ワンオフパーツづくりは金属加工会社の副業?

執筆者 | 4月 4, 2023 | ブログ

バイク カスタム

自動車やバイクのカスタムを楽しむ人たちにとって「ワンオフパーツ」は憧れの逸品のはず。世界で1つだけの特注品であるワンオフパーツを装着することで、世界に1台しかない自分だけの自動車・バイクが完成するからです。ワンオフパーツには金属製もあり、これをつくることは金属加工会社にとってビジネスチャンスになるかもしれません。また、本業にすることは難しくても「副業」くらいにはなるかもしれません。

なぜビジネスになりうるのでしょうか。それは金属のワンオフパーツをつくってもらいたい人が一定数いるのに、それをつくってくれる金属加工会社が多くないからです。そして趣味に関係する製品は単価が高額になる傾向があるからです。

そもそもカスタムとは

自動車とバイクのカスタムは、改造と訳されることもありますが、「改造」と聞くとどうしても暴走族や違法改造を連想させてしまうかもしれません。しかし改造のなかには合法的なものや、車検に対応したものもあり、むしろこちらのほうが主流です。本稿では法的にも社会的にも倫理的にも問題がない改造のことをカスタムと呼びます。

人はなぜカスタムするのか

自動車やバイクのカスタムに興味がない人や、そもそも自動車やバイク自体に興味がない人は、お金をかけてカスタムする理由がわからないと思います。外車のカスタムになると「千万円」になることもあります。カスタムするメリットは大きく、1)性能がアップすることと、2)格好よくなることの2つです。よりよくしたい、という強い想いが一部の人をカスタムに走らせるのです。

カスタム市場はかなり期待できる

では、カスタム用のワンオフパーツ製造は、本当に金属加工会社の「副業」になるのでしょうか。もちろんビジネスなので「必ず成功する」とはいえませんが、期待できる市場であることは間違いないでしょう。

20兆円市場の一角を占める魅力ある領域

なぜ期待できるのかというと、日本の自動車アフターマーケットの市場規模が20兆円もあるからです(*1)。自動車アフターマーケットとは新車以外の自動車関連ビジネスのことであり、この20兆円は1)中古車事業、2)自動車賃貸事業、3)自動車部品・用品事業、4)自動車整備事業、5)その他、の合算になります。カスタム用パーツは3)自動車部品・用品事業に含まれます。ニッチ・ビジネスにはなりますが、巨大市場の一角を占めていることは間違いありません。

*1:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3061

カスタムを手がける企業もある

カスタムを請け負う会社もあります。個人が自分の自動車・バイクをカスタム会社に持ち込み、カスタムしてもらうわけです。そのためワンオフパーツ製造は、カスタムをする個人からだけではなく、カスタム会社からも受注できます。

どのようなワンオフパーツがあるのか

ワンオフパーツは、見た目は特殊なものではありません。例えば自動車は約3万点の部品で構成されていますが、ワンオフパーツの外観はそれらと酷似しています。

通常のパーツを少し変えたもの

ただ、自動車やバイクにカスタムを施すと、どうしても既成の部品(パーツ)ではつくれない部分が出てきます。そのようなとき、既成パーツと似ているものの、少しだけ形状が異なるパーツを1個だけつくる必要があります。それがワンオフパーツです。

例えば、バイクに「ステップ」という、ライダーの足を乗せる棒状の金属パーツがあります。なぜ「足乗せ台」にすぎないステップを変更するのかというと、ステップの位置を高く、かつ後方にずらすと、バイクを操作しやすくなるからです。ステップにカスタムを施すには、別途、棒状の金属パーツをつくる必要があり、こうしたものがワンオフパーツになるわけです。

カスタムパーツは高額になりやすい

バイクのカスタムパーツを専門につくっている株式会社デイトナ(本社・静岡県森町)も、ステップをつくっています。デイトナはワンオフパーツではなく、汎用タイプのカスタムパーツ・メーカーです。バイクには両足用の計2本のステップがあるのですが、デイトナ製のステップ2本組み1セットは税込16,500円です(*2、3)。この商品は、ステップ本体になる20センチほどの金属棒、ステップとバイク本体を合体させるホルダー、ピンやボトルなどで構成されています。

ステップ本体はアルミ製で、アルマイト仕上げという処理を施していますが、しかしバイクを知らない人がみたら「金属棒2本と付属部品で2万円弱もするのか」と感じるはずです。しかしライダーたちには十分、その金額の価値がある製品なのです。汎用タイプのカスタムパーツですら「これだけの金額」になるので、ワンオフパーツになると発注者の細かい要望を聞く分、さらに高額になることが期待できます。

*2:https://www.daytona.co.jp/products/single-60620-genre-B24923

*3:https://www.daytona.co.jp/dl-product-2139-m

すでにワンオフパーツづくりを手がけている金属加工会社がある

すでにワンオフパーツづくりを手がけている金属加工会社もあります。

半導体装置部品をつくりながらワンオフパーツも

山梨県笛吹市のD社は1951年創業、資本金1,000万円、従業員75人の中小の金属加工会社です。得意とするのは、精密機械加工部品、半導体製造装置部品、産業機器設備です。このD社が公式サイトで「バイク・自動車のためのワンオフパーツも製作します。『お客様ブランド』のオリジナルパーツも1品より製作を承ります」とPRしています(*4、5)。

D社がつくることができるバイク・自動車ワンオフパーツは、ステンレス、鉄、真鍮、アルミ、銅、チタンの金属を切削加工したもの。ワンオフパーツをつくるためにD社は、5軸マシニングセンター、マシニングセンター、CNC複合自動旋盤、NC旋盤、汎用フライス、精密平面研磨機、レーザー彫刻機を駆使します。さらに、ワンオフパーツの設計も受けていて3D-CADを使います。D社はワンオフパーツづくりを「一品加工」と名づけて、事業の1つにしているほどです。

*4:https://www.dobashi.co.jp/company/outline.html

*5:https://www.dobashi.co.jp/works/ippin.html

「エンジンの筒」を加工する

次の紹介する会社はバイク部品をメインに取り扱っているので、「金属加工会社が副業としてワンオフパーツ製造を手がける」形態ではないのですが、「特殊な技術を有していると単価が高い仕事になる」という事例として紹介します。埼玉県川越市のI社は「内燃機屋」を自称する、バイク用エンジンの加工を得意にする会社です(*6)。バイクカスタム業界では知らない人がないほど有名な会社で、2009年には水素エンジンをつくってしまいました(*7)。あのトヨタですら、水素エンジンづくりに本格的に着手したのは2020年ごろです。

そしてI社は、古いバイクのエンジン部品の改修を手がけています。バイクも自動車も、製造中止から10年くらい経過すると、メーカーが部品をつくらなくなります。重要部品が欠品すると、普通の方法では修理できなくなります。I社が得意とするのはエンジンのシリンダーの改修です。シリンダーは筒状になっていて、このなかでピストンが動いて車体を前進させます。長年エンジンを使っているとピストンがシリンダーを傷つけてしまって交換が必要になりますが、古いバイクはもう新品の部品がありません。

そこでI社は、古いバイクのシリンダーを削って傷を取り除く加工を請け負っています。シリンダーの筒の内側を削る加工の代金は12万円です(*8)。

*6:https://www.ibg.co.jp/corp/index.html

*7:https://young-machine.com/brand/2022/01/24/286844/

*8:https://www.ibg.co.jp/product/index.html

ワンオフパーツ事業に進出するうえでの課題

ワンオフパーツ製造はビジネスとしての魅力はあるものの、これまで自動車部品もバイク部品もつくったことがない金属加工会社がこれから取り組むには課題もあります。

安全性の課題

自動車とバイクのパーツは安全性に関わるものが少なくありません。先ほど紹介したバイクのステップ(足乗せ金属棒)がもし走行中に折れたら、転倒して最悪の事態を招くかもしれません。走る、止まる、曲がるに関わる部品が壊れても大事故につながる可能性があります。そのため自動車・バイクのワンオフパーツをつくるには、最低でも、安全を確保するという大きな課題をクリアしなければなりません。そのためには走行テストや耐久テストといった作業が必要になるでしょう。

「わがまま」に応えることの難しさ

ワンオフパーツの発注者は「わがまま」である可能性があります。カスタムパーツには汎用タイプがあるのに、「それでは駄目なんだ」という人や企業がワンオフパーツを求めているからです。デザイン、精度、強度などで高レベルの製品が求められ、金属加工会社はそれに応えなければなりません。

大きなビジネスになりにくい

ワンオフパーツはその名のとおり1個しかつくらないので、コストダウンしにくい仕事です。その分、単価を高く設定することができますが、売上のボリュームは期待できないでしょう。また、ワンオフパーツの発注者が、連続して発注することは稀(まれ)です。金属加工会社がワンオフパーツ製造を事業の柱にすることは容易ではなく、それだけに「副業」から始めるのがよいと考えます。

まとめ~金属加工会社にしかできないこと

この記事の内容を箇条書きでまとめます。

  • 自動車とバイクのカスタム・ビジネスのなかに、超ニッチなワンオフパーツ製造という領域がある
  • ワンオフパーツは趣味的製品なので単価を高く設定できる
  • すでにワンオフパーツ製造はビジネスになっている
  • ワンオフパーツ事業への進出には安全性の確保などの課題がある

金属を加工してもらいたい、というニーズは案外社会に潜んでいます。金属加工は金属加工会社でしかできないので、一度ニッチなニーズを掘り当てると事業化できるかもしれません。挑戦する価値はありそうです。