中古機械の輸出規制

執筆者 | 8月 22, 2022 | ブログ

機械 輸出

工場に長年使っていない機械があったら、経営者や工場長は「売りたい」と思うはずです。不要な機械の売却は、資産を有効活用していることになります。しかし、そこに「買いたい」という人が現れたら注意してください。その購入希望者が海外の人で、その中古機械を輸出しなければならなくなったとき、さまざまな法律が絡んでくるからです。

法律を無視して輸出してしまうと、最悪、逮捕されてしまうこともあります。ただこれは裏を返せば、法律が求める条件をクリアできれば中古機械を輸出できるということになります。法律遵守で輸出の手続きを進めましょう。

逮捕後に不起訴になった事例

2018年に機械輸出に関する衝撃的な出来事がありました。神奈川県の機械メーカーの社長たちが、生物兵器に転用できる機械を中国に不正に輸出したという疑いをかけられ警視庁に、外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)違反容疑で逮捕さました(*1)。厳しい取り調べが行われましたが、疑いが晴れて不起訴になりました。機械メーカーにも社長にも非は一切なかったわけですが、この出来事は次の教訓を残しています。

●捜査当局や輸出関連の行政機関は機械の輸出を相当厳しく見張っている。

この教訓は中古機械を海外に売ろうとしているすべての企業や経営者にとって有益なはずです。

*1:https://www.asahi.com/articles/ASQ4L321CQ47UPQJ005.html

安全保障貿易管理は「うちの工場の機械」も対象にしている

中古機械の輸出が厳しく管理されているのは日本政府に安全保障貿易管理という考え方があるからです。これはとても重要な考え方なので全文を引用します(*2)。

我が国をはじめとする主要国では、武器や軍事転用可能な貨物・技術が、我が国及び国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐため、先進国を中心とした国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)をつくり、国際社会と協調して輸出等の管理を行っています。 我が国においては、この安全保障の観点に立った貿易管理の取組を、外国為替及び外国貿易法に基づき実施しています。

*2:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/gaiyou.html

安全保障、武器や軍事、テロリストなどと聞くと、「うちの工場にある機械とは関係のない話」と感じるかもしれませんがそうではありません。売却しようとしている機械が「輸出貿易管理令・別表第1」や「外国為替令・別表」に該当すれば、安全保障貿易管理の対象になる機械になり、それを輸出するには経済産業大臣の許可が必要になります。

リスト規制の対象か否か

輸出貿易管理令・別表第1や外国為替令・別表には、銃砲、指向性エネルギー兵器、原子炉といったものも記載されていて、さすがにこうしたものを輸出しようとは思わないでしょう(*3、4)。しかしここには次のような機械や技術も記載されています。

  • 輸出貿易管理令・別表第1や外国為替令・別表に記載されている機械や技術(リスト規制の対象の機械や技術
  • 数値制御を行うことができる工作機械
  • 測定装置
  • 電圧又は電流の変動が少ない直流の電源装置
  • 遠心分離機
  • 歯車製造用の工作機械
  • 絞りスピニング加工機
  • 周波数分析器
  • 金属の加工用の装置
  • レーザー光に対する物質の耐久性の試験を行うための装置
  • 炭素繊維を使用した成型品
  • チタン合金
  • セラミック粉末製造の技術

これらの機械や技術を「リスト規制の対象の機械や技術」といいます。社内や工場に普通にある機械などが簡単に安全保障貿易管理の対象になることがわかると思います。経営者は、ものづくりで使う高度な機械は、大抵は輸出規制の対象になる可能性がある、と覚えておいたほうがよいでしょう。

*3:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324CO0000000378

*4:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=355CO0000000260

キャッチオール規制

「リスト規制の対象の機械や技術」でなくても、輸出規制の対象になることがあります。それは補完的輸出規制(キャッチオール規制)があるからです。

キャッチオール規制は、「リスト規制の対象の機械や技術」でなくても、輸出しようとする機械や技術が兵器の開発や製造に使われることを、輸出者が知っていた場合、輸出するときに経済産業大臣の許可が要る、というルールです。つまり「普通のなんてことのない」機械でも、キャッチオール規制によって輸出できない機械になる可能性がある、ということです。

中古機械を輸出する方法

(中古)機械の輸出の規制は厳しいのですが、輸出が全面的に禁止されているわけではありません。機械のスペックによっては簡単に輸出できるものもありますし、ルールにしたがって手続きを踏めばよいだけです。

該非判定で非該当になれば輸出できる

輸出できる機械は、該非判定で「リスト規制の対象の機械や技術」ではない=非該当と判定されたものです。該非判定は機械を保有している企業でも行えますが、より確実な方法は機械のメーカーに該非判定書を発行してもらい、非該当である(輸出して大丈夫である)と証明してもらうことです。

ただ経済産業省は「機械の輸出の責任は基本的に輸出者が追う。輸出者は、入手した該非判定書を鵜呑みにしないで自社でも再確認するように」と注意喚起しています(*5)。

*5:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/gaihi__hantei.pdf

該非判定で「該当」と判定された場合

該非判定または該非判定書で「リスト規制の対象の機械や技術」に「該当する」と判定された機械は原則、輸出できないわけですが、例外があります。該当した場合、経済産業省に対して例外規定が適用されるかどうか判断してもらいます。例外規定が適用され、さらに「キャッチオール規制に該当する懸念なし」と認められれば輸出できます(*6)。

例外はまだあります。以下の2つのケースでも、経済産業省・安全保障貿易審査課に対して個別許可申請をすることができます。許可がおりれば輸出できます(*7)。そして許可がおりなかったら輸出できません。

  • 該非判定で「該当する」→●例外規定を適用→●懸念あり
  • 該非判定で「該当する」→●例外規定を適用しない

*6:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply01.html

*7:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply10.html

中古機械輸出までの流れ

ここまでの説明を踏まえて、輸出までの流れを紹介します。

  1. 該非判定をする
  2. (該当する場合)経済産業省に輸出許可申請を行う→経済産業大臣から許可がおりる
  3. (該当しない場合) 該当しない」と書かれた該非判定書を作成
  4. 輸出できることが確定する
  5. 機械の梱包ならびに輸出関連書類(インボイス)を作成する
  6. 保税上屋で輸出の申告をする
  7. 機械をコンテナに積み、港のヤードに搬入する
  8. コンテナを船に積んで出港

中古機械輸出は慎重に

長年使われず工場に眠っている機械でも、企業にとっては重要な資産です。それを売却することは資産を有効に活用したことになります。日本にある機械は、国内より海外でのほうが高く評価されることがあります。そのため海外の人のほうが、中古機械を高く買ってくれるかもしれません。

しかし中古機械の輸出には十分注意してください。業者に輸出手続きを代行してもらうときは、その業者が外為法や安全保障貿易管理、リスト規制について詳しいか確認したほうがよいでしょう。もしその業者が判断を間違ったりミスをしたりしたら、中古機械を売ろうとしている企業が責任を取らなければならなくなることがあるからです。「輸出して本当に大丈夫なのかどうか」「誰が、どこが大丈夫といっているのか」などを確認して、念には念を入れて手続きを進めてください。