現在、製造業界は、業務の中核を担う工作機械に関して、効率化や自動化、精度向上、コスト削減、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)といった多くの課題と向き合っています。これらの課題は単なる技術的な改良に留まらず、製造現場そのものの在り方を問い直す大きな転換点となっており、今まさに現場では変革が求められています。この記事では、工作機械を取り巻く主要課題とその解決方針、そして最新のトレンドについて、各項目に分けて紹介します。
主要課題
現在、製造業は国内外で厳しさを増す競争環境の中にあります。製品のライフサイクルが短くなり、需要の変動も激しくなったことで、従来の大量生産型モデルでは対応が困難になってきました。具体的には、少子高齢化に伴う労働力不足や技術継承、工作機械の加工精度の向上、AIやIoT(インターネット接続による収集データの分析・活用)の導入、DX化による業務の自動化・効率化、持続可能な事業経営など、多岐に亘る課題に直面しています。
工作機械を扱う事業者としては、これらの課題にどう対処すべきでしょうか。以下に示す製造業の現状から、課題解決の方向性を探っていきましょう。
1.人材不足で技術継承、事業継続が困難
少子高齢化の進行に伴い、製造業の現場では熟練工の引退が進む一方で、若手人材の確保が困難になっており、人材不足が深刻な課題となっています。このような状況を打開するため、現場では自動化技術の導入と、技術・技能の継承を効率的に行うための取り組みが加速しています。
この課題に対しては、作業の一部を産業用ロボットに置き換えることで、反復的な単純作業や身体的負荷の高い工程を自動化し、限られた人員でも一定の生産性を確保できる体制が整えられつつあります。これにより、人的リソースの最適化だけでなく、稼働率や安全性の向上にも繋がっています。自動化と技術継承の両方から対策を進めることで、人材不足という構造的な課題に対し、持続可能な事業経営と競争力の維持を目指す動きが広がっています。
2.生産ラインを変更するコストや時間
多品種生産では、製品ごとの段取り替えや治具交換などに時間がかかり、その間は工作機械が停止してしまいます。これを回避するためには、自動段取りシステムの導入や、段取り時間の標準化・短縮、工具や治具のモジュール化により、切り替え時間の短縮を図る必要があります。
部品メーカーでは、電動化に伴う部品構成の変化に迅速に対応するため、従来の専用ラインからフレキシブルな生産設備への移行が進んでいます。モジュール化や共通プラットフォームの導入により、生産ラインの変更にかかるコストや時間を削減する改善も見られます。
3.稼働時の加工精度低下
工作機械の稼働時における品質維持には、同機械の性能低下、工具の摩耗や破損、ワーク(加工物、部品)の着座不良、温度変化による寸法狂いなど、様々な課題が存在します。また、作業者の技量や加工条件の設定ミス、機械の振動や異常音も品質に影響を及ぼします。
これらに対しては、定期メンテナンスや工具管理、加工環境の温度制御、作業の標準化・自動化、さらには振動・異常検知センサーの導入などの対策が必要です。近年では、IoTやAIを活用し、リアルタイムで機械状態や加工精度を監視・補正する技術も進んでおり、高品質な加工の持続が期待されています。
4.保守管理や稼働データの未活用
稼働実績やトラブル情報などのデータが蓄積されていない、もしくは活用されていない現場では、継続的な改善が難しくなります。これには、稼働モニタリングシステムを導入することにより、リアルタイムで機械の状態を把握し、稼働率、停止要因、生産効率の「見える化」を実現していく必要があります。具体的には、AIやIoTによるスマートファクトリー化が進められており、リアルタイムの生産状況の可視化や、予防保全による設備の稼働率向上も図られています。
課題解決に必要なこと
総じて、工作機械を巡る課題とその解決策は多岐に亘りますが、共通して言えるのは「変化に柔軟に対応する力」が今の製造業にとって不可欠であるということです。今後も技術革新とデジタル化が進む中で、これらの多層的な課題に対して戦略的に取り組むことが、製造現場の競争力を左右する大きな鍵となっていきます。
1.省人化・無人化
深刻な働き手不足に対しては、自動化・無人化技術の導入による「人にしかできない仕事」への集中が求められ、単なる省人化ではなく「スマートな人材活用」への転換が進んでいます。近年では、ロボットやAGV(自動搬送車)との協調動作が進んでおり、工作機械と連動した自動搬送や組立作業が可能になっています。
電子機器の筐体加工を行う中小工場では、ロボットアームによるワークの自動供給と回収を行うセル生産システムを導入することで、夜間の無人運転を実現しています。AGVは加工が終わった製品を次工程の検査装置まで自動搬送し、画像認識技術を搭載した自動検査装置での検査完了後に、出荷エリアまで自動で運ぶ構成となっています。これにより、生産ライン全体の人員を大幅に削減しながら、生産量を維持することに成功しています。
2.段取り・稼働率の最適化
生産性を高める上で最も重要な指標の一つが、工作機械の稼働率です。段取り替えの時間が長いと、実際に加工に費やす時間が短くなり、生産効率が大きく低下します。これに対する有効な解決策の一つが、自動段取り替え装置の導入です。これにより、作業者の介在を減らし、段取り替えの標準化と短縮化が実現できます。航空機等の部品を製造する現場では、異なる部品の多工程を自動で切り替えるマルチパレットシステムが活用されています。複数の治具を搭載したパレットが自動的に交換されることで、昼夜を問わず連続加工が可能となり、稼働率が大幅に向上しています。
また、CNC(コンピュータ数値制御)プログラムと連動した自動測定プローブを導入することで、加工後のワークを自動で測定し、寸法ズレがある場合にはその場で補正をかけるなどの高度な制御も可能になっています。
3.熱変位補正
生産性と同様に重要なのが、製品の品質確保です。温度変化による加工精度の低下や、工作機械自体の剛性不足による振動などは、精度不良の大きな要因です。これに対応するため、近年では高剛性構造の採用や、熱変位補正技術の高度化が進んでいます。
精密金型を製造する企業では、機械本体の構造に高熱伝導性の素材を採用し、温度変化の影響を抑えた機種が使われています。加工中もセンサーによって主軸温度や周辺温度を常時監視し、微細なズレをリアルタイムで補正しています。
4.データ活用
DXの観点で注目すべきは、製造現場におけるデータの活用です。工作機械の稼働状況や不具合履歴、加工実績などをリアルタイムで可視化・分析することで、現場の改善点が明確になります。
部品メーカーでは、すべての設備をIoTネットワークに接続し、MES(製造実行システム)を用いて、加工時間、停止時間、エラー原因などを常時監視しています。事例としては、IoTセンサーを活用した状態監視により、摩耗部品の交換タイミングを予測できるようになっただけではなく、特定の作業者の手順にバラつきがあることが判明し、標準作業の再教育を行ったことで生産性が有意に向上したということも示されました。また、SCADA(産業監視制御システム)と連携することで、複数拠点の工場を一元的にモニタリングし、リアルタイムに稼働率や電力使用量を比較しながら、設備運用の最適化が図られています。
工作機械の未来
工作機械、関連設備の未来は、こうした複雑で多層的な課題に対して、スピード感をもって取り組む「現場の実行力」と、それを支える「柔軟かつ持続可能な技術基盤」にかかっています。特に、機械加工に関するデジタル技術の習得、工作機械の稼働率向上や品質確保に向けた、AIやIoTを活用したスマートファクトリー化等は、単なるコスト削減を超えて、企業の経営戦略そのものに直結するテーマとなっています。次世代の「ものづくり」は、まさに今、この転換期をどう乗り越えるかにかかっているのです。