プラ加工の超基礎解説1- 樹脂がプラスチック製品を左右する

執筆者 | 6月 21, 2025 | ブログ

プラスチック ストロー

よく「プラスチック製品って安物っぽい」などと言われますが、実はこれはプラスチックにとっては褒め言葉です。なぜならプラスチックは安価なのに、軽くて丈夫で加工しやすいうえに大量生産が容易という優れた性質を持つからです。これほどの材料はほかにありません。しかもプラスチックにはさまざまな種類があり、それぞれ性質や性能などが異なります。プラスチックの性質を変えているのが、原料となる樹脂の種類です。

「プラ加工の超基礎解説」ではプラスチック加工の現場で登場する専門用語を、プラスチック加工をほとんど知らない人でも理解できる言葉を使って紹介します。今回はプラスチックと樹脂の関係を解説します。

プラスチックは材料、樹脂は原料

プラスチックのことを樹脂製品と呼ぶことがあるほど、プラスチックと樹脂は似たものです。ただ正確には、プラスチックは材料の名称で、その原料が合成樹脂です。プラスチックを形づくったものがプラスチック製品です。なお樹脂という言葉は本来、粘性を持つ物質のことで、例えば松脂(まつやに)は自然由来の天然樹脂です。

現代の樹脂はほぼすべて合成樹脂であるといってよい

現代では樹脂といえば、ほぼ合成樹脂のことを指します。なぜなら合成樹脂を原料としたプラスチックが人類の生活になくてはならない存在になったからです。この記事でも以降は合成樹脂のことを単に樹脂と呼びます。

モノマーを重合してできるのが「ポリマー=樹脂」

樹脂の原料は原油ですが、原油がそのまま樹脂になるのではなく、そこに至るまでにさまざまな加工が必要になります。まず原油を蒸留してナフサを取り出します。続いてナフサを熱で分解して小さな分子をつくります。小さな分子を重合という化学反応でつなげて大きな分子にしたものが樹脂です。分解して小さくして、もう一度つなげて大きくしているわけです。手間がかかっています。

小さな分子のことを単量体、またはモノマーといい、大きな分子のことを高分子、またはポリマーといいます。ポリマーが樹脂です。モノマーは液体やガスの状態で存在しますが、ポリマーになると固体になります。例えば、エチレンというモノマーの気体を重合するとポリエチレンというポリマー(=樹脂)になり、固体になり、ビニール袋や食品容器に加工できるようになります。以上の流れをまとめるとこのようになります。

●原油

↓蒸留

●ナフサ

↓熱分解

●モノマー(小さな分子、例えばエチレン)

↓重合(モノマーをつなげる) 

●ポリマー=樹脂(大きな分子、例えばポリエチレン)

プラスチックの理解

プラスチックを安っぽく感じるのは、プラスチックが持つ性質が、金属にもガラスにも木材にも劣ると思うからでしょう。確かにプラスチックは金属ほど強くなく、ガラスほど傷に強くなく、木材のような温かみはありません。このように感じたことはないでしょうか。

「金属かなと思ったらプラスチックだった」

「ガラスかなと思ったらプラスチックだった」

「木材かなと思ったらプラスチックだった」

いずれもプラスチックと知ってガッカリするパターンです。しかしこれがプラスチックのすごさなのです。

プラスチックは70点くらいの金属・ガラス・木材

つまりプラスチックは、金属の代わりにも、ガラスの代わりにも、木材の代わりにもなる、といえるのです。100点の金属、100点のガラス、100点の木材とはいえませんが、70点くらいの金属・ガラス・木材、それがプラスチックです。しかもプラスチックは形づくることが簡単で、原料コストも加工コストも安価。金属やガラス、木材を使いたいけど、加工が面倒だしコスト高だからプラスチックで製品をつくる、といったことができるので、世界中でプラスチック製品が使われています。

樹脂がプラスチックの性質を決める

プラスチックの理解を難しくしているのは、種類がたくさんあるのに、どれも似ているような感じがするからでしょう。ところが、似ているようでいて明らかに違います。例えば、レジ袋と水道管は、直感的に「どちらもプラスチックだな」とわかりますが、みても、触っても、破壊してみても、両者が別の物質であることは明らかです。しかし火を、レジ袋と水道管に当てるとどちらも溶けていくので、「やはりどちらもプラスチックだな」と感じます。

さまざまなプラスチックが似ているのは、いずれも樹脂を熱して形をつくり、その形で固まるからです。さまざまなプラスチックに性質の違いがあるのは、使っている樹脂が異なるからです。そしてプラスチックの性質の違いは、それをプラスチック製品にしたときの性能や機能の違いになります

そのため「こういう性能と機能を持つプラスチック製品をつくりたい」というアイデアがあれば、樹脂を選ぶことで実現できます。樹脂の種類とプラスチック製品は以下の表のような関係があります。

樹脂樹脂からできるプラスチック製品性質
ポリエチレンレジ袋、食品用ラップ柔軟性、耐水性、透明性、衛生的
ポリプロピレンタッパー(保存容器)、医療用シリンジ、自動車バンパー耐熱性、合成、衛生的、軽量、耐衝撃性
ポリスチレン発泡トレイ、ケース、文具軽量、加工性、透明性、成形性
ポリ塩化ビニール水道管、クレジットカード、ビニール床材耐久性、防水性、耐摩耗性、剛性
ポリエチレンテレフタレート(PET)ペットボトル、合成繊維(ポリエステル)、食品容器のトレイ透明性、強度、速乾性、清潔感、耐油性
ABS樹脂レゴ・ブロック、キーボードの外装光合成、着色性、耐衝撃性、寸法安定性
FRP(繊維強化プラスチック)ヨットの船体、バスタブ、風力発電の羽根高強度、耐熱性、清掃性、軽量、高剛性

このようにプラスチックが性質、性能、機能、形を変えて人々の生活に広く、深く浸透していることがわかります。これだけのことを安価に実現できるのですから、プラスチックはすごい、といえるわけです。