金属加工の超基礎解説4- 鍛造

執筆者 | 3月 25, 2025 | ブログ

刀 鍛造

自動車のタイヤを装着するホイールには、鍛造ホイールという高級品があります。鍛造という金属加工法に高級感があるのは、金属を鍛えて質を向上させるからです。「金属加工の超基礎解説」では金属加工の現場で登場する専門用語を、金属加工をほとんど知らない人でも理解できる言葉を使って紹介します。今回は、鍛造です。

形づくるだけではなく質を高める

鍛造は、ほかの金属加工法と比較すると理解しやすいでしょう。金属を加工する方法にはさまざまな種類があり、それらをシンプルに説明するとこのようになります。

  • 鋳造は、溶かした金属を型に流し込んで形をつくる
  • 切削は、金属の塊を削って形をつくる
  • 溶接は、複数の金属を接合して形をつくる
  • 圧延は、金属をローラーで延ばして形をつくる

では鍛造はどうでしょうか。このように説明できます。

  • 鍛造は、金属を叩いて圧力を加えて形をつくる

確かに金属を叩くと変形するので、形をつくることができます。では叩くとなぜ、ほかの金属加工法では出せない高級感が生まれるのでしょうか。それは、金属は叩かれることで鍛えられるからです。金属は鍛えて質を高めることができます。では鍛造はどのように金属の質を高めるのでしょうか。

繊維状の鍛流線(メタルフロー)が高級感を生む

金属のなかには、内部が繊維状に配置されているものがあります。本物の繊維が含まれているわけではなく、金属の結晶構造が繊維のように流れるような配置になっているのです。内部の繊維状の構造は、金属を鍛造することで、つまり金属を叩き続けることで形成され、これを鍛流線(メタルフロー)と呼びます。鍛造によってメタルフローが形成されるのは、金属内部の空間が圧縮され、結晶が微細化され、結晶の方向が整えられるためです。メタルフローが形成された金属は次のようなメリットを持つようになります。

■メタルフローのメリット

  • 強度が向上する:衝撃や引張荷重に対して強くなる
  • 耐疲労性や耐久性が向上する:繊維状の配置によって切断されにくく、ヒビが入りにくくなる
  • 曲がりにくく、変形しにくくなる:繊維状の方向に沿った曲げ強度が強化される

このようなメリットを持つメタルフローを形成することができるので、鍛造された金属製品は高級品として扱われることがあるのです。

鋳造も切削もメタルフローを壊してしまう

加工前の金属内にも小さなメタルフローが自然に存在することがありますが、大きなメタルフローを形成するためには鍛造が必要です。ほかの金属加工法では、メリットを生むだけの規模のメタルフローをつくることができません。例えば鋳造では、金属を完全に溶かしてから成形するため、溶かす過程で元々あった微細なメタルフローが消失してしまいます。それで鋳造ホイールは鍛造ホイールよりも高級感が少ないとされるのです。また切削加工では、金属を削り取る過程で元々のメタルフローが破壊されるうえに、大きなメタルフローを新たにつくることもできません。

日本刀もエンジン内部の部品も鍛造品

ホイールだけでなく、高級とみなされる金属製品の多くに鍛造が使われています。最も有名なのが日本刀でしょう。鍛冶職人が熱して真っ赤になった刀を金槌で何回も叩くシーンをみたことがあると思いますが、これは伝統的な鍛造です。

また、自動車のガソリン・エンジンや飛行機のジェット・エンジンの内部の金属部品には鍛造が使われる傾向があります。もしエンジン内部の金属部品が壊れたら、本体を分解してエンジンを取り出して、さらにエンジンを分解して交換しないとならないからです。最も壊れて欲しくない金属部品に強い鍛造品を使うのは合理的です。

鍛造の方法

鍛造の方法には大きく自由鍛造と型鍛造の2種類があります。

1.自由鍛造

自由鍛造の代表は刀鍛冶です。平らな台の上に熱した材料(金属)を置き、その上から平らな工具(金槌)で叩きます。材料はつぶれたり、伸ばされたりしながら形をつくっていきます。工業製品用の金属部品をつくるときでも自由鍛造は使われます。

2.型鍛造

型鍛造は、上下1対の型の間に材料を置き、型に強い圧力をかけて材料の形を型とおりにする方法です。この機械を鍛造プレス機といいます。型を使う点では鋳造と同じですが、鋳造では溶かした金属を型に流し込みますが、型鍛造は金属の塊を置くだけです。「強い圧力」の強さは、大型金属部品をつくる鍛造プレス機になると1万トンにもなります。

鍛造のメリットとデメリット

鍛造のメリットとデメリットを紹介します。なおメリットのうちメタルフローの形成は紹介済みですのでここでは説明を省きます。

メリット

鍛造のメリットを確認していきます。

メリット1.製造が軌道にのるとコスト安、時短になり大量生産に向いている

鍛造プレス機を「ガチャン」と1回動かすと製品ができます。短時間で大量に生産するときに向いている金属加工法です。鍛造は高級品をつくるだけでなく、コスト安につくることもできます。鋳造は金属を溶かす必要がありますし、切削はすべての面を削るので時間がかかります。

メリット2.歩留まりが良い

鍛造は金属の塊をそのまま変形させるので無駄がありません。切削は金属を削るので無駄が生じます。鋳造でも溶かした金属を100%使い切ることはできません。

メリット3.肉薄の製品をつくれる

鍛造は金型や圧力を調整することで肉薄の製品をつくることができます。鋳造は溶かした金属をスムーズに流す必要があるので、肉薄にすることが難しくなります。切削は肉薄にすることができますが、その分材料を多く削ることになりコスト高になります。

デメリット

鍛造のデメリットは次のとおりです。

デメリット1.精密な寸法を出すことができない

自由鍛造では大まかな形はつくれても、精密な寸法を出すことができません。精密さが求められるときは、鍛造したあとに切削などを行う必要があります。

デメリット2.複雑な形状の製品をつくれない

型鍛造では、圧力を加えたあとに型を抜かなければならないので、型の形を、抜ける形にしなければなりません。つまり型の形に制限があるので、製品の形にも制限があります。鋳造なら金属を溶かして型をつくるのでいくらでも複雑な形にすることができますが、鍛造ではそれができません。なお鋳造では型を壊してなかの製品を取り出すので、この点でも型の形(製品の形)の自由度は高まります。

デメリット3.製造が軌道にのるまでコスト高で多品種生産にも少量生産に不向き

鍛造プレス機は大型で金額も高額です。異なる製品をつくるときは、その都度、鍛造プレス機に取り付ける型を変更しなければならず、多品種生産をするとコスト高になります。少量しかつくらない場合は、鍛造プレス機を調整するより、鋳造でつくったほうがコスト安です。

熱い鍛造と冷たい鍛造

鍛造(型鍛造)には熱いタイプと冷たいタイプがあります。熱間鍛造は、材料(金属)を1,000~1,200度に加熱してから鍛造プレス機にかける方法です。加熱することで材料が柔らかくなり加工しやすくなります。ただし、加工前後の温度変化が激しいので寸法に誤差が出やすい欠点があります。

冷間鍛造は「冷」とはいっても常温で鍛造します。加工前後の温度変化が小さいので寸法の誤差が出にくく、精密な部品をつくるのに適しているといえるでしょう。ただし、常温の材料は硬いので、鍛造プレス機の型が摩耗しやすくなります。温間鍛造は、熱間鍛造と冷間鍛造の中間の加工法で、材料を300~850度に加熱します。メリットとデメリットも熱間鍛造と冷間鍛造の中間レベルです。

優れているから生き残った

鍛造は材料となる金属の性質を向上させながら成形できる、1回で2つの効果が得られるお得な加工法といえるでしょう。これだけ優れた金属加工なので、伝統的な刀の製法から、現代の工業製品の大量生産まで使われているわけです。その歴史は古く6,000年前のエジプトなどで開発されたとされていて、これだけ長きにわたって生き残っている理由も理解できます。