技能士になるには?

執筆者 | 9月 5, 2024 | ブログ

試験

金属加工の仕事をしている人がスキルを高めたいと思ったら、技能検定に合格して技能士になる方法があります。技能検定は、国が、働くための技能を持っていることを評価する制度で、合格した人は「技能士」と名乗ることができます。しかも、技能士は名称独占のため、技能検定に合格していない人は技能士を名乗ることができません。

金属加工の世界で上を目指すなら、技能士を取得しましょう。そして、金属加工会社の経営者は、自社を強くするために、従業員に技能士を目指してもらいましょう。

技能検定とは、金属加工の技能士とは

国は技能検定制度を次のように定義しています。

■技能検定制度とは

”働くうえで身につける、または、働くうえで必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度。131職種の試験があり、合格すると合格証書が交付され、技能士と名乗ることができる。”

131職種のなかに金属加工関係があります。そのほかに建設関係、食料品関係、衣服・繊維製品関係、ウェブデザイン、ファイナンシャル・プランニングなどのジャンルがあります。あらゆる仕事に技能検定があり、あらゆるモノづくり業界に技能士がいる、といったイメージになります。したがって金属加工の仕事に従事している人は、技能検定の金属加工の領域の技能士を目指すことになります。

金属加工関係は19種類

金属加工関係の技能士には次の19種類があります。

■技能検定の金属加工の職種

金属溶解、鋳造、鍛造、金属熱処理、粉末冶金、機械加工、非接触除去加工、金型製作、金属プレス加工、鉄工、工場板金、めっき、アルミニウム陽極酸化処理、溶射、金属ばね製造、仕上げ、切削工具研削、ダイカスト、金属材料試験

したがって、例えば鋳造会社で働いている人は、鋳造の技能検定の試験を受けることになります。

試験は実技と学科

技能検定のすべての職種の試験には実技と学科があり、両方に合格したときに技能士になることができます。したがって挑戦者(受検者)は、参考書を読んで勉強して、手を動かして金属加工の技術を高める必要があります。

実技試験も学科試験も100点満点で、合否ラインは原則、実技が60点、学科が65点です。実技試験は職種によって「製作等作業試験」と「判断等試験・計画立案等作業試験」の両方を行う場合と片方のみを行う場合があります。製作等作業試験は4~6時間かけて実際に物をつくります。

判断等試験・計画立案等作業試験では、対象物や現場の状態や状況に関する質問に対して、判別、判断、測定、計算などを行います。学科試験は真偽式(○×式)と多肢択一式(複数の選択肢から1つ選ぶ)があり、原則、それぞれ25問、計50問が出題されます。

合格の権利を持ち越せる

「技能検定の受検勉強は大変そう」と感じるかもしれませんが、大変だからこそ価値があります。誰でも技能士になれるわけではないという価値です。技能検定には、大変さに配慮した仕組みがあって、実技試験か学科試験のどちらかに合格したとき、その合格の権利を次回以降の試験に持ち越すことができます。例えば、最初の挑戦で実技試験に合格して学科試験に落ちたら、次は学科試験だけを受ければよいのです。

合格権利の持ち越し期間は制限がありません。試験は年1回ないし2回行われるので、例えば、今年は実技合格を目指し、来年は学科合格を目指す、という計画を立てることもできます。ただし特級だけは5年間の期限があるので、1つの試験に合格したら、5年以内に2つ目の試験に合格しなければなりません。

金属加工会社で働いている人が技能検定に挑戦するときは、仕事をしながら受検勉強することになるでしょう。それは大変なことですが、コツコツ勉強してハードルを1つずつ越えればよいのです。

特級、1級、2級、3級、単一等級

技能士にはランクがあり、最上位は1級で、以下2級、3級となります。試験の難易度も1級が難しく、3級はやさしくなっています。特級は管理者や監督者向けの試験になり、特級がある職種と、ない職種があります。さらに1~3級がない単一等級があります。合格証は、特級、1級、単一等級が厚生労働大臣名で交付され、2、3級は都道府県知事名で交付されます。

合格させる試験である(落とす試験ではなく)

資格取得のための試験には、いわゆる合格させる試験と落とす試験がありますが、技能検定は前者です。技能検定には「技術と知識を持っている人には合格してもらおう」という「感じ」があります。したがって、意地悪な質問や重箱のスミを突くような質問はあまり出ません。

しかも試験範囲や出題内容、過去問などがインターネット上で公開されています。こうしたものを利用すれば、実技試験の合格に必要なスキルを職場で獲得して、学科試験の合格に必要な知識を参考書で獲得すれば、受検勉強コストはそれほどかかりません。また、有料になりますが民間の受検サポート・サービスも充実しているので、多少お金がかかっても短期間で合格したい人にはよいでしょう。

受検料は2万円強

技能検定の受検手数料は原則、実技試験が18,200円、学科試験が3,100円で、計21,300円です。

受検資格:実務経験が必要

技能検定を受けるには原則、実務経験が必要です。実務経験の年数は職種ごとに異なります。例えば鍛造の技能士になるための技能検定であれば、3級検定を受けるには半年間、2級検定は2年間の実務経験が必要です。ただし、検定職種の学科を高校、高専、短大、大学で修めていれば2、3級の検定では実務経験は要りません。

1級検定を受けるには、全員に実務経験が要ります。2級取得後に実務経験が2年あれば、全員1級検定を受けることができます。2級を持っていない人は、検定職種学科を修めていない人は7年の実務経験が必要で、検定職種学科を修めた場合は、高卒者は6年、高専・短大卒者は5年、大卒者は4年となります。

金属加工の技能士になる方法

金属加工会社の従業員が技能士になるには、下記の「技能検定の金属加工の職種」から自分が携わっている仕事に近いものを選び、試験を実施している機関に受検を申し込みます。東京都の場合は、東京都職業能力開発協会(千代田区)が試験実施機関になります。

■技能検定の金属加工の職種(再掲)

金属溶解、鋳造、鍛造、金属熱処理、粉末冶金、機械加工、非接触除去加工、金型製作、金属プレス加工、鉄工、工場板金、めっき、アルミニウム陽極酸化処理、溶射、金属ばね製造、仕上げ、切削工具研削、ダイカスト、金属材料試験

具体的に、金属加工の技能士になる方法を解説していきます。すべての職種をここで紹介できないので、1)金属プレス加工、2)鍛造、3)工場板金の技能士になる方法をみていきましょう。

金属プレス加工の技能士になる方法

金属プレス加工の試験でみられるには、プレス機械による金属薄板の加工に必要な技能です。学科試験の項目は、金属プレス加工法、材料、材料試験、材料力学、機械工作法、油圧および空気圧、製図、電気、安全衛生などになります。材料と機械を知らないとプレスできないので、その関連知識も問われます。また製図、電気といった、金属プレスの作業に直接関わらない知識も必要になります。さらに安全衛生は、関連法から出題されます。

実技試験は過去に次のような課題が出ています。これを実際に作業します。

■金属プレス加工の実技試験の過去問

作業試験SPCC-SD(厚さ0.5mm)の材料から、はさみでブランクを切り取り、パワープレス(能力40~100tf)により所定の絞り型を使用して、正八角形のフランジをもつ絞り製品を製作する。ペーパーテストは、複雑な加工段取り、ブランク取り、点検整備等について行う。

鍛造の技能士になる方法

鍛造の試験でみられるのは、鍛工品の製作と製造に必要な技能です。学科試験の項目は、材料検査、素材の加工、素材の加熱、製品の欠陥判別などです。2級では過去には次のような問題が出ています。

■鍛造の学科試験の過去問

  • 熱間鍛造品は冷間鍛造品よりも、残留応力が少ない(〇か×か)
  • 事業者は、クレーンの玉掛け作業に使用するワイヤロープにおいて、直径の減少が公称径の7%を超えるものは使用してはならない(〇か×か)
  • 誘導電気加熱炉に関する特徴として誤っているものはどれか(選択)
  1. :複雑形状品の工程において、リヒートが容易である
  2. :自動化が容易で、鍛造設備のライン化・省力化ができ、量産工場に適する
  3. :スケールの発生が少なく、材料歩留り及び型寿命の向上が期待できる
  4. :燃焼ガスの排出がなく、かつ低騒音炉で工場環境の改善に役立つ

実技試験では次の問題が出題されました。

■鍛造の実技試験の過去問

金型をプレス型鍛造機に取り付け、調整のための試し打ちを行ったあと、仕上げ工程を含む3工程以上の熱間鍛造を行うとともに、目視温度測定を行う。ペーパーテストは、材料検査、素材の加工、素材の加熱、製品の欠陥判別等について行う。

工場板金の技能士になる方法

工場板金の試験でみられるのは、金属薄板の加工と組立てに必要な技能です。学科試験の項目は、工場板金加工法一般、機械工作法、材料、材料力学、製図、電気、安全衛生などです。2級では過去に次の問題が出ています。

■工場板金の学科試験の過去問

  • 同一材質、同一板厚の材料を直角に曲げる場合、スプリングバック量は一般に、曲げ半径が大きいほど小さくなる(〇か×か)
  • 日本産業規格(JIS)によれば、板金材料の材料記号と名称の組み合わせとして、誤っているものはどれか(選択)
  1. SUS ステンレス鋼
  2. A アルミニウム
  3. SPC 冷間圧延鋼板
  4. C 炭素鋼板

実技試験では次の問題が出題されました。

■工場板金の実技試験の過去問

シヤー、コーナーシヤー及びプレスブレーキの板金加工用機械並びに板金加工用工具等を使用し、冷間圧延鋼板(SPCC厚さ1.2mm)を加工して、組合せ可能な段差のある箱形の製品(ボディ及びカバー)を製作する

自分が技能士になるメリット

金属加工会社で働く人が技能士になるメリットを考えてみます。このメリットを魅力に感じたら、技能検定に挑戦する価値がある、といえるのではないでしょうか。

会社で活躍できる

技能士は、技能士でない人よりも会社で活躍できるチャンスが巡ってきやすいでしょう。なぜなら金属加工会社の経営者や工場長は、技能士を有する従業員に重要な仕事を任せたいと考えるからです。重要な仕事とは、難易度が高い加工や、販売価格が高額な製品の製造のことです。技能士は「その仕事のスキルと知識がある」証(あかし)なので、上司は「技能士であるこの人ならできるだろう」と考えます。

技能検定の受検勉強は、日々の仕事とは異なる方法でスキルと知識を身につける作業、といえます。受検勉強では、職場の上司が教えてくれないことを習うことができますし、受検勉強で得たスキルと知識を職場で使うこともできます。技能検定に合格したとき「力がついた」と実感できるはずです。

労働者の価値を高めることができる

技能士になると、労働市場における自分の価値が高くなるでしょう。労働市場において労働者は、あたかも商品のように「値段」がつけられます。例えば、企業が出す求人票に「この経験とこの資格を有する人の基本給は50万円」と書かれてあれば、その条件に合致した人の「値段」は50万円で、これが労働者の価値になります。

金属加工会社の従業員が転職するとき、技能士であれば、転職先の企業が今より高額の給与を提示するかもしれません。また、同じ会社で働いていても、技能士を取得したことを機にリーダーや管理職に抜擢されたら、これも技能士が労働者の価値を高めたことになります。

金属加工会社が従業員に技能士に挑戦してもらうメリット

技能検定は、金属加工会社の人材育成戦略に有効な手段になるでしょう。経営者は、従業員に技能検定の受検を推奨してみてはいかがでしょうか。その際、受検料を会社が負担したり、受検勉強中は残業を免除したりする措置を講じると、従業員は会社に感謝すると思います。勉強モチベーションも高まりますし、会社への忠誠心も養われます。

強い会社になる

技能士が多くいる金属加工会社は強くなります。技能士はスキルと知識を持つので、より良い製品をつくることができるからです。

また、技能士が10人いる金属加工会社は、技能士が1人もいない金属加工会社より、顧客(発注者)に「技術力が高い会社」という印象を持ってもらえます。技能士が多くいる金属加工会社の経営者や営業担当者は、自信を持って顧客に「うちならできます」とアピールできるようになるはずです。

そして実際に、同業他社が断った難しい金属加工の仕事を、自社の技能士たちがやり遂げたら、発注者に高い単価を要求でき、それは売上増、利益増につながり経営力が強くなります。

優れた人材を確保できる

これから金属加工会社で働きたいと思っている若者は、会社に入ってスキルを身につけたいと思っています。その若者が、技能士が多くいる金属加工会社の求人票をみたら「ここなら技術を教えてくれそうだ」と思うでしょう。

そして求職者は、技能検定の受検をサポートしている会社に、「人材育成に熱心で、従業員を大切にしている会社だ」という印象を持ちます。このように金属加工会社が技能士の育成に力を入れると、優秀な人材が集まりやすくなる可能性があります。

早く一人前になるために

日本はモノづくり立国なので、国がモノづくりに関わる人たちのスキルアップをサポートする技能検定制度をつくったのは理にかなっています。したがって技能士は、国のサポートを受けて「仕事ができる人」になる方法なのです。

金属加工の仕事は経験が命といえるでしょう。その経験の多くは職場で得られますが、工場内での指導は、合理的でなかったり非効率だったりします。その点、技能検定は、仕事に直結するスキルと知識を、合理的かつ効率的に獲得する手段といえます。「早く一人前になりたい」「早く一人前にさせたい」と思ったら、技能士への道は最短ルートになるでしょう。