
※本記事は2026年10月2日に、消費税の課税対象や土壌汚染対策法に関する記述を中心に見直し、更新しました。
今回のトピックは工場売却の手続きについてです。製造業では事業の見直しなどで、工場の売却の検討が必要になる局面があります。一般家屋やマンションとは全く違うノウハウが必要になります。例として、工場の建物をそのまま残すのか、更地にするのか、その選択よっても手続きは異なり、特有のノウハウを要するためどのように判断すべきかが大事になってきます。当社にも、不動産の引き渡し日が先に決まってしまい、機械の搬出が思いのほかギリギリになってしまったというご相談をいただくことがあります。記事の後半で実際の事例もご紹介します。
- どんな風に手続きが進むの?
- 失敗しないポイントはあるの?
など、おさえておきたいポイントをまとめます。当面は検討の予定はないという方も、いろいろと疑問に思っている方も、ぜひご参考ください。
工場売却の手続き
工場の売却手続きは、ざっとまとめると下記のような流れになります。
- 事前調査
- 査定依頼
- 不動産業者との媒介契約
- 売却活動
- 条件交渉
- 売買契約の締結
- 決済・引き渡し
それでは、それぞれのポイントも見ていきましょう。
事前調査・査定依頼
工場の売却が決定した場合、まずは複数の不動産会社に査定依頼を出します。査定では、各社ごとに異なった見積もりが出てくるはずですが、少なくとも4,5社から査定してもらうことは、相場把握のためにも欠かせません。不動産としての工場の価値をはっきりさせ、売買の条件や方法を検討していきます。
査定を依頼する際には、登記簿謄本(登記事項証明書)、公図、確定測量図、建築確認済証や検査済証といった書類が手元にあると、不動産会社も精度の高い査定を出しやすくなります。これらの書類が見当たらない場合は、法務局や自治体の窓口で取得・確認できますので、査定依頼と並行して準備を進めておくとその後の手続きがスムーズです。
不動産業者との媒介契約
実際の売却では、不動産会社と媒介契約を結ぶことで、売却の仲介を依頼することになります。しかし、不動産会社の選定においては査定額は参考にならないことは覚えておきましょう。高い査定を出した不動産会社に仲介依頼しても、その価格で売却できるとは限りません。工場の売却には、マンションなどの売却とは異なるノウハウがあります。したがって、工場をはじめとする事業用不動産の取り扱いが得意で、実績も豊富な不動産会社を選べば安心でしょう。
媒介契約には下記の3種類があり、複数の不動産会社に依頼できるかどうか、不動産会社から売主への報告頻度、自分で買主を見つけてきてよいかどうかという点で違いがあります。工場のような事業用不動産は一般の住宅に比べて買主の母数が少なく、専門知識を持つ不動産会社との連携が成約のスピードを左右しやすいため、契約形態の違いを理解したうえで選ぶことが大切です。
・一般媒介契約
複数の不動産会社と媒介契約を結ぶことができ、買い手を自力で探すことも可能な契約。不動産会社側の視点では、売却できる確約がないため積極的な売却活動は期待できないと考えます。
・専任媒介契約
複数の不動産会社とは媒介契約を結べないという条件を含む契約。自社で買い手を探すこともできるのが特徴です。業務の処理状況を2週間に1回報告する義務があります。買い手が見つかった場合は、確実に不動産会社の利益になるため、積極的な売却活動が期待できる契約です。
・専属専任媒介契約
他の不動産会社と媒介契約を結べない、また自社で買い手を探すこともできない契約内容になります。さらに、業務処理状況を1週間に1回報告する義務があります。確実に不動産会社の利益につながるため、熱心な売却活動が期待できる契約と言えます。いずれの場合も、実情に合った契約方法を選択することが大事です。
売却活動
売却活動が始まると物件に興味を持った方が現地の内覧を希望することも。応対できるよう準備をしておきます。操業中の工場を売却する場合は、内覧の日程調整や従業員への説明など、通常の不動産売却にはない配慮も必要になります。稼働を止めずに内覧を受け入れるのか、一定期間操業を停止してから内覧に応じるのかによって、現場の負担も変わってきますので、不動産会社とあらかじめすり合わせておくとよいでしょう。
条件交渉
購入希望者が購入の意向を提示すると、不動産業者を通じて価格等、売買の条件交渉を開始します。価格だけでなく、引き渡し時期や、残置する設備の有無、土壌汚染調査の実施者と費用負担といった点も交渉の対象になります。とくに引き渡し時期は、売主側の機械・設備の搬出スケジュールや、買主側の工事・移転計画とも関わってくるため、早い段階からすり合わせておくことが後のトラブル防止につながります。条件に合意したら売買契約締結の段階に入っていきます。
売買契約の締結
不動産業者により重要事項説明書が作成されます。売買取引の主要事項について売主および買主に説明が行われ、その内容に問題がなければ売買契約の締結となります。契約締結時には、一般的に買主から売却額の10%程の手付金が支払われます。引き渡し時に残金が支払われます。場合によっては、物件の引き渡しまで期間に中間金を支払いが行われることもあります。
売買契約書には、土壌汚染や地中埋設物、建物の不具合などが後から見つかった場合の責任の取り扱いについて定める条項も盛り込まれます。2020年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」という考え方に整理されました。引き渡した工場が契約内容に適合しないものであった場合、売主は修補や代金減額、場合によっては損害賠償や契約解除を求められる可能性があります。工場のように使用期間が長く、土壌や地中埋設物のリスクも抱えやすい不動産では、契約不適合責任の範囲や期間をどのように定めるかが、売主にとって特に重要な交渉ポイントになります。
決済・引き渡し
手付金や中間金を除いた残金を受領し、また、登記識別情報通知書や鍵を買主に引き渡します。この際、委任した司法書士により登記手続きが行われます。固定資産税・都市計画税の清算も行います。
不動産の固定資産税・都市計画税は、一月一日時点の所有者に対し、一年間の税額が課されることになります。納税義務者は、1年間固定されていますが、譲渡日を起点に日割り計算をして、買主が所有日数分に相当する額を分担するというのが不動産取引の慣習となっていますので念頭においておきましょう。
工場売却の手続きの注意点は?
解体の必要性
買主が工場や設備をそのまま使用するケースでは、解体は不要です。しかしながら、実際の事例でもそのまま利用できるという買主は稀です。さらに、規模の大きな工場では、更地にすることで分譲宅地や商業施設、医療施設など利用用途がかなり拡大します。一方で、解体には当然ながら解体費用がかかり、建物の構造や規模、アスベストの有無などによって金額は大きく変わってきます。解体してから売却するか、建物付きのまま売却して値引き交渉に応じるか、どちらが手取り額として有利になるかは物件ごとに異なるため、複数のシミュレーションをしたうえで判断することが大切です。
工場のままでは購入希望が出ない場合などは、売却先を広げるために工場の解体を検討していったほうが売却自体有利になることも多いようです。したがって、建物を残すのか解体するのかについては、総合的かつ慎重な検討が必要になります。
土壌の浄化業務
例えば、工場の製造過程で有害物質を使用していた場合には土壌が汚染されている可能性も考えられます。土壌汚染対策法では、特定有害物質を扱う有害物質使用特定施設を廃止するときなどに、土地の所有者等に土壌汚染状況調査を義務付けています。調査結果で基準値を超える土壌汚染が認められる場合は、都道府県知事等から区域の指定を受け、土壌の入れ替えや封じ込めといった対策を実施しなければなりません。
もし土壌浄化をしっかりと行わず、売却後に汚染が発覚してしまった場合には、売主は契約不適合となり全責任が問われ、損害賠償を求められることも避けられません。必ず留意しておきましょう。土壌汚染の調査・対策には一定の費用と時間がかかるため、売却スケジュールを立てる際は、調査結果が出るまでの期間もあらかじめ見込んでおくことが大切です。
売却するには境界確定が必要
敷地境界が確定していないケースでは、適正な価格での売却は実現しません。敷地境界が不安定な土地を相場で購入する人は、ほとんどいないと考えましょう。運良く売却できたとしても、大幅な価格低下は覚悟しなければなりません。売却に際しては、隣接地の所有者の立会いのもとで境界を確定させた確定測量図を用意しておくことが望ましいとされています。境界確定には、隣接地の数や所有者との関係によっては数ヶ月単位の時間がかかることもあるため、売却を検討し始めた段階で早めに土地家屋調査士へ相談しておくと、後の手続きがスムーズに進みます。
既存不適格台帳に登載
長年操業する工場では、後に住宅系の用途地域として指定が行われて用途不適格になっているケースがあります。用途不適格ではあるが、工場として買い取ってもらいたい場合には、地方自治体の建築法規担当部署に相談し、既存不適格建築物であることを証明する書類を発行してもらう方法が有効になります。これにより、買主も作業場や原動機といった設備を適法に使用できることになります。そして、こうした証明があることで、買主側からもエビデンスが確認できるので安心して購入することができるのです。なお、取り扱いは自治体によって異なるため、事前に管轄の役所へ確認しておくと安心です。
ここで注意したいのは、売却までの期間に、一時的でも店舗や倉庫、車庫といった別の用途に使用してしまうと、その時点で既存不適格が適法になったと判断されてしまうことです。それ以降は工場としての使用が不可能となりますので、よく覚えておきましょう。
違反状態があれば事前に解消を
建築確認済証を取得しないで増築などしている箇所があれば、事前に解体する方が、売却がスムーズです。なぜなら、違反状態のままで売却をすることで買主に責任が及ぶだけでなく、将来の適正な増築の可能性を消滅させてしまうからです。さらに、買主に対して銀行からの融資が認められないこともありますのでよく留意しておきましょう。違反の内容や規模によっては、是正にかかる費用や期間も変わってくるため、思い当たる増築や改築がある場合は、早めに建築士や不動産会社に相談し、是正の方法と費用感を把握しておくことをおすすめします。
買い手がつきやすい工場の条件は?
それでは、買い手がつきやすい工場とはどんな工場なのでしょうか?代表的なものを挙げてみます。
- 造りが単純で複雑でない構造の工場
- 間仕切りが少なく、スペースの活用がしやすい工場
- 建築基準法に基づいた建築確認検査済証を交付されている工場
- 現行の建築基準法に適合している工場
間仕切りが少なく天井も高い、いわゆる「スケルトン」に近い工場は、買主が自社の生産ラインやレイアウトに合わせて内装を作り込みやすいため、業種を問わず需要があります。逆に、特定の生産設備に合わせて柱の位置や天井高が細かく設計されている工場は、同業種以外の買主にとって使いにくく、買い手が限定されやすい傾向があります。また、検査済証の有無は金融機関の融資審査にも影響するため、検査済証を紛失している場合は、自治体によっては台帳記載事項証明書を取得できることがありますので、早めに確認しておくとよいでしょう。
買い手の多くは、同業者が売りに出している工場をまず検討し、購入するケースが多いです。つまり、大掛かりな増築を行わなくでも運用できたり、他の活用に転用しやすいなど、利用用途の幅が広い工場ほど買い手が付きやすいことになります。複雑な構造であったり、用途を狭めるレイアウトやスペースの工場は希望に沿わないことが多いというわけです。次に、買い手がつきやすい敷地の条件も見てみましょう。
- アクセスが良好である
- 敷地に隣接する道路幅にゆとりがある
- 駐車スペースが大きい
- 土壌汚染の懸念が少ない
アクセスのよい工場地帯の物件などは、工場として利用し続ける場合などに買い手がつきやすい傾向にあります。
仲介手数料の上限
不動産会社に売却を仲介してもらった場合、成約時には仲介手数料を支払います。宅地建物取引業法では、取引額が400万円を超える場合の仲介手数料の上限を「(売買価格×3%+6万円)+消費税」とする速算式が定められています。例えば1億円で工場を売却した場合、上限額は(1億円×3%+6万円)+消費税で、306万円+消費税という計算になります。これはあくまで上限額であり、実際の手数料は不動産会社との合意によって決まりますが、契約前に金額の目安を把握しておくことで、手取り額のシミュレーションがしやすくなります。
コスト面の注意
工場の売却にあたっては解体費用、土壌浄化費用、消費税に気をつけなければなりません。解体費用、土壌浄化費用については上記の注意したいポイントに挙げたものになりますが、消費税については意外と盲点になりやすいので覚えておきましょう。個人がマイホームを売却した場合には消費税はかかりません。しかし、事業者が工場のような事業用の建物を売却する場合は、その売買が消費税の課税対象になります。
ここで注意したいのは、消費税がかかるのは「建物部分」だけという点です。土地の譲渡は消費税法上非課税とされているため、土地と建物を一括で売却する場合は、売買代金を土地部分と建物部分に分けたうえで、建物部分の対価に対してのみ消費税(標準税率10%)が課されます。建物の譲渡対価がそれなりの金額になる工場売却では、消費税額も大きくなりやすいため、売買契約書で土地と建物の内訳をどう按分するかによって納税額が変わってくることも覚えておきたいポイントです。いざというときに慌てないために、契約前に顧問税理士などの専門家に確認しておくと安心です。
また、消費税とは別に、売却によって利益(譲渡益)が出た場合は、その利益に対する税金も発生します。法人が売却する場合は、他の事業年度の損益と合算したうえで法人税等の課税対象になり、個人事業主が売却する場合は、譲渡所得として所得税・住民税の対象になります。税率や計算方法は会社の状況や所有期間によって変わってくるため、こちらもあわせて税理士に試算してもらっておくと、手取り額をより正確に見積もることができます。
工場の売却と機械・設備の処分は分けて考える
ここまで建物や土地としての工場売却について見てきましたが、実際の現場では、工場の中にある旋盤やマシニングセンタ、プレス機といった機械・設備をどうするかも、あわせて検討しなければならない問題です。買主が工場をそのまま稼働させる予定がない場合、機械や設備は基本的に売主側で撤去してから引き渡すことになるのが一般的です。
不動産の売却活動と、機械・設備の買取や処分は、担当する業者も進め方も異なります。不動産会社との売買契約のスケジュールだけを見て動いてしまうと、いざ引き渡しという段階になって機械の搬出が間に合わない、という事態にもなりかねません。工場の売却を検討し始めた時点で、不動産会社への相談と並行して、機械・設備の買取査定も早めに進めておくことをおすすめします。残存する機械に値がつけば、その分を解体費用や諸経費に充当できるケースもあります。買主が決まる前の段階でも、おおよその機械・設備の評価額を把握しておくことで、工場全体の売却条件や解体するかどうかの判断材料にもなります。
【実際の事例】引き渡し日が先に決まり、搬出がギリギリになったケース
当社がご相談をいただくケースの中でも、よくあるのがこのパターンです。不動産会社とのやり取りが先行して進み、買主との間で引き渡し日がすでに決まってから、ようやく機械・設備の買取相談をいただくというものです。この場合、「〇月〇日までに搬出を終えてください」と期限を切られた状態からのスタートになるため、査定から搬出まで通常より短い期間で対応しなければならず、現場としてはかなり慌ただしい作業になります。
搬出すべき機械の点数が多い場合や、大型機械の解体・搬出に日数を要する場合は、期限ギリギリになるほど選べる搬出業者も限られ、スケジュール調整の余地も狭まってしまいます。工場の売却を具体的に進める段階になったら、不動産の引き渡し日が確定する前の、できるだけ早いタイミングで機械・設備の査定だけでも依頼しておくことをおすすめします。先に査定を済ませておけば、不動産会社との引き渡し日の交渉時にも、搬出に必要な期間を見込んだ日程を提示しやすくなります。
終わりに
今回は、工場売却の手続きについてまとめました。製造業、工場の売却手続きには、一般住宅とは異なるノウハウや注意点が存在することがお分かりいただけたのではないでしょうか。また、買い手のつきやすい工場や敷地の条件も明確に挙げることができました。
少しでも高く売りたいという思いを誰もがお持ちだと思います。業者選びや、締結する契約内容も大変重要であり、また、事後トラブルを回避するための知識も身に付けておくことがスムーズな売却につながるようです。土地・建物の売却と、機械・設備の処分は切り離さずに、早い段階から両輪で計画を立てておくことが、結果的にスムーズで有利な工場売却につながります。
売却先が決まったあとの実務は工場を閉めるときの不動産売却方法、移転・新設を検討する場合は工場の移転、新設の手続きもあわせてご覧ください。














