工場を移転したり新設したりするとき、工作機械や設備などの重量物を搬入したり搬出したりしなければなりません。重量物は重たいだけでなく大抵は大きいので、自社で持ち運びすることは危険です。
また、機械・設備の多くは精密で振動に弱く、しかも高額なので、いわゆる普通の運送業者に頼むこともできません。古くなった機械・設備を売却するために工場から搬出する場合は、壊してしまったら売ることができなくなってしまうでしょう。機械・設備の搬送を得意にする運送業者「重量物搬入出業者」を紹介します。
天下の日通の実力とは
最も有名な重量物搬入出業者は、日本通運株式会社(以下、日通)でしょう(*1)。その会社概要は次のとおり。
■日通の概要
- 本社:東京都千代田区神田和泉町2番地
- 設立:1937年
- 資本金:約702億円
- 拠点:全国各地
ちなみに日通の年間売上高は2兆円を超えます。日通に運べないものはどの業者も運べない、といっても言い過ぎではないはずです。そして重量物に関しても「かなりのモノ」を搬入出しているので紹介します。
*1:https://www.nittsu.co.jp/jyuki/
難しいモノを運ぶ
機械や設備の移送が難航するのは、重くて大きくて精密だからです。重いと持ち上げるのに苦労し、大きいと移動経路が限られ、精密だと移動時の衝撃を最小限にしなければなりません。日通は、クリーンルームに半導体装置を入れたり、液晶露光装置を輸送したりしています。また、火力発電設備では1つで3,000トンもあるモジュール(巨大な部品)も運びます。日通なら、工場を持つ会社の経営者や工場長が想像するすべてのモノを運べるはずです。
どこにでも運ぶ
発電設備や関連機器を運ぶことができるということは、どこにでも運ぶことができることを意味します。なぜなら、火力発電所や原子力発電所は海岸線近くにあり、水力発電所や変電所は内陸部や、ときに山間部にあるからです。どのような立地条件でも、どのような作業形態でも、日通は正確に運ぶでしょう。
プラントの建設、保守もやってしまう
日通は運ぶだけでなく、プラントの建設や保守も行います。つまり、敷地に運び込んだ設備や機器を据えつけたり、組み立てたりして、工場が稼働したら保守、点検、補修、清掃、部品交換なども代行してくれます。
大田区の土長(どちょう )運輸
工場によっては「小回りのきく運送業者に頼みたい」というニーズもあるでしょう。町工場の街、東京都大田区にある土長運輸株式会社(以下、土長運輸)は、80年以上の歴史を持つ、重量物や精密機械の搬入出、据えつけを得意とする業者です(*2)。概要は以下のとおり。
■土長運輸の概要
- 本社:東京都大田区京浜島2-16-7
- 設立:1962年(創業は1938年)
- 資本金:1,300万円
土長運輸の運びのノウハウを紹介します。
機械の弱点を把握してトラックに固定する
土長運輸の強みは創業時からずっと機械や設備を運んできたことです。工作機械や新聞輪転機、エンジンの運搬から始めて、これまで80年かけて運べるモノを増やしてきました。同社は、機械を運ぶうえで重要なのは弱点を知ることだといいます。機械をトラックの荷台に固定する器具のことをシメ機というのですが、機械の弱点を知らずにシメ機を適当にかけてしまうと、移動時の振動で機械を壊してしまうかもしれません。壊れないように運ぶには、壊れやすい弱点を知っておかなければならないわけです。
ユニックつきの車両なので作業が早い
土長運輸は工作機械などの重量物しか運ばないので、重量物専用の車両を導入しています。同社の車両のほとんどにユニックが装備され、ボディは重量物仕様になっています。ユニックや重量物専用ボディは搬入出の作業効率を高めます。
土長運輸が運べるもの
土長運輸がこれまでに運搬したモノは、工作機械、印刷機械、業務用洗濯機、電気設備、空調機器、プラント機器、耐久試験機、特殊設備など。これらのモノをA地点からB地点に運ぶだけではなく、据えつけ工事も行います。据えつけのときに機材が必要であれば作製できます。
また、出し入れが難しい工場であれば、運ぶ際に鉄骨や足場材で仮設ステージをつくって確実に搬入出します。土長運輸は「他社で断らえたら当社に相談してください」とアピールしています。
解体から処分まで
古い機械の解体は、新しい機械の据えつけより危険であり難易度が上がります。新しい機械はメーカーが据えつけ方を指導できますが、何十年も使ってきた機械は正しい解体方法を知っている人がみつからないことがあるからです。重量物は部品1つひとつも重いので、解体方法を間違えると事故につながる恐れがあります。
また、巨大な機械を中古として売却するとき、売り主の工場で分解して、売却先に運び込んで組み立てて稼働させる必要があるので、無闇に分解することはできません。そこで土長運輸は長年に渡って機械や設備の解体のノウハウを蓄積して、安全かつ確実に重量物を工場の外に運び出せるようにしました。土長運輸は撤去した機械・設備の廃棄も行っていて、正規のルートで産業廃棄物として処分します。
埼玉の「重量屋」金星
株式会社金星(以下、金星)は重量物の搬入出、据えつけ、設備移転、産業廃棄物などを行う業者で、「埼玉の重量屋」を名乗っています(*3)。
金星の概要は次のとおり。
■金星の概要
- 本社:埼玉県戸田市美女木8-17-1
- 設立:2017年(創業は1980年)
- 資本金:300万円
金星が得意な運びを紹介します。
*3:https://ft-kinboshi.com/profile/
取引先には大手電機メーカーも
金星が保有する車両は8tユニックエアサス車(2.9t吊り)、4tユニックエアサス車(6段ブーム仕様)、2t箱ゲートエアサス車など。取引先には大手電機メーカーもあり、精密機器の運搬も得意であることをうかがわせます。金星が取り扱っている重量物の例は以下のとおり。
■金星が運んできた重量物の例
- 工作機械各種
- 半導体製造装置
- オンデマンド印刷機械
- 検査装置
- 遠心分離機
- 自動車部品製造機械ライン
- 製粉選別機
- 食品加工機械ライン
- 食品包装ライン
- トランス、キューピクル、変圧器各種
- 厨房機器(炊飯窯ライン、フリーザー保管庫、洗浄機、冷凍機など)
据えつけでは動作確認やレベル出しも
金星も運ぶだけの業者ではなく、据えつけも行います。据えつけたあとは動作確認をしたり、必要に応じて給排水設備を取りつけたりします。また、実際に機械を動かしてレベル出しをすることもできます。倉庫を持っているので、移設する重量物を一時的に預かるサービスも提供しています。
地方で活躍する重量物搬入出業者を紹介
地方にも重量物を搬入出する業者があります。ここでは札幌市(北海道)と富山市(富山県)の業者を1社ずつ紹介します。
札幌の東日本グランツ
東日本グランツ株式会社(以下、東日本グランツ)の概要は以下のとおりです(*4)。
■東日本グランツの概要
- 本社:北海道札幌市東区丘珠町638番地1
- 設立:2012年
- 資本金:500万円
事業内容
東日本グランツの事業内容は以下のとおり。
- 重量物の搬入と据えつけ工事、撤去と搬出工事
- 電気関連、設備関連の搬入出
- プラント、機械器具の設置工事
- 産業廃棄物収集運搬業務
- その他
できること
東日本グランツは搬入出のプランニングから施工計画、実施までを一気通貫で行っています。最近の実績は以下のとおり。
■最近の東日本グランツの実績
- ホテルライフォート札幌:吸収冷温水機の改修工事
- 中央卸売市場:青果棟のGHP室外機冷暖房設備の改修工事
- 京急EXホテル:リブランド工事
- 札幌コンサートホール:冷暖房衛生設備の工事
- 稚内局舎新設:電気その他工事
- 京阪北10西3南オフィス計画
- イオン石狩センター:新築空調衛生設備
- スポーツ交流施設「つどーむ」:空調設備工事
- 砂川市庁舎:建設工事、機械設備工事
- 札幌北三条ビル:非常用発電機の更新工事
- 札幌臨床検査センター:本社ビル新築の空調衛生設備工事
東日本グランツが、地場企業や地元施設などに頼りにされている存在であることがわかります。高所作業も得意としていて、巨大クレーンを使って9階建てビルの屋上に高架水槽を据えつけたこともあります。
富山のトヤマ重搬
社名に「重(量物)」と「搬(入出)」の文字を入れているのが、富山市の株式会社トヤマ重搬(以下、トヤマ重搬)です(*5)。会社概要は以下のとおり。
■トヤマ重搬の概要
- 本社:富山市寺島1256-2
- 設立:2001年(創業は1998年)
- 資本金:2,800万円
*5:http://www.toyama-juhan.com/index.html
搬入出の実績
トヤマ重搬が搬入出したモノは以下のとおりです。
■トヤマ重搬の実績
- 空調機
- 吸収式冷温水発生機
- 熱源機器
- コンプレッサー
- キュービクル据付
- パッケージエアコン
- 空調・電気一括
トヤマ重搬は夜間の作業も受けていて、搬入出を依頼する会社は工場の稼働停止時間を最短にすることができます。搬入した機械の据えつけや、搬出する機械の解体・産業廃棄物処分も実施。また、工場内での機械の移動も依頼できます。
その他の事業
トヤマ重搬は重量物の搬入出以外に、倉庫業、産業廃棄物の収集運搬、足場組立なども行っています。これらのサービスは地元の工場に重宝されているはずです。
まとめに代えて~重量物搬入出業者の選び方
ここまで紹介したとおり、日通から地場企業まで、重量物を運んでくれる業者は全国に多数存在します。では重量物を動かしたい工場は、どのように運送業者を選定したらよいのでしょうか。「間違いのない重量物搬入出業者の選び方」を紹介します。
料金だけで決めず計画の質も確認する
工場の重量物は貴重な財産です。高額であるから貴重なだけでなく、機械や設備を導入する場合はそれを動かして稼がなければなりませんし、撤去して売却するときは現金に替わります。そのため重量物の搬入出は財産を棄損することがないようにしなければならず、しかも大きくて重くて精密であるので、運ぶには高い技術を必要とします。したがって重量物搬入出業者を選ぶときは、技術や実績を1番にみて、コストの検討は2番目にしたほうがよいかもしれません。
重量物搬入出業者を選考するときは複数社に声をかけて、搬送する機械や設備を運んだことがあるかどうか尋ねたいところ。大型の機械・設備であれば、どのように搬入出するのか計画を提出してもらいましょう。養生が丁寧か否かでも料金は変わってきます。他社より料金が多少高くても、搬入出計画がしっかりしていて、養生が丁寧な業者を選んだほうがよいと思います。
据えつけができるかどうか確認する
工場が工作機械などの精密機械を導入するとき、据えつけ方が製品の品質に影響を及ぼすことがあります。機械は正しく据えつけないと正しく動きません。そのため、搬入出に加えて据えつけも手掛けている業者を選ぶことが理想です。レベルの高い搬入搬出業者なら、機械を据えつけたあとに試運転をして精度を出すところまでやってくれます。「置くだけ」以上のことができるかどうか確認してください。
保険は必須と考えたほうがよい
機械・設備の搬入出では、破損リスクをゼロにすることはできません。そのため作業によって故障したら補償が受けられる保険をかけている業者もあります。重量物の場合はむしろ保険をかけていることが当然で、「かけていない業者には依頼しないほうがよい」と考えてもよいかもしれません。
もちろん保険の費用は搬送コストを押し上げるので、保険をかけていない業者のほうが安く運んでくれるかもしれません。しかし機械・設備は工場の命といえるので、保険なしに移動するのは経営リスクを高めてしまいます。保険料は必要経費と考えたほうがよいでしょう。