
※本記事は2026年9月28日に、実際にあった事例の紹介と誤字の修正をあわせて更新しました。
親族内で事業を引き継いだものの、先代が使っていた機械を「もう使わない」と判断し、すべて売却したいというご相談を受けたことがあります。
後継者となった方は、先代とは違う分野の加工に会社の軸足を移す方針で、既存の機械の多くが新しい方向性には合わなくなっていました。稼働はできる状態でしたが、使う予定がない以上、保有し続けるよりも売却して新しい設備投資の資金に充てるほうが合理的だという判断でした。
事業承継は「会社を引き継ぐこと」であって、「先代のやり方をそのまま引き継ぐこと」とは限りません。機械の扱いも、後継者自身の経営方針にあわせて見直されるべきものの一つです。
今回のトピックは製造業の事業承継の流れについてです。日本の産業の軸となって、高度経済を支えてきた製造業。しかしながら、経営者の高齢化などもあり、中小企業や町工場など、事業承継を課題にしているケースが増加しています。製造業の事業承継について今回の記事ではまとめていきます。事業承継と聞くと、当面は関わりがなさそうという方にとっても、タイミングが来れば避けて通れない問題。規模に関わらず、会社を運営している限りは、その流れや成功事例を知っておくことは必要なことかと思います。
- どこに相談すれば良いの?
- 失敗しないポイントはあるの?
いろいろと疑問に思っている方も、ぜひご参考ください。
※当記事では、製造業(メーカーと同義)を下記のように定義します。
【製造業】…家電や自動車、日用品など、生活に関わるものを製造している業種全般のこと。製品を作ることが主たる事業。細かくは自動車メーカー、食品メーカー、精密機械メーカー、アパレルメーカーなどに分類できます。一部の製造業は、製品を作ったり組み立てたりするだけでなく、加工や点検、仕分け、梱包、生産管理まで幅広い業務を行い、製造から出荷までを一気通貫で携わるような業態の会社もあります。
事業承継とは
ここで、事業承継の定義を見てみましょう。企業が運営している事業を後継者に引継ぐ行為が事業承継と呼ばれます。親族間事業承継、親族外事業承継、M&Aによる事業承継が代表的で、承継する当事者(後継者)の違いにより3つに分類されます。
【親族間事業承継】
自分の子や親戚など親族にあたる人物を後継者とする事業承継を指します。以前は、中小企業が事業承継をする際は親族間事業承継がなされるのが日本の主流の形でしたが、近年は親族間で後継者を見つけることが困難な状況になってきています。
【親族外事業承継】
親族外事業承継は、自社役員や従業員を後継者とする事業承継の方法です。
例えば、製造業を運営する会社経営者が、自社で長い間働いている従業員を後継者に選定し、事業承継するケースが、親族外事業承継に当たります。以前から自社製造業に携わり、知識などが深い人物を後継者とするため、事業承継が比較的スムーズに行われ、タイムラグなく事業運営を開始できるメリットがあります。一方で、後継者となる従業員に株式や事業を買い取るだけの資力がないケースも多く、その場合は金融機関からの融資や、経営者保証に関する調整など、資金面での準備が別途必要になります。
【M&Aによる事業承継】
近年、日本は後継者不足が深刻な状況にあります。親族内はもちろんのこと、会社関係者の中にも事業承継できる人物がいないために事業承継できない状況に陥っている中小企業も増えている現実があります。この課題を解消する道筋の一つが、M&Aによる事業承継で、事業承継の形として非常に効果的とされています。第三者に事業を売却・譲渡し、事業承継を実現できるものになります。
製造業が事業承継を行う理由
製造業の企業が事業承継を行うのは、下記のような理由があります。
- 後継者問題を解決したい
- 従業員の雇用先を確保したい
- 廃業や倒産におけるリスクを軽減する
- 新事業を始めるため
製造業全体の状況も鑑みると、近年の日本では①後継者問題に関する理由が大きく割合を占めているようです。中小企業でも後継者不足の課題を持ちながら事業継承を進めるケースが増えているので、問題解決のためにM&Aによる事業継承が検討される場合が多くなっています。
事業承継の流れ(製造業のケース)
ここで、製造業で事業承継を進める流れについてまとめていきます。後継者が誰かによって事業承継の流れが異なります。その違いをしっかりと把握しておきましょう。
-親族間事業承継の概要と流れ
- 事業承継計画の策定
- 後継者の教育
- 資産・財産・株式などの引継ぎ
- 個人保証・担保の処理
[1.事業承継計画の策定]
最初に行うのが事業承継計画の策定。具体的には、自社の財政状態や経営成績の把握や、経営者の資産状況の確認、後継者候補の決定から事業承継スキームを策定することまで、多様な作業や手続きが必要になります。煩雑な内容や、同時進行で進めなければならない内容も含むため、事前に計画をしっかりと立てておき進行できる状態にしておくことが肝要です。
なお、親族外事業承継を実施する場合には、このタイミングで親族の了承を得ておくことも大切です。中には、理解や了承を得られないまま承継が進み、相続関連などの予期せぬトラブルにまで発展したケースもありますので、十分留意しておきましょう。このようなトラブルを回避するために、M&A仲介などの専門家に相談するのも有効です。
[2. 後継者の教育]
事業承継計画の策定が完了したら、次は後継者候補の教育です。親族内事業承継および親族外事業承継では、後継者となる人物が初めて会社経営に携わるケースもあります。その場合は、引き継ぎや教育には手間も時間もかかりますので計画的に進めなければなりません。とりわけ、事業承継後に企業の経営が問題なく進行するための準備と捉えて、後継者の教育を怠らないようにしましょう。後継者育成には数年程度の時間がかかる場合が一般的です。早い段階で育成や教育を始めておくことが、スムーズな事業承継の成功への道となります。
[3. 資産・財産・株式などの引継ぎ]
事業承継では、企業保有の資産なども後継者に引き継ぐことになります。経営権や保有資産を引き継ぐ相手が異なるケースは要注意で、とくに慎重に手続きを進めることが必要です。また、企業発行の株式が役員や従業員などに分散している場合には、分散している株式を集約しておく必要があります。事業承継後に後継者が経営権を確保するためです。資産・財産・株式なども引き継がれることをしっかりと認識したうえで、事業承継の準備を進めていかなければなりません。
[4. 個人保証・担保の処理]
事業承継が実施されると、経営者が抱える個人保証や負債も後継者に引き継がれることになります。つまり、親族内および親族外事業承継をスムーズに進めるためには、あらかじめ個人保証・負債などの処理を適切に行っておくことが望ましいです。
-M&Aによる事業承継の概要と流れ
- M&A仲介会社等へ相談
- 承継先の選定
- 基本合意書の作成と締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書の締結
- クロージング
[1.M&A仲介会社等へ相談]
M&Aによる事業承継の場合、まずはM&A仲介会社などの専門家への相談からスタートすることが多いです。M&A実施により事業承継をする場合は、会社関係者・親族以外の第三者にも企業情報を公開する必要があります。そこで、情報漏えいを未然に防ぐことを目的に「秘密保持契約書」を締結しておきます。
[2. 承継先の選定]
次は、事業承継先の選定を進めていきます。それぞれのM&A仲介会社には特色があります。概して、全国的にネットワークを展開している会社であれば選択肢も広く、要望や条件に合致した承継先を見つけられる可能性が高くなります。承継先候補が見つかり、基本合意の直前のタイミングで「意向表明書」が承継先より提示されます。(例外もあります)これは、事業を承継する側が、M&Aの実施に関して意向を伝える書面になります。
[3.基本合意書の作成と締結]
事業承継の候補先との交渉が進み、基本的な方針を決定します。その後、譲渡側および譲受側で「基本合意書」を締結することになります。これは、最終契約締結までの基本的事項を定めている書類です。基本合意書が作成されないと、事業承継過程でトラブルが発生するケースもあることから、必ず締結しておきましょう。
[4.デューデリジェンスの実施]
基本合意書の締結が行われるとデューデリジェンスが譲受側の会社によって実施されます。デューデリジェンスとは、譲渡側企業を監査する行為。財務、税務、法務など様々な観点から事業承継時の収益性やリスクなどが調査分析されます。製造業の場合、工場や機械設備の資産価値も調査対象に含まれることが多く、老朽化した設備や、稼働実態のない遊休資産の存在が、譲渡価格の交渉材料になることもあります。
[5.最終契約書の締結]
デューデリジェンス実施により、事業承継の実施に問題がないと判断できた上で、「最終契約書」の締結に進みます。最終契約書の締結によって企業の事業承継の実施が確定することになります。この最終契約書に関しては、法的拘束力を持つものになります。従って、契約締結前に十分に内容を確認しておきたいものです。
[6.クロージング]
最終契約書の締結がおこなわれると、M&Aの手続きはクロージングされ、事業承継が完了します。事業・株式・資産などの引き渡し、取引金額の支払いなどが策定内容に基づいて実施され、経営権は承継先へ完全に移行されます。
M&Aを行う場合の相談先は?
親族内および親族外事業承継が叶わない場合など、M&Aの可能性を探ることにしたものの、どこへ相談するか悩む経営者も多いようです。製造業を事業承継する際の相談先は、下記のような候補が挙げられます。
- M&A仲介会社
- 地元にある金融機関
- 地元にある公的機関
- 地元の税理士・会計士・弁護士など
- マッチングサイト
M&A仲介業務を専門に扱い、適切なアドバイス・サポートを提供するM&A仲介会社や、地元に根付いたネットワークを有している金融機関、中小企業支援に力を入れている公的機関など、それぞれの強みがあります。最近はマッチングサイトの利用実績も全国的に伸びてきているようです。ただし、手続きや交渉は自分で行わなければなりません。M&Aや事業承継に精通していない場合には、交渉が難航したりトラブルにつながる可能性も否定できないため、仲介会社に依頼するのが無難な方法と言えそうです。
事業承継にあわせて考えたい設備・機械の整理
事業承継の議論では、株式や経営権、資金繰りといったテーマに注目が集まりがちですが、工場や設備・機械の扱いも忘れてはならない検討事項です。特にM&Aによる事業承継では、譲受側が「引き継ぎたい設備」と「不要な設備」を明確に区別することが一般的で、譲渡側があらかじめ設備の一覧と状態を整理しておくことで、デューデリジェンスの段階がスムーズに進みます。設備の一覧には、メーカー・型式・年式・取得価額・稼働状況などをまとめておくと、譲受側にとっても判断材料が増え、交渉がスムーズになります。
親族内・親族外の承継であっても事情は同じです。後継者が先代とは異なる事業方針を描いている場合、既存の機械がそのまま活かせるとは限りません。承継のタイミングは、保有する機械の要不要をあらためて見直す良い機会でもあります。不要と判断した機械を売却できれば、その資金を新しい設備投資や運転資金に充てることができ、承継後の経営を後押しする材料にもなります。
反対に、稼働状況や市場価値を把握しないまま機械を放置してしまうと、固定資産税だけがかかり続けたり、老朽化によって査定額が下がり続けたりすることもあります。事業承継のタイミングに限らず、定期的に設備の棚卸しを行い、保有資産の現状を把握しておくことが、いざというときの判断をスムーズにします。
よくある質問
Q. 事業承継の準備はいつから始めればよいですか?
後継者の教育だけでも数年単位の時間がかかることが多いため、一般的には経営者が60代に差し掛かる前後、遅くとも引退希望時期の5〜10年前から準備を始めることが望ましいとされています。後継者が決まっていない場合は、なおさら早めの着手が必要です。準備期間が長く取れるほど、後継者の育成だけでなく、設備の入れ替えや不要資産の整理といった実務的な対応にも余裕を持って取り組めます。
Q. 後継者が事業方針を変える場合、先代の設備はどうすればよいですか?
稼働状態が良ければ、まずは売却による資産化を検討する価値があります。無理に使い続けようとせず、新しい事業方針に必要な設備への入れ替え資金として活用することも、承継後の経営を前向きに進める一つの方法です。
Q. M&Aで承継先が決まらなかった場合、機械はどうなりますか?
承継先が見つからず廃業を選ぶ場合、工場内の機械は売却・処分の対象になります。稼働できる機械であれば、国内外問わず買い手が見つかるケースも多いため、廃業を決めた段階で早めに機械買取業者へ相談することをおすすめします。売却によって得られる資金は、従業員への退職金や取引先への支払いなど、廃業手続きに伴う費用に充てられることも多く、早めの査定が廃業全体の資金計画にも役立ちます。
【実際にあった事例】先代の機械を「もう使わない」と判断した後継者のケース
冒頭でご紹介した事例を詳しくお伝えします。
ご相談をいただいたのは、親族内で事業を承継されたばかりの二代目の経営者でした。先代が長年培ってきた加工技術と、それを支えてきた機械一式を引き継いだものの、経営者ご自身は先代とは異なる分野——新しい素材や加工方法に強みを持つ事業へと会社の方向性を変えていく考えを持っていました。
先代が愛用していた機械は、いずれも稼働状態は良好でした。しかし新しい事業方針のもとでは出番がなく、工場のスペースを圧迫するだけの存在になってしまいます。「先代が大事にしていた機械だから」と手放すことに迷いがなかったわけではないとお聞きしましたが、最終的には機械を売却し、その資金を新しい設備投資に充てるという決断をされました。査定の際にも、先代がどれだけ丁寧にメンテナンスをしてきたかが伝わってくる状態の良さで、長年大切に使われてきたことが数値にも表れていました。
承継した機械を手放すことは、先代の否定ではありません。会社を次の世代に合わせて発展させていくための、前向きな経営判断の一つです。稼働状態の良い機械であれば、査定額もそれに見合った形でつきやすく、新事業への投資資金として活用しやすいというメリットもあります。
終わりに
今回は、製造業の事業承継の流れについてまとめました。事業承継を成功させるためには、計画的に準備し、自社の強みをまとめておくなど、事前準備が大切なポイントであることがわかりました。また、承継先の選定やトラブル回避のためには、事業承継やM&Aの専門家/専門会社に相談することも有効な方法であると言えそうです。
そしてもう一つ、事業承継を考えるうえで見落とされがちなのが、工場や機械といった有形の資産をどう扱うかという視点です。株式や経営権の引き継ぎに比べると地味なテーマですが、後継者が新しい方針で事業を続けていくためには、この整理が意外と大きな意味を持ちます。
後継者問題のますますの深刻化が見込まれているものの、当事者側から見ても認知度は比較的低いと言われています。経営者は日々の経営業務に追われており先延ばしにしている方も多いのかもしれませんが、見通しを立てながら、現状を把握していくことは重要なポイントです。
「まだ承継の話は先」という段階であっても、保有している機械の現在価値を把握しておくことは、いざというときの選択肢を広げてくれます。当社では、事業承継や廃業を見据えた機械の査定にも対応しております。将来的な判断材料として、お気軽にご相談ください。
機械資産の承継という観点では廃業する製造業の増加——M&A・第三者承継で機械資産をどう扱うかでも触れています。あわせてご覧ください。














