機械を担保にした資金調達(ABL)とは?工作機械の動産担保活用法

執筆者 | 11月 8, 2026 | 税務・会計

機械 買取

中小企業の資金調達は、工場や事業所などの不動産を担保にした融資や、経営者個人の連帯保証に依存する形が長く主流でした。しかし、都市部以外に不動産を持たない企業や、創業から年数が浅く不動産資産が少ない企業にとって、この方法だけでは資金調達の選択肢が限られてしまいます。そこで近年徐々に注目されているのが、工場内にある機械設備そのものを担保として資金を借り入れる「ABL(Asset Based Lending/動産・売掛金担保融資)」という手法です。

筆者は以前、大手監査法人でM&Aアドバイザリー業務に携わっていましたが、当時すでに動産評価を専門に手掛けるチームが社内に存在しており、工場の機械設備や在庫資産の時価算定という独自の専門分野が確立されていることに触れる機会がありました。当時の日本ではABLという言葉自体の認知度がまだ低く、実際に活用する企業もごく一部に限られていましたが、「不動産に依存しない融資の形は、いずれ広がっていくはずだ」と感じていたことを覚えています。この記事では、工作機械を担保にしたABLの基本的な仕組みから、メリット・デメリット、導入までの実務フロー、そして動産評価の現場で感じてきたことまで、中古工作機械の査定を手掛ける立場からあらためて整理してご紹介します。

ABL(動産・売掛金担保融資)とは?基本の仕組み

ABLとは「Asset Based Lending」の略称で、不動産以外の事業用資産――具体的には機械設備、原材料や製品などの在庫、取引先に対する売掛金といった「動産」を担保として評価し、その価値に応じて融資を行う仕組みです。米国では1980年代以降、中小企業の資金調達手法として広く普及しており、日本国内でも2000年代半ば以降、経済産業省や金融庁が中小企業の資金調達手段の多様化を後押しする一環としてABLの普及を推進してきました。従来の不動産担保融資が「土地・建物の時価や路線価」を基準に融資額を決めるのに対し、ABLは「事業が実際に保有している資産の稼働状況や市場性」を基準に融資判断を行う点が大きな特徴です。融資を受ける企業にとっては、不動産の有無にかかわらず、工場で稼働している機械設備そのものが資金調達の手がかりになるという点で、選択肢の幅が広がる仕組みといえます。

不動産担保・信用保証との違い

一般的な不動産担保融資は、担保となる土地・建物の評価が比較的安定しており、金融機関にとって評価しやすいというメリットがあります。一方で、都市部の工場であれば担保価値は高くなりやすいものの、地方の工場や賃貸工場で事業を営む企業は、そもそも担保にできる不動産を持たないケースも少なくありません。また、経営者個人の連帯保証に依存した融資は、経営者自身の資産や生活に直接リスクが及ぶという問題があります。ABLはこれらとは異なり、「事業そのものが保有する資産」を評価対象とするため、不動産を持たない企業でも、設備投資に積極的な製造業であれば資金調達の選択肢として検討しやすくなります。

項目不動産担保融資ABL(機械担保)
担保対象土地・建物工作機械・設備・在庫など
評価の基準路線価・固定資産税評価額など稼働状況・市場性・再販価値
対象となる企業不動産を所有する企業不動産の有無を問わない
評価の見直し頻度数年に一度定期的なモニタリングが必要
向いている企業不動産資産を多く持つ企業設備投資型の製造業・中小企業

ABLが注目される背景――事業性評価への流れ

ABLが注目される背景には、金融機関の融資姿勢そのものの変化もあります。金融庁は「事業性評価」という考え方を推進しており、決算書の数字や担保・保証の有無だけでなく、事業の実態や将来性を踏まえて融資を判断することを金融機関に求めています。工場に設置された機械設備は、まさにその企業がどのような生産能力を持ち、どのような受注に対応できるのかを示す具体的な材料です。ABLはこの事業性評価の考え方と相性が良く、不動産や個人保証に頼らない融資手法として、中小企業庁や各地の商工会議所でも導入事例の紹介が進められています。また、事業承継やM&Aの場面でも、譲渡対象企業が保有する機械設備の実態価値を把握する必要が生じることが多く、動産評価のノウハウはABLに限らず幅広い場面で求められるようになってきています。

なぜ工作機械がABLの担保になりやすいのか

不動産以外の動産の中でも、工作機械は比較的ABLの担保として評価しやすい資産とされています。その理由の一つが、マシニングセンタや旋盤、フライス盤といった主要な工作機械には、国内外に確立された中古市場が存在することです。中古機械の流通実績や相場があるからこそ、金融機関や動産鑑定業者は「万が一の処分時にどの程度の価格で売却できるか」という観点から、比較的客観的に資産価値を見積もることができます。在庫資産のように市況によって価値が大きく変動しやすい資産と比べると、工作機械は稼働状況やメンテナンス履歴が価値に反映されやすく、評価の再現性が高いという特徴もあります。

なお、同じ工作機械であっても、NC旋盤やマシニングセンタ、プレス機といった汎用性の高い機種は中古市場での流動性が高く、評価がつきやすい一方、特定の生産ライン専用に改造された専用機や、極端に古い機械は、買い手が限られるため評価が伸びにくい傾向があります。

評価を左右する要素――メーカー・年式・稼働時間・メンテナンス履歴

動産鑑定の現場では、同じ機種であっても評価額に差が出ます。評価を左右する主な要素は、メーカーや型式といった基本情報に加え、年式、総稼働時間、定期メンテナンスの実施記録、付属品や制御装置の状態などです。たとえば、大手メーカー製で稼働時間が少なく、点検記録がしっかり保管されている機械は、同年式の他の機械よりも高い評価を受けやすくなります。逆に、改造歴が不明確であったり、メンテナンス記録が残っていない機械は、実際の性能以上に評価が下がってしまうことがあります。日頃から保守記録を整理しておくことは、ABLを検討する際の評価にも、将来的に機械を売却・買取に出す際にも、同じように役立つ資産管理の基本といえます。

また、機械の設置状況や搬出の容易さも評価に影響します。基礎工事を伴って固定設置された大型の専用機は、万が一の処分時に搬出・移設のコストがかかるため、評価がやや慎重になりやすい一方、搬出・輸送が比較的容易な中小型の汎用機は、流動性が高いと判断されやすい傾向があります。工場のレイアウトや配線・配管の状況まで含めて評価対象になることもあるため、動産鑑定を依頼する際は、機械本体だけでなく設置環境についても説明できるよう準備しておくとスムーズです。

ABL活用の主なメリット

ABLを活用することで、中小企業にはいくつかの実務的なメリットがあります。

  1. 不動産を持たない企業でも資金調達の選択肢が広がる——賃貸工場で操業している企業や、不動産資産をあまり持たない創業間もない企業でも、保有する機械設備の価値を根拠に融資を受けられる可能性があります。
  2. 機械を使い続けながら資金化できる——ABLは多くの場合「占有改定」という形式を取り、担保に入れた機械は所有権や占有をそのまま維持しながら事業で使用を続けられます。リースバックのように一時的に機械を手放す必要がない点は、製造ラインを止めたくない企業にとって大きな利点です。
  3. 保有資産の実態価値を可視化できる——動産鑑定を通じて、自社が保有する機械設備の時価を客観的に把握できます。決算書上の帳簿価額(減価償却後の数字)と実際の市場価値には差があることが多く、ABLの検討過程そのものが資産の実態を見直すきっかけにもなります。
  4. 金融機関との対話が深まる——ABLを申し込む過程では、工場の設備や在庫の状況を金融機関に詳しく説明する機会が生まれます。これにより、決算書の数字だけでは伝わりにくい事業の実態を金融機関に理解してもらいやすくなり、今後の取引関係の強化にもつながります。

活用イメージ――工作機械を担保にした資金調達の例

イメージをつかみやすくするために、一般的なケースを例に挙げてみます。たとえば、賃貸工場で金属加工業を営む企業が、新規受注の増加に対応するために加工機を追加導入したいものの、賃貸工場のため不動産担保を持たず、既存の融資枠にも限りがあるとします。このような場合、既存のマシニングセンタや旋盤など、稼働状況が良好で定期メンテナンスの記録が残っている機械を担保として動産鑑定を依頼し、評価額の一定割合(担保としての評価額に対する融資比率は機械の種類や金融機関によって異なります)を目安に融資を受けるという流れが考えられます。この間、担保に入れた機械は占有改定によって引き続き自社で使用でき、製造ラインを止めることなく、新規受注対応のための資金を確保できます。もちろん実際の融資額や条件は、金融機関の審査や動産鑑定の結果によって変わるため、あくまで一つの考え方として参考にしてください。

ABL活用時の注意点・デメリット

一方で、ABLには留意すべき点もいくつかあります。まず、動産鑑定を専門業者に依頼する必要があり、評価のための費用が発生します。評価額が融資希望額に見合わない場合、費用をかけて鑑定を行っても想定した融資額に届かないこともあります。また、ABLでは融資実行後も、担保となっている機械の稼働状況や保管状況について、定期的に金融機関へ報告するモニタリング義務が課されるケースが一般的です。在庫を担保にしている場合は在庫の棚卸報告が必要になることもあり、通常の融資よりも事務負担が増える点は押さえておく必要があります。

さらに、担保に入れた機械を処分したり移動したりする際には、担保権者である金融機関の同意が必要になる場合が多く、設備の入れ替えや工場移転の自由度が一部制約されることもあります。加えて、ABLに対応できる金融機関はまだ限られており、動産鑑定のノウハウを持つ金融機関や提携業者が少ない地域では、相談先を見つけること自体に時間がかかることもあります。評価額についても、経年による価値の下落や中古市場の需給変化によって、当初の想定より低く算定されるケースがある点は理解しておきたいところです。

動産鑑定と中古機械買取の査定の違い

ABLのための動産鑑定と、中古機械買取業者が行う査定は、どちらも機械の市場価値を見積もるという点では共通していますが、目的が異なります。買取査定は「今この機械を売却したらいくらになるか」という現時点の売却価格を算定するのに対し、動産鑑定は「担保として一定期間、価値を維持できるか」という継続的な観点も含めて評価します。そのため、動産鑑定では稼働状況の定期的な確認や、価値が大きく下落した場合の対応方法まで契約に含めることが一般的です。とはいえ、どちらも「メーカー・型式・年式・稼働時間・メンテナンス履歴」といった基本情報を重視する点は共通しており、買取査定を通じて自社の機械の相場観を把握しておくことは、ABLを検討する際の事前準備としても役立ちます。実際に、ABLの相談を検討している企業から、まずは参考として買取・査定の相場を確認したいというお問い合わせをいただくこともあります。

動産保険の加入が求められる場合もある

担保に入れた機械が火災や水害、盗難などで損壊・消失してしまうと、担保価値そのものが失われてしまいます。そのため、ABLの契約条件として、担保となる機械に動産保険(機械保険や火災保険など)への加入を求められることがあります。もともと工場で加入している保険の内容を見直し、担保に入れる機械が適切にカバーされているかを確認しておくことも、実務上の準備の一つです。

ABL導入までの実務フロー

ABLに対応している金融機関の例

ABLに対応する金融機関は徐々に広がっており、地方銀行や信用金庫が独自のABL商品を用意しているケースや、日本政策金融公庫が動産を含む資産を担保とした融資制度を設けているケースもあります。すべての金融機関が動産鑑定のノウハウを持っているわけではないため、相談の際は「動産担保融資(ABL)の取扱実績があるか」を具体的に確認するとよいでしょう。商工会議所や中小企業支援機関を通じて、対応可能な金融機関を紹介してもらえる場合もあります。

ABLの活用を検討する場合、大まかに次のような流れで進みます。

  1. 取引金融機関への相談——まずは現在取引のある金融機関、またはABLの取り扱い実績がある金融機関に、ABL対応の可否や取扱条件について相談します。
  2. 対象機械・資産の棚卸し——担保の対象として検討する機械設備や在庫を棚卸しし、メーカー・型式・年式・稼働状況などの基本情報を整理します。
  3. 動産鑑定業者による査定——金融機関と提携する動産鑑定業者、または中立的な第三者の査定業者が、稼働状況の確認や中古市場での取引実績と照らし合わせて資産価値を算定します。
  4. 担保設定契約の締結——評価額や融資条件がまとまったら、占有改定による譲渡担保設定契約を締結し、必要に応じて動産譲渡登記を行います。
  5. 融資実行後の定期報告・モニタリング——融資実行後も、契約で定められた頻度で機械の稼働状況や保管状況を金融機関に報告し、担保価値の維持を確認してもらいます。

【査定現場の視点】動産評価の現場で感じたこと

筆者は以前、大手監査法人でM&Aのアドバイザリー業務に携わっていました。その法人には動産評価を専門に手掛けるチームが別にあり、工場の機械設備や在庫資産の時価算定を行う場面を社内で何度も目にする機会がありました。当時はまだ日本国内でABLという言葉自体の認知度が低く、動産を担保として活用するという発想が、金融機関・事業者のいずれにおいても十分に浸透していませんでした。

動産評価の現場では、メーカー・型式・年式・稼働時間・メンテナンス履歴といった情報を一つひとつ丁寧に積み上げながら、中古市場での実際の取引実績と照らし合わせて価値を算定していく、非常に地に足のついた作業が行われていたのを覚えています。当時から「不動産に依存しない融資の形はいずれ広がっていくはずだ」と感じていましたが、それから十数年が経ち、中小企業の後継者不足や事業承継、設備投資ニーズの高まりを背景に、ABLは少しずつ実務上の選択肢として定着し始めています。中古工作機械の買取・査定の現場でも、「この機械は担保評価の対象になり得るか」といった問い合わせを受ける機会が以前より増えており、動産評価というテーマへの関心の高まりを肌感覚としても実感しています。

まとめ

ABL(動産・売掛金担保融資)は、不動産を担保にできない中小企業にとって、工作機械や在庫資産を活用した資金調達の新たな選択肢です。機械を使い続けながら資金化できる点や、保有資産の実態価値を可視化できる点は大きなメリットですが、鑑定費用や定期報告の事務負担、対応できる金融機関の限定性といった注意点も理解しておく必要があります。導入を検討する際は、まず取引金融機関にABL対応の可否を確認し、動産鑑定の専門業者と連携しながら進めるとよいでしょう。

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