳細を把握している担当者の手が必要になるものの、操作自体はプログラム内容や加工に詳しくなくても単純操作で可能に。安全性も担保しながら、高精度な加工を実現できたことで上層部も手応えを感じているようです。
ロボット導入の懸念点、デメリットは
ナサ工業の例では、全てをロボット任せにはできないという面も出てきています。人が作業した方が高精度になる工程も実際にはあるため、ロボットと作業者の連携も必要だと判断しているのです。また、実績としてロボットの導入効果が表れるまでは少し時間を要します。たちまち従業員の労働時間がロボットの稼働時間よりも少なくなることはなく、プログラミングにも人的時間的コストが必要になります。
さらに、ロボットに動きを教え込むティーチングに関しても課題の一つといえます。同社ではロボットへの教示作業が比較的簡単な「ダイレクトティーチング」を検討しているようです。教示者の熟練度に影響されやすいティーチング分野でもどのように体制や方策を整えていくかが鍵を握ります。
終わりに
今回の記事は、国内製造業でのロボットの導入についてまとめました。メリットやデメリット、活用事例を挙げて考察を行いましたが、AI時代の到来で、ほかの分野でも言われていることですが、「人がロボットをいかにコントロールするか」が、各々考えつづけなければならない本質的なテーマと言えそうです。
その観点から見ると、ロボットの導入においては、プログラミングやティーチングなどが重要なポイントになってきそうです。製造現場での様々なリスクの回避や、コスト面など、ロボット導入により事業活動へのさまざまな貢献が見込まれます。ロボット活用の効果が各社どのように出てくるか、今後も注視していきたいと思います。