工作機械のメンテナンスの重要性

執筆者 | 12月 15, 2023 | ブログ

工作機械 メンテナンス

金属加工会社にとって工作機械は、従業員の次に大切な存在のはずです。もし工作機械が動かなくなったり必要な精度が出なくなったりしたら、製品をつくれなくなったり不良品が発生したりします。そこで重要になるのが工作機械のメンテナンスです。メンテナンスは、仕事、利益、顧客、従業員にメリットをもたらすでしょう。この記事では、工作機械のメンテナンスの重要性を解説したうえで、メンテナンス方法を紹介します。

精度が命だからメンテナンスが生命線

「なぜ工作機械にメンテナンスが必要なのか」という問いの答えは、メンテナンスをしなかったときのことを想像するとわかります。

必ず精度が落ちる現象を食い止めるのがメンテナンス

工作機械は精度が命です。そして工作機械が必要な精度を出せるのは、工作機械を構成する部品が正常なときだけです。部品は「必ず」摩耗したり劣化したり緩んだりするので、工作機械は「必ず」精度が落ちます。「必ず」起きる不具合を起さないようにするのがメンテナンスです。したがってメンテナンスをしないと、工作機械は「必ず」いつか精度が落ち、不良品をつくることになってしまいます。

故障を予防する

メンテナンスをするもう一つの目的は故障を予防することです。工作機械の精度が落ちて不良品を出すことより悪いことは、故障して製品がつくれなくなることです。さらにいえば故障しても修理をして直ればよいのですが、最悪、もう二度と使えなくなることもあります。メンテナンスをしていれば故障しそうな部分がわかるので、最悪の事態になる前に修理できます。工作機械の寿命については、以下の「工作機械の耐用年数」記事が参考になります。

メンテナンスはコストがかかりますが、故障を修理したり、故障によって使えなったりするコストよりは安く済みます。

メンテナンスをしないことが招く悲劇

メンテナンスは楽しい作業ではありません。工作機械を使って製品をつくることは創造的ですが、工作機械を止めてチェックして必要に応じて修理することは何も生み出しません。しかもメンテナンスは利益を生まない作業なのに、手間も人手も時間もコストもかかります。したがって金属加工会社としては、メンテナンスは「やりたくないこと」リストにあげたくなります。「それでもやらなければならない」と思うには、メンテナンスをしないことが招く悲劇を知っておくとよいでしょう。

仕事が「より」できなくなる

メンテナンスをしている間は工作機械を止めなければならないので仕事ができないわけですが、メンテナンスをしないことで故障すると、さらに長い期間仕事ができなくなります。仕事ができない時間を短くするのがメンテナンスです。

利益が「より」出なくなる

工作機械の停止時間は利益が出ない時間です。したがってメンテナンスは利益が出ない時間が短くして、故障は利益が出ない時間が長くします。

不良品が出て顧客から信用されなくなる

メンテナンスをせず精度が落ちたままの工作機械を使い続けると、不良品が出る確率が高くなってしまいます。不良品は検査である程度除外できますが、不良率が高くなると検査での見逃す確率が高くなります。つまり、顧客に不良品を渡してしまうリスクが高くなってしまうわけです。顧客の信用を失わないためにメンテナンスをしましょう。

作業者のモチベーションが下がる

本当は精度が落ちた工作機械を使っているから不良品が出ているのに、実際に不良率が高まっていることが確認できてしまうと、どうしても「作業者のせいではないか」といった疑念が湧いてしまいます。また作業者自身も「自分のせいではないか」と感じることでしょう。このいわれなき疑念は作業者のモチベーションを低下させます。

さらに、もし作業者が、自分が使っている工作機械のメンテナンスの実施を経営者に頼んでもそれが実現しなかったら、作業者は「ベストの状態で仕事ができない」と感じます。これも働くモチベーションを下げます。

生産性が低下する

生産性の向上はすべての金属加工会社の至上命題であり、すべての工場はありとあらゆる方法で生産性を高めようとしているはずです。しかし工作機械の状態が万全でなく、作業者が頻繁に作業を中断して工作機械をチェックしなければならなくなると、生産性は一気に低下します。

作業工程を見直して5分縮めることができても、チェックに30分かかったら元も子もありません。生産性は高めることは牛歩のごとくゆっくりなのに、低下するときは滝のごとく急激に落ちます。また、頻繁に工作機械をチェックすることになると作業者がイライラするのでモチベーションも生産性も下げます。

メンテナンスの仕方

工作機械のメンテナンスの仕方を紹介します。

メーカーの指示とおりに実施する、またはメーカーの講習を受ける

工作機械メーカーはメンテナンスの仕方を指定しています。金属加工会社は、そのとおりにメンテナンスしていくことが求められます。定期点検や定期的な部品交換が推奨されていたら、そのタイミングで実施します。

さらに大手メーカーのなかには、金属加工会社の作業者などを対象に、メンテナンスの仕方をレクチャーしているところもあります。メンテナンス講習では、実機を使って保守項目を確認したり、電気系不具合の追跡方法を学んだりすることができます。作業者がメンテナンス講習を受ければ、翌日には自社工場の工作機械をメンテナンスできるようになります。

担当者とルールを決める

メンテナンスは誰かが手を動かして行わなければならないので、実施する担当者とルールを決めましょう。メンテナンスの担当者は、1)実際に工作機械を使う作業者、2)メンテナンス専門の担当者、3)メンテナンスの管理者、の3者を用意することをおすすめします。

  1. 作業者は日々工作機械を使っているので小さな変化でも察知できるため、メンテナンスの実施タイミングをつかむことができます。またメンテナンスを課すことで作業者は工作機械に触れる機会が増え、構造をより深く理解できたり、愛着を持ったりするようになります。
  2. メンテナンス専門の担当者は、多くの工作機械を保有する工場に必要です。この人はメンテンナンスや保守、点検、整備、修理を専門にして、生産には携わりません。このような担当者を置くことで、作業者が見落とした不具合をみつけられるようになりますし、新人の作業者にメンテナンスの方法を教えることができます。
  3. メンテナンスの管理者は、作業者とメンテナンス専門担当者がルールとおりにメンテナンスを実施しているかチェックします。

メンテナンスのルールは、どの工作機械に、いつ、何をするのかを定めます。メンテナンスは、チェックしても不具合が一つもみつからないことがほとんどなので、ルールがないと「一回飛ばしてもいいかな」といった油断が生まれてしまいます。ルールを定め、担当者を定め、管理体制を構築することで確実にメンテナンスを実施できます。

レーザーで精度を測る

工作機械の精度が上がると、人の感覚だけでは不具合をみつけられなくなることがあります。例えば、1マイクロメートルの精度を持つ工作機械に1マイクロメートルの歪みが生じたらその精度を出せなくなりますが、人の感覚でそのレベルの歪みを検知することは不可能です。そこで有効になるのがレーザー測長装置です。これを使って調整することで、工作機械が持つ本来の精度を維持することができます。

清掃

清掃はメンテナンスのスタートラインです。工作機械とその周辺は、作業が終わったらすぐに清掃しましょう。埃や切りくず、オイルなどは部品にダメージを与えるだけでなく、不具合が生じている箇所を隠してしまうこともあります。

清掃は、毎日やるもの、週1回やるもの、月1回やるもの、半年に1回やるもの、年1回やるもの、といったように決めていきましょう。原則、工作機械の表面ほど清掃頻度を高め、奥にいくにしたがって頻度を落としていきます。清掃あってのメンテナンスです。

オイル交換

工作機械のオイル交換は定期メンテナンスのなかでも最も重要なメニューです。チェックリストをつくったり、チェック体制を二重、三重にしたりして、オイル交換忘れがないようにしてください。

切粉(きりこ)対策

工作機械で生まれる切りくずのことを切粉といいます。切粉は工具やワーク(工作物)を傷つけるだけでなく、作業者の安全にも関わります。切粉はどうしても発生してしまうものですが、メンテナンスが不十分で工具に不具合があると悪化します。切粉対策にはチップブレーカや切削パス、クーラントなどがあるので、メンテナンスとあわせてこれらの対策を講じるようにしてみてください。

プロに依頼する

金属加工会社が自前で行うメンテナンスには限界があります。定期的にメンテナンスのプロにみてもらうほうがよいでしょう。

「ここまでやる」事例紹介~牧田技研のスピンドルの修理

「ここまでメンテナンスをやるのか」という事例として、牧田技研(本社・浜松市)のスピンドル(主軸)の修理を紹介します。スピンドルは穴あけ加工や切削加工を行う工作機械の心臓部と呼ばれるくらい重要な部品で、先端にドリルなどを設置して回転させる軸です。牧田技研は日本経済新聞などに紹介されるほどの実力の持ち主です。

参照:

https://www.makitagiken-hc.com/%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB

http://www.yamanaka-sangyo.co.jp/wp-content/uploads/2021/02/M_Y_collabo_naka_ol.pdf

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69214560T10C23A3L61000/

http://www.yamanaka-sangyo.co.jp/profile/index.html

メーカーではなくメンテナンス専門業者が行うメリットは作業時間の短さ

スピンドルは工作機械を構成する部品の一つなので、メーカーでもメンテナンスすることができます。しかし牧田技研は、スピンドルのメンテナンスの専門業者です。メーカーがスピンドルをオーバーホールすると数カ月以上かかりますが、牧田技研は最短1カ月で終えます。つまり工作機械を停止する期間が最短1カ月で済むわけです。

メンテナンス・メニュー

工作機械からスピンドルを取り外し、牧田技研の工場に運びます。オーバーホールの内容は、分解しての洗浄、部品の精度チェック、ベアリングの調整、研磨などです。メンテナンスを終えた部品は、組み立て専門ルームに持ち込まれ、室温22度、湿度50%以下の状態を維持して組み立てられます。

牧田技研が使う高さ測定器の精度はプラスマイナス2マイクロメートル・レベルで、石定盤の平面度は2マイクロメートル以下です。石定盤は部品の寸法を測定するときなどの土台になるもので、これが真っ平でないと正確に測れません。平面度2マイクロメートル以下とは、石定盤上の最も高い地点と最も低い地点の差が2マイクロメートル以下ということです。

またスピンドルは、ベアリングという精度を出すことが難しい部品を複数使っているのですが、この修理はベアリングなどの機械部品を販売している山中産業(本社・浜松市)が担当しています。

まとめ

本稿の内容を箇条書きでまとめます。

  • 工作機械は精度が命。命を守るのがメンテナンス
  • メンテナンスをしないことが招く事態は悲惨。仕事ができない、利益が出ない、顧客の信用を失う、など
  • メーカーの指定とおりにメンテナンスを行う
  • メンテナンスは担当者とルールを決めて取り組もう

工作機械のメンテナンスを専門に行う業者があるほど重要な作業です。メンテナンスをしっかりしていれば、「うちの工場はしっかりしたモノをつくることができます」と言えるようになり、工場全体の自信につながります。