日本の技術が航空分野でも貢献

執筆者 | 3月 4, 2023 | ブログ

航空機

2023年2月、三菱重工によって続けられていた国産ジェット機の開発を断念するとのニュースが流れました。多くの産業を巻き込んでの国家的な一大プロジェクトでしたが、将来の事業性を厳しく判断して撤退の決断が下されたとのこと。

試運転飛行まではこぎつけたものの、運航に必要な型式証明を得ることができず、参入表明してから15年で日本の製造業再興の夢も乗せた大望の一つが頓挫する結果に。製造関連に関わらずに、多くの夢と希望を背負ったプロジェクトだっただけに、このニュースを非常に残念な思いで受け止めている方も多いのではないでしょうか。

日本経済を根底から支えてきた製造業。世界と戦ってきた日本のモノづくりの力。航空機産業においてもそれは同様ではありますが、戦闘機なども含め、戦前から受け継がれてきた技術が今回の国産ジェット機誕生の悲願達成の形で引き継がれることはありませんでした。

そもそも航空における製造は困難が多くハードルが高いという背景があります。三菱重工によるプロジェクトの過程でも、2013年に予定された初回納入は6回も繰り返し延期になり、それまでの開発費は1兆円の投入を超過しています。国からも500億円級の補助金が投入されたものの、量産するための太鼓判となる米連邦航空局による型式証明を取得できない段階で開発が中止されました。

しかしながら、要求レベルの非常に高い、航空分野や宇宙分野で日本の製造業が貢献できていないのかというと決してそうではありません。メイドインジャパンの部品が大いに活用されているのです。国内、地方拠点の金属加工の老舗企業らによって航空や宇宙分野で高度なパーツが提供されている事例も多数あるようです。今回の記事ではその企業の一つ、佐渡精密株式会社について取り上げます。

佐渡精密ってどんな会社?

佐渡精密株式会社は、1970年光学機器の精密部品製造会社として新潟県佐渡島の地で創業した企業。幅広い産業分野に、精密加工を施した金属部品の供給を行っています。医療機器や半導体分野をはじめ、航空分野でも加工品を生産。多品種少量生産から量産まで、また試作品の開発なども対応しているなど顧客の要望に臨機応変に対応できる体制を整え、ロボットや5G関連など国内800社を超える取引実績を築いています。

その歴史は大量生産の加工品に始まり、その後時代の流れに合わせて多品種少量生産へとメイン事業のシフトチェンジを行いました。その過程で高いレベルの加工技術を必要とする医療分野、航空分野に参入しています。医療分野、航空分野ともに安定した売上比率を維持し、2018年には航空機関連部品を専門に扱う工場を新潟市に設置しています。これは、さらなる航空機産業への貢献や技術向上を目指した新拠点を得て、企業としての成長を目指したものと考えられます。

佐渡精密は、小さくて高精度な部品の加工に特化、その技術・ノウハウ、知見を持っていることや、特殊な精密加工に適した工具(刃)の製作を自社で行えることが大きな強みのようです。さらに、先進的な自動加工設備を備えた工場を24時間稼働していることも注目すべき点でしょう。120台を超える豊富な設備があり、特に自動旋盤は50台以上を保有しているのです。ロボットによる自動供給で高精度を維持できる24時間生産体制を整えています。協力加工メーカーを駆使することにより、最大ロット数は50,000個/月とのことです。

拠点が離島であるが故、輸送にかかっていた時間的経済的コストについても技術面や製品の品質、新工場の設置といった多角的な取り組みにより克服しており、競争力を維持しているのです。その強みが航空分野の製造でも大いに生かされているようです。

航空部品の製造に必要なことは?

佐渡精密の企業力や強みについて知ることができましたが、航空分野と言っても、具体的にはどんな加工品を納品しているのでしょうか?調べてみると、航空機のジェットエンジン部品が中心のようです。航空機の構成は主に「機体」「エンジン」「装備品」の三つに区分できますが、その中の「エンジン」部分というわけですね。他2つと同様に非常に重要な位置付けにあります。航空機の部品製造の分野ではまず「素材特性を理解した加工技術」が必要とされます。加えて、「安定して製造を続けるための工程設計」も非常に重要です。

航空機に使用される素材はAMS規格の素材で厳格に定められているわけですが、特に耐腐食性、耐疲労性に優れた素材が使用されており、熱処理などに調質処理することで金属組織を一定の状態に保っています。プロペラ機なのかジェット機なのか、航空機種にもよりますが非常に過酷な環境を飛行しなければならないこともある世界ですから、耐荷重も含めて、相当頑丈な素材が必要と想像できますよね。

佐渡精密の航空機部品の例として、インコネルのジェットエンジン部品があります。小型ジェットエンジン部品のタービンブレードの例では、難削材耐熱合金であるインコネル素材に対して、5軸機を用いて削り出し加工を行っています。このタービンブレードは一体型の部品であり、高精度、高品質、滑らかな仕上がりを実現するために、1羽ずつ切削加工を施しているという特徴があります。非常に時間のかかる加工になりますが、航空機部品の製造において決して譲れない「品質保証」にも直結する問題を、丁寧な加工処理によりクリアしている事例です。

このインコネルや、よく使用されるチタン合金なども、加工方法によっては歪み・溶着・加工硬化といった不具合が生じてしまう素材です。品質・コスト・生産性のバランスを取るために、素材を理解した加工技術が非常に重要になってくるわけです。

安定した製造のために

素材の特性を理解することの重要性に加え、航空機部品の製造で特に必要になるのが「安定した品質製造を行うこと」。その実現のためには適切な工程設計が鍵を握ります。工程設計とは素材から加工が終わるまでの、加工の順番や品質管理すべてに関わるマニュアルのようなものです。佐渡精密では、この工程設計においても徹底して取り組んでいるようです。

各工程の加工図や加工プログラム、測定に関わる情報など工程の全体の要素を盛り込むことで安定した生産に結びつきます、これまで蓄積してきた固有の加工技術がノウハウとして組み入れられています。担当者が変わっても、高い品質を維持し続けるためのいわば企業の「秘伝の書」のようなもの。

各社の持つ知見や、加工技術だけではなく管理運営技術も工程設計にダイレクトに反映されます。そのままその企業の生産技術力を示すといっても過言ではありません。「ゆりかごから墓場まで」と喩えられることもある航空機部品製造の領域。部品故障により人命に関わるような取り返しのつかない事態につながるリスクも孕んでいます。一つ一つの部品の“生い立ち”から加工品となるまで、過程を含めての品質保障が重要になります。

航空宇宙産業特有の高いレベルの要求に対して、徹底した生産工程や品質保証体制で応える必要があるのです。とりわけ、時速900kmの速度で飛行し、高度も1万m超、-30℃というような過酷な環境で安全に飛行しなければならないジェット機では部品に要求されるものがどれだけ厳しいか想像に難くないですから、どれだけ入念に測定や確認を繰り返しても、これで十分ということはないのかもしれません。

終わりに

今回は、航空分野の金属加工について、佐渡精密の事業を中心に取り上げました。多くの人を乗せ、空高く飛行するジェット機。高強度の小型部品が日々の飛行の安全性や利便性に貢献していることがわかりました。ジェット機の金属加工というと「機体」部分のイメージが強かったですが飛行を基幹から支えるエンジン部分で新潟発の丁寧に加工された部品が大活躍していたのですね!

国産ジェット機の開発についてのニュースは残念ですが、航空分野、宇宙分野でも日本のモノづくりの活躍のステージはまだまだこれから拡張していきそうです。引き続き注目していきたいと思います。