スクラップと聞いて何をイメージしますか。機械や設備や装置などが壊れてクズやゴミの状態になった姿を想像するでしょうか。ところが鉄スクラップは、まったくもってそのようなものではなく、これで新品の鉄をつくる貴重な資源です。鉄スクラップはしかも、最近のエコブームにのって再利用が始まったものではなく、ずっと昔から工業製品の材料となり産業を支えてきました。エコの優等生でありレジェンドです。
この記事では、鉄スクラップがどのようなものであり、何に使われていて、誰がこれを売り、誰がこれを買い、産業やエコ社会にどのように役立っているのか解説します。
鉄(鋼鉄)はリサイクルしやすい
鉄(てつ)には2つの意味があります。1つ目の鉄は、元素記号Feを主成分とするもので、硬くてもろく、工業製品に使えるものではありません。2つ目の鉄は、一般の消費者がイメージする鉄で、棚やロッカー、自動車や船のボディなどに使われているものです。この場合の「鉄」は俗称であり、正式名称は鋼(はがね)、または鋼鉄といいます。「鉄スクラップ」の「鉄」も鋼鉄のことであり、鉄スクラップを使ってつくるのも鋼鉄です。
ちなみに、鋼鉄と似た言葉に鉄鋼がありますが、両者は異なります。鉄鋼は、鉄(1つ目の意味の鉄)を主成分とする合金の総称で、鋼鉄も鉄鋼の1つです。一般の消費者が普段よく目にする鉄である鋼鉄は、軟らかくて伸びやすく粘りやすく、しかも強靭です。もちろん、その軟らかさと伸びやすさと粘りやすさは「金属のなかでは」の性質であり、ゴムやプラスチックなどの金属以外の素材と比べると、鋼鉄は硬くて伸びず粘りません。そして鋼鉄は、そのリサイクルのしやすさからエコの優等生の地位を獲得しました。
鋼鉄とは
鋼鉄について詳しく解説します。金属に炭素が多く含まれると硬くもろくなります。それでは工業製品に使いづらいので、鋼鉄は炭素含有量を約2.0%以下にしています。炭素約2.0%以下の鉄を鋼鉄と呼ぶ、と理解してもよいでしょう。
鋼鉄はFe(1つ目の意味の鉄)に、炭素やニッケルやクロムなどを混ぜてつくります。混ぜるものや混ざる量を変えることで鋼鉄の性質を変えることができます。鋼鉄の性質を変えることで強度、硬度、靭性(粘り気)、錆びにくさなどが変わり、ロッカー向けの鋼鉄や、自動車のボディ向けの鋼鉄、ビルの柱向けの鋼鉄などをつくることができます。
溶かしても性質が変わらない
鋼鉄(一般の消費者がイメージする鉄)がエコの優等生になれたのは、溶かしても性質があまり変わらないからです。例えばプラスチックは、溶かそうとして熱を加えるとかなり性質が変わってしまい、再利用が難しい素材です。コンクリートやアスファルトや木も溶かすことが難しかったり、溶かしたら性質が変わったりするので、やはりリサイクルしにくい素材です。したがって鋼鉄が持つ、溶かしても性質があまり変わらない特徴はリサイクルに向いているのです。
しかも鋼鉄の成分は高価なものが多く、リサイクルしたほうがコスト安につくることができます。さらに鋼鉄でつくる製品は付加価値が高いので、リサイクルする価値も高くなります。したがって鋼鉄をつくるときに鉄スクラップを利用することは、エコであるだけでなく、環境に優しいだけでなく、経済合理性も高いといえます。
鉄スクラップは誰が売るのか
鉄スクラップは鋼鉄の材料になります。つまり製鋼会社などの鋼鉄をつくっているメーカーは、どこかからを買っています。ということはそれらを売っている人がいることになります。
2種類の鉄スクラップ(老廃由来物と工場発生由来物)
鉄スクラップには老廃由来物と工場発生由来物があります。老廃由来物は、廃車、廃船、壊したビルなどから鋼鉄を取り出したものです。
工場発生由来物は、工場で鋼鉄を加工したときに生まれる鋼鉄クズです。例えば、自動車メーカーが鋼鉄の板から車のボディをつくるとき、端材(はざい)ができてしまいます。端材では車のボディをつくることはできませんが、未使用のキレイな鋼鉄であることには変わりありません。老廃由来物はかなり汚れていますが、工場発生由来物は大抵はキレイなままです。
処理事業者が売っている
鋼鉄をつくる製鋼会社としては、購入する鉄スクラップにプラスチックや木材、コンクリートなどが混ざっていると困ります。そのため製鋼会社が買う鉄スクラップは「純粋な鉄スクラップ」でなければなりません。不純物が混ざっている鉄スクラップから不純物を取り除き、純粋な鉄スクラップをつくっているのは処理事業者です。したがって、鉄スクラップを売っているのは処理事業者となります。
処理事業者は、販売先の製鋼会社の要望に応じて、鉄スクラップの成分を調整したり、鉄スクラップの大きさをそろえたりします。そしてス処理事業者以外にも、鉄スクラップを売っている人がいます。
発生現場も売っている
処理事業者は不純物が混ざっている鉄スクラップを集めてこなければなりません。それが先ほど紹介した老廃由来物と工場発生由来物になります。老廃由来物は、ビルの解体現場や廃車処分場などで発生するので、処理事業者はそこから不純物が混ざっている鉄スクラップを集めます。
ただビルの解体業者や廃車処分場のなかには、自分たちで費用を負担してでも不純物が混ざった鉄スクラップを処分したいときがあり、そのときは処理事業者は、お金をもらって不純物が混ざった鉄スクラップを受け取ります。
一方、工場発生由来物はほとんどがキレイな鉄スクラップであり、成分も明確にわかっているので価値の高い鉄スクラップといえます。そのため工場は、工場発生由来物をスクラップ者に売ることができます。
鉄スクラップは誰が買い、何に使っているのか
鉄スクラップを買っているのは、製鋼会社などの鋼鉄メーカーです。鋼鉄は大きく、鉄スクラップからつくるものと、鉄鉱石からつくるものの2種類があります。このような説明を聞くと「鉄鉱石からつくる鋼鉄のほうが純度も性能が高く、鉄スクラップからつくる鋼鉄は純度も性能が低い」と感じるかもしれませんが、そうはなっていません。
成分調整できるから鉄スクラップの価値は高い
鉄鉱石からつくる鋼鉄と、鉄スクラップからつくる鋼鉄は、質的にまったく変わりありません。さらにいえば、高性能な鋼鉄をつくっている製鋼会社は鉄スクラップを使うことが多いので、むしろ「鉄スクラップからつくる鋼鉄のほうが高性能なことのほうが多い」とすらいえます。
鉄鉱石からつくる鋼鉄と鉄スクラップからつくる鋼鉄の質が同等なのは、どちらも確実に成分調整できるからです。鉄スクラップは、発生した時点ではゴミのような見た目ですが、鋼鉄の材料になるころには鉄鉱石と同じくらい貴重な資源になっているわけです。
まとめ~毎年、東京タワー6,000個分の鉄スクラップを無駄なく利用している
日本で1年間に発生する鉄スクラップの量は2,400万トンほどといわれ、これは東京タワーに使われている鋼鉄(約4,000トン)の6,000個分になります。そしてその約8割が鋼鉄に生まれ変わり、残りの大部分も海外に輸出されて再利用されます。地球環境を守るには、さまざまなゴミを再生資源に変えていかなければなりません。しかし多くの「新参」の再生資源は、高度な技術を使って高いコストをかけないと再利用できません。
ところが鉄スクラップはコスト安に再利用でき、無駄にする部分がありません。しかも、から生み出される鋼鉄は人々の生活やインフラを支えています。これがエコの優等生と呼ばれる所以(ゆえん)です。