これから金属加工の仕事に従事する人が押さえておきたい金属の基礎知識を紹介します。金属加工会社の職人が金属の特性を知っていると、顧客が製品に求める性能にマッチした金属を選ぶことができます。金属の加工のしやすさ・しにくさを知っていると、顧客が特定の金属を指定して加工を依頼してきたとき、すぐにコスト計算ができるようになるでしょう。
この記事では最初に「金属とは」を解説したうえで、118種類の金属のうち金属加工に多く使われる鉄(≒鋼)、ステンレス、アルミニウム、銅、チタンの特徴、用途と加工上の注意点を紹介します。
金属とは
金属とは、1)光沢を持ち、2)電気または熱をよく伝える、3)展性と延性を持つ、4)常温で個体である、という4つの特性を持つ物質のことです。ただ水銀は例外的に常温で液体の金属です。
展性とは、圧縮する力を加えたときに変形する能力です。石は圧力を加えられると変形する前に割れてしまいますが、属性を持つ金属は割れる前に変形します。特に金は展性に富み、例えば金箔は1万分の1ミリまで薄くできます。延性とは、引っ張る力を加えたときに変形する能力です。金属は細い棒や糸状にして使うことができるのですが、これは延性があるからです。
もちろん金属も、圧縮する力や引っ張る力を加え続けるといつか壊れます。しかし破壊される前に展性や延性の性質をみせるところが、金属の「魅力」になります。だから金属はさまざまな製品に使われているのです。金属の種類は、金属元素で数えると118個あるので「118種類ある」といえるのですが、複数の金属元素を融合させた合金も含めると「無数にある」といえるでしょう。なお、地球上のすべての元素の4分の3が金属元素なので、「地球はほぼ金属」ということができます。ちなみに地球の重量の3割は鉄(Fe)が占めています。
鉄≒鋼の特徴、用途、加工上の注意
それでは金属の種類ごとに特徴、用途、加工上の注意をみていきましょう。まずは鉄です。「鉄」の理解は簡単ではありません。「鉄」の最も正しい意味は金属元素Feですが、Feが100%の「鉄」はもろいので世の中にほとんど出回っていません。
また、金属に詳しくない人は鉄鉱石も自動車のボディも「鉄」と呼ぶことがありますし、金属全体のことを「鉄」と呼ぶ人もいます。そして製品としての「鉄」のほとんどは「鋼(はがね)」ですので、以下は鋼について解説します。なおステンレスも鋼の一種なのですが、とても特殊で、なおかつ重要なので次の章で紹介します。ここではステンレス以外の鋼についてみていきます。
【鉄≒鋼の特徴】
鋼はFeに炭素を混ぜたもので、これによって強度や靭性(粘り強さ)が出るので「使える鉄」になります。炭素の量が0.02%以下のものを「純鉄、または鉄」、0.02~約2%のものを「鋼」、それ以上のものを「鋳鉄」というのですが、鋳鉄のことを「鉄」と呼ぶことがあるので混乱しないようにしてください。鋼はさらに、炭素量が0.02~0.25%のものを低炭素鋼、0.25~0.6%のものを中炭素鋼、0.6~約2%のものを高炭素鋼と呼びます。
上記の内容をまとめると以下のようになります。
名称 | 炭素量 | ||
純鉄、または鉄 | 0.02%以下 | ||
鋼 | 0.02~約2% | 鋼のなかの内訳 | |
0.02~0.25% | 低炭素鋼 | ||
0.25~0.6% | 中炭素鋼 | ||
0.6~約2% | 高炭素鋼 | ||
鋳鉄、または鉄 | 約2%以上 |
なお「Fe+炭素」にはさらに「Fe+炭素+α」の金属もあり、それらのなかには合金鋼や特殊鋼と呼ばれる鋼もあります。したがって炭素鋼は、合金鋼や特殊鋼ではない鋼と定義することもできます。ステンレスは合金鋼になります。
【鉄≒鋼の用途】
鋼は橋、船、大型機械、車両、機械、建築物などに使われています。モノづくりの開発者が金属で何かつくろうと考えたとき、まずは鋼を検討するはずです。鋼のなかでも一般構造用圧延鋼材と呼ばれるSS材のうち、SS400は最も汎用性が高く、安価で高性能なので、モノづくりの開発者が「鋼を使おう」と考えたとき、まずはSS400を検討するのではないでしょうか。SSはSteel Structureの略で、そのうしろの数字は引っ張りの強さです。SS400は引張強度が400N/平方ミリメートルという意味です。
【鉄≒鋼の加工上の注意】
鋼は溶接しやすい金属として知られています。鋼の溶接のしやすさはステンレスと同程度で、アルミニウムよりはるかに溶接しやすいというレベルです。鋼の削りやすさは、削りにくいステンレスと削りやすいアルミニウムの中間くらいです。したがって、削ってから溶接する製品をつくるときは鋼が適しています。
鋼のなかでも炭素量が少ない低炭素鋼は、熱処理してもほとんど硬くなりません。熱処理して硬くする必要がある製品をつくるときは、高炭素鋼を使うとよいでしょう。鋼の欠点は重いこと(比重が大きいこと)です。軽い製品をつくるときはアルミニウムやチタンを選ぶことになりますが、そうなるとコストが高くなってしまいます。
ステンレスの特徴、用途、加工上の注意
ステンレスが鋼の一種なのに、鋼と区別して扱われるのは、圧倒的な性能を持つからです。それは錆びにくさです。金属が錆びると、もろくなって精度が狂って見た目が悪くなり、ときに使い物にならないことがあります。そのため「錆びにくい鋼」であるステンレスは別格扱いになるのです。
【ステンレスの特徴】
ステンレスの錆びにくい秘密はクロムです。クロムはステンレスの表面に不動態被膜という膜を張る性質があります。錆びとは鉄(Fe)と酸素が結びついて酸化鉄が生じる現象なのですが、不動態被膜ができるとステンレスのなかのFeが酸素と結びつくことができないので錆びにくくなります。より錆びなくさせるために、ステンレスにさらにニッケルを加えることもあります。ステンレスの鋼材はSUSと表記され、これはSteel Use Stainlessの略です。
【ステンレスの用途】
ステンレスは食器、厨房用品、建築物、機械、医療器具、航空機部品、原子力発電、ボルト、ネジ、屋根、水道管、などに使われます。またステンレスは熱伝導率が低いので、つまり熱を伝えにくく保温性に優れるため、水筒やポットに使われます。
熱伝導率の低さは製品によっては欠点になります。ステンレスが自動車のエンジンに使われないのは、熱を逃がさないので高温になってしまい故障の原因になるからです。エンジンにはアルミニウムが使われることが多いでしょう。したがって自動車部品のうち、熱を持つことが少ない部品にはステンレスが使われることがあります。
【ステンレスの加工上の注意】
ステンレスの欠点はもう1つあり、それは加工しにくいことです。これも「熱伝導率の低さ」=「熱がこもること」が原因になっています。切削加工をするために回転する刃をステンレスに当てると、高温になって刃の摩耗が進んでしまうのです。ステンレスを切削加工するときは、ステンレス快削鋼という特殊な鋼でつくった刃を使うことになります。ステンレスは切断したときにバリが発生しやすいので、レーザーカットを用いるとよいでしょう。
ステンレスは曲げるのも手間がかかります。金属に力を加えて変形させたあと、力を除去したときに元の形に戻ることをスプリングバックというのですが、ステンレスはスプリングバックが発生しやすい金属です。したがってステンレスは曲げにくい金属といえます。ステンレスはさらに溶接がしにくいことでも知られています。ステンレスは種類によって成分がかなり異なるので、それに応じて溶接方法を変えていく必要があります。このような加工のしにくさから、ステンレスは、複雑な形にすることが求められる自動車のボディにほとんど使われていません。
アルミニウムの特徴、用途、加工上の注意
「アルミニウム=軽い」というイメージは多くの人が持っていると思います。アルミニウムの比重は2.7で、鉄(Fe)の7.8や銅の8.9と比べると圧倒的に低く、つまり圧倒的に軽いということです。比重2.7とは、1立法センチメートルの重量が2.7gということです。
鋼もステンレスもFeをベースにしていますが、アルミニウムの原料はボーキサイトという鉱石です。ボーキサイトを苛性ソーダという液体で溶かしてアルミナという物質を抽出します。アルミナを電気分解するとアルミニウムができます。
【アルミニウムの特徴】
モノづくりにおいて軽いことは大きなアドバンテージになります。自動車や飛行機が軽くなると、同じ馬力や同じ燃料の量でも速く遠くまで移動することができます。また、材料や製品が軽くなると作業効率がアップします。完成品が軽量になると輸送費が安くなります。したがってモノづくりでは、製品に鋼やステンレスが持つ高い性能を持たせる必要がなければ、アルミニウムを使って軽くしたほうがよい、と判断できます。
また、アルミニウムは表面に酸化被膜という膜をつくるので、鋼のように錆びることがありません。さらにアルミニウムに別の金属を混ぜることで耐食性を高めることができます。
【アルミニウムの用途】
アルミニウムが使われているモノは次のとおり。自動車、航空機、船舶、建築物、ロケット、鉄道、食品、医療品、スマホ、飲料缶など。
【アルミニウムの加工上の注意】
アルミニウム単体では引張強度はさほど大きくないのですが、マグネシウム、マンガン、銅、ケイ素、亜鉛などを加えてアルミ合金にしたり、熱処理したりすると驚異的に強度が増します。
例えば「アルミニウムといえば1円玉」というイメージを持っている人は、自動車のエンジンにアルミが使われていると聞くと「大丈夫か」と感じるのではないでしょうか。1円玉は混じり気なしの100%純アルミニウムなので強度はそれほどありませんが、自動車のエンジンに使われている「Al-Cu-Si系」というアルミ合金は十分な強度を持ちます。Al-Cu-Si系アルミ合金は引張強度が高いだけでなく、鋳造性も被削性も溶接性も高く、加工しやすい金属の1つに数えられます。
銅の特徴、用途、加工上の注意
産業用の金属としての性能という観点で比べたとき、銅は、鋼やステンレス、アルミニウムより劣ると言わざるを得ません。しかし銅には、そのほかの金属では持ちえない特徴があり「銅でなければ駄目」という用途があります。
【銅の特徴】
人類が最初に道具に使った金属は銅でした。銅は自然界にそのまま存在し、しかも約1,000度という比較的低い温度で溶けるので加工しやすく、それで昔の人たちでも簡単に金属製品をつくることができました。また、銅は美しい色や光沢を持ちながら、金よりはるかに安価なので装飾品にも多く使われてきました。神社の屋根にも銅が使われています。
h3 【銅の用途】
ステンレスやアルミニウムほどの活躍ぶりではありませんが、銅も産業用金属として使われています。銅は導電性に優れるので、つまり電気抵抗が低く電気をよくとおすので、電線に使われます。電子機器の部品に銅が多用されるのは導電性が高いからです。
また銅は熱伝導性も高いので、高級調理器具に使われます。高級日本料理店で使われている卵焼き用のフライパンが銅製なのは、熱が素早く均一に広がるので焼きムラが起きにくいからです。摩耗性にも優れるので、1円硬貨以外の500円、100円、50円、10円、5円硬貨には銅が含まれています。
【銅の加工上の注意】
銅は金属のなかでは軟らかいほうなので、切削加工がしやすい特徴があります。ただ作業者の切削スキルが上がると硬い金属のほうが微調整しやすいので「削りやすい」と感じるようになることがあり、そうなると銅は「軟らかすぎて削りすぎてしまうため、かえって削りにくい」と感じることもあります。
また、銅合金には黄銅、青銅、白銅などがありそれぞれ特性が異なるので、削り方を変える必要があるでしょう。銅の切削スキルは、そのほかの金属切削スキルとは別に習得しなければなりません。
チタンの特徴、用途、加工上の注意
貴金属界では目立つことがないチタンですが、産業界や工業界でのチタンは特別な地位にあります。「チタン製」は高性能の証(あかし)といっても過言ではありません。
【チタンの特徴】
チタンが優れているのは、軽くて強くて耐食性に優れるうえにしなりやすいからです。モノづくりに携わる人が求める性能が「これでもか」とばかりに盛り込まれています。チタンの比重は4.51でアルミニウムの2.7ほどではありませんが、鉄(Fe)の7.8やステンレスの7.9、銅の8.9と比べると段違いに軽い金属です。チタンの引張強度(単位:N/平方ミリメートル)は999で、ステンレスの74やアルミニウムの76とは桁違いの差があり、鋼(SS400)の400と比べても2倍以上になります。
【チタンの用途】
自動車レース最高峰のF1のレース・カーやバイク・レース最高峰のMotoGPのレース・バイクのエンジンにはチタンが多用されています。チタンはそのほかに次の製品に使われています。発電用タービンブレード、化学プラントの電極、航空宇宙部品、石油プラント、船舶、海洋土木用の金具、医療用の人工骨や心臓弁、メガネのフレーム、ゴルフ道具、時計、自転車など。
チタンの欠点の1つにコスト高があるのですが、それさえクリアできれば、さまざまな金属をチタンに置き換えたほうがよい、といえるほどです。
【チタンの加工上の注意】
チタンのもう1つの欠点は加工のしにくさです。チタンは強度が高すぎて、切削加工機械やプレス機が摩耗したり傷ついたりしてしまいます。また熱伝導率が低いので切削加工で高温になりやすく悪影響を及ぼします。そして変形しにくい特性があることから、寸法精度を出すには高い加工スキルが求められます。
さらにチタンの溶接のしにくさも、職人泣かせとなっています。チタンは低温で酸素と反応してしまうので溶接した部分がもろくなってしまうのです。ただこうした加工のしにくさに対してはさまざまな対策が生み出されているので、職人がそれらを習得できれば課題は解決できます。「チタンを自由自在に加工できる」ことは金属加工会社の差別化になるでしょう。
まとめ~モノづくり企業が待ち望んでいる
どのような金属でも加工できることは、金属加工会社の強みになるはずです。なぜなら発注者(クライアント)であるモノづくり企業は、「その金属では加工精度を出すことはできない」と言ってしまう金属加工会社を敬遠するからです。金属加工会社の職人が金属に詳しくなれば、発注者に製品の性能を高める提案や、コストダウンの提案ができます。モノづくり企業は、金属に詳しい金属加工会社を探しています。