工作機械業界M&A活性化。再編の動きは?

執筆者 | 10月 27, 2023 | ブログ

M&A

工作機械業界にもM&Aの大きな波が来ているようです。ここのところ、業界再編とも言える動きが活発になっていることは皆様ご存じのことかと思います。つい先日も、DMG森精機によるクラボウ傘下の工作機械メーカー倉敷機械の買収が発表されています。そのほかにも、ニデックがTAKISAWA(旧滝沢鉄工所)の株式公開買い付けTOBを実施することも耳に新しいのではないでしょうか。

業界周辺の流れや需要の変化を見込んで、生産の効率化、販路拡大や調達コストの削減のため買収やTOBといった再編の動きから今、目が離せません。これまでリーマンショックや海外向け製品需要の落ち込みなど、急激に受注量が減るという幾つもの過渡期を経てきた工作機械業界。市場規模は1兆数億円、100社以上の企業で構成されており、ここ数年ではコロナ禍での事業活動への影響も見られました。

国内外の経済状況の影響を非常に受けやすいことに加え、今後カーボンニュートラルの課題や、DX化の流れもある製造業変革ともいえる時代の真っ只中、この活発な動きは止まらないのではないかと目されています。今回は、M&Aについておさらいするとともに、懸念されているポイントなどまとめていきたいと思います。

工作機械業界におけるM&Aの背景

工作機械業界においては、課題を解決のためにM&Aが活用されるケースが多くなっています。先に挙げたDMG森精機の直近の例では、どのような背景があったのでしょうか。

DMG森精機は倉敷機械の全株式を取得、事実上の子会社化を決定しています。CNC横中ぐりフライス盤を主力とし、約40%の国内シェアを持つ倉敷機械。その買収により、森精機は従来手がけていなかったCNC横中ぐりフライス盤をラインナップに加えることになります。CNC横中ぐりフライス盤というと、宇宙・航空や電源開発などで年々需要が増加している勢いのある分野です。工作機械業界の最大手であるDMG森精機ですが、業界最大級の品ぞろえを持つものの、CNC横中ぐりフライス盤は製造していなかったことが背景にあるのでしょう。

そもそもM&Aとは

M&AはMergers and Acquisitionsの略で、その単語の意味通り企業の合併・買収を指します。その中身はいくつかのパターンがあります。複数の会社が一緒になる、つまり合併することや、ある会社が他の会社を買うこと、つまり買収することがこれに当たります。そして、その内容も単純ではなく、企業や事業全体の移転を伴う取引のほか、企業や事業の一部の移転を伴う取引もあります。一般的には「会社や経営権の取得」を意味しています。

以前は外資系ファンドといった、ある企業による乗っ取りのようなイメージが大きかったのですが、近頃は会社の成長戦略のひとつの手段として捉えられることが増えているようです。製造業でとりわけ話題になったり、注目されるのがクロスボーダーM&Aと呼ばれる、海外とのM&A。当事者企業のうち、売り手もしくは買い手のどちらかが海外企業の場合が当てはまります。国内企業が、海外企業に対しクロスボーダーM&Aを行う場合、その目的は海外進出による新たな市場獲得にあります。もちろん、製造業だけに当てはまることではなく、国内市場が成熟しきっている今、どの事業領域でも積極的な海外進出が視野に入れられています。

例として、小松製作所が2019年にオーストラリアの企業を子会社化した例があります。その企業は、鉱山機械向けシミュレーターの開発や、製造販売を手掛ける工作機械メーカーであり、小松製作所は今後成長が期待される鉱山機械分野の獲得のために動きました。成長分野への積極的な投資を検討する中、クロスボーダーM&Aの実施に踏み切った例です。

M&Aの目的の広がり

今、強まっている工作機械業界再編の動き。前述のパートで様々な側面を見てきたように、既存事業の強化や従来持っていなかった新規事業の着手など、本来の目的に加え、人手不足など様々な課題をクリアする突破口となるのか。業界内の動きから今後も目が離せません。工作機械業界では海外進出を目指す企業が多いと言われていました。中でも、既に進出を果たした企業は、海外事業のさらなる強化を推進するためにM&Aを実施してきました。

例として、2019年の住友商事による浅間技研工業の子会社化などが挙げられます。自動車ブレーキ部品を納入している製造メーカーである浅間技研工業。既に海外進出を果たしており、アメリカとインドネシアに合計3拠点の工場を所有していたのですが、住友商事は、それらの工場を拠点に海外市場でさらなる事業を展開していくことを目的にM&Aを行なっています。自社が手掛ける自動車ブレーキ部品事業を強化することとなりました。

また、海外企業との間のM&Aではないものの、海外での生産力を自社に活用することを視野に入れた例もあります。2018年の富士紡ホールディングスの例です。韓国拠点でプラスチック金型の大量生産・コスト削減を実現していた東京金型を子会社化しています。東京金型のもつ高い技術力を手に入れ、また主力の事業に加えて、新しく化成品事業に注力していくための足掛かりとなったようです。

M&Aによって単独では難しい海外進出の実現や、ゼロから始めるにはコストがかかりすぎる新規事業の土台を作るなど、企業活動の新たなチャレンジが可能になることがわかります。新しい人材や技術、顧客を開拓していくという意味では、買い手企業にとってメリットがあるだけでなく、コスト減につながっている事例も多いようです。

一方で、売り手側にとっては、後継者問題の解決や、従業員の雇用先を確保できるといった大きな企業課題に関するメリットがあります。加えて、長年その道を極めてきた企業にとっては、これまで培ってきた技術を継承していけるという面も、前向きな要素として挙げられると思います。

特に後継者問題に関しては、工作機械業界では70年代創業の団塊世代の経営者が多いため、2020年前後から一挙に引退適齢期に入った企業が多いという現状があります。親族の後継者による事業承継ができる企業はスムーズかもしれませんが、後継者不在の企業も少なくありません。経営者の高齢化は、どの業界であっても、経営力の低下など企業活動の存続に直結する課題事項です。M&Aによる後継者探しは、今後も有効な手立てとして多くの企業で検討されていくと思われます。

終わりに

今回の記事は、工作機械業界のM&Aについて国内の現況を中心にまとめました。工作機械業界では以前からさまざまな目的でM&Aが行われており、いま業界の大きな過渡期ともいえる動きが加速していることを確認できました。

直近でも業界内をざわつかせるようなニュースが複数入ってきており、今後も競争環境の激化が余儀なくされるような状況にあります。自社の基盤を固めるにはどうすればよいのか、IT化スマート化など、これからの時代を見据えどのように動いていくのか。各社、それぞれの課題でもあり、業界全体として問題を捉えていくべきだと考えます。