マシニングセンタが金属を切削しているところをみると「今は未来なのか」と思うことでしょう。金属の塊を大きな箱のなかにセットするだけで、自動で刃物が出てきて削り始め、しばらくするとまた自動で別の刃物が出てきて別の場所を削ります。このようにして出来上がる金属加工品の形は複雑を極め「とても人の手ではつくれない」と思うはずです。
「金属加工の超基礎解説」では金属加工の現場で登場する専門用語を、金属加工をほとんど知らない人でも理解できる言葉を使って紹介します。今回はマシニングセンタが超絶技法をどのように繰り出すのか解説します。
フライス盤の進化の度合いが「やばい」
まずはマシニングセンタに興味をもっていただくために、専門的な解説をする前に、そのすごさを紹介します。マシニングセンタは、加工対象となる金属(ワーク)を固定して刃物などの切削工具を動かして削ることからフライス盤の進化版といえますが、その進化の度合いは尋常ではありません。
どんな形の金属部品も1個でつくってみせる
高度な機械や複雑形状の金型の開発者は、複雑な形状の金属部品を求めます。その形状の金属部品でなければ必要な性能や機能を、機械や金型に持たせられないからです。しかし加工しにくい金属で複雑な形をつくることは、木材やプラスチックよりはるかに難易度が高い行為といえます。さらにミクロン単位(1ミクロンは1mmの1,000分の1)の精度が必要になったり、その金属部品が大きくなったりすると、加工の難易度はさらにあがります。
そこで開発者は、複雑形状・高精度・大型の金属部品をつくるときに、いくつかに分解してつくり、あとでそれらを合体させるわけです。しかし複数の部品を合体させると精度や耐久性が落ちてしまう可能性があります。マシニングセンタなら、どのような形の金属部品でも1個でつくることができます。開発者がどれだけ無茶な形の金属部品を設計図に描いても、マシニングセンタは1個の金属の塊からをそれつくり出すでしょう。
マシニングセンタの基本構造と仕組み
マシニングセンタは、現代の金属加工において欠かせない工作機械の一つです。NC(Numerical Control、数値制御)の進化版であるCNC(Computer Numerical Control、コンピュータ数値制御)を搭載したことで、加工を自動で行うことができるようになりました。
5軸で動く
マシニングセンタに取り付けられた切削工具は、X、Y、Z、A、Cの5つの軸で移動します。
X軸:左右移動
Y軸:前後移動
Z軸:上下移動
A軸:X軸を中心とした回転
C軸:Z軸を中心とした回転
B軸(Y軸を中心とした回転)で移動するマシニングセンタもありますが、5軸でほぼすべての動きを実現できるので5軸のマシニングセンタが一般的です。人の腕でも5軸や6軸に動かすことはできますが、5軸や6軸の動きで金属を加工することはできません。そういった意味では、マシニングセンタの動きは人の腕をはるかに超えています。
切削工具を「自分」で交換する
マシニングセンタを含むあらゆる切削機が、金属を加工するときに複数の切削工具を必要とするのは、切削工具によって金属の削り方が異なるからです。切削機の切削工具には次のものがあります。
■切削機で使われる切削工具
- エンドミル:端面や側面を削るのに適している
- ボールエンドミル:曲面や立体形状をつくるのに用いる
- ドリル:穴を開ける
- タップ:内ネジ(ネジ穴)をつくる
- リーマ:穴の仕上げに使う
- スロッター:溝やスロット(切り込み)をつくる
- カッター:面取りや角を削るときに使う
- ヘッド:広い面を削るときに使う
- リーマ:穴の径を広げるなど精密加工するときに使う
マシニングセンタは「自分」で、これらの切削工具を交換して金属を加工していきます。例えば、エンドミルで平面を削り出したあと、ドリルに持ち替えて穴を開け、さらにタップでねじを切る、といった一連の加工をコンピュータ制御で自動で行うのです。
マシニングセンタの主な部品
マシニングセンタの主な構成要素には、主軸、テーブル、リニアガイド、工具マガジン、制御装置、ATC(自動工具交換装置)、クーラント装置、チップコンベアなどがあります。それぞれの特徴と役割は次のとおりです。
■マシニングセンタの構成要素の役割
- 主軸:切削工具を取り付け、回転させる部分。高精度・高速回転が求められる。
- テーブル:加工するワークを固定し、XYZ軸などの方向に動かして位置決めを行う。
- リニアガイド:テーブルや主軸の移動を高精度に制御するためのガイド機構。
- 工具マガジン:エンドミルやドリルなどの切削工具を収納し、必要に応じて交換する装置。
- 制御装置:NC(数値制御)プログラムをもとに、各部の動作を自動制御する。
- ATC(自動工具交換装置):工具マガジンから切削工具を取り出し、主軸へ交換する機構。
- クーラント装置:切削時に発生する熱を冷却し、切削工具やワークの寿命を延ばす。
- チップコンベア:切削によって発生する金属の削りくず(チップ)を除去し、加工精度を維持する。
マシニングセンタの動きを決めるNCプログラムの超基礎
マシニングセンタの超絶技法を実現しているのは、複雑な動きをする機械と、それを動かすコンピュータ・プログラムです。そのプログラムのことをマシニングセンタではNCプログラムと呼びます。
NCプログラムとは
プログラムとは、コンピュータに指示する指示書です。コンピュータはプログラムとおりに動き、プログラムに書かれていないことは一切行いません。NCプログラムもそれと同じで、マシニングセンタの工具の移動、送り速度(工具を動かす速度)、回転速度などを決めます。
Gコード、Mコード、座標指定、寸法指定
NCプログラムを単純化すると、Gコード、Mコード、座標指定、寸法指定にわかれます。それぞれは指示することが異なります。
■NCプログラムの構成要素
- Gコード:幾何指令。工具の動きや加工パターンを指定する。位置決め、直線移動、時計回りか反時計回りか。
- Mコード:機能指令。主軸の制御や、工具の交換、プログラムの開始と停止を指定する。
- 座標・寸法指定:例えば「X=100mm、Y=50mm、Z=-20mmへ移動」など。
書き間違いをすると必ず「正しく誤る」する
NCプログラムはコンピュータ言語で書かれてあるわけですが、もし作業者がNCプログラムを書き間違えると、マシニングセンタは必ず「正しく誤り」します。つまり、書き間違ったNCプログラムとおりに動いて加工するという点では「正しい」のですが、開発者が描いた設計図とおりのものができないという点では「誤り」です。
金属加工の進化の先端にいる
もしマシニングセンタをみたことがない人が、最新鋭のマシニングセンタの動画をみたら「CGか」と感じると思います。機械自身が工具を選び、必要な箇所を削り、それを終えると使った工具をしまって別の工具を取り出して別な場所を削る様子は、まるで機械が意思を持っているかのようです。マシニングセンタが次の動作に移るときに数秒止まることがあるのですが、「さて、次は何をするんだったかな」と考えているようにすらみえます。マシニングセンタは、金属加工の進化の先端にいるわけです。