モノづくり企業にとって工作機械は右腕といえる存在のはず。腕のよい職人がいても工作機械に狂いが生じたら、これまでの精度を出すことはできないでしょう。今回は、工作機械の修理を専門にしている業者4社のサービス内容を紹介しながら、工作機械がどのように直されていくのか見ていきます。
「機械大好き出張修理人集団」のケーエスアイ(東京都江戸川区)
1985年設立の株式会社ケーエスアイは、東京都江戸川区に本社を置き、埼玉県八潮市に修理拠点を持ちます(*1)。同社は工作機械の販売から始め、20年前から修理も手掛けるようになりました。キャッチフレーズは「機械大好き出張修理人集団」で、「メーカーが対応しない修理も手掛けてきた」と豪語しています。資本金1,500万円、従業員数10人。
部品が入手できなければつくってしまう
古い工作機械の場合、メーカーがもう部品をつくっていないこともあります。しかしケーエスアイは「大概の機械は修理できます」といいます。部品がなければ、自社で部品をつくるなどして修理します。さらに「部品がない」どころか「図面がない」ほど古い旋盤やシャーリングなども直した実績があります。またモーター故障であれば、新規格のモーターを加工して工作機械に取りつけます。
出張修理「見に行くだけなら無料」
ケーエスアイは職人が依頼者の工場に出向き、壊れている工作機械を直します。同社は、職人が修理が必要な工作機械の様子をみに行くサービスを無料で提供しています。依頼者は「この古い工作機械が直るのかどうか」をケーエスアイの職人に尋ねることができるわけです。
修理の実績
ケーエスアイの修理の実績は次のとおりです。
■スロッターマシン
●修理内容:刃を取りつけるアタッチメント部分のネジが折れた。当初、本体を分解してネジを交換するだけの予定だったが、作業中に「逃がし」という調整動作ができていないことを発見。ネジを交換して「逃がし」もつくった。
■イタリア製の2ロール転造盤
●修理内容:主軸がポッキリ折れてしまった。イタリア製なので部品調達に時間がかかるため、依頼者は予備の主軸を保有していたが、修理に取りかかるとベアリングも交換しなければならない状態であることがわかった。ベアリングの予備はなかった。そこでケーエスアイの職人は、日本製のベアリングでもサイズが合えば使えると判断。国内で部品が調達できたため、機械を止めた期間は数日で済んだ。
セールスポイント
ケーエスアイが高い修理スキルを持つのは、かつて自社で工作機械を開発していたことがあるからです。工作機械は販売まで至りませんでしたが、開発スキルが修理スキルにつながりました。また同社は釘打ち機で特許を取得しています。従業員10人の会社ですが、少数精鋭といってよいでしょう。
セルフ研磨に力を入れる向井製作所(広島県広島市)
1956年創立の株式会社向井製作所は、広島市に本社を置き、東京都葛飾区に営業所を持ちます(*2)。向井製作所が得意とするのはセルフ研磨です。資本金1,000万円、従業員数44人。
出張修理をするから工作機械を止める時間を最短にできる
- 工作機械に取りつけている工具が振れて径補正が安定しない
- ボーリング加工の仕上げ面にビビりが生じる
- 重切削ができない
工作機械にこのような症状が起きるのは、頻繁に工具を交換することでスピンドル内面のテーパーが削れてしまい、工具テーパーとの嚙み合わせが悪化するからです。このような症状を直すのがセルフ研磨です。向井製作所は職人を依頼者の工場に派遣して、その場で修理します。
モノづくり企業のなかには、セルフ研磨が必要になったとき、ヘッドからスピンドルを取り外し、それをメーカーに送って修正しているところもあるでしょう。この方法では、スピンドルを取り外す手間、メーカーに送る時間、メーカーが修理する時間、送り返してもらう時間、スピンドルを取りつける手間がかかります。出張セルフ研磨なら手間も時間も大幅に省略できるので、工作機械の稼働率をそれほど落とさなくて済みます。
修理の流れ
向井製作所に修理を依頼するときの流れを紹介します。
■ステップ1:電話またはメールで問い合わせる
- 電話:082-837-1600
- メール:https://seruken-mukai.com/contact/
■ステップ2:確認
職人が工場に出向き、工作機械の状態や周辺の様子を確認します。
■ステップ3:見積もりと契約
向井製作所が見積書を作成し、条件や料金に合意できたら契約を結びます。
■ステップ4:修理をする
職人が工場に出張して修理します。もしくは修理が必要な部品を向井製作所に送ることもできます。
■ステップ5:測定と報告
軸の振れ具合やテーパーの当たり、クランプ力などを測定し報告書を作成します。
セールスポイント
向井製作所はセルフ研磨機を12台保有し、年間200件のセルフ研磨を行っています。タイにも進出し、現地のモノづくり企業を支えています。取引先は三菱重工業、マツダ、シチズンマシナリー、日本電産サンキョーなど。セルフ研磨以外に、自動車などの試作部品の設計製造や、産業機械部品加工、金型の付属部品加工組立を行い、自らもつくり手として活躍しています。
「古くても使い続けたい」なら塩田工業(岡山県里庄町)
1962年創立の塩田工業株式会社は、岡山県里庄町にある、工作機械の修理と、きさげ加工の会社です(*3)。同社はモノづくり企業に「使い慣れた工作機械は重要な財産。オーバーホールや精度更生でロングライフ化を実現します」とPRしています。
資本金1,000万円。
*3:https://www.shiotakogyo.com/
レトロフィットでロングライフ化
工作機械を自分の手足のように使いこなしている職人なら、多少古くなっても同じものを使い続けたいはず。そのニーズに応えることができるのが、塩田工業のレトロフィットです。例えば、NC(数値制御)装置がついていない工作機械をNC化したり、旧世代のNCを新世代のものに交換したり、制御盤をリレー回路からシーケンサに変更したりすることで、同じ工作機械を使いながら効率や生産性を高めることができます。
レトロフィットは工作機械を操る職人にとってメリットがあるだけでなく、工場にも恩恵をもたらすはずです。古い工作機械を引退させて新しい工作機械を入れる場合、搬出・搬入に手間がかかるだけでなく、工場内のレイアウトを変える必要が出てくるかもしれません。古い工作機械を売却する手続きも面倒なはずです。レトロフィットによって手間も面倒もかけずに工場をパワーアップすることができます。
完全な平面を目指す、きさげ加工
きさげ加工は、スクレーパーという特殊な工具を使って職人が手作業ですり合わせ面の誤差を取る作業です。塩田工業が出せる平面度は1,000分の5mmで、ほぼ完全な平面といってよいでしょう。きさげ加工を施すことによって滑り移動する金属平面の摩擦抵抗を減らすことができたり、摺動面の潤滑性が増して高精度化、長寿命化を実現できたりします。
何でも修理する
塩田工業は、工作機械の一般的な修理ももちろん手がけています。ほんの一例ですがこんなにあります。
■塩田工業の修理メニュー
- 全面オーバーホールによる機能・精度復元
- 摺合せによる精度復元
- 部品の補修・交換による機能回復
- 主軸関連(主軸部動作不良の修理・主軸ヘッド修理・切替レバー部キー交換・主軸オーバーホール・主軸テーパー研磨)
- 電気関係(電磁クラッチ修理・インバーター交換・リミットスイッチ現地交換・パワーサプライ破損修理)
- 油圧関係(コレットチャック開閉動作修理・シリンダー・ユニット修理・オイル漏れ修理)
直せる工作機械は、汎用旋盤、NC旋盤、マシニングセンタ、フライス盤、ホブ盤、中ぐり盤、平面研削盤、内面研削盤、円筒研削盤、ロータリー研削盤、など。
「超再生」を宣言する三宝精機工業(神奈川県横浜市)
1954年創業の三宝精機工業株式会社は、神奈川県横浜市に本社を置く、工作機械のオーバーホールやレトロフィットなどを得意とする会社です(*4)。同社のキャッチフレーズは「超再生」。使い慣れた工作機械をよみがえらせて日本のモノづくりを支えることをミッションにしています。
資本金2,000万円、従業員数48人。
*4:https://www.sanpo-seiki.com/
オーバーホールとレトロフィットが得意
三宝精機工業の主な事業は1)工作機械のオーバーホール、2)レトロフィット、3)ロボットエンジニアリング、4)工場のバックアップの4つです。このうち修理に該当するのは1)と2)ですので、この2つを紹介します。三宝精機工業のオーバーホールは性能を新品に近い状態に戻すだけでなく、再塗装をして見た目にもこだわります。
オーバーホールの工程は次のとおり。
■オーバーホールの工程
- 対象の工作機械を三宝精機工業の工場に搬入
- 解体
- 部品の洗浄
- 部品のチェック、検査
- 塗装
- 摺り合わせ部品の交換
- 組みつけ
- 芯出し
- 精度出し
- 試運転をして調整
- 試し加工
- 最終検査
- 依頼者立ち会いのもとでの検査
- 依頼者の工場に搬入
- 工作機械を所定の位置に据えつけてトライアルを行って完了
超精密部品を加工する超高精度工作機械のオーバーホールでは、滑り摺動面(スライド部分)の平面度1,000分の1mmを実現するため、きさげ加工を施します。これまでにオーバーホールを行った工作機械は次のとおり。
■オーバーホールした工作機械の一例
- STUDER製:汎用円筒研削盤
- FISCHER製:センター穴研削盤
- MAAG製:歯車研削盤
- 新潟鐡工所製:横型マシ二ングセンタ
- SIP製:治具ボーラー
- 三井精機製:治具ボーラー
- 碌々HURON製:フライス盤
- 豊田工機製:円筒研削盤
- シギヤ精機製作所製:汎用円筒研削機
三宝精機工業もレトロフィットを行っていて、メニューは次のとおり。
■三宝精機工業のレトロフィット
- マニュアル機のNC化
- NC装置の最新化
- 海外製NC装置を国産化
- リレー式電装のPLC化
- PLCの最新化、または国産化
- モーターのサーボ化、およびACサーボ化
- 制御盤の制作、改造
- 油圧制御から電気制御に交換
- ロボット利用
レトロフィットによって職人たちは、これまでと同じ工作機械を使いながら、より正確に、より効率的に加工できるようになるでしょう。つまり品質と生産性の両方を、低コストで向上させることができます。新品の工作機械を買うよりは、レトロフィットのほうがはるかに安価に済みます。
セールスポイント
三宝精機工業は今は横浜市にありますが、創業の地は東京都大田区。つまり日本のモノづくりの聖地で生まれた会社です。創業当時から三菱重工業の工作機械のアフターサービス会社の指定を受けていました。横浜市に移転してからは三菱商事からの委託で、三菱商事が輸入・販売した工作機械の据えつけや取り扱い指導、修理を担いました。また会社のレベルアップを図るため、のちに東海大学総長を務めることになる工学博士を相談役に招いたこともあります。
新しい取り組みにも力を入れていて、先ほど紹介したロボットエンジニアリングはその1つです。ロボットエンジニアリングでは、依頼者の工場の生産ラインのロボットハンドを設計したり、システムやソフトウェアを開発したり、ロボットをティーチング(作業教育)したりします。
まとめ~修理業者はパートナー
職人と工作機械は、どちらが欠けてもモノづくりができません。それでモノづくり企業は、職人に元気に働いてもらうために健康診断を実施したり、働き方改革を進めたりしているはずです。そして工作機械の健康を守るには、修理業者が欠かせません。そういった意味では、修理業者はモノづくり企業のビジネス・パートナーになるはずです。高い技術力を有する修理業者との絆を強化することは、競争が激しい製造業で生き残る術(すべ)の1つといえるでしょう。