品質管理とは?

執筆者 | 10月 4, 2024 | ブログ

品質管理

金属加工会社のなかには、「品質管理がうまくいかない」と感じているところもあるでしょう。そこでこの記事では、品質管理を基礎から解説します。さらに応用編として、ISO9001や統計的工程管理、6シグマ、故障モード影響度解析を紹介しています。

歩留まり100%の工場が実現不可能である以上、金属加工会社は品質管理を継続していかなければなりません。また、顧客からより高い精度を求められたら、品質管理もグレードアップしていく必要があります。品質管理は終わりなき取り組みといってよいでしょう。

【基礎編】品質管理とは何か

まずは品質管理の基礎を解説します。

品質管理とは(1)約束を守ることである

品質管理は、顧客との約束を守るために行います。品質管理は、品質と管理にわけると理解しやすいでしょう。まず品質ですが、これは単なる良い状態のことではありません。金属加工会社がつくる金属製品の品質は、顧客が求める機能、性能、精度のレベルと言い換えることができます。顧客が求める機能、性能、精度のレベルを超えたとき、その製品は品質が高いといわれます。

続いて管理ですが、品質は何もしないと必ず低下するので検査や監視が必要になり、これらの行動をまとめて管理といいます。金属加工会社は、顧客に対して品質の高い金属製品をつくることを約束しているわけですが、それには品質を保証しなければなりません。

品質管理とは(2)3つの検査である

品質管理で具体的に実施することは検査です。検査とは基準に基づく確認であり、金属加工会社の場合は顧客が求める機能、性能、精度が基準になります。金属加工会社が実施する主な検査には次の3種類があります。

  • 受入検査
  • 工程内検査
  • 出荷前検査

受入検査では、金属加工会社が購入した原材料や部品が、自社の基準をクリアしているかどうかを確認します。良い素材を仕入れないと良い製品はつくれません。

工程内検査は、それぞれの工程で行う確認です。例えば自社に鋳造、切削、溶接、表面処理の工程があれば、それらの加工が終わった段階で検査(=工程内検査)を行います。工程内検査を行うことで後工程に不良品を渡さなくて済みます。またそれぞれの工程内での歩留まり(良品率)がわかるので、改善ポイントをみつけやすくなります。出荷前検査は「最後の砦」であり、この検査に失敗すると顧客に不良品が届いてしまいます。

品質管理とは(3)測定である

では検査で何をするのかというと、測定です。測定方法はたくさんあり、精度が上がるほど、形状が複雑になるほど必要になる測定の種類が増えます。測定では測定器具を使ったり外観をチェックしたりします。ノギスは長さ、深さ、内径、外径を図る測定器具です。平面度や真円度を測るときはダイヤルゲージを使います。

3次元測定機は検査対象の金属部品の外形のすべてを3D空間で把握して測ります。高性能の3次元測定機を使えば、金属部品のあらゆる長さが一発でわかります。表面粗さ測定機は、表面の凸凹を測定します。硬度計を使うと金属の硬さがわかるので耐久性や加工適性を評価できます。金属の内部を「みる」にはX線透視検査装置が使われます。レーザー測定機は検査対象に物理的に接触することなく測れるので、衝撃を与えたくない金属製品の検査に適しています。

品質管理とは(4)監視である

品質管理でのもう一つの仕事は監視です。作業者は自分がつくっている製品と、それをつくるための機械を監視しなければなりません。工場長やリーダーなどは、作業者が正しい方法で検査を行なっているか監視する必要があります。あまり考えたくないことですが、担当者がサボって検査をしないことも想定しなければなりません。なぜなら検査していないことを証明することは難しいからです。

偶然、検査していない時間に不良品が発生しなかったら、検査をした結果不良品がみつからなかった場合と同じ結果になります。そのため検査担当者には「検査しなくても大丈夫かもしれない」あるいは「手を抜いた検査でも問題ないかもしれない」という誘惑が湧く可能性があります。その可能性をゼロするために監視が必要になるのです。

品質管理とは(5)体制である

品質管理は1)チームで、2)生産の一部として、行う必要があります。この2つの条件をクリアするには、社内に品質管理体制をつくらなければなりません。品質管理体制は、誰が何をどのように検査・測定・監視をするかを定めることで構築できます。品質管理部門を設置して、検査・測定・監視内容をマニュアルの形で明文化すべきでしょう。品質管理部門をつくることで、そのほかの部署と連携できるようになり、相乗効果が生まれます。

品質管理部門は、開発部門と打ち合わせをして検査・測定の方法を決めたり改善したりします。全数検査するのか、サンプル検査するのかも決める必要があります。品質管理部門はさらに、検査・測定結果を製造部門にフィードバックしなければなりません。歩留まりが落ちていたら、品質管理部門が製造部門に指摘しなければなりません。品質管理部門は製品のどこにどのような形で不具合が生じているのかを把握できるので、製造部門が実施する改善策に協力することができます。

営業部門との連携も必要になります。顧客が営業担当者に値下げを強く要望したら、検査基準を緩めることでコストダウンを実現できるかもしれません。検査を緩めれば、つまり精度を下げれば歩留まりが上がってコストダウンを実現できるので、顧客がこれに同意すれば、検査内容を簡素にしていきます。もちろんその逆に、顧客が営業担当者に「製品単価を値上げしてもよいので精度を高めて欲しい」と要望されたら、品質管理部門はコストをかけて検査内容を厳しくして精度を高めます。

品質管理とは(6)利益を生まない手間である

ここまで品質管理のポジティブな面を紹介してきましたが、ネガティブな一面もあります。それは、品質管理は利益を生まず、むしろコストがかかり、しかも手間がかかることです。例えば製造部門が使う製造設備は、つくるものなので利益を生みますが、品質管理部門が使う測定器具は、つくるものではないので利益を生みません。

しかも検査担当者が一生懸命仕事をすればするほど、つまり、検査内容を厳しくするほど、不良品としてはじかれる製品が増えるので損失が増えてコスト高になります。さらに、検査をする時間の分だけ出荷が遅れるので、納期管理が難しくなります。検査は、検査をした結果不良品がみつからなかったら、検査しなかったときと同じ結果になる、という悲しい宿命を背負っています。

品質管理とは(7)ルール(JIS)である

日本産業規格(以下、JIS)は、日本国内の製品の品質、性能、安全性の基準です。金属加工会社の品質管理ではJIS(規格)がベースになることが多いでしょう。顧客は「JISの範囲内であればOK」と要望するかもしれません。

また金属加工会社がJISマークを取得すると、顧客は安心できます。JISマークは、国に登録した認証機関が製造業企業の品質管理体制を審査して、製品試験において品質がJISに適合している製品に表示するものです。金属加工会社の品質管理担当者は自社製品に関わるJIS規定について詳しくなっておく必要があるでしょう。

参照:https://www.gbrc.or.jp/jis/about/

【応用編】品質管理の品質をさらに高める方法

品質管理の基礎を抑えたら次は応用に進みます。品質管理に「終わりがない」以上、金属加工会社は常に品質管理のレベルの向上を目指していくことになります。

ISO9001

品質管理のレベルを上げたいと考える金属加工会社は、ISO9001認証の取得を目指すとよいでしょう。ISO9001は、国際標準化機構(ISO)が策定した品質管理システム(以下、QMS)で、国際標準になっています。したがって金属加工会社がISO9001認証を取得すれば、対外的に「当社の品質管理は世界標準レベルです」とアピールすることができます。

ISO9001認証は、第三者機関の審査にパスすることで取得することができます。では何を審査するのかというと、例えば次の3つです。

■ISO9001の審査対象(代表的な3つのこと)

  • 品質管理に関わる文書の整備。例えば関連業務のマニュアル作成など。
  • 製造工程の定義。どの部署のどの役割の人が、何をどのように行うのか。手順を決めているか。その手順は適正か。適正な手順とおりにできているか。
  • 従業員の教育と訓練。例えば従業員が品質管理方針を理解し実行しているか。

これらのことが、ISOが求めるレベルで達成できていれば、その金属加工会社はISO9001認証を取得できるわけです。なおJISQ9001というものもあります。こちらは日本工業標準調査会(JISC)が、ISO9001を日本語訳した日本工業規格なので、JISQ9001の要件を満たせばISO9001の認証を取得することができます。したがって大元はISO9001である、といえます。

統計的工程管理(Statistical Process Control、SPC)

統計的工程管理は、それぞれの製造工程で品質に関わるデータを取り、異常を検出する手法です。一般的な品質管理は、不良品が増えたときに「異常が起きている」と考えて、原因を追究して解決に乗り出します。一方、統計的工程管理では、不良品や異常が発生する前に原因を潰してしまいます。

統計的工程管理で重要になるのが、品質に関わるデータと、そのデータを取り続けることです。品質に関わるデータが通常と異なる値を示したら「異常が起きる予兆」と考えて、データが元の数値に戻るように各所を調整します。データを取るには計測装置が必要になるので、投資が欠かせません。例えば、計測装置をインターネットにつなげば(IoT化すれば)、一人の品質管理担当者で工場内すべての機械・設備のデータをモニタリングすることができます。つまり統計的工程管理は金属加工会社のDX化に関係する取り組みとみなすこともできます。

統計的工程管理の考え方は、品質管理担当者だけでなく経営者も持っておいたほうがよいでしょう。統計的工程管理を実行するには一定の投資が必要になるからです。経営者が「うちの工場でも統計的工程管理をやる」と決断して、予算をつけます。

6シグマ

6シグマは品質管理のフレームワークの一つです。フレームワークとは、「問題が起きたときに使う事前に決めておいた解決策や行動指針」のことです。したがって金属加工会社で品質管理上の問題が生じたときに、6シグマを使って解決します。シグマとは、データの散らばり具合を表す数値「標準偏差」の単位です。1シグマの範囲内に全データの68.3%が収まります。6シグマまでの範囲は以下のとおりです。

  • 1シグマ:68.3%
  • 2シグマ:95.4%
  • 3シグマ:99.7%
  • 4シグマ:99.9937%
  • 5シグマ:99.99994%
  • 6シグマ:99.9997%

つまり6シグマのなかには、全データの99.9997%が入ることになります。シグマの値が大きくなるほど、データのばらつきが少なくなることがわかります。品質管理における6シグマは、良品率を99.9997%にする取り組みです。これはつまり、1,000,000個つくって約3個しか不良品が出ない状態です。

この説明だけを聞くと「1,000,000個生産して約3個しか不良品が許容されないのは厳しすぎる」と感じるかもしれません。しかし5シグマまで緩和してしまうと「1,000,000個生産して約233個の不良品を許容」することになり、4シグマにすると「1,000,000個生産して約6,210個の不良品を許容」することになります。そのため金属加工会社が本気で品質管理を強化するなら6シグマが必要になります。6シグマはアメリカの大手ものづくり企業で採用され大成功を収めました。

故障モード影響度解析(Failure Mode and Effects Analysis、FMEA)

故障モードとは、故障の原因のことです。例えば、部品の破損、設計ミス、製造不良、電子機器のショート、機械の摩耗、材料の不具合などが故障モードになります。故障モード影響度解析は、1)製造工程における故障モードを特定し、2)その影響を評価する手法です。

故障モード影響度解析ではまず「製造工程には潜在的な故障モードが存在する」と仮定します。その後、それぞれの故障モードが発生する可能性、影響の大きさ、検出の難易度を評価します。次に、特定した故障モードのリスクを見積もり、リスクが高い故障モードから優先的に予防策を講じます。こうすることで故障の発生確率を減少させることができます。

したくないのに重要だから「かなり重要」

先ほど品質管理のことを「利益を生まない作業」と紹介しましたが、この裏には「品質管理は利益を支える作業」という重要な意味があります。品質管理を怠ると、金属加工会社は不良品を生み続け、顧客の信頼を失い、結果として利益も減少します。品質管理をしても利益は増えないが、品質管理をしないと利益が減るのです。

それにも関わらず「利益を生まない作業」とみなされるので、品質管理は実施が難しくなります。経営者や従業員は、利益に直接結びつかない作業をしたくないからです。「したくない作業なのに重要であるということは、かなり重要なのだ」と認識して、品質管理の実施と改善を継続的に行っていきましょう。