タクミセンパイの切削工具フェスってなんだろう

執筆者 | 8月 7, 2023 | ブログ

切削工具

切削工具に特化したイベント「切削工具フェス」が2023年7月に開催されました。金属加工会社の経営者や従業員には気になるイベント名だと思いますが、「聞いたことがない」という人のほうが多いのではないでしょうか。それもそのはずで、このイベントは、タクミセンパイという切削加工業界にどっぷりはまっている人が運営しているもので、まだそれほどバズっているわけではありません。

それでも本稿で紹介しなければならないのは、タクミセンパイのミッションが、切削加工に携わる人々の情報格差をなくすこと、となっているからです。金属加工に関する情報ですらそれほど多くないのに、そのうちの切削加工の情報となるとさらに希少なので、金属加工業界にいる人なら興味がわくはずであると考えました。切削工具フェスがどのようなもので、タクミセンパイが何をしようとしているのか解説します。

参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000098925.html

ハットリさんとは

タクミセンパイの正体は服部成治さんという方で、かつてバリ取りを自動化する工具のメーカーで働いていました。担当は営業とマーケティング。タクミセンパイは正確には服部さんのことではなく、服部さんがつくった切削加工の情報サイトの名称です。そのURLは以下のとおり。

■切削加工の情報サイト、タクミセンパイのURL

https://takumi-senpai.com/

名称の由来は、若手の切削加工作業者に技術と情報に精通した先輩のようになって欲しいから、だそうです。

こちらが服部さんの自画像のようです。

出典:https://takumi-senpai.com/about-us/

切削工具の情報に着目した理由

服部さんが切削工具の情報を発信しなければならないという使命感に駆られたのは、バリ取り工具メーカーで働いていて次のように感じたからです。

  • バリ取り工具を購入する会社の企業規模、所在地、担当者の役職、所属部署、取引先の販売店によって切削工具の情報量に違いがある
  • 切削工具の情報の量と質が、メーカーごとに、Webサイトごとに、カタログごとに異なる

正しい情報と質の高い情報がたくさん入手できないと、若い切削加工作業者はタクミセンパイになることができません。切削加工従事者たちが関連情報の収集に苦労しているだろうと考え、服部さんは2020年12月からタクミセンパイ事業を始めました。

切削工具の日までつくってしまった

服部さんの切削工具愛はすさまじく、7月5日を切削工具の日にしてしまったほど。日本記念日協会への登録も済ませています。同協会の切削工具の日の説明は以下のとおり。

■日本記念日協会認定の切削工具の日(7月5日)とは

切削工具と切削加工業界の情報を発信する「切削工具の情報サイト タクミセンパイ」が制定。自動車や航空機などの金属部品の多くは切削工具で加工され、日本には優れた切削工具メーカーが多数存在する。切削の「切」に「七」が入っていることから7月、工具の「工」が「こう→ご→五」で5日。

参考:https://www.kinenbi.gr.jp/

ネットイベント「切削工具フェス」について

タクミセンパイについてもっと知りたいところだと思いますが、それは後段に譲り、ここで2023年7月1~31日にインターネット上で開催された切削工具フェスの概要について紹介します。同フェスは以下の4つのイベントで構成されました。

■切削工具フェスの4つのイベント

  • 切削工具改善コンテスト
  • 切削工具セミナー
  • #切削工具の日
  • 切削工具大規模調査

1つずつみていきましょう。

切削工具改善コンテスト

切削工具改善コンテストは工作機械で部品加工をしている切削加工ユーザーに仕事の改善点を紹介してもらうもの。その内容は、新しい切削工具を使って生産性が向上した事例や、通常のタップから高性能タップに変更した事例、タップからスレッドミルに変更した事例など。切削加工ユーザーが紹介した改善点をコンテスト形式で競い、賞金を授与したり、インタビューを行ったりしています。なお2022年の切削工具改善コンテストの受賞者インタビューは下記のページで公開されています。

この受賞者は、旋削加工用の内径・外径工具を変更したことで、1)加工時間短縮による生産性向上と原価低減を図ることができた、2)摩耗しても切粉が伸びなくなり切粉の廃棄処理が楽になった、という成果が得られたと報告しています。

切削工具セミナー

切削工具セミナーは、タクミセンパイが無料のユーチューブ・セミナーを開く内容です。切削加工ユーザー向けと、機械工具販売店向けと、切削工具メーカー向けのユーチューブ・セミナーを用意しました。テーマは「EV化の影響とビジネスチャンス」「Z世代の登場」「切削工具に関する独自データ」でした。

#切削工具の日

#切削工具の日は、このハッシュタグを使ってツイッターで切削工具についてつぶやいてもらうイベント。切削工具の写真をツイッター上にあげた人にタクミセンパイのTシャツやステッカーをプレゼントしました。

切削工具大規模調査

切削工具大規模調査は切削加工ユーザーにアンケート調査を行うもの。ただ残念ながらこの調査結果は非公開で、アンケートに回答した人だけが「限定レポート」を受け取ることができます。

タクミセンパイ事業が目指すところ

それではあらためて服部さんのタクミセンパイ事業について紹介していきます。

参考:https://takumi-senpai.com/

切削工具ユーザー評価ランキング

タクミセンパイ事業はインターネット上で展開されています。まず紹介したいのは公式サイトの切削工具ユーザー評価ランキングで、かなり攻めた内容になっています。例えばフェイスミルのランキングでは次のように報告されています。

■切削工具ユーザー評価ランキング:フェイスミル編

1位、三菱マテリアル製フェイスミル ●総合ポイント:69点 ●ユーザーの声:刃持ち、扱いやすさ、種類の豊富さでほかの工具に移行しようと思わない。  
2位、住友電工ハードメタル製フェイスミル ●総合ポイント:54点 ●ユーザーの声:信頼性と実績、チップ材種の豊富さで採用を決めた。  
3位、タンガロイ製フェイスミル ●総合ポイント:53点 ●ユーザーの声:径や形状のラインナップが多く、さまざまな用途に対応している

このようにメーカーと製品名を実名で出し、ユーザーの声も載せ、さらに点数をつけて順位づけまで行っています。フェイスミル以外に、エンドミル、ボールエンドミル、サイドカッター、Tスロットカッター、面取りカッター、ドリル、リーマ、ボーリング、タップ、スレッドミル、ツールホルダー、旋削工具(内径・外径)、旋削工具(溝入れ)、旋削工具(ねじ切り)、旋削ホルダ、バリ取り刃物、バリ取りブラシについてランキングをつけてメーカーと製品を紹介しています。

業界に忖度しない姿勢は評価に値するでしょう。また製品の紹介内容が充実していて、若手の切削加工作業者には参考書代わりになるはずです。

切削工具関連サービス・ユーザー評価ランキング

切削工具関連サービス・ユーザー評価ランキングでは、切削工具関連サービスを提供している会社をランキング形式で紹介しています。順位はユーザー・アンケートによる回答で決めています。1位のS株式会社については「総合ポイント10点、製品面の推奨度2」「オーダーメイド工具を提供している」「事業内容は、超硬合金切削工具・耐摩工具・ダイヤモンド工具・特殊工業用刃物の設計、開発、製造、販売」などと紹介しています。

ただこの総合ポイント10点は、わずか5人のユーザーのアンケート回答でつけられたものです。総合ポイント8点で3位になった株式会社Iにいたっては、2人のユーザーのアンケート回答で評価しています。このサンプル数では客観性に疑問が生じかねず、今後の課題になるかもしれません。

経営戦略の提言も

タクミセンパイではさらに、金属加工会社に対して経営戦略を提言しています。例えば服部さんは、これからの金属加工会社はZ世代の照準を合わせていくべきだと述べています。Z世代とは2020年時点で15~24歳の人たちのこと。服部さんは「切削加工業界にZ世代が少ないことが予測できますが、これから購買におけるメイン顧客層になっていく」と述べたうえで、次のようにアドバイスしています。

  • 金属加工会社の公式サイトはスマホに合わせたデザインにしたほうがよい
  • Z世代はタイパ(タイムパフォーマンス)を重視することから、みやすくて探しやすいサイトをつくったほうがよい

これらの提言やアドバイスには、服部さんのバリ取り工具メーカーでのマーケティング業務の経験が反映されているのでしょう。

まとめ~業界を盛り立てる原動力に

タクミセンパイ事業は服部さん個人で行われている模様で、この事業の収入の柱はサイトに掲載する広告のようです。広告の出稿に興味がある金属加工会社は、以下のページから料金などを確認することができます。

■タクミセンパイの広告の案内

これだけ詳しく切削工具について紹介している個人のサイトはなかなか存在しません。リサーチが深く、しかも切削工具の日を制定し、切削工具のイベントまで開催するほどこの業界を愛している様子です。金属加工業界や切削加工業界を盛り立てる原動力になるのではないでしょうか。