
コロナ禍で国際コンテナ輸送が止まり、海外に売るはずだった中古機械が倉庫で行き場を失ったことがあります。
廃業のご相談でお預かりする機械は、もともと年式の古いものが多く、輸出に頼らざるを得ない機種がほとんどでした。ところがコンテナ不足で船便の確保すら難しくなり、パートナー会社と協力して機械を一時的に倉庫で保管しながら、コロナの収束を待つことになりました。
機械そのものの価値だけでなく、物流という外部要因が査定や売却のタイミングを左右することもあります。
本記事では、新型コロナウイルス流行前後で中古工作機械市場がどう変化してきたのかを、実際の受注統計と現場の実話を交えて振り返ります。
コロナ禍で工作機械市場に何が起きたか
日本工作機械工業会(JMTBA)の統計によると、2020年(暦年)の工作機械受注額は前年比26.7%減の9,018億円となり、10年ぶりに1兆円を割り込みました。新型コロナウイルスの感染拡大により、国内外の製造業で工場の稼働停止や設備投資の見送りが相次いだことが主な要因です。もともと2019年も米中貿易摩擦の影響で前年比32.3%減となっており、2年連続の大幅な落ち込みという厳しい状況でした。
製造業の現場では、感染防止のための操業短縮や出張・出向の制限により、新規設備の商談や現地での機械確認そのものが難しくなりました。中古機械の売買においても、買い手が現地に足を運んで実機を確認するという、それまで当たり前だった工程が大きく制約される事態となりました。
特に打撃が大きかったのは、自動車関連の設備投資です。世界的な半導体不足に加え、工場の操業停止や部品供給網の混乱により、自動車メーカー各社が生産調整を余儀なくされました。エンジン・トランスミッション関連の加工に使われる工作機械への投資は大きく落ち込み、これらの機種を主力としていた中小の加工業者にとっては、受注減少と設備投資の凍結が同時に押し寄せる厳しい局面となりました。
一方で、巣ごもり需要の拡大により、パソコンやゲーム機、家電製品向けの半導体・電子部品需要は急増しました。これが後の半導体不足を引き起こす一因にもなるのですが、この時点ではまだ、工作機械業界全体としては「先が見えない」という空気が支配的でした。
中古工作機械市場への打撃——コンテナ不足という壁
中古工作機械市場にとって、コロナ禍で特に深刻だったのが国際物流の混乱です。2021年から2022年にかけて、世界的なコンテナ不足と海上運賃の高騰が発生しました。巣ごもり需要による荷動きの偏り、港湾の人手不足、船のスケジュール乱れなどが重なり、コンテナ船の予約自体が取れない状況が長期間続きました。
中古工作機械、特に国内では買い手が付きにくい古い機種は、海外輸出によって初めて値段がつくケースが多くあります。ところが輸出のボトルネックであるコンテナが確保できなければ、いくら海外バイヤーから引き合いがあっても、実際に船積みができません。国内需要の落ち込みと、輸出ルートの目詰まりが同時に起きたことで、中古機械市場は二重の打撃を受けることになりました。
加えて、入国制限によって海外バイヤーが来日できなくなったことも影響しました。それまでは現地に足を運んで実機を確認したうえで購入を決めるバイヤーも多かったのですが、コロナ禍ではそれができず、写真や動画だけで判断せざるを得ない場面が増えました。慎重なバイヤーほど「実物を見ずには決められない」と判断を先送りにする傾向があり、これも成約までのリードタイムを押し上げる一因になりました。
一方で、廃業や事業縮小に伴う機械の処分相談自体は、コロナ禍でもむしろ増える傾向にありました。売り手側の事情は待ってくれない一方、買い手や物流が追いつかない——この需給のミスマッチが、当時の中古機械市場が抱えていた大きな課題でした。
海上運賃の高騰も無視できない要因でした。コンテナ船の運賃は、路線によってはコロナ前の数倍から十数倍にまで跳ね上がり、輸送費だけで採算が合わなくなる案件も出てきました。特に単価の低い古い汎用機は、輸送費の急騰によって「売れても利益が出ない、あるいは赤字になる」という状況に陥りやすく、輸出自体を見送らざるを得ないケースも珍しくありませんでした。
【実際にあった事例】コンテナ不足で輸出できず、倉庫で保管したケース
冒頭でご紹介した事例を詳しくお伝えします。
コロナ禍のさなか、廃業を決めた工場から機械一式の買取をご依頼いただきました。お預かりした機械は、いずれも国内での再稼働先が見つかりにくい年式のもので、東南アジア向けの輸出を前提に査定を進めていました。ところが、いざ船積みの手配をしようとした段階で、コンテナの予約が軒並み取れない状況に直面しました。
海外バイヤー側の購入意欲自体は変わらず、条件面でも合意はできていました。問題は「運べない」ことでした。無理にスケジュールを詰め込んでも船便が確保できる保証はなく、かといって機械を野ざらしにしておくわけにもいきません。廃業に伴う搬出は、工場の明け渡し期限も絡んでくるため、「船が空くまで工場に置いたままにする」という選択肢も現実的ではありませんでした。そこで、提携している倉庫会社と協力し、機械を一時的に保管しながら、コンテナ事情が落ち着くのを待つという判断をしました。
結果として、保管期間は当初の想定より長引きましたが、海運の混乱が徐々に緩和されたタイミングで無事に船積みを終えることができました。保管中の管理費用は発生したものの、機械自体の価値を大きく損なうことなく、当初の条件に近い形で輸出を完了できたのは、パートナー企業との連携があったからこそです。
この一件からわかるのは、査定・買取の段階でどれだけ良い条件を引き出せても、最後の「運ぶ」工程が滞ってしまえば取引そのものが成立しないという当たり前の事実です。保管場所の確保、屋外保管による劣化の防止、定期的な状態確認など、通常の搬出であれば発生しない手間が積み重なりましたが、パートナー企業とこまめに連絡を取り合いながら対応したことで、大きなトラブルなく乗り切ることができました。
「売れるかどうか」だけでなく「運べるかどうか」も、中古機械の資産価値を左右する要素になり得ます。物流が不安定な局面では、保管体制を含めた対応力が、買取業者を選ぶうえでの一つの基準になります。
急回復した2021〜2022年
混乱が続いた2020年から一転、2021年の工作機械受注額は高水準に回復し、過去4番目の実績となりました。半導体不足を背景とした自動化投資の本格化や、巣ごもり需要で好調だった自動車・電子機器関連の設備投資が、受注を押し上げました。
2022年にはさらに勢いを増し、受注総額は1兆7,596億円と前年比14.2%増を記録、2018年に次ぐ史上2番目の高水準となりました。コロナ禍で先送りされていた設備投資が一気に動き出したこと、半導体関連や電気自動車(EV)関連の投資が世界的に活発化したことが、この急回復を支えました。中古機械市場にとっても、輸出ルートの正常化とあわせて、久しぶりに追い風が吹いた時期といえます。
この時期は、コロナ禍で買い控えていた企業が一斉に設備投資を再開したことに加え、半導体不足への対応として各国が半導体工場の新設・増設を急いだことも大きく影響しています。半導体製造装置そのものだけでなく、その周辺で使われる精密加工用の工作機械にも投資が波及し、中古機械市場でも半導体関連の需要に対応できる機種の引き合いが急速に強まりました。倉庫で保管していた機械にも、この時期になってようやく買い手からの具体的な引き合いが戻ってきた、という声が現場から多く聞かれるようになりました。
2023年の反動減、そして外需主導の2024〜2025年へ
好調だった2022年の反動もあり、2023年の受注額は前年比15.5%減の1兆4,865億円となりました。内需は4,768億円(前年比21.0%減)、外需は1兆97億円(同12.7%減)と、内外需ともに縮小しましたが、外需比率は67.9%と、外需への依存度自体は高い水準を保っていました。
続く2024年は受注総額1兆4,851億円(前年比0.1%減)とほぼ横ばいでしたが、内訳を見ると内需4,415億円(同7.4%減)に対し外需は1兆436億円(同3.4%増)と明暗が分かれ、外需比率は70.3%と暦年ベースで初めて7割を突破しました。そして2025年には受注総額が前年比8%増の1兆6,043億円まで回復し、歴代4番目の高水準を記録。外需は1兆1,634億円(同11.5%増)と過去最高を更新しています。
コロナ前は内需・外需がバランスよく推移していた工作機械市場ですが、コロナ禍を経て「外需に頼らなければ市場全体が縮んでしまう」という構造がより鮮明になりました。これは中古機械市場にとっても同じで、海外への販路をどれだけ確保できているかが、以前にも増して重要な意味を持つようになっています。
内需が伸び悩んでいる背景には、国内製造業の設備投資意欲そのものが以前ほど強くないという事情があります。少子高齢化による将来の需要縮小懸念、後継者不在による廃業の増加、人手不足による生産計画の見直しなど、コロナとは直接関係のない構造的な課題が、内需の重しになり続けています。逆に言えば、こうした国内事情によって手放される機械が、海外の成長市場で新たな役割を担うという流れは、コロナ後もむしろ強まっているといえるでしょう。
コロナを経て変わった需要の質
物流リスクへの備えが評価されるように
コンテナ不足を経験したことで、売り手・買い手双方に「輸送手段は当たり前に確保できるものではない」という意識が根付きました。保管スペースを持ち、物流会社との連携体制を整えている買取業者かどうかが、以前よりも重視されるようになっています。
半導体・EV関連の存在感が拡大
コロナ後の受注回復をけん引したのは、半導体製造装置向けやEV部品向けの精密加工需要でした。従来の自動車(エンジン・ミッション関連)向け需要が伸び悩む一方で、これらの成長分野向けの機械には根強い需要があり、中古機械の査定額にも機種による明暗が表れるようになっています。
具体的には、半導体製造装置の部品加工に使われる高精度なマシニングセンタや、EV用バッテリーケース・モーターケースの加工に対応できる複合加工機などが、中古市場でも比較的良い条件で取引される傾向にあります。一方、内燃機関の部品加工に特化した専用機は、EVシフトの進行とともに国内での需要が減少しており、輸出先を慎重に見極める必要が出てきています。
サプライチェーンの見直しと国内回帰の動き
コロナ禍で海外からの部品調達が滞った経験から、一部の製造業では、特定の国・地域に依存しないサプライチェーンの構築や、生産拠点を国内・近隣国に戻す「リショアリング」の動きも見られるようになりました。こうした動きは工作機械の新規投資にもつながる一方、生産移管に伴って不要になった機械が売却市場に出てくるという、新たな需給の流れも生み出しています。
非対面でのやり取りが定着
コロナ禍で現地訪問が制限されたことをきっかけに、写真や動画、オンライン通話を活用した一次確認が広く行われるようになりました。最終的な現地査定は今も欠かせませんが、事前のやり取りを非対面で効率化する流れは、コロナ後も定着しつつあります。
具体的には、機械の型式・年式・銘板の写真、稼働音を記録した動画などを事前に送ってもらうことで、現地訪問前におおよその査定額を伝えられるようになりました。遠方の工場や、複数拠点に機械が分散している企業にとっては、この一次確認の効率化によって、査定までのリードタイムが短縮されるというメリットも生まれています。
もっとも、写真や動画だけでは分からない異音・振動・微妙な精度のズレなどは、依然として現地での実機確認でしか判断できません。非対面でのやり取りはあくまで「効率化」であり、最終的な査定の正確性を担保するものではない、という点は今も変わらない部分です。この線引きを理解したうえで非対面のやり取りを活用できるかどうかが、査定を依頼する側にとっても業者選びの一つの目安になります。
コロナ禍を経た海外市場の変化
コロナ禍からの回復スピードは、国・地域によって差がありました。感染拡大を比較的早く抑え込んだ中国は、外需の一角として存在感を発揮し、東南アジア各国も段階的に経済活動を再開させていきました。一方で、欧米では長期のロックダウンや度重なる変異株の流行により、製造業の正常化に時間がかかった地域もあります。
中古工作機械の輸出先としては、東南アジアやインドといった新興国の重要性がコロナ後さらに増しています。これらの地域では、人件費の上昇に伴う自動化ニーズの高まりと、製造業そのものの拡大が同時に進んでおり、価格と性能のバランスが取れた中古の日本製機械への需要は根強く残っています。コロナ禍で一時停滞した輸出網も、こうした新興国の需要拡大によって、以前にも増して重要な販路として機能するようになりました。
よくある質問
Q. 今後、コロナ禍のような物流混乱は再び起こり得ますか?
コンテナ不足のような世界的な物流混乱は、感染症に限らず、地政学的なリスクや大規模な自然災害などでも起こり得ます。特定のルートや業者だけに依存せず、複数の輸送手段・保管手段を確保しておくことが、こうしたリスクへの備えになります。
Q. 輸出できない期間、機械を保管してもらうことはできますか?
買取業者や提携倉庫によって対応は異なりますが、一時的な保管に応じてもらえるケースはあります。保管期間や費用の負担については、契約内容によって差があるため、査定の段階で確認しておくことをおすすめします。
Q. 今、機械を売却するのは良いタイミングですか?
2025年の外需は過去最高を記録するなど、海外需要は堅調に推移しています。ただし為替や国際情勢によって状況は変わり得るため、「今が絶対的な売り時」と断言することはできません。市場動向を踏まえつつ、機械の状態が良いうちに一度査定を受けておくことをおすすめします。
Q. コロナ禍で保管していた機械の状態は大丈夫でしたか?
屋内保管であれば、多くの場合大きな問題は起きませんが、湿気や粉塵、長期間の未稼働による油分の劣化などには注意が必要です。長期保管が見込まれる場合は、防錆処理や定期的な通電・試運転など、状態を維持するための対応をしておくことが望ましいといえます。
Q. コロナ前と比べて、査定のプロセスは変わりましたか?
基本的な流れ(一次確認→現地査定→契約→搬出)自体は変わっていませんが、一次確認の段階で写真・動画によるやり取りが増えた点は変化の一つです。また、物流状況を踏まえたスケジュール調整の重要性が増しており、査定額の提示とあわせて、搬出・輸送の見通しまで含めて説明する業者が増えてきています。
まとめ
コロナ禍は、中古工作機械市場に「受注の急減」「国際物流の混乱」という二重の打撃を与えましたが、2021年以降は半導体・EV関連需要を追い風に急回復し、2025年には外需が過去最高を更新するまでになりました。この数年の推移を振り返ると、市場は決して一本調子に回復したわけではなく、急落・急回復・反動減・再回復という波を繰り返しながら、現在の水準にたどり着いたことがわかります。
この数年で見えてきたのは、中古機械の価値が機械そのものの状態だけでなく、それを運び、保管し、必要な人のもとへ届ける物流体制にも大きく左右されるという事実です。
先の見えない状況の中で機械を手放すべきか迷っている方も、まずは現状を把握するところから始めてみてください。当社では、保管対応も含めた柔軟なご相談を承っています。「今すぐ売れるか分からないが、そろそろ動きたい」という段階でも、お気軽にお問い合わせください。
過去数年の受注統計を振り返ると、市場全体が沈んだ年もあれば、過去最高を更新した年もありました。一つの数字だけを見て一喜一憂するのではなく、数年単位のトレンドとして市場を捉えることが、機械を売る・買うタイミングを判断するうえでの一つのヒントになるはずです。














