金属加工さえもECに!? ミスミのメビーが画期的

執筆者 | 8月 13, 2024 | ブログ

EC

金属加工会社の経営者は「金属加工の仕事を、Amazonのようにインターネットで全国にバンバン販売できたらいいのにな」と思ったことはありませんか。

金属加工の仕事は、発注者(メーカー)と受注者(金属加工会社)が綿密に打ち合わせをしなければならないのでEC(インターネット通販)には向かないと考えられがちですが、金属加工大手のミスミはこれに挑戦しています。ECは参入障壁が低いので、中小の金属加工会社にも金属加工ECビジネスのチャンスは十分あります。ミスミのオンライン部品調達サービス「meviy(メビー)」のビジネスモデルが参考になるでしょう。

メビーのサービス内容【概要編】

メビーのサービス内容について、概要編と詳細編にわけて解説します。まず概要ですが、次のとおりです。

“金属加工部品を必要とするメーカーが、部品の3D CADデータをメビーのサイトにアップロードすると、価格と納期が提示される。部品は最短翌日に届く。”

このサービス形態は、Amazonのサイトで商品を選ぶだけで商品が届くのとまったく同じです。ミスミは、メビーにアップされた3D CADデータを使って部品をつくり、それを発注者に送ります。メビーのコンセプトは次のようになっています。

■メビーのコンセプト

  • 3D CADデータで1分見積もり
  • 3D CADデータを2Dデータにバラす必要なし
  • Webサイト上で公差指定が可能
  • その場で製造の可否を判断
  • 製造可能な場合、価格・納期を即時に提示
  • 見積もりは何度でも無料
  • 発注から最短翌日にお届け
  • 1点ものにも量産にも対応
  • 設計者や購買担当者は、図面、納期、品質の管理にかかる工数を大幅に削減できる

非常にわかりやすいコンセプトであり、魅力があります。なお3D CADデータを2Dデータにバラす必要性については後段で解説します。ミスミがメビーで部品調達をしたメーカーに顧客満足度調査を行ったところ次のような結果になりました。

■メビーの顧客満足度調査(ミスミが2019年に実施)

  • 「設計・調達時間が短縮した」90.5%
  • 「指定日に遅れずに到着した」99.9%
  • 「想定とおりの品質だった」93.3%

メビーを利用したメーカーなどのユーザー数は13万を超え、そこにはトヨタ、ホンダ、キヤノン、YKK、パナソニック、ソニー、オリンパスといった、さまざまなモノづくり業界の有名メーカーが含まれます。少し宣伝チックな説明になってしまったかもしれませんが、それくらい画期的なサービスであるといえるでしょう。

ミスミは東証プライム企業

ミスミの正式名は株式会社ミスミグループ本社で、会社概要は以下のとおりです。

■株式会社ミスミグループ本社の会社概要

  • 本社:東京都千代田区九段南1丁目6番5号九段会館テラス
  • 設立:1963年
  • 連結売上高:3,676億円(2024年3月期)
  • 連結従業員数:11,039人(2024年3月末現在)
  • 東証プライム市場上場

株式会社ミスミグループ本社はグループ経営を担当し、この傘下に株式会社ミスミ、株式会社駿河生産プラットフォーム、駿河精機株式会社があります。ミスミの祖業は電子機器などの商社で、この商社事業は株式会社ミスミが担当しています。そしてメーカーである株式会社駿河生産プラットフォームと駿河精機株式会社を子会社化して、自らモノづくりに携わるようになったのです。したがってミスミは、つくることも売ることも得意な企業グループといえます。

メビーのビジネスモデル【詳細編】

それでは概要編に続き、メビーのビジネスモデルの詳細を確認していきます。ミスミは株式会社ミスミmeviyサポートという、メビー専用の会社を設立したほど、この事業に力を入れています。

メビーに依頼できる金属加工

メーカーがメビーに依頼できる金属加工は次のとおりです。

■メビーができる金属加工

  • 板金加工
  • 溶接加工
  • 樹脂加工
  • 切削加工(角物)
  • 切削加工(丸物)

例えば板金加工では、レーザー、抜き打ち、曲げに対応できます。対応できる素材は鉄、ステンレス、アルミニウム、パンチングメタル材、樹脂です。さらに表面処理や仕上げには、無電解ニッケルメッキ、アルマイトなどがあります。

溶接加工なら、溶接の種類、溶接箇所、仕上げを指定できるだけでなく、メビーのほうで溶接箇所を判定することも可能です。切削はマシニングを使うので複雑形状に対応しています。

942時間を78時間に短縮した事例

ミスミは、メビーを使ったあるメーカーの実績を紹介しています。

このメーカーはメビーを使う前は、1,500個の部品からなる製品の部品を調達するのに942時間を要していました。部品調達先をメビーに切り替えたところ、同じ製品の部品調達時間が78時間にまで短くなりました。92%の時間短縮に成功しました。その内訳は以下のとおりです。

■1,500点の部品からなる製品の部品調達時間の内訳

 従来:942時間メビーを使った場合:78時間
3D CADデータを2Dデータに作図750時間=1,500個×30分不要
見積もり80時間=1,500個×3.2分70時間=1,500個×3分
製造112時間8時間

一般的に部品製造を請け負う下請金属加工会社は、部品の3D CADデータだけでは見積もりをすることができません。そのため下請金属加工会社に部品を発注するメーカーは、部品の3D CADデータから2Dデータを作図した(2Dデータにバラした)データを提出して見積もりをしてもらいます。

このメーカーは3Dの2D化に750時間をかけていましたが、メビーは2Dバラしが必要ないのでこの時間が丸々不要になります。メビーは3D CADデータからダイレクトに見積もりをします。さらにメビーは見積もり作業も速いので、見積もりに要する時間も従来の80時間から70時間へと10時間減っています。

そしてもう一つの注目点は製造時間が112時間から8時間へと93%も減っていることです。なお、1,500点の部品の3D CADデータの作成時間は、従来の部品調達方法でもメビーを使った場合でも同じなので、上記の時間の算出には加えていません。

見積もりも製造も自動化

メビーが、見積もりまでの作業時間と製造時間の両方を大幅に短縮できたのは、いずれも自動化したからです。メビーはAI自動見積もりシステムを導入しています。AIはまず、3D CADデータから形状を把握して製造の可否を判断します。そして製造できると判断したら、加工技術を選んでコストと納期を計算します。これにより3D CADデータの入力から数分で見積もりが完了するのです。

製造では100万行の製造パラメーターを定義できるマシンを使うことで、やはり3D CADデータからダイレクトに製造プログラムを自動でつくります。これで製造にかかる時間を減らしています。

メビーの使用事例

世界最大規模の自動車部品メーカー、デンソーは、試作品の部品をつくるときにメビーを使いました。

それまでは3D CADデータを2D図面にしたものを下請けの部品メーカーに示して見積もり依頼をしていました。2D図面をつくるのに手間がかかるうえに、見積もりが出るまでに2週間かかることもあったそうです。それでも「できる」という回答が得られればよいほうで、待った挙句に「できない」と言われることもありました。このような手間がかかるので試作品づくりには3カ月を要したといいます。

メビーに変えたところ2D図面の作成の手間が省けるうえに、3D CADデータをメビーに提出すれば瞬時に、できる・できないの回答が得られ、できる場合は価格と納期が同時に示されました。試作品づくりの時間は1.5カ月へ半減したそうです。そして、手間がかからないことそれ自体がコストダウンとなり、年間200万円の費用を削減できました。

精密機器メーカーのリコーは、部品調達をメビーに変えたことで実現した作業効率の向上とコストダウンを、トライ&エラーの回数を増やす原資に充てました。これにより社員に「ちょっとやってみようかな」という積極姿勢がみられるようになったそうです。

中小でもECなら全国から受注できる

4,000億円企業であり東証プライム上場企業でもあるミスミのオンライン部品調達サービスを、中小の金属加工会社が簡単に真似することはできないでしょう。ミスミは単にインターネット経由で注文を受けつけているだけでなく、AI自動見積もりシステムや100万行の製造パラメーターを定義できるマシンを導入して、金属加工のEC化に成功しました。

しかもミスミが対応できる金属加工は、板金、溶接、切削と多彩で、この体制を築くことも中小の金属加工会社には困難なはずです。しかし金属加工のEC化というビジネス・コンセプトは、中小の金属加工会社に向いている、といえます。

可能性

ECは家電や食料、服などのBtoC商品の小売で広がったわけですが、着目したいのは地方の小さな小売店でも良い商品を用意できれば全国展開できることです。シンデレラのように一夜にして有名店になることも、ECなら可能です。

ECがスモール・ビジネスをシンデレラ化できるのは、いわゆるバズることの訴求力がとてつもなく強いからです。さらにECは参入障壁が低いというメリットもあります。このビジネス・パワーを、中小の金属加工会社が使わない手はありません。ECはBtoBでも使えるはずです。中小の金属加工会社は、メビーほどの高性能システムをそろえることができなくても、例えば受注システムだけでも構築できれば、潜在顧客は見積もり依頼を出しやすくなり顧客を増やすきっかけになるでしょう。

課題の克服

「ミスミくらいの大企業だからメビーのような優れた金属加工ECを展開できた」と言ってしまったら、まさにコロンブスの卵です。ミスミもさまざまな課題を乗り越え、必要であれば専門会社をつくったりAI投資をしたりして、オンライン部品調達サービスを構築したはずです。

しかし中小の金属加工会社には、金属加工のバリエーションが多くないという弱みがあります。しかしこの弱点は、複数の中小の金属加工会社が提携することで解消できます。切削加工ができる会社と表面処理ができる会社と鍛造が得意な会社が提携して、なおかつ一つの受注システムを共有すれば、この3社で「オンライン切削・表面処理・鍛造部品調達サービス」事業を展開できるでしょう。 中小の金属加工会社がメビーから学べることはたくさんあると思われます。