今回のトピックは製造業の事業承継の流れについてです。日本の産業の軸となって、高度経済を支えてきた製造業。しかしながら、経営者の高齢化などもあり、中小企業や町工場など、事業承継を課題にしているケースが増加しています。製造業の事業承継について今回の記事ではまとめていきます。事業承継と聞くと、当面は関わりがなさそうという方にとっても、タイミングが来れば避けて通れない問題。規模に関わらず、会社を運営している限りは、その流れや成功事例を知っておくことは必要なことかと思います。
- どこに相談すれば良いの?
- 失敗しないポイントはあるの?
いろいろと疑問に思っている方も、ぜひご参考ください。
※当記事では、製造業(メーカーと同義)下記のように定義します。
【製造業】…家電や自動車、日用品など、生活に関わるものを製造している業種全般のこと。製品を作ることが主たる事業。細かくは自動車メーカー、食品メーカー、精密機械メーカー、アパレルメーカーなどに分類できます。一部の製造業は、製品を作ったり組み立てたりするだけでなく、加工や点検、仕分け、梱包、生産管理まで幅広い業務を行い、製造から出荷までを一気通貫で携わるような業態の会社もあります。
事業承継とは
ここで、事業承継の定義を見てみましょう。企業が運営している事業を後継者に引継ぐ行為が事業承継と呼ばれます。親族間事業承継、親族外事業承継、M&Aによる事業承継が代表的で、承継する当事者(後継者)の違いにより3つに分類されます。
【親族間事業承継】
自分の子や親戚など親族にあたる人物を後継者とする事業承継を指します以前は、中小企業が事業承継をする際は親族間事業承継がなされるのが日本の主流の形でしたが、近年は親族間で後継者を見つけることが困難な状況になってきています。
【親族外事業承継】
親族外事業承継は、自社役員や従業員を後継者とする事業承継の方法です。
例えば、製造業を運営する会社経営者が、自社で長い間働いている従業員を後継者に選定し、事業承継するケースが、親族外事業承継に当たります。以前から自社製造業に携わり、知識などが深い人物を後継者とするため、事業承継が比較的スムーズに行われ、タイムラグなく事業運営を開始できるメリットがあります。
【M&Aによる事業承継】
近年、日本は後継者不足が深刻な状況にあります。親族内はもちろんのこと、会社関係者の中にも事業承継できる人物がいないために事業承継できない状況に陥っている中小企業も増えている現実があります。この課題を解消する道筋の一つが、M&Aによる事業承継で、事業承継の形として非常に効果的とされています。第三者に事業を売却・譲渡し、事業承継を実現できるものになります。
製造業が事業承継を行う理由
製造業の企業が事業承継を行うのは、下記のような理由があります。
- 後継者問題を解決したい
- 従業員の雇用先を確保したい
- 廃業や倒産におけるリスクを軽減する
- 新事業を始めるため
製造業全体の状況も鑑みると、近年の日本では①後継者問題に関する理由が大きく割合を占めているようです。中小企業でも後継者不足の課題を持ちながら事業継承を進めるケースが増えているので、問題解決のためにM&Aによる事業継承が検討される場合が多くなっています。
事業承継の流れ(製造業のケース)
ここで、製造業で事業承継を進める流れについてまとめていきます。後継者が誰かによって事業承継の流れが異なります。その違いをしっかりと把握しておきましょう。
-親族間事業承継の概要と流れ
- 事業承継計画の策定
- 後継者の教育
- 資産・財産・株式などの引継ぎ
- 個人保証・担保の処理
[1.事業承継計画の策定]
最初に行うのが事業承継計画の策定。具体的には、自社の財政状態や経営成績の把握や、経営者の資産状況の確認、後継者候補の決定から事業承継スキームを策定することまで、多様な作業や手続きが必要になります。煩雑な内容や、同時進行で進めなければならない内容も含むため、事前に計画をしっかりと立てておき進行できる状態にしておくことが肝要です。
なお、親族外事業承継を実施する場合には、このタイミングで親族の了承を得ておくことも大切です。中には、理解や了承を得られないまま承継が進み、相続関連などの予期せぬトラブルにまで発展したケースもありますので、十分留意しておきましょう。このようなトラブルを回避するために、M&A仲介などの専門家に相談するのも有効です。
[2. 後継者の教育]
事業承継計画の策定が完了したら、次は後継者候補の教育です。親族内事業承継および親族外事業承継では、後継者となる人物が初めて会社経営に携わるケースもあります。その場合は、引き継ぎや教育には手間も時間もかかりますので計画的に進めなければなりません。とりわけ、事業承継後に企業の経営が問題なく進行するための準備と捉えて、後継者の教育を怠らないようにしましょう。後継者育成には数年程度の時間がかかる場合が一般的です。早い段階で育成や教育を始めておくことが、スムーズな事業承継の成功への道となります。
[3. 資産・財産・株式などの引継ぎ]
事業承継では、企業保有の資産なども後継者に引き継ぐことになります。経営権や保有資産を引き継ぐ相手が異なるケースは要注意で、とくに慎重に手続きを進めることが必要です。また、企業発行の株式が役員や従業員などに分散している場合には、分散している株式を集約しておく必要があります。事業承継後に後継者が経営権を確保するためです。資産・財産・株式なども引き継がれることをしっかりと認識したうえで、事業承継の準備を進めていかなければなりません。
[4. 個人保証・担保の処理]
事業承継が実施されると、経営者が抱える個人保証や負債も後継者に引き継がれることになります。つまり、親族内および親族外事業承継をスムーズに進めるためには、あらかじめ個人保証・負債などの処理を適切に行っておくことが望ましいです。
-M&Aによる事業承継の概要と流れ
- M&A仲介会社等へ相談
- 事業承継計画の選定
- 基本合意書の作成と締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約書の締結
- クロージング
M&Aによる事業承継の場合、まずはM&A仲介会社などの専門家への相談からスタートすることが多いです。M&A実施により事業承継をする場合は、会社関係者・親族以外の第三者にも企業情報を公開する必要があります。そこで、情報漏えいを未然に防ぐことを目的に「秘密保持契約書」を締結しておきます。
[2. 事業承継計画の選定]次は、事業承継先の選定を進めていきます。それぞれのM&A仲介会社には特色があります。概して、全国的にネットワークを展開している会社であれば選択肢も広く、要望や条件に合致した承継先を見つけられる可能性が高くなります。承継先候補が見つかり、基本合意の直前のタイミングで「意向表明書」が承継先より提示されます。(例外もあります)これは、事業を承継する川が、M&Aの実施に関して意向を伝える書面になります。
[3.基本合意書の作成と締結]事業承継の候補先との交渉が進み、基本的な方針を決定します。その後、譲渡側および譲受側で「基本合意書」を締結することになります。これは、最終契約締結までの基本的事項を定めている書類です。基本合意書が作成されないと、事業承継過程でトラブルが発生するケースもあることから、必ず締結しておきましょう。
[4.デューデリジェンスの実施]基本合意書の締結が行われるとデューデリジェンスが譲受側の会社によって実施されます。デューデリジェンスとは、譲渡側企業を監査する行為。財務、税務、法務など様々な観点から事業承継時の収益性やリスクなどが調査分析されます。
[5.最終契約書の締結]デューデリジェンス実施により、事業承継の実施に問題がないと判断できた上で、「最終契約書」の締結に進みます。最終契約書の締結によって企業の事業承継の実施が確定することになります。この最終契約書に関しては、法的拘束力を持つものになります。従って、契約締結前に十分に内容を確認しておきたいものです。
[6.クロージング]最終契約書の締結がおこなれると、M&Aの手続きはクロージングされ、事業承継が完了します。事業・株式・資産などの引き渡し、取引金額の支払いなどが策定内容に基づいて実施され、経営権は承継先へ完全に移行されます。
M&Aを行う場合の相談先は?
親族内および親族外事業承継が叶わない場合など、M&Aの可能性を探ることにしたものの、どこへ相談するか悩む経営者も多いようです。製造業を事業承継する際の相談先は、下記のような候補が挙げられます。
- M&A仲介会社
- 地元にある金融機関
- 地元にある公的機関
- 地元の税理士・会計士・弁護士など
- マッチングサイト
M&A仲介業務を専門に扱い、適切なアドバイス・サポートを提供するM&A仲介会社や、地元に根付いたネットワークを有している金融機関、中小企業支援に力を入れている公的機関など、それぞれの強みがあります。最近はマッチングサイトの利用実績も全国的に伸びてきているようです。ただし、手続きや交渉は自分で行わなければなりません。M&Aや事業承継に精通していない場合には、交渉が難航したりトラブルにつながる可能性も否定できないため、仲介会社に依頼するのが無難な方法と言えそうです。
終わりに
今回は、製造業の事業承継の流れについてまとめました。事業承継を成功させるためには、計画的に準備し、自社の強みをまとめておくなど、事前準備が大切なポイントであることがわかりました。また、承継先の選定やトラブル回避のためには、事業承継やM&Aの専門家/専門会社に相談することも有効な方法であると言えそうです。
後継者問題のますますの深刻化が見込まれているものの、当事者側から見ても認知度は比較的低いと言われています。経営者は日々の経営業務に追われており先延ばしにしている方も多いのかもしれませんが、見通しを立てながら、現状を把握していくことは重要だと感じます。