データ共有が新ビジネスを生む!?

執筆者 | 11月 21, 2023 | ブログ

データ

この3年間、製造業は世界的にもさまざまな危機に面してきました。見通しの立ちにくい不安定なビジネス環境の中で、ヨーロッパでデータに基づいた企業間連携の動きがにわかに活発になっているのをご存じでしょうか?特に目立つ動きとして、ドイツを中心とする自動車業界のカテナ-Xの導入が挙げられます。今回は、取り組みの狙いや、他の業態や日本での適用は実際どうなのか、まとめていきたいと思います。

カテナ-Xって何?

カテナ-Xは、自動車産業の競争力強化やCO2削減などを目的に、自動車のバリューチェーン全体でデータを共有するためのアライアンスです。カテナ-Xでは、リサイクルに向けたトレーサビリティ実現や工場ライン稼働の向上・平準化などを、サプライチェーン全体で実現することを目的に、必要な情報を収集し共有するための共通の基盤づくり、及びルールづくりを目指します。

自動車産業においては、特にサステナブルな地球環境への取り組みが急務となっています。年を追うごとに確実に厳しくなっている各国の環境規制への対応も待ったなしの状況。欧米、日本でもEV化をはじめとする事業構造転換など根本的な動きも活発になっていて、環境問題に対する積極的な取り組みなくしては、自動車産業全体の存続自体も怪しくなってしまうという背景があります。

他の業態に適用されるカテナ-Xの成果

自動車業界におけるカテナ-Xの取り組みでは、世界的なOEMやサプライヤーが参加して巨大なデータ交換ネットワークが構築されています。2023年春には、すでに144もの組織が参加、富士通など日本企業も参加組織としてこれに協働しており、オープンなデータ交換に向けた標準化の取り組みを進めています。このようなデータシステムは他の業界にどのように応用されうるのでしょうか?カテナ-Xにおいては、IoTなどの最新の知見が活用され成果を出しています。この成果に目をつけたのが、製造業におけるManufacturing-X。参加組織・企業によって、データを相互交換できる取り組みがスタートしています。

Manufacturing-Xの主な目的は、レジリエンス、持続可能性の追求、そして競争力と言われています。中でもレジリエンスは、対応を要する事態に対して迅速に動けるバリューネットワークの再構築を意味しています。まさに、製造業が現在置かれている状況、近年の動きを鑑みると必要な取り組みだと言えるのではないでしょうか。

なぜデータ共有が必要なのか

データ共有や連携がいかに重要かはお分かりいただけたかと思いますが、なぜ製造業においてデータ共有が必要なのでしょうか?それは製造業のビジネスモデルやオペレーションの改善において、データ活用が鍵を握っているからです。

この観点では、データを活用したソリューションビジネスやプラットフォームビジネスも普及し始めている現状もあり、データがその競争力を作る土台となっているのです。つまり、自社の既存の仕組みを超越していく動きが今、どの企業にも求められる局面になってきています。国内ではトヨタの取り組みや、産業メタバース、スマートシティなど領域を超えたデータ共有が現実のものとなってきています。国内外の競争に打ち勝っていくためには、自社だけのデータではもはや限界があって、異業種や顧客、エンドユーザーをも巻き込んだ仕組みが必要になってきます。そして、業界内、つまり競合他社との連携も欠かせないものとなっています。

今後の状況を鑑みると、サプライチェーン企業やデータ提供企業の取り合いが頻発することは避けられないようです。物理的な供給や調達の取引関係をベースに現状のサプライチェーンは形成されていますが、異業種も含めたデータ連携が実現すると、それぞれのノウハウが集約され、競争力が強化されていくことも考えられます。ドイツでの動きはそのようなサプライチェーンの“未来の姿”の第一歩を踏み出したと言えそうです。

日本の製造業で起こること

欧州などの完成品メーカーでは、サプライヤーに対してデータ共有の仕組み整備を取引条件としていく可能性も否定できません。こうした状況の中で、日本企業のサプライチェーンは、アジア圏をはじめとして海外にも広がっているものの、もしもデータ共有の仕組み自体を日本が整備できていないとサプライチェーンから取り残されるリスクもあり得ることになります。

ドイツでも、多くの中小企業は自社データを他社と共有することには消極的であり、また、エンジニアや資本力などのリソースの限界もあることから、デジタル化は大手のように進んでいなかった状況にありました。カテナ-Xでは、積極的に中小企業向けの参加を働きかけています。日本のメーカーも、同様に外部とのデータ共有に抵抗がある企業が少なくないと思います。しかし、日本の既存ビジネスの方法にそぐわないからといって、カテナ-Xのような動きを選択肢から外し続けるのは、新しいビジネスの可能性を切り捨てることに等しいと言えます。

終わりに

今回の記事は、ドイツでのカテナ-Xでの動きを中心に企業間連携についてまとめました。自動車業界において、データ共有を通じたサプライチェーンの効率化や新しいビジネスの創出、そして環境問題の解消などを目指すカテナ-Xの例から、製造業の抱える問題にどう対応できるのか、また、サプライチェーン対策を超える付加価値を生めるかどうか。その成果については今後の動向を注視していきたいと思います。