金属加工会社の多くはホームページ(公式サイト)を持っていると思います。では「御社のホームページはマーケティング戦略に沿った内容になっていますか」と問われて「なっている」と答えられるでしょうか。
工場内や工作機械の写真を載せて、つくっている製品や部品を紹介し、問い合わせフォームを搭載し、会社情報と経営者の挨拶文を載せただけでは、「ホームページでマーケティングをしている」とはいえません。金属加工会社の、マーケティング効果を生み出すホームページづくりを解説します。
典型的なホームページはダメなのではなく足りない
もし自社のホームページが以下のような内容であれば改善したほうがよい、といえます。
■金属加工会社の典型的なホームページのイメージ
- 製品や作業風景の写真と理念や想いの文章を記載したトップページ
- 事業内容や製作できる製品を紹介したページ
- 自社の強みや自社が顧客から選ばれる理由を説明したページ
- 自社が使っている工作機械や工場内の設備を紹介したページ
- 問い合わせフォーム
- 会社案内、経営理念、経営者の挨拶文、会社概要、沿革、アクセスを載せたページ
もちろんこれらの内容やコンテンツが不要というわけではなく、これらは最低限必要な情報です。しかし、これだけでは「名刺代わりのホームページ」にすぎず、これでホームページ・マーケティングを展開することはできません。
ホームページを活用したマーケティング戦略とは
金属加工会社がコストをかけてホームページを改修する目的は、それを使ってマーケティングを展開することにあります。マーケティングとは、顧客に自社製品を買ってもらうよう働きかけることであり、顧客が求める製品をつくっていく仕組みづくりのことです。具体的な改修方法を紹介する前に、ホームページ・マーケティングについて解説します。
ターゲットを定める
マーケティングはターゲットを定めることから始めます。金属加工会社のホームページづくりでもまずはターゲットを決めましょう。ターゲットを決める、とは、そのホームページを誰に視聴してもらうのか、を考えることです。金属加工会社のホームページなら、自社製品を必要とするメーカーに読んでもらいたいはずです。では「自社製品を必要とするメーカー」とは具体的にどの会社でしょうか。その会社には既存の取引先が含まれるはずですが、新規開拓を進めるのであれば、その仕事を発注してくれそうな会社もホームページのターゲットになります。
さらにホームページを閲覧するのは「メーカー」や「会社」ではなく「メーカーや会社の人」です。ターゲットの設定では「人」まで考えていきます。自社のホームページを読んでもらいたいのは、メーカーの購買担当者でしょうか、開発担当者でしょうか、経営者でしょうか、デザイナーでしょうか、営業担当者でしょうか。ターゲットはそこまで詳細に定めます。
数値目標を定める~注文増か、売上増か、利益増か
マーケティングではそれぞれの活動で数値目標を定めていきます。つまり「この指標の数値をここまで上げる」ことができるマーケティング活動を考えていくわけです。金属加工会社のホームページの数値目標になるのは、注文、売上高、利益などです。もし自社が「事業拡大のため新工場を建てて新たな設備を導入する」と考えていたら、注文数を増やす必要があります。したがってホームページの改修方針は「注文が○%増える内容にすること」となります。
改修方針がこのように定まれば、ホームページで注文を受け付けることができる機能を搭載することになります。自社の製造体制や納品体制を詳細に解説したページも必要になるでしょう。金属加工会社を探しているメーカーの担当者がそれを読めば、「当社が求める生産体制になっていそうだ」と感じてもらえます。数値目標を定めて「それを達成するために必要なものは何か」と考えて、ホームページに掲載するコンテンツをつくっていきます。
見込み客の興味をかき立てる
マーケティングでは見込み客を顧客にする取り組みも重要です。そのためには自社の認知度を高める必要があります。そこで改修するホームページは、見込み客の興味をかき立てる内容にしなければなりません。
ホームページは元来「読み物」であり「見物(みもの)」であるので、そもそも読んで・見て楽しいものでなければなりません。面白いコンテンツを企画しましょう。そして新たにコンテンツをホームページに掲載したら、顧客や自社の従業員にみてもらって感想を聞いてみてください。率直に「面白いかどうか」「面白くないとしたら何がダメなのか」を尋ねてみてください。
ブランド力を高める
マーケティングを活用すればブランディングも可能です。ブランディングとは、自社や自社製品の価値やイメージを高いレベルで認知させる取り組みです。「イメージ操作」はすべきではありませんが、「よりよくみせる」工夫はブランディングで必要になります。実際の価値に含まれない価値を訴求するのが「イメージ操作」で、実際の価値を深く理解してもらう取り組みが「よりよくみせる工夫」になります。
金属加工会社がブランディングに成功すれば、無謀な値下げ要請から解放されるでしょう。好条件での発注も増えるはずです。ホームページはブランディング戦略の重要なツールになっていて、大企業のホームページが格好よかったり美しかったりするのはそのためです。
このようなホームページをつくってみては
マーケティングを意識したホームページづくりの金属加工会社バージョンを紹介します。ここで紹介する改修方法を1つずつ試してみてください。
問い合わせフォームは画像やPDFのデータを添付できるようにする
問い合わせフォームに画像やPDFといったデータを添付できるようにしましょう。社名、担当者名、連絡先、問い合わせ内容を入力できる問い合わせフォームは多いのですが、それだけでは図面や製品の写真を添付することができません。
金属加工会社を探しているメーカーの開発担当者のなかには「この図面とおりにつくってくれる金属加工会社はないか」と考えていることがあります。もしくは「この部品とまったく同じものつくってもらいたい」と考えているメーカーもあるでしょう。またデータ添付機能は自社にもメリットがあります。問い合わせをしてくれたメーカーから図面が送られてくれば、見積もりがつくりやすくなるからです。
読者を想定し、その読者の理解レベルに合った文章にする
以下の文章を読んでみてください。
「フロントには高剛性かつ軽量なマクファーソンストラット式を、リヤには高い操縦安定性と乗り心地を両立させながらラゲージの拡大も叶えるダブルウィッシュボーン式を採用しました。ドライバーの意のままの走りを実現するため、車両応答性やライントレース性を向上。振動の伝わりにくいフラットな乗り心地を叶えています。」
これが何を説明しているか、わかるでしょうか。実はこれはトヨタ自動車のホームページに掲載されている、プリウスという車の性能説明の一文です(*)。この説明文は「悪い文章」とも「良い文章」ともいえます。トヨタはプリウスを売るために自社のホームページに性能を説明する文章を掲載しているわけですが、プリウスを買う人のなかには車の機構に詳しくない人がいて、そのような人は上記の文章を理解できないでしょう。そのような人は「専門用語を使わないで説明して欲しい」と感じるはずです。しかし車の機構を知っている人であれば、上記の文章は、簡潔にまとまったよい説明文と感じるはずです。専門用語を知っている人は、専門用語が多用された文章のほうが理解しやすいからです。
このようにホームページに掲載する文章は読者を選びます。金属加工会社のホームページに載せる説明文は、想定した読者の理解レベルに合った文章にする必要があります。説明文を書き上げたらホームページに掲載する前に「この専門用語を使って大丈夫か」「まわりくどい説明になっていないか」「言葉が足りないのではないか」といったことをチェックしたほうがよいでしょう。
*:https://toyota.jp/prius/ft/performance/?padid=from_prius_top_navi-menu_ft-performance
知らせたくないけど知りたい内容を載せる~料金と取引先
次の2点は、金属加工会社のホームページの特徴といえます。
- 加工賃などの料金が載っていない
- 取引先や製品の納入先企業が載っていない
金属加工会社がこの2つ情報を公開することは難しいでしょう。加工賃は製品によっても、受注数によっても、取引先によっても変わってくるので、金属加工業界の料金表示は個別の見積もりでなされることが一般的です。料金表のようなものをつくりづらい事情があります。したがって料金は金属加工会社が「知らせたくない」情報といえます。しかし顧客や見込み客が最も「知りたい」情報でもあります。
顧客を重視するのであればホームページで料金を知らせたほうがよい、といえます。そこで例えば、最もベーシックな金属加工の料金を提示してはいかがでしょうか。料金の下に条件によって金額が変動することを知らせればよいのです。そして取引先や納品先企業ですが、これは先方から「公開しないで欲しい」と要請されることもあるでしょう。その場合はもちろんホームページに記載することはできません。
しかし例えば、自社がつくった部品が、2次下請け企業や1次下請け企業を経由して、最終的にトヨタやパナソニックや日立などの超有名メーカーの製品に使われていたら、それをホームページで知らせることはブランディングに寄与します。そこで、取引先や納品先企業の担当者に、取引先名や納品先企業名をホームページに掲載してもよいかどうか問い合わせてみてはいかがでしょうか。
知らせたいけど知りたくない内容はまとめてしまう~沿革や経営者の想い
これは金属加工会社に限らず中小企業全般にみられるのですが、ホームページに自社の歴史や経営者の想いを掲載しすぎる傾向があります。しかし残念ながら自社が重視するほど、ホームページの閲覧者は企業の歴史や経営者の想いに関心を持っていません。
ただ企業の歴史や経営者の想いは大切な情報ではあるので、ホームページのどこかに載っていることは問題ありません。そこで提案したいのは、そのような「知らせたいけど、あまり知りたいと思われていない」情報を、会社概要やアクセスのページにまとめて掲載することです。自社のことを深く知りたい人だけが閲覧するページを、1ページだけつくるのです。
会社の現在を伝える
会社の現在を伝えることはとても大切です。自社が今どのような仕事をしているのか、どのような課題を抱えているのか、最近の目立った成果は何か、といったことはなるべく早くホームページで公開したいものです。頻繁に更新する情報は固定ページでは伝えにくいので、ホームページにブログ機能を搭載してそこで公開するとよいでしょう。
動画は今や必須
長い文章を読むのは面倒ですが、動画ならながめているだけで情報が頭になかに入ってきます。そのため、製品の特長や自社の強みなどを説明する動画をつくってホームページに掲載することは有効です。また動画であれば経営者や職人の肉声を届けることができるので、文章より訴求力が強くなります。
顧客の声を載せる
企業のホームページでは顧客の声を載せることは珍しいことではないのですが、金属加工会社のホームページではあまりみかけないのでここで紹介します。ホームページに載せる顧客の声の本質は、自社を褒めてもらうことにあります。褒められている企業と褒められていない企業では、前者のほうが好印象を抱かれやすくなります。
金属加工会社の経営者や営業担当者が顧客から褒められたら、そのコメントをホームページに掲載してよいか尋ねてみてください。顧客が承諾してくれたらあとは「~株式会社様から~という製品を受注して、~という評価を得ました」といった文章をホームページに記載するだけです。他社が出せなかった精度を出すことができた、短納期に対応してくれた、コストダウン戦略に貢献してくれた――このような成果を顧客の声として紹介することで信頼と実績をアピールすることができます。
SNSと連動させる
ユーチューブ、ツイッター、インスタグラム、ティックトックは企業のPR用SNSの定番であり、ときに自社ホームページより強いマーケティング力を発揮します。またSNSとホームページを連動させることでホームページの訴求力を高めることができます。SNSは趣味や遊びのもの、ととらえられることがありますが、それは楽しいからです。楽しさには注目させる力があるので企業のPRに使えるわけです。
まとめに代えて~お金をかけることになる
マーケティング効果を出すホームページをつくるには百万円単位のコストがかかります。10万円以内でそこそこの体裁のホームページをつくることができる今、それほどのお金をかける必要があるのでしょうか。その答えは「マーケティング効果を狙うのであれば必要経費と考えるべき」となるでしょう。
10万円のホームページと300万円のホームページでは、別物といってもよいくらい違います。ホームページでビジネスをしているEC企業であれば千万円単位でつくっています。SEO対策、デザイン性、さまざまな機能、更新頻度を上げること、これらはすべてお金がかかりますが、確実にホームページの質を高めます。マーケティング効果の最終形は利益そのものなので、ホームページで利益アップを狙うのであればそれなりのコストがかかります。
だからこそ数値目標が重要になります。「ホームページを改修して売上高と利益を○%上げる」といった目標を立てることで、ホームページの改修にかけられる予算が決まってきます。そして「ホームページの改修に○円をかけたのだから、その○倍は稼がなければならない」という機運が高まります。
これは「新しい工作機械を○円で購入したのだから、その○倍は稼がなければならない」と考えるのと同じです。ホームページ投資も設備投資も同じ考えて進めてよいのです。