牧野フライスはどのような会社なのか?

執筆者 | 10月 12, 2022 | ブログ

会社 牧野フライス

マシニングセンタは、中ぐり、フライス削り、穴あけ、ねじ立て、リーマ仕上げなど多種類の加工を連続で行えるNC工作機械であり、かつ、必要な工具を自動で交換できる機械、と定義されています(*1)。そのマシニングセンタのメーカーとして確固たる地位を確立しているのが、株式会社牧野フライス製作所(本社・東京都目黒区、以下、牧野フライス)です(*2)。牧野フライスがどのような工作機械をつくり、どのような経営をしているのか解説します。

*1:https://www.jmtba.or.jp/machine/introduction

*2:https://www.makino.co.jp/ja-jp/about-us/company-profile

牧野フライスの工作機械の特徴

牧野フライスは公式サイトで、主力製品として、横型マシニングセンタ、5軸制御横型マシニングセンタ、立形マシニングセンタ、5軸制御立形マシニングセンタ、グラファイト加工機、細穴放電加工機、NC放電加工機、ワイヤ放電加工機、レーザ加工機、フライス盤などを紹介しています(*3)。ここではこのうち、5軸制御横型マシニングセンタとグラファイト加工機をみていきます。

*3:https://www.makino.co.jp/ja-jp/machine-technology/machines

牧野フライスの5軸制御横型マシニングセンタの特徴

5軸制御横型マシニングセンタは「5軸」の「横型」の「マシニングセンタ」なので、まずはマシニングセンタから解説します。マシニングセンタは、オートマチック・ツール・チェンジャー(ATC)がついたNC工作機械です。NC工作機械は数値制御装置が備わっている工作機械のことで、コンピュータに数値で指示を出せば自動で加工するので、つまり作業者が手で機械を動かす必要はありません。NC工作機械が行う加工は、工具や工作物を回転させた切削や、工具や工作物の直線運動による切削などです。NC工作機械にATCが搭載されると、一度の加工で複数の工具が必要なっても、機械が自動で工具を交換します。

次に横型についてですが、これは工具を地面に対して水平に取りつけることを意味します。これにより工具をX軸、Y軸、Z軸方向に動かすことができるので、この3軸の加工が可能になります。続いて5軸についてですが、XYZの3軸に加えて、工作物を回転させることで回転軸ができ、これで4軸目になります。さらに、工作物を斜めにするともう1つ軸が加わるので、計5軸になります。ここまでは普通の5軸制御横型マシニングセンタの説明になります。

ここからは牧野フライスの5軸制御横型マシニングセンタを説明します。牧野フライス製の特徴は、高精度と高速性です。5軸制御横型マシニングセンタ「a500Z」の移動量は、X軸730mm、Y軸750mm、Z軸500mmと長く、最大400kgの工作物を加工できます。そしてB軸は360度回転し、C軸は180度回転可能です。直線軸の送り速度は毎分60mを実現。軸の回転速度はB軸が毎分45,000度、C軸27,000軸です。使える工具数(工具収納本数)は60本にもなります。牧野は、自社の5軸制御横型マシニングセンタを使ったメーカーは、「従来にない高い水準の精度と高速性を実現し、工程とサイクルタイムの両方を減らして生産性を高めることができる」と太鼓判を押しています(*4)。

*4:https://www.makino.co.jp/ja-jp/machine-technology/machines/horizontal-5-axis

牧野フライスのグラファイト加工機の特徴

正式名称はグラファイト電極加工機といいます。グラファイトとは黒鉛のことで、これを電極にして、これで工作物を加工します。グラファイトは導電性に優れているので、電気エネルギーを効率よく熱エネルギーに変えることができます。その熱エネルギーで金属(工作物の素材)を溶かして加工します。これを放電加工といいます。放電加工(グラファイトに電気を通して熱エネルギーで金属を溶かす加工)は、金型などに使われる硬い金属を加工するときに便利です。

牧野フライス製の特徴は、クリーンさです。グラファイト加工は工作物の素材である金属を溶かして加工するので、溶かされた金属が粉塵(グラファイト粉塵)として舞ってしまいます。そこで牧野フライスは、加工するエリアを完全密封して、グラファイト粉塵が舞わないようにします。これにより工場がクリーンになり、作業者が安心して働けます。グラファイト加工機「V22 GRAPHITE」は、毎分40,000回転の高速加工を実現し、早送り速度は毎分20,000mm、最大100kgの工作物を加工します。

メーカーは牧野の機械で何をつくっているのか

牧野フライスの工作機械を買うのはメーカーです。つまりモノづくり企業です。メーカーが牧野フライスの工作機械を使ってつくっているモノは次のとおり(*6)。

  • 航空機のジェットエンジンの耐熱部品
  • 自動車のブレーキ、ステアリング
  • 金型
  • 整形外科用の部品
  • 医療機器
  • 微細加工部品
  • 半導体製造装置の部品

これらの部品は、日本だけでなく世界のモノづくりを支えています。牧野フライスの工作機械は、世界のメーカーに使われています。

*6:https://www.makino.co.jp/ja-jp/machine-technology

牧野フライスはどのような会社なのか

株式会社牧野フライス製作所は1937年5月創業、資本金約211億円で、連結従業員数は約4,500人。東証プライム(旧東証一部)上場企業です。本社は東京にあり、国内工場は厚木(神奈川)と富士勝山(山梨)にあります。海外拠点は、アメリカ、ブラジル、ドイツ、フランス、イタリア、スロバキア、スペイン、ポーランド、韓国、シンガポール、インド、タイ、中国、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどにあります(*7)。日本が誇るグローバル・カンパニーの1社です。

データは2022年3月現在のものです。

*7:https://www.makino.co.jp/ja-jp/about-us/company-profile

コロナ禍で赤字もすぐにV字回復

牧野フライスの連結の決算の推移は以下のとおり(*8)。

単位:億円2019年度2020年度2021年度
売上高1,5941,1671,865
経常利益41-13142
当期純利益8-27120
牧野フライスの連結の決算の推移

コロナ禍直前の2019年度は売上高1,594億円、当期純利益8億円でしたが、コロナ禍まっただなかの2020年度は売上高が2019年度比で27%も減り、赤字に転落しました。ところがその翌年の2021年度にはもう、コロナ禍前を上回る売上高を叩き出します。2021年度の売上高1,865億円は、2019年度比17%増です。当期純利益も120億円の大幅黒字を達成しています。見事なV字回復です。

コロナ禍のようなパニック状態に陥るとさまざまなモノの需要が減るため、どうしても製造業の生産が落ち、それで生産に関わる機械をつくっている牧野の業績も落ち込んでしまいます。ところがコロナ禍が続いていた2021年度に、牧野フライスは業績を回復させています。これは世界の製造業企業が牧野の工作機械を必要としている証拠といえます。

*8:https://ir.makino.co.jp/library/business-report/pdf/2021/83rd_report.pdf

投資家たちの評価も高い

牧野フライスのビジネスについては投資家たちも高く評価しています。それは株価でわかります。牧野フライスのコロナ禍前の直近の最高値は2018年1月の6,135円でした。コロナ禍が始まってすぐの2020年3月に、最近の最安値である2,853円をつけます。2,853円は6,135円の53%安であり、つまり株式市場は牧野の企業価値が半分以下になったと判断したわけです。

これは「コロナ禍=需要減=工作機械が買われない」という連想が働くので仕方がないところです。しかし牧野の株価はその後回復基調に乗り、2022年10月7日の株価は4,605円でした。4,605円は2,853円(2020年3月)の61%高で、高騰といってよいレベルだと思います。

アジアで4割、欧米で3割稼ぐ

牧野フライスのグローバルぶりは地域別の売上高構成比でも証明されています。2021年度の連結売上高に占める日本での売上高は23%でしかありません。そして日本以外のアジアが44%、アメリカが25%、ヨーロッパが7%です。

まとめ

牧野フライスはクオリティファーストを掲げています。工作機械の品質が高くなればそれが生み出す製品の精度が高くなり、それは確かな最終製品をつくることにつながります。つまり、ちゃんと飛ぶ飛行機が存在して、ちゃんと機能するスマホがあるのは、牧野の工作機械のクオリティが高いからと考えることもできます。牧野フライスは、自社が10年20年と信頼を得るには、顧客であるメーカーに常に勝ち続けてもらわなければならない、と考えています(*9)。つまり、クオリティワーストは顧客一番主義から生まれているわけです。

*9:https://www.makino.co.jp/ja-jp/about-us/company-message