旋盤を安全に使うために

執筆者 | 5月 1, 2024 | ブログ

旋盤

旋盤は金属を1秒に30回回転させる、とても危険な機械です。その危険度は命に関わるレベルで、旋盤加工中に起きた死亡事故が、中央労働災害防止協会のサイトに記載されているのでぜひ一読ください。

■旋盤を起因物とする死亡災害事例(中央労働災害防止協会)

https://www.jisha.or.jp/international/topics/pdf/1999_2020jf151CSA.pdf

この記事では旋盤のメカニズムを紹介してから、安全を確保する方法を紹介します。危険が発生するメカニズムを知ることで「だからこうすれば事故が起きないのか」と理解できるからです。この記事は新人の作業者さんに読んでいただくだけでなく、工場の安全責任者に、新人教育の資料として使っていただければと思っています。

【旋盤の基礎】加工の流れ

旋盤の基礎知識として、加工がどのように進むのかみていきましょう。どこに危険が潜んでいるか推測しながら追っていってください。

ワーク(加工対象)の材料を選ぶ

まずワークとなる材料を選びます。作業者は図面に描かれてある完成品の大きさ、材質、形状から適切な材料を選びます。

バイト(切削工具)を選ぶ

続いてバイトを選びます。バイトは旋盤に固定して、回転するワークに接触させてワークを削っていきます。作業者はやはり図面を確認して、適切なバイトを選びます。バイトには、シャンク(胴体部分)と刃先が一体となっているムクバイト、刃先をシャンクに溶着させている付刃バイト、刃先を交換できるスローアウェイバイトがあります。

加工条件を決める

旋盤加工はいくら技術を持っていても、材料、バイト、加工条件がすべて適切でないと成功しません。加工条件は回転数、送り量、切り込み量の3つで構成されます。回転数は、ワークを回転させる速度です。回転数を上げると(高速回転させると)、表面がキレイに仕上がり加工時間が短く済みますが、バイトの摩耗が進み(バイトの寿命が短くなり)コスト高になります。回転数を下げるとこの逆の現象が起きます。

送り量は、ワークが1回転する間にバイトを進める距離です。送り量を小さくすると(ゆっくり削ると)、表面がキレイになりますが加工時間が長くなります。切り込み量は、ワークを掘り込む深さです。加工条件の3項目はトレードオフの関係(「こちらを立てればあちらが立たず」の関係)にあるので作業者は優先順位を決める必要があります。

ワークをチャック(固定器具)に固定する

ワークを旋盤に固定する器具の名称をチャックといいます。チャックには爪がついていて、これでワークをつかみます。このときチャックハンドルを所定の場所に挿入して回して固定します。チャックが固定されたことを確認したら、チャックハンドルを取り外します。

バイトを旋盤に固定する

バイトを旋盤に取りつけて締めつけネジを締めて固定します。バイトの刃先が旋盤の主軸の中心にくるように調整します。

加工基準をつくり、端面削りをする

加工基準とは、加工作業における基本的な基準や目標のことを指します。旋盤加工においては、ワークの中心線や端面が加工基準となります。正確な加工基準を設定することで、加工精度や作業の安定性を確保できます。

加工基準で重要になるのが、ワークの中心線と端面、心立てです。中心線は、ワークの回転軸に沿って伸びる仮想的な直線です。旋盤加工では、ワークの中心線を基準として加工を行います。ワークの中心線に対して切削工具を正確に配置することで、精密な加工が可能になります。端面は、ワークの両端に位置する平面のことです。旋盤加工では、端面を基準にしてワークを固定し、加工対象の外径や長さを決定します。端面は加工対象物の最も外側の面であり、加工の精度や寸法の基準点となります。

心立ては、端面を基準にしてワークを旋盤に固定するための工具や装置のことです。心立てによってワークは正確に回転しブレることなく安定して削ることができます。加工基準ができたら端面削りに入ります。端面削りではワークの端面を平坦に削り取ります。端面の不要な部分を除去するイメージです。端面削りによって、ワークの両端が正確で平坦な状態になります。

加工していく

端面削りのあと、図面とおりに削っていきます。荒削りをしたあとに仕上げ削りを行なう、というように2段階で加工していきます。

後片付け

完成したら後片付けを行います。完成したワークをチャックから外し、バイトを旋盤から外し、切りくずを捨て、切削油をふき取ります。

【旋盤の基礎】加工の種類

旋盤を使った加工方法には次のものがあります。

  • 外径加工:ワークの外側を削ります
  • 穴あけ加工:ワークに穴を空けます
  • 中ぐり加工(内径加工):中空になっているワークの内側を削ります
  • ネジ切り加工:ワークの外側、または中空の内側にネジの溝を掘っていきます
  • 突切り加工:ワークの外側に溝を掘ります

安全はこう確保する

それでは旋盤を使った作業において、安全を確保する方法を紹介していきます。

「ケガをしないように」だけではない安全の目的

少しシビアな話になりますが、工場における安全確保は、作業者にケガを負わせないためだけにあるわけではありません。もちろん作業者を守ることが安全確保の最重要目標なわけですが、2番目に重要な目標はコストを抑えることです。工場で事故が起きると、作業を止めることになり、機械が壊れるかもしれません。安全確保は経営に直結します。

「旋盤は凶器」と教えてもよいでしょう

先輩作業者は新人作業者に「旋盤は凶器」と教えてもよいでしょう。人は恐がることで注意力が上がるからです。旋盤は、作業者の体の一部を巻き込みますし、動いている刃物は人を傷つけます。高速回転している金属が外れると、銃弾のように勢いよく飛んでいきます。旋盤は作業者の指を何本も切断してきました。骨折や失明も引き起こし、死に至らしめることもあります。

作業服は防護服である

「作業服は防護服」と教えると、だらしなく着ることを予防できるかもしれません。長袖長ズボンで、体にぴったりした作業服を選ぶのは、旋盤に巻き込まれる確率を減らすためです。大きなポケットすら、巻き込みリスクを高めてしまいます。

作業帽は頭髪が旋盤に巻き込まれるのを予防して、なおかつ飛来物から頭を守ります。安全靴を履くのは、金属が足に落下しても足を傷つけないようにするためです。必要に応じて防塵メガネやマスクを着用します。旋盤では飛び散った切りくずが目や口のなかに入ってくることがあります。

旋盤では手袋はしない

旋盤を使うときは手袋をしません。手袋が旋盤に巻き込まれる危険があるからです。これは法律でも禁じられていて、次のように書かれています。

■労働安全衛生規則第111条

  • 第1項:事業者は、ボール盤、面取り盤等の回転する刃物に作業中の労働者の手が巻き込まれるおそれのあるときは、当該労働者に手袋を使用させてはならない
  • 第2項:労働者は、前項の場合において、手袋の使用を禁止されたときは、これを使用してはならない

会社は作業者に手袋をさせてはいけなくて、作業者は手袋をしてはいけません。会社によっては、段取りのときは旋盤が停止していれば軍手を着用していてもよい、としているかもしれません。しかし安全に厳しい工場では、手袋を外し忘れて旋盤加工の作業に入ってしまう可能性があることから、段取りのときも手袋着用を禁止しています。手が油で汚れるくらいのことは事故のことを考えたら小さなことです。

旋盤は「この手順が危険」「論外の行動にも注意を」

旋盤を使った作業に潜む危険を紹介します。ここで紹介する行動を取らないだけで安全性は高まります。危険な行動のなかには、作業者の誰もが「そんなことするはずがないだろう」と感じる論外のものもあります。論外の行動もここで紹介するのは「そんなことをする人がいる」からです。

長いワークを削るのに振れ止めを使わないのは危険

ワークが長いときは、振れ止めという器具を使って削ります。振れ止めはチャックで固定している場所とバイトで削る場所の間に設置して、回転してブレようとするワークの動きを制御します。振れ止めを使ったほうがよいワークの長さは「何センチ以上」と決まっているわけではありませんが、使うかどうか迷ったら使いましょう。

振れ止めを使わないことでワークがブレてしまうと、バイトが過度な負荷を受けて破損して、そのかけらが飛散して危険です。もちろんワークがブレると加工精度が落ちてしまいます。

チャックハンドルを外し忘れるのは論外

チャックハンドルは、ワークをチャックに固定するときだけに使います。したがってワークをチャックに固定したら、チャックハンドルを外してから加工の作業に入るわけですが、外し忘れると事故が起きます。ほとんどの作業者は「あれほど大きなものを外し忘れるわけがない」と思うでしょう。しかしチャックハンドルをつけたまま旋盤を動かしてしまい、チャックハンドルを飛ばしてしまう事故が起きています。

「かみしろ」不足は危険

ワークをチャックに固定するとき「かみしろ」が不足していると回転中にブレが生じ、ワークが外れる危険があります。

バイトをチャックにぶつけるのは論外

旋盤では、ワークを削っているバイトは徐々にチャックに近づいていきます。ワークを、チャック近くの根本ギリギリまで加工するとき、バイトがチャックに接触するリスクが高くなってしまいます。バイトがチャックに接触すると、バイトもチャックも、そして旋盤本体も壊れることがあります。

バイトがチャックに接触すれば壊れることは明白ですが、それでもこの事故も起き続けています。旋盤の自動送り機能は便利ですが、作業者が目を離すとバイトとチャックの接触事故につながりかねません。

切りくずが飛散すると危険

旋盤で発生する切りくずは剃刀のように鋭利で危険です。そのうえ飛散することになったら危険度は倍増します。切りくずの飛散を防止するカバーを旋盤に取りつけたり、作業中に保護メガネを着用したりして予防します。

バイトの突き出し量が長くなると危険

バイトは旋盤の刃物台に取りつけるわけですが、突き出し量が長くなると回転中にブレが生じて危険です。バイトの突き出し量は、シャンク(バイトの胴体部分)の幅の1.5倍以内にします。

バイトの交換を旋盤が動いているときに行なうのは論外

1つのワークの加工に対して複数のバイトを使うとき、作業途中でバイトの交換が必要になりますが、旋盤が完全に停止してから交換作業を行いましょう。

動いているときにバイト交換なんかしない、と思うかもしれませんが、停止直前に「もう大丈夫だろう」と思って交換作業に入って巻き込まれる事故が起きています。旋盤のなかには10馬力を超えるものもあり、これは小型バイクに匹敵するパワーです。

回転しているワークの加工具合をのぞくのは危険

ワークの加工具合を確認したいとき、ワークがチャックについたまま確認することがあります。ワークの回転が止まってから確認するようにしてください。新人作業者はどうしても「削れているのか、削れていないのか」と不安になるので、頻繁に確認したくなります。それでワークが回転しているときでも、顔を近づけてのぞき込んでしまうことがあります。

削っている場所(つまりワーク)に顔を近づけることはとても危険です。作業者が自分の体を削っている場所から可能な限り離すことは基本行動の一つです。

切りくずも切削油も飛ばすのは危険

切りくずも切削油も加工に欠かせないものでありながら、加工の邪魔をします。そのため作業者がコンプレッサーの強力なエアーで、旋盤に付着した切りくずや切削油を吹き飛ばすことがあります。カバーなどをせずに吹き飛ばすと、切りくずや切削油が人に当たって危険です。

中ぐり加工の切りくずの飛び先は予測できず危険

旋盤加工に慣れてくると切りくずの飛び先をある程度予測できるようになります。しかしベテラン作業者でも、中ぐり加工のときに発生する切りくずの飛び先は予測できません。それは切りくずがチャックのなかに侵入して、チャックがさまざまな方向に切りくずを飛ばすからです。

柔らかい材料は切りくずが細長くなって危険

切りくずは短くても危険ですが、長くなるとさらに危険度が増します。柔らかい材料を削ると切りくずが長くなりやすいので注意してください。長い切りくずがチャックに絡まって高速回転してしまうと、刃物を振り回しているようなものなのでとても危険です。

荒削りが終わったワークを触れるのは危険

荒削りが終わった段階でも、見た目はすでにツヤツヤしていて危険そうにはみえません。しかしところどころ鋭利になっているので、表面を素手でなでたりすることは危険です。どうしても手で触れて加工具合を確かめたいときは、目視で鋭利になっていないことを確認してから行いましょう。

ヤスリのバリ取りは危険

荒削りに続いて仕上げ削りを行ったあとに、ワークを回転させたままヤスリで輝きを出すことがあります。この作業は手で握ったヤスリをワークに接触させることになるので、巻き込みの危険があります。ヤスリがチャックに接触すると簡単に飛ばされてしまいます。

丁寧に扱わないのは危険

ネジ切り加工や突切り加工に使うバイトは壊れやすいので丁寧に扱いましょう。ケガのリスクは少ないのですが、バイトが破損すると加工精度が落ちたり、修理にお金がかかったりします。旋盤加工に使うものはすべて丁寧に扱いましょう。

面倒なことをするメリットを知らせる

若い作業者のなかには、「工場の良し悪しは整理整頓と清掃で決まる」と言われると、精神論のように聞こえて不快に感じる人がいます。「工場の床がキレイになっても加工の精度が上がるわけがない」と考えているからでしょう。

しかしベテラン作業者は整理整頓と清掃ができていない工場から良い製品が生まれるはずがないことを知っています。キレイな工場は不具合箇所を発見しやすく、そのため改善しやすく、その結果作業効率が上がり、快適なのでモチベーションが向上するので、良い製品が生まれやすくなるからです。

そして整理整頓と清掃をするときに危険が排除されるので、キレイな工場は安全です。ところが整理整頓と清掃は面倒です。旋盤を安全に扱うことは、それよりもさらに面倒です。したがって工場の安全責任者は、作業者全員に面倒なことをさせなければならないわけで、それはとても苦労するでしょう。

面倒なことをして得られるメリットは多く、例えば、製品の精度が高くなりますし、快適に作業できるようになりますし、ケガを負わないで済みます。面倒なことをするメリットを伝えることで、進んで安全な行動に取り組めるようになります。