工作機械の耐用年数

執筆者 | 10月 12, 2023 | ブログ

機械 古い

当たり前の様に毎日稼働している機械。良い状態がずっと続いてくれるに越したことはないのですが、いつまで同じ様にパフォーマンスを上げてくれるのでしょうか?本日は、製造業になくてはならない工作機械の寿命についてまとめていきます。「法定耐用年数」、「減価償却」について今一度おさらいするとともに、実際のところ、工作機械の寿命をのばすことはできるのか?という点についても触れております。現状では課題はないから大丈夫、と言う場合でも長期的な視点を持ってぜひ知見として得ていただければと思います。

耐用年数とは

現場で稼働している機械が減価償却の対象になる資産であると言うことは皆さんご存じかと思います。これらの資産には耐用年数が適用されることとなります。時間の経過や使用により価値が低下していく固定資産を、利益を生み出す資産と捉えて、使用可能と想定した期間内で分割計算し、長期に渡り分割で費用に計上していく方法が「減価償却」です。

例えば、土地は、時間の経過によって価値が変わることはないため減価償却の対象外となるわけです。これに対し、工作機械は、使うたびに、また時間が経つにつれて価値は低下しますから、減価償却の対象になります。今回は詳しくは記しませんが、会計上では、固定資産として計上されている資産の資産価値を減らして記載を行うことになります。賃借対象表においては資産の減少、損益計算書では費用の増加となります。

そして、減価償却の対象となる固定資産については、その種類や用途により法律上の細かな耐用年数が決められているのです。「耐用年数」を一言で言うなら、会社などが所有している固定資産をその目的のために使用することができる期間のこと。その資産が、資産として利用でき使用に耐えられる年数を指します。「法定耐用年数」といえば、法で定められている耐用年数を指します。

減価償却の方法には二つの方法があります。定額法と呼ばれるものと、定率法と呼ばれるものです。固定資産購入の代金を法定耐用年数で割って償却していく方法が定額法。毎年同額になるのが特徴です。これに対し、購入してすぐの期間は減価償却費が大きく設定され、その後徐々に少なくなっていくのが特徴なのが定率法です。工作機械はどちらが採用されることが多いか、ご存じでしょうか。今一度確認いたしましょう。

機械装置の類については、原則として定率法が採用されています。耐用年数自体はどうやって決められるのでしょうか?財務諸表作成などのために、資産に耐用年数をそれぞれ設定するには、固定資産の利用状況の変化や、個々の企業環境も検討しなければなりません。同じ工作機械を保有していても、企業ごとに利用状況はもちろん違いますから、耐用年数は違うものになってきます。企業の個別の状況が反映される耐用年数のことを、とくに「個別的耐用年数」と呼びます。その企業の業種や利用状況に基づいて最終的に決定する詳細な年数と言えます。会計上のルールの詳細についてはこちらでは割愛いたしますが、以上が減価償却と耐用年数についての基本知識になります。

工作機械の耐用年数表

さまざまな種類の機械に関して耐用年数が適用されるわけですが、範囲が広いため、ここではプレス機について抜粋している一覧表を取り上げたいと思います。プレス機といっても、かなり多くの項目が挙げられています。※下記、一般社団法人日本鍛圧機械工業会公式サイトの耐用年数表を参照

耐用年数表は2008年度に税制改正されています。「機械及び装置の耐用年数表」は390区分から55区分へと大括りにされたのですが、例えば、金属製品製造業用設備(上記表内16)を見ても、20以上に細かく分かれています。

工作機械の特性として、樹脂素材を加工するものとステンレス素材を加工するものでは機械にかかる負荷には大きな差があります。製造業に身を置いていれば、これは当たり前のことに感じますが、業種や保有する機械、設備によって耐用年数が変わると言うことは、企業活動や減価償却に関わる要素として、非常に重要なファクターになるのです。

マザーマシンと呼ばれる工作機械全般は、国内外で非常に重視されてきました。各メーカーも、細心の注意を払い、質の高いものが作られてきた領域です。そのこともあって、耐用年数は平均しても18年ほどと言われてきました。その背景から、会計上でもこれを基準に減価償却されていました。

しかしながら、実際には、設置、取り付けなどの時間をも考慮すると、8時間内での実働時間は2時間ほどに換算されます。時代も変わり、電子技術が格段に発達した現在、稼働率が80%ほどとなっているというデータもあるため、差し引きすれば耐用年数は17-18年ほどとそこまで変化はありません。一方、稼働率を基準としてみれば、現在の工作機械の耐用年数は20-30年ほどまで達しているのではないかという見方もある様です。

工作機械の寿命は延ばせるのか

それでは、今回の記事のもう一つの大きなテーマに入っていくわけですが、工作機械の寿命を延ばすことは果たして可能なのでしょうか。延ばせるならそれに越したことはない…。保有する企業共通の希望だと思います。工作機械の寿命を延ばすためには必要な知識があります。それは「工具の寿命を左右する要素」や「保全活動」に関する知識です。

ここでは、一つ目の「工具の寿命を左右する要素」について考えましょう。工具の寿命に大きく影響する代表的な要素として【工具と素材の硬度】、【切削速度】、【送り量】、【切削時の角度】が挙げられます。

  • 【工具と素材の硬度】…切削工具や素材(加工対象物)の硬度が工具寿命に大きく影響します。工具の硬度に対し、素材の硬度が高すぎると、工具の摩耗も大きくなります。しかし、逆に工具の硬度が高すぎるても良い影響ばかりではなく、欠損などが発生しやすくなるので難しいところです。材料に最も適した硬度を選ぶことが対策の一つになります。
  • 【切削速度】…切削加工の際、速度が速すぎれば、工具の摩耗は促進されます。さらに、工具の歯の部分の劣化が進むことも考えられます。逆に速度が遅い場合はどうでしょうか。遅すぎても、材料が工具の歯にくっつく形が続くため、工具の寿命を減らすことになります。つまり、工具に関しては硬度だけでなく速度設定も適切にすることが重要になります。
  • 【送り量】…材料を1回、回転させる間に工具を進める量である送り量が大きくなれば、切削速度を早くした場合と同様に、工具の摩耗を促進してしまいます。一方で送り量は小さくすればよいものでもなく、時間などコストとの兼ね合いを考えることが必要でしょう。
  • 【切削時の角度】…工具の角度も非常に重要です。工具を対象物に当てる際に、適切な角度設定をしていないと、切り屑が加工の邪魔になったり、対象物の角度に対して角度を小さくしてしまうと、工具が食い込み損なったりして欠損につながったりもします。

4つの要素とも、適切な程度をジャッジすることが非常に大切だとお分かりいただけると思います。すなわち、機械のパフォーマンスを最大限に上げるために、機械のもつ特質や品質に関わらず、熟達した視点での見極めや豊富な経験が必要になることがわかります。

保全活動が対策の鍵

工作機械の耐用年数は大きな故障が発生すると耐用年数にかかわらず、いっぺんに使用不可になってしまうことは無視できません。大切なのは、寿命を延ばすこと、そして故障した際のダメージを小さくすることです。前述のパートで、工作機械の寿命に影響する要因についてまとめましたが、その対策の一つ一つは経験的であり、企業によっては困難な面も多々あると思います。それでは、打つ手は他にないのか…?

ここでは、どんな工作機械にも応用できる保全活動について考えてみます。保全活動にもいろいろあります。まず、故障してから修理を行う保全活動である【事後保全】活動があります。生産計画における不確実性が短所といえます。次に挙げられるのは、故障が起きないよう事前にとる対策としての【予防保全】活動です。寿命を伸ばすためには、【事後保全】よりもこちらを重視すべきと言われています。予防保全は、主に2つに分類されます。「時間基準保全」といって、機械・装置の状態にかかわらず期間を区切って行われる点検による保全が一つ。軽微な状態のときに故障や異常を発見する確率が上がるので、工作機械の延命に直結するのです。デメリットとしては、全体で各箇所の確認を行うため、余分なコストがかかることです。

もう一つが「状態基準保全」。機械の状態を監視し、劣化や異常を事前にメンテナンスしていく方法です。無論、人間が直接監視するのはほぼ不可能なので、機械のメンテナンスが将来的に必要になると思われる部分を、必要な部位ごとに注目させ、データを用いて監視していくことになります。このように、適切な保全活動、メンテナンスが行われることで、その機械の持つパフォーマンス力が最大限に発揮できます。単に、耐用年数を延ばすだけでなく、企業活動においてのコストカットや円滑な製造業務にも非常に貢献する、有効な手立てと言えます。

終わりに

今回の記事は、工作機械の耐用年数についてのおさらいから始まり、本題である実際に寿命は延ばせるのかというテーマで情報をまとめました。工作機械の寿命に大きく影響する要素や、重要な保全活動についてご理解いただけたのではないでしょうか。適宜メンテナンスを行うことで、工作機械の寿命は大きく変わります。持てる設備、工作機械のパフォーマンスを最大限に発揮し、稼働させていくために知識をしっかりとインプットすることで、より有効なメンテナンス計画へとつながるはずです。知見の一つとして、ご参考いただければ幸いです。