「金属加工の超基礎解説」では金属加工の現場で登場する専門用語を、金属加工をほとんど知らない人でも理解できる言葉を使って紹介します。今回は旋盤です。
旋盤は、金属加工といえばこれ、と認識されるほど重要なものです。旋盤がなければ機械や設備の重要部品をつくれないでしょう。しかしよくよく考えてみると、旋盤でつくれるものは円柱や円筒などの「円」だけです。それでも旋盤が金属加工エースでいられるのは「円の部品」が工業、産業、製造業に欠くことができないものだからです。この記事では、旋盤の基礎知識に加えて、円の部品の重要性についても解説します。
旋盤は切削加工の一種
旋盤とはなんでしょうか。
回転させた工作物に刃を当てて削る
旋盤とは、工作物(加工する金属、ワークともいう)を主軸に固定して回転させ、刃(切削工具)を前後左右に動かしながら工作物に接触させて、軸対称状に切削する工作機械です。そして旋盤加工は切削加工の一種です。切削加工とは、金属などの材料から不要な部分を削り取ることで求める形をつくる加工法です。除去加工と呼ばれることもあります。この内容を箇条書きにしてみます。
■旋盤の特徴
- 工作物を回転させる
- 工作物に刃を当てて削る
- 工作物から不要な部分を取り除いて求める形にする
なお切削加工には旋盤以外に転削もあります。転削は刃を回転させて、固定した工作物を削ります。旋盤は金属以外の素材、例えば木材やプラスチックなども加工できますが、本稿では金属を削る機械としての旋盤を紹介します。
工作物を回転させる意味
削るだけなら、刃を工作物に当てて力を入れるだけでもできます。それでも旋盤で工作物を回転させるのは次のような効果が欲しいからです。
■工作物を回転させて削ることで生まれる効果
- 均一に削れる
- 効率よく削れる
- 短時間で削れる
- 精密、正確、確実に削れる
- 小さな力で削れる
工作物を回転させることで、刃が工作物の表面全体に一定の力で当たるため、均一に削ることができます。工作物が回転していることで、刃は常に新しい接触点に当たります。接触点が次々と移動するため、刃を当て続ける限り連続的に削れることができ効率的です。
円の部品はなぜ重要か(ちなみに旋盤では円しかつくれない)
旋盤でつくれる形状は基本的に、円柱や円筒、円錐、球体などの輪切りにしたら円になる、回転対称のものだけです。
■旋盤でつくれる形状は「円の部品」だけ
- 円柱、円筒、パイプ、円錐
- 段付き円筒
- 溝、ネジ
- 球面、曲面
回転対称の形とは、中心線(回転軸)で切ると左右が同じになる形状です。そして円柱と円筒は、いずれも外観は、真上からみると円、真横からみると長方形または正方形で同じですが、円柱は中身が詰まっている、円筒はなかが空洞という違いがあります。
本稿ではこれ以降、旋盤でつくるこれらの形状のことを「円の部品」と呼ぶことにします。旋盤では工作物を回転させなければならないので、完成品の形状が円の部品に限定されてしまいます。つまり旋盤では、「ここだけを直線にして、ここは微妙なカーブを描く」といった加工ができません。それでも金属加工において旋盤が重要になるのは、工業、産業、製造業において円の部品がとても大切だからです。円の部品が重要になる理由を解説します。
理由1:強いから重要
円の部品は強度や耐圧性を出しやすい性質があります。例えば円筒形は、これに強大な力が加わっても均等に分散されるので壊れにくい性質があります。パイプやタンクなどの耐圧部品に円の部品が使われるのはそのためです。円の部品でないと、角や尖りといった形ができてしまい、そこに力が集中して壊れるきっかけになってしまいます。一方、円の部品は、壊れるきっかけがないから強いのです。
理由2:軽いから重要
強いことは軽量化に有利です。なぜなら強ければ材料を小さく、薄く、少なくできるからです。同じ強度を出すときに、円の部品は、円でない部品より軽くできます。工業・産業・製造業では軽くすることは良いことと考えられています。軽さには、1)材料を少なくできるのでコスト安になる、2)持ち運びが便利になる、3)部品が使われる構造物への負担が減る、4)動かすエネルギーを少なくできてエコ、というメリットがあるからです。
理由3:回転するから重要
何かを動かすとき、円の形状はとても有利です。円の部品は、回転時に接触面が小さく、接触した部分で発生する摩擦が均等に分散しやすいため、安定して動きます。それでベアリングや車輪、軸受けなどに円の部品が採用されています。
ネジも回転をスムーズにするために、断面が円になる形をしています。ネジは回転させる力と前進させる力を加えて使いますが、もし断面が円以外の形であれば回転も前進も難しくなるでしょう。なお、ネジは山(ネジ山)と谷(ネジ谷)が連続している形になっていて、しかもネジ山もネジ谷もらせん構造になっています。この独特な形もネジの回転と前進を助けています。
理由4:製造コストが安いから重要
旋盤は、工作物を回転させる「だけ」、刃を当てる「だけ」で円の部品をつくります。加工方法がシンプルなことは製造コストを下げることにつながります。もちろん工場で部品をつくるときは、回転させて当てる「だけ」では済まないことはいうまでもありませんが。しかも旋盤でつくる円の部品は均一な形状にできますし、作業者のスキル次第でミクロン単位の精度を出すこともできます。均一さと精度は、工業・産業・製造業においてとても重要な要素です。
旋盤の構造
先ほど、旋盤の加工は「工作物を回転させるだけ、刃を当てるだけ」と説明しました。旋盤の構造はシンプルで、主な部品は次の7つだけです。
■旋盤の主な部品
- ベッド
- 主軸台
- チャック
- 心押し台
- 刃
- 往復台
- 送り装置
ベッドは旋盤の基礎部分です。他の部品がこの上に設置され、旋盤全体の安定性を保つ役割を果たします。加工中の振動を抑えるためにも重要です。旋盤における主軸とは、工作物を回転させる軸のことです。旋盤には軸やモーターが必要なわけですが、それらが主軸台に組み込まれています。旋盤では回転スピードをコントロールする必要があり、主軸台でそれを行います。
チャックは主軸に取り付けられた、工作物をしっかりと固定する装置です。チャックが確実に工作物を固定することで、工作物と主軸が一体となって回転し安定した加工が可能となります。また、工作物は硬くて重量があり、作業中はそれが高速回転しているので、もし主軸から外れたら事故になりかねません。事故防止の観点でもチャックは重要部品といえます。
心押し台は、長い工作物を加工するときに使います。工作物は、その片方をチャックで主軸台に固定するわけですが、長い工作物になると回転しているときに、たわんでしまうことがあります。長い工作物は遠心力の影響を受けやすくなるからです。そのため心押し台で、工作物のチャックで固定されていないほうを押さえます。
刃は工作物に当てて、工作物を削って形を整える工具です。工作物は回転しているだけなので、これを削るには刃を動かす必要があり、その役割を担うのが往復台と送り装置です。往復台を使って刃を水平方向に移動させます。大まかに削るときに往復台を使い、刃の位置を微調整するときに送り装置を使います。完成品の精度を出すには、送り装置を使いこなす必要があります。
旋盤の加工の種類
旋盤が、シンプルな構造なのにさまざまな形状の円の部品をつくれるのは、加工の種類が豊富だからです。
加工1:外丸削り
最も基本的な削り方です。刃を工作物の表面(外径)に当てて削っていきます。
加工2:テーパー削り
テーパーとは、先端に向かって徐々に細くなる形状のことです。円錐形のように、先細りの形状は「テーパーがかかっている」と表現されます。旋盤加工では、工作物の手前を深く削り、奥に進むにつれて浅く削っていくことでテーパー形状をつくり出すことができます。
加工3:面削り
工作物の端面(平らな部分)を削ります。
加工4:中ぐり(穴あけ)
穴をより高精度に仕上げるための加工です。工作物の主軸(中心線)に沿ってドリルで穴を開けますが、ドリルだけでは穴の精度が十分でない場合があるため、そのあとに刃を使って穴の内側の表面を削ります。これにより穴の寸法や仕上げをより正確に調整することができます。
加工5:突切り(つききり)
工作物の表面(外径)に刃を当て、主軸の中心に向かって進めることで、工作物を切断します。
加工6:溝入れ
工作物の表面(外径)に刃を当てて主軸の中心に進み、それを途中でやめると溝ができます。
加工7:ネジ切り
ネジをつくるには工作物にネジ山とネジ谷をつくりながら、らせん形状にする必要があります。刃を移動させることでそれが可能になります。重要なのはネジ山の部分を削ってしまわないことです。ネジ山はそのまま残さなければならないので、刃はネジ谷の部分だけを削るように動かします。このため、工作物の回転速度と刃の移動速度を正確に同期させる必要があります。
バイト(刃、切削工具)の解説
旋盤を構成する7つの部品のなかから1つだけ選んで詳しく解説します。それは刃(切削工具)です。詳しい解説は「超基礎」の趣旨から少し外れてしまうのですが、刃は工作物に接触して形をつくっていく部品なので選びました。
旋盤の刃以外のすべての部品が完璧な状態にあっても、刃に不具合があったら精密な部品をつくることはできません。刃は手の中指くらいの小さな部品ですがとても重要です。なお本章では刃のことを、金属加工の現場で実際に使われているバイトという名称で呼びます。
柄のシャンクと刃先のチップで構成
バイトは、柄の部分のシャンクと刃先のチップの2つの部品で構成されます。シャンクは旋盤に固定する部分です。チップはシャンクの先端についていて、工作物に接触して削ります。バイトには、シャンクとチップが一体式のものと、ほぼ一体式のものと、別体式のものがあります。
■バイトの種類
1:無垢(むく)バイト(一体式)
シャンクとチップにわかれてなくて、両方とも同じ素材でできています。クレヨンのように全体をチップとして使うことができます。バイトの先(チップに相当する部分)を削って形を整えてから旋盤にセットして使います。チップ相当部分が摩耗しても、削ればまた使えます。
2:付刃バイト(ほぼ一体式)
シャンクとチップを別々につくり、あとから接着したものです。その接着方法をロウ付けといいます。チップが摩耗したら、削ってまた使えるのは無垢バイトと同じです。ロウ付けは、シャンクとチップをほぼ一体にしているので、チップ部分がなくなったらシャンクも廃棄します。
3:スロー・アウェイ・バイト(別体式)
シャンクとチップを別々につくり、ネジなどで合体させたものです。チップが摩耗したら、チップだけを新しいものに取り換えて、シャンクは継続して使用できます。エコ仕様といえ、現在のバイトの主流になっています。Throw-awayは使い捨てという意味です。
チップに使われる素材
スロー・アウェイ・バイトはエコなだけでなく、工作物の素材ごとに、あるいは切削の狙いごとにチップを替えることができるので便利です。チップでよく使われる素材は超硬合金で、硬さと粘り強さを兼ね備えている利点があります。超硬合金には鉄鋼、ステンレス鋼、鋳鉄、アルミニウム合金、チタン合金などの種類があります。
チップの形状
またチップの先端の形状も種類があります。先端が細いほど(尖っているほど)低い抵抗で削れますが摩耗しやすくなります。先端が太くなると(尖りが少なくなると)チップの剛性は高くなりますが、摩擦が大きくなるので、びびり(予期せぬ振動)が起こりやすくなります。
NCについての余談的な解説
金属加工の王道中の王道である旋盤についてみてきました。旋盤は工作物を回転させる「だけ」、刃を当てる「だけ」で精密部品をつくることができる、シンプルながら優れた加工技術です。その基本的な仕組みは、古代エジプト時代(およそ5000年前)にはすでに存在しており、木工などの手作業で使われていました。その後、15世紀にレオナルド・ダ・ヴィンチが旋盤の設計図を描き、近代的な旋盤の構造が確立されました。その原理がIT時代の今も使われているのは驚くべきことです。
最後にNC(Numerically Control、数値制御)について触れておきます。NCは数値で工作機械を動かす仕組みです。旋盤にもNCバージョンのものがあり、人の手で1ミリ動かすところを、「1ミリ」と入力することで機械が自動で1ミリ削ります。NCの登場により工作機械と金属加工は新時代を迎えました。NCと似た概念にCNC(Computer Numerical Control)があり、これはコンピュータで工作機械を動かします。
ではNC旋盤にはコンピュータが使われていないのかというと、もちろんそのようなことはありません。NC旋盤とCNC旋盤の違いは何かというと、実は現場ではほぼ同じ意味で使われています。つまりメーカーがCNC旋盤と名づけていても、工場ではみんながNC旋盤と呼んでいるかもしれません。