工場の移転、新設の手続き

執筆者 | 10月 28, 2022 | ブログ

工場 移転

モノづくり企業が生産性を格段に高めたり売上高を格段にあげたりするために、工場の移転や新設が必要になることがあります。経営者は、現在の工場のキャパシティが限界に近づいていたら、新工場建設は喫緊の課題になるかもしれません。ただ工場を新たにつくることは簡単なことではなく、資金を工面しなければなりませんし、法律という壁もあります。

工場はさまざまな建物のなかでも建設への規制が多いものの1つです。今回は工場の移転・新設に関わる手続きについて解説します。また、多額の投資をするわけなので、経営者としてはこれを成長につなげたいはずです。そのためには計画づくりがカギを握ります。

工場を移転、新設するメリット

新しい工場を建てることは、モノづくり企業にさまざまなメリットをもたらします。新しい工場をつくるときに、同時に古い機械を売却して最新機器や最新設備を導入すれば高品質の製品をつくることができます。そうなれば製品単価を上げることが期待できます。

工場が広くなれば作業員が働きやすくなってパフォーマンスがあがります。若い人ほどキレイな職場で働きたいと考えるので、人材確保にも効果的です。このようなメリットがあることから、工場の移転・新設は厳しい競争を生き残るために欠かせない投資と考えることができます。

法規制をクリアすることと計画をわけて考える

工場の移転・新設は大事業になるので、その手続きは段取りを踏んで進めていくことになります。まずは、1)法規制をクリアすることと、2)計画の2つにわけて、やることを考えていきます。工場は、都市計画法、建築基準法、工場立地法の規制を受けるので、これらの法律に抵触しない建物を建てていかなければなりません。

また、工場を移転・新設するに、資金をどうするか、場所をどうするか、建物をどうするか、機械・設備をどうするか、人員をどうするか、現在の工場をどうするか、といったことを1つひとつ決めていかなければなりません。それには綿密な計画が必要になります。これ以降、1)法規制と2)計画にわけて解説していきます。

法規制をクリアする

都市計画法、建築基準法、工場立地法が工場にどのような規制をかけているのか解説します。

都市計画法と工場の関係について

都市計画法は、建物の種類ごとに、建てられる土地と建てられない土地を定めた法律です。例えば、住宅街のなかにある工場や、工場が立ち並ぶなかにある住宅は、どちらにとっても不幸になります。そこで都市計画法で、こうしたチグハグな土地開発や建物建設が起きないようにしているのです。

都市計画法では、住宅エリア、工業エリア、商業エリアを定め、同じ目的の建物をなるべく同じ場所に集めようとしています。工場の建設が許される土地には、準工業地域、工業地域、工業専用地域の3種類があります。移転や新設の工場はかなりの高い確率で、このいずれかに建てることを求められるでしょう。工場移転・新設のための土地は、工場を建ててもよい地域に確保しなければなりません。事前に市区町村の担当課や、不動産会社やコンサルタントに確認する必要があります。

建築基準法と工場の関係について

土地が決まったら、そこにどのような工場を建てるかを検討します。このとき建物の大きさや形を規制する建築基準法に違反しないかチェックしなければなりません。建築基準法は無秩序な建物建設を防ぐため、建蔽率や容積率、建物の高さなどを規制しています。建蔽率は敷地面積に対する建物が立っている部分の面積の比率。容積率は敷地面積に対する建物の延べ床面積(各階の床面積の合計)の比率。工場の大きさや形は製造や生産に大きく関わってくるので、慎重に決めていくことになります。

工場立地法と工場の関係について

工場立地法は、特定工場に対し、生産施設の面積を一定割合以下に抑えて、緑地を整備することを求めています。特定工場とは、1)製造業または電気・ガス・熱供給業で、2)敷地面積9,000平方メートル以上、または建築面積3,000平方メートル以上の工場です。これも自治体ごとに細かいルールを定めていることがあるので、市区町村の担当課に相談する必要があります。

あらゆる計画を立てる

法律の規制をクリアすることは最低条件であり、より難度が高いのは各種計画です。ここでは、資金、場所、建物、機械・設備、人員、現在の工場にわけてどのように計画をつくっていけばよいのか考えていきます。

資金をどうするか

工場の移転・新設に必要な資金は、大抵は金融機関から融資を受けて調達することになるはずです。もちろん、自己資金も使うこともできます。自己資金を多く使うと借りるお金の額を減らせ、その分利息の支払いを減らすことができますが、キャッシュが不足するリスクが大きくなるかもしれません。したがって、融資でいくら調達し、自己資金をいくら使うかは高度な経営判断が必要になります。

融資について考えてみます。金融機関は、将来有望な工場移転・新設には融資しますが、そうでない場合はお金を貸しません。したがって金融機関から融資を受けるには、工場移転・新設が売上高増や利益増をもたらすことを証明しなければなりません。その証明は事業計画で行います。事業計画は融資に関係なく、工場移転・新設を決めた段階で社内で作成すると思います。金融機関に提出する事業計画は、その社内的な事業計画をベースにつくることができます。

事業計画には、移転・新設のコストや、新工場ができたあとの生産、売上高、利益の推計を記載します。金融機関向け事業計画ではさらに、融資額を想定しその返済計画も盛り込みます。つまり「この月にこれだけ利益が出るので融資は無理なく返済できる」といった内容にします。

金融機関はさらに、経営状態や事業の状態を知りたがるはずです。例えば、経営者の後継者が確定していれば、金融機関にとって安心材料になります。また、離職者が少ない、労災が長期間起きていない、市場の評価が高い高利益率の製品をつくっている、顧客数が多い、といったこともプラスに働くでしょう。

事業計画がしっかりしていて、経営状態が良好で、事業が順調に推移していれば、多くの金融機関が融資したくなります。そのようになれば融資の利率が下がり、返済総額が減り、経営にプラスになります。逆に多くの金融機関から融資を断られると、最後に残った金融機関は高い利子を要求するでしょう。そこからお金を借りると毎月の返済に苦労し、経営者は資金繰りに奔走することになり本業に力が入りません。それは経営にマイナスに働くので「工場を移転・新設しなければよかった」といった結果になりかねません。

工場の場所をどうするか

移転・新設する工場の場所は都市計画法以外の観点からも検討する必要があります。工場の移転・新設によって本社事務所と離れる場合、連絡の効率が悪くなります。だからといって利便性の高い地域に工場を建てようとすると、土地代が高くなる可能性があります。そのため、本社から離れても交通の便がよい場所が好まれます。高速道路のインターチェンジ付近や、工業団地に近い鉄道駅の近くなどは魅力的な土地です。

また、本社から離れても取引先企業に近いところに工場を建てれば、出荷コストを抑えることができます。もしくは、多種大量の原材料を使っている工場であれば、原材料を生産している工場の近くに工場を建てることも有効です。原材料工場と自社工場が隣接していれば、原材料工場で出来上がった原材料をフォークリフトに載せて、そのまま自社工場に持って来てもらうことができます。こうすれば実質的に輸送コストがかからないので、原材料を安く仕入れることができます。

工場の建物をどうするか

工場はいまだに3K(きつい、汚い、危険)の象徴とみなされていて、これがモノづくり企業の人材不足を助長している面もあります。そのため移転・新設する工場は、そのイメージを払拭する外観にしたいものです。例えば、外壁の材料をアルミなどの金属にするだけで「基地(ベース)」感が出て「格好いい」と思ってもらえます。モノづくりの作業はそもそも格好よさを持っているので、工場の外観でさらにその長所を引き立てるわけです。

また、工場の設備を工夫することで福利厚生を充実させることができます。休憩室を広くしたり、仮眠室を設けたり、談話室をつくったり、庭を整備したりすれば「通勤したくなる工場」に変えることができます。保育施設を併設することもできます。保育施設の運営は専門業者に任せるにしても、そのためのスペースが必要になるので、新工場の設計図に盛り込まなければなりません。

そして、現在の工場が狭かったり動線が悪かったりしたら、新工場ではそれらを解消しなければなりません。そのためには、設計の前に工場の全体会議を開き、現在の工場の欠点と新工場づくりのアイデアを従業員から集めたほうがよいでしょう。この新工場構想会議は、従業員の一致団結を図る効果もあります。従業員の意見が新工場建設に反映されれば「私の工場」という意識が強くなり、会社へのロイヤリティが高まり離職率が減るかもしれません。

工場の機械・設備をどうするか

新工場建設のために融資を受けるのであれば、新しい機械や新しい設備の導入費用もそこに盛り込んでしまうのも有効です。新しい機械や新しい設備については「機械や設備を最新のものに更新することで、新工場の生産性はさらに高まる」というストーリーをつることができます。このストーリーを金融機関に提出する事業計画で展開することで、融資担当者の納得が得られやすくなるでしょう。

新しい機械や新しい設備の選定は慎重に行う必要があります。それで何をつくるのか、それでどれだけ製品の精度が上がるのか、それでどれだけ効率的になるのか、それでどれほど生産性が高まるのか、それでどれだけ作業が楽になるのか、といった観点から選定していきます。この選定は、経営者、購買担当者、経理・財務担当者、開発担当者、生産設備担当者、工場業、各現場のリーダーたちで機械・設備選定委員会のような組織をつくって検討したほうがよいでしょう。

人員をどうするか

工場移転・新設では、人員を減らすことも増やすことも検討する必要があります。新しい機械・設備を導入する以上、省人化や無人化、自動化を図り、人件費を抑制していかなければなりません。これは生産性向上の重要な一歩です。その一方で、人手が必要な作業や、高度な技術の承継には人員を割かなければなりません。つまり、機械やコンピュータで代行できる作業や業務は人を減らし、付加価値の高い仕事の担当者を増やしていくことになります。

それには、ジョブ・チェンジやスキル・チェンジが必要になるはずで、従業員教育を進めていかなければなりません。工場が新しくなっても工場は依然として単なる器であり、機械・設備はツールにすぎません。新しい工場に魂を吹き込むのは、当然ですが人です。「新しい工場をどうするか」を考えるとき「働く人をどうするか」もあわせて考えていきます。

現在の工場をどうするか

工場を移設・新設する場合、現在の工場をどうするかも大きな課題になります。土地と建物を含めて妥当な金額で売却できるとよいのですが、最近ではそのような「うまい話」は期待薄です。工場を撤去して更地すれば土地を高く売れるのであれば、撤去の段取りを検討しなければなりません。その場合、工場内の機械・設備を移転するのか、売却するのか、廃棄するのかも考えます。

もしくは、現工場を使い続けることもできます。作業員に技術を教えるトレーニング施設にしたり、開発のための研究施設にしたりと利活用できます。これも従業員からアイデアを募ってもよいでしょう。

まとめ~工場の移転・新設は経営戦略上の重要な投資

工場の移転・新設は経営戦略上の重要な投資ですが、その一方でイベントの要素もあります。従業員のなかには「移転のための準備が面倒」と感じる人もいるでしょう。そのような人が増えてしまうと、工場移転・新設は迷惑イベントになってしまいます。

そこで経営者は従業員に、工場移転・新設がもたらす自社の未来図を示したほうがよいでしょう。工場移転・新設が自社の成長につながることを示し、それが従業員の幸福を増やすことを説明できれば、これは歓迎イベントになります。