製造業になくてはならない工作機械。その工作機械の市場動向はどうなっているのでしょうか?まずは今後の世界市場について掘り下げます。
世界の市場動向
2020年の世界の工作機械市場は約803億米ドル。その後、2027年までの予測では4%程度の健全な成長が見込まれている市場になります。今後の年平均成長率8.9%との見通しも一部で示されており、その場合の2030年時点の予測は市場規模2,705億米ドルにもなります。
工作機械の市場を牽引しているのは、製造業全般の成長のほか、人だけではなくロボットと機械との相互作用の普及、投資の増加といった要素になります。地域別に見ると、まず注目すべきはアジア太平洋地域です。自動車や建設、製造、航空などの産業において需要が上昇していることにより、市場シェアで圧倒している状況にあります。これに対し、北アメリカ地域では、製造業をはじめとして自動工作機械が積極的に導入されていっているため、2027年までに最も大きく成長すると予測されています。
工作機械は、様々な産業分野で幅広い用途に用いられることで市場の成長を加速させます。中国やインドなどを中心とする新興国の工業の発展や、政策が市場成長に貢献していっているのも事実です。手作業の効率化のための精密工具の需要急増により、世界の工作機械市場が成長加速するという側面もあります。また、新技術の積極的な開発も、市場の成長に大いに貢献する要因になります。
日本の市場動向
日本工作機械工業会によれば、新型コロナウイルスの影響があり2020年の工作機械受注額は前年比26.7%減の9018億円であり、10年ぶりに1兆円を割り込むこととなりました。2018年のデータでは、前年比10.3%増の1兆8157億円と2年連続で過去最高を更新していたものの、2019年に関しても自動車関連の業績低迷に起因し、前年比32.3%減と3年ぶりに減少。2019年に関しては米中貿易摩擦も大きく影響しました。
この際は貿易摩擦により中国・アメリカ両国からの受注が減退し、世界的に自動車産業などへ大きな影響が見られました。中国の積極的な設備投資に支えられてきた需要には歯止めがかかったため、これ以降の受注規模は見通しが立ちにくくなったのです。
そんな状況でも、コロナ禍の2020年においては、感染拡大を先行して抑え、需要を回復してきた中国が外需の3分の1を占めることとなりました。2021年の受注総額は高水準で推移し、過去4番目の実績となりました。
工作機械市場の課題
概して、工作機械の市場は企業の設備投資に対するモチベーションにより左右される部分が多いです。つまり、景気の影響を非常に受けやすい領域であり、景気動向の先行指標とされることも多いのです。
例えば、一つの業界で設備投資を様子見が発生した場合、納入までに長期を要する工作機械産業へ波及的かつ拡散的に影響が出てくるわけです。長期的に見れば、国内市場の飛躍的な成長は見込めないと考えられているため、海外市場をどのように拡大していけるかが大きな課題と言えそうです。
工作機械市場の懸念点
工作機械市場の成長にとって懸念となるのが、部品数の減少や海外各国の動向です。
【部品数の減少】
生産性の向上を目指し、また機械の精度が上がることで部品点数というのは減少することを余儀なくされます。部品の需要が減って行くことは、中小企業や町工場といった下請け業者にとって問題が起こるだけではなく、工作機械産業全体にとっても脅威となる可能性があります。
【海外の動向】
海外に注目すれば、日本のライバルの筆頭として、まずドイツが挙げられるのではないでしょうか。無人製造管理やIoT連携で目覚ましい成長を遂げると共に、製造業におけるオートメーション化、データ化、コンピュータ化の技術的コンセプトである「インダストリー4.0」を国家戦略プロジェクトとして政府と産業界が協働し、製造業の担う未来像の実現に取り組んでいます。
宇宙・航空機分野での競争力が非常に高いアメリカ、繊維など特定の産業に特化した工作機械に独自のノウハウをもつイタリアも常に注視すべき存在です。さらに、これまで高度な精密さが求められる領域では日本に遅れをとっていた中国に関しても、近年変化が見られます。磨かれた技術で日本に対し追い上げを続けてきており、生産額の比較では中国製工作機械が上回っているとのデータもあります。国策である「中国製造2025」により、製造業での飛躍的な成長および、トップグループ入りを目標としています。
これらの国はライバルとして注視する同時に、製造で積極的に成長を目指している国や地域を、我が国にとって大切な市場拡大機会と捉えることもできるのです。
終わりに
今回は、産業およびモノづくりを支えてきた工作機械について国内、海外の市場動向をまとめました。特に海外の状況については、各国の動向を踏まえながらつねに高度な技術開発を進めていくことが日本にとって必要であるとわかりました。
ものづくりに欠かせない工作機械。さまざまな業種で、実に多くの種類がありますが、俯瞰的にその市場動向を見ていくことも重要と言えるのではないでしょうか。