
中古機械の査定をしていると、必ずと言っていいほど聞かれる質問があります。「機械の状態は変わっていないのに、なぜ価格が変わるのですか?」、「先月より下がっているのはどうしてですか?」、「中古機械ってそんなに相場が動くものなのですか?」。この疑問はもっともです。工作機械は株式のように毎日値動きする印象はありません。しかし実際の中古機械市場は、想像以上に“相場”の影響を受けています。
中古機械の価格は、単純に機械の状態=価格で決まっているわけではありません。実際には、
- 為替相場
- コンテナ輸送費
- 輸出規制
- 海外景気
- 鉄スクラップ相場
- 国内供給量
といった複数要因が絡み合って決まります。本記事では、その構造を具体例と実務目線で解説します。
中古機械は「国際商品」である
まず理解しておくべき前提は、中古機械は国内市場だけで完結していないということです。日本製の工作機械は、インド・東南アジア・中東などへ輸出され再稼働しています。つまり価格は「国内需要」だけでなく「海外需要」によっても形成されます。
例えば、国内では古いと評価される機械でも、海外では十分に実用可能と判断されるケースがあります。その場合、国内相場より高い価格が付くこともあります。逆に海外需要が冷え込めば、国内価格も影響を受けます。この“二重市場構造”が価格変動の土台です。
為替が価格に与える具体的影響
為替は中古機械価格に大きく影響します。仮に1,000万円の機械があるとします。
1ドル100円 → 10万ドル
1ドル150円 → 約6万6千ドル
海外バイヤーから見ると、円安になると日本製機械は大幅に割安になります。円安局面では海外需要が増え、日本国内の買取価格も上昇しやすくなります。逆に円高になると、同じ機械でも海外では割高になります。結果として価格は抑えられます。為替は短期間でも大きく動くため、査定タイミングによって価格差が生まれます。
コンテナと物流コスト
大型機械の輸出には海上輸送が不可欠です。過去にはコンテナ不足により、輸送費が通常の2〜3倍に跳ね上がった時期もありました。例えば通常50万円だった輸送費が150万円になると、買い手はその差額を機械価格から差し引きます。結果として、
輸送費上昇=機械価格下落
という構図が生まれます。
輸出規制と年式制限
輸入国によっては年式制限や環境規制があります。例えば、
- 製造から20年以内
- 特定制御装置のみ許可
- 排ガス・電気規格基準
などの規制が突然強化されることがあります。それまで輸出可能だった機械が対象外になると、販路が縮小し価格が急落することもあります。
海外景気と設備投資
中古機械の需要は製造業の景気と直結しています。景気が良いときは工場増設やライン増強が進み、中古機械需要は増加します。景気が悪化すると設備投資は止まり、価格は下がりやすくなります。
鉄スクラップ相場の下限効果
機械の最低価格は、鉄としての価値に近づきます。鉄相場が上昇すれば底値は上がり、下落すれば底値も下がります。これは価格の“安全弁”のような役割を果たします。
価格算出の裏側
実際の査定では、価格は以下の構造で組み立てられます。
- 想定販売価格(国内または海外)
- 輸送費・解体費
- 輸出関連費用
- 保管・リスクコスト
- 利益
例えば海外販売価格が800万円と想定される機械で、
輸送・諸経費が150万円
リスク費用が50万円
とすると、800 − 200 = 600万円が上限仕入価格になります。この販売価格自体が為替や景気で動くため、仕入価格も変動します。
具体シミュレーション
ケースA:円安+景気好調
販売想定:900万円
経費:200万円
仕入上限:700万円
ケースB:円高+物流高騰
販売想定:800万円
経費:300万円
仕入上限:500万円
同じ機械でも200万円の差が出ます。
ケーススタディ3本
ケース1:円安局面で価格上昇
為替が急激に円安へ進行したタイミングで、海外需要が急増。同一機種の査定価格が約15%上昇。
ケース2:コンテナ高騰で価格下落
物流混乱期に輸送費が倍増。同機種でも前月比で約10〜20%下落。
ケース3:輸出規制強化
特定年式の輸入制限発表により、一部旧型NC機が短期間で急落。
売却判断フローチャート
① 更新予定はあるか?
→ ある → 早期査定推奨
② 為替は円安傾向か?
→ 円安 → 追い風
③ 海外景気は好調か?
→ 好調 → 価格上昇余地
④ 規制リスクはあるか?
→ 年式が古い → 早期売却有利
⑤ 供給過多の時期か?
→ 補助金終了直後 → 価格下落リスク
これらを総合的に判断します。
過去10年の変動傾向(ざっくり年表で理解する)
中古機械の価格は「機械の状態」だけでなく、市場環境(為替・物流・景気・資源価格)で上下します。ここでは、過去10年ほどで“何が相場を動かしてきたか”を、時期ごとに整理します。
2015〜2016:円高方向→海外需要が鈍りやすい局面
2015年はドル円が120円前後の局面が多かった一方、2016年には100円台前半まで円高方向に振れる月が見られました。たとえばBOJ統計では、2015/03の月中最高が122.03円、2016/06の月中最低が99.00円まで動いています。円高になると海外から見た日本機械が割高になりやすく、輸出前提の需要が一服しやすい=買取相場が伸びにくい土壌になります。
2017〜2019:為替が比較的レンジ→相場は「需給・機械状態」寄りに
2017〜2019は、為替が大きく一方向に走る局面が相対的に少なく、相場は「国内外の設備投資」「国内の放出量」「機械の状態差(メーカー、仕様、稼働状況)」の影響が相対的に強く出やすい時期です(為替が動かない=価格説明が“機械側要因”に寄りやすい)。
2020:コロナ初期の混乱→案件の動きが止まりやすい
2020年前後は、需要側(投資の先送り)と供給側(工場稼働や撤去工事の遅れ)、物流側(船腹・港湾オペの不安定化)が同時に揺れました。中古機械は「売り買い」だけでなく「搬出・輸送・据付」まで動いて初めて成立するので、心理的にも実務的にも“様子見”が増え、相場の見通しが立ちにくくなりがちです。
2021:海上運賃の歴史的高騰→輸出採算が急変
2021年は、コンテナ運賃の高騰が強烈でした。DrewryのWCI(40ftコンテナ指数)は、2021年9月に約10,377ドルでピークを付け、その後は大きく低下しました(2019年の平均が約1,420ドルとされ、ピークは桁違い)。この局面では「売値が同じでも、運賃が高すぎて輸出採算が合わない」ことが起き、輸出前提の査定は下がりやすい一方で、現地在庫や“すでに輸出手配がある案件”などは例外的な値動きになることもありました。
2022:円安が急進+海上運賃は高止まり〜下落へ→評価が分かれる
2022年は為替が大きく円安方向に動き、BOJ統計でも2022/10の月中最高が150.48円に達しています。円安は海外需要を押し上げやすい一方で、物流費が高い局面が重なると「円安の追い風」と「物流コストの逆風」が同時に存在します。結果として、
- 小型〜中型で輸送効率が良い機械は強い
- 大型・重量物・分解不可で梱包が難しい機械は伸びにくい
のように、機械の条件によって相場が二極化しやすい局面でした。
2023〜2024:為替が高水準で推移→海外需要は強いが“コスト側”で差が出る
2023年後半には月中最高が151.8円(2023/11)など高水準が見られ、 2024年はさらに160円台が出ています(2024/06の月中最高161.28円)。円安で海外需要は強まりやすい一方、ここで重要なのが「輸出の総コスト」です。具体的には、
- 物流費(港湾混雑、迂回航路など)
- 金利上昇に伴う資金コスト(在庫期間が長いほど効く)
- 輸出先の景気(設備投資の温度感)
が“同じ円安でも値段が伸びる案件/伸びない案件”を分ける要因になります。
また、資源系の価格も底値に影響します。鉄スクラップは機械の“下限価格”を作ります。例として、2015年に東京製鐵のH2が約21,500円/トンという報道がある一方、直近の指標ではH2が約44,000円といった水準が見られ、長期では底値の水準感が変わっていることが分かります。
(スクラップは地域・等級でブレますが、「底値の基準が昔と同じではない」説明材料になります)
2025〜2026:高水準レンジでの上下→“タイミング差”が出やすい
2025年は140〜150円台の月もありつつ、2025年後半は再び150円台が見られます。このような「高水準レンジ内での上下」では、機械の状態が同じでも、
- 査定時点の為替
- 物流の混み具合(運賃・船腹)
- 海外の発注マインド(景気・政策)
の組み合わせ次第で、数%〜二桁%の差が出ることがあります。
この10年から言える結論
過去10年を俯瞰すると、中古機械の値動きはだいたい次の形です。
- 円安:海外需要が出やすく、上がりやすい(ただし物流費・規制次第)
- 物流高騰:輸出採算が悪化し、下がりやすい(特に大型・重量物)
- 資源高(スクラップ高):底値が上がり、下がりにくい
まとめ
中古機械価格は、機械状態 × 市場環境で決まります。為替、物流、輸出規制、景気、供給量が複合的に作用し、相場は動きます。価格が変わるのは不自然ではなく、市場が正常に機能している証拠です。売却を検討される際は、機械状態だけでなく市場環境も踏まえた判断が重要です。














